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※赤い文字色のページには性描写があります


 

 ちょっとした学校の校舎ほどの規模はある壱琉大学野球部のクラブハウス。一階最奥に位置するマッサージルームの中で暮羽は露骨に苛立った様子で備え付けの戸棚を乱暴に開け閉めしていた。
「あーもう、タオルとか何処にあンだ? やっぱ、こう言うのは何時もやってる極楽組の奴に命令すりゃ良かったンだよ。今からでも命令キャンセル出来ねェか?俺もおめェもその方が効率が良いと思うんだが?」
「あ、いえ、そう言う大掛かりな準備は良いですから」
 背後からの風薙の言葉に暮羽の機嫌はますます悪化したようだ。開けていた戸棚を思い切り叩き付けるように閉めて、振り向きざまに尖った目で睨み付けて来る。
「……それを早く言えッての」
 低い声の威圧と共に鋭い眼光をぶつけても相手は全く怯んだ様子を見せず、寧ろ暮羽を面白そうに観察しながら腰掛けたマッサージベッドの上で足をブラブラと振り子のように揺らしていたが、やがて軽やかにベッドから飛び降りて、部屋の隅に鎮座していたパイプ椅子にどすんと腰を落とした。
「はい、じゃあマッサージお願いします」
「あン?」
 怪訝そうに眉を寄せる暮羽に風薙がおいでおいでと笑顔で手招きをする。相手の不可解な行動に首を小さく傾げてパイプ椅子に近付くと、彼は今度は手の平を床へ向けて押すような仕草を何度かした。跪けという事だろう。
「何なンだよ。まどろっこしいやり方しやがって」
 口で言え口で。そう付け加えつつも案外素直に膝を突いて自分を見上げて来る暮羽の上目に自然と覚えた昂ぶりを胸中に止めながら、風薙は敢えて静かに言った。
「暮羽さん、手を貸してください」
「は? ……ほらよ」
 伸びて来た相手の左手をそっと取る。コレが暮羽さんの手か。何だか少しドキドキするのは気のせいだろうか。無意識に暮羽の手を凝視していると、所有者のぶっきらぼうな声が聞こえて来た。
「で? 俺は何処マッサージしてやりゃ良いンだ? 足か? ふくらはぎか?」
「あぁ、その事なんですけど。今から俺がマッサージして欲しい所まで暮羽さんの手を動かしますから。其処をお願いします」
「ッたく、何か面倒くせェ奴だな」
 何度目かの舌打ちをする暮羽に、すみません、とちょっと困ったような笑みを返した風薙は、ゆっくりと暮羽の手を握ったままの己の手を動かし始めた。足。違う。上に向かう。脛。ふくらはぎ。どちらも違う。もう少し上へ。太もも。ここもまぁちょっと揉んで欲しいけど今回は保留。もうちょっと、もうちょっと、上へ。はい、到着。
 その直後。暮羽のひっくり返った悲鳴が耳に飛び込んできた。
「!!! ば、ば、ばッ……て、てめェ馬鹿か!! へ、へ、変なモン触らせンじゃねェ!!」
 握っていた手は激しく振り払われ、彼は数歩後ずさって掌をゴシゴシと太股の辺りに擦り付けていた。摩擦熱が生じんばかりに激しく動く相手の左手を見詰めながら、風薙は至って普通の声色で言う。
「何もそんなに必死に拭かなくても良いのに」
「拭くに決まってンだろ!? 人の手を変なトコに当てやがって!!」
「マッサージして欲しい所まで手を動かしますからって言ったでしょう?」
「てめェ、冗談もいい加減に……!」
 それ以上の言葉が出なかった。睥睨しようとした顔は固まった。目の前にいる風薙の顔は能面のように無表情で、氷のように冷たくて、その瞳には深い深い闇が満ちていた。明朗快活で如才が無くて何処か飄々としている普段からは全く考えられぬ後輩の裏の顔に唇を戦慄かせる暮羽を見据える能面の赤い口がニッと弧を描いた。
「ほら、暮羽さん。俺が指定した場所をマッサージしてください。これは命令ですよ?」
「め、命令、って……てめェ、無理に決まってンだろ! ッてか、ランキングシステムのルールからすればモラル的にアウトだろ!?」
「貴方の口からモラルと言う単語が出るとはね。笑わせないでくださいよ」
 パイプ椅子を軋ませて風薙が立ち上がり、蛇に睨まれた哀れな蛙になりかけている暮羽の左手首を握り締めるように掴む。相手の力の強さに痛みを覚え、思わず顔を歪める暮羽の眼前に迫るのは黒い笑みを湛えた毒蛇。
「貴方にモラルがどうこう言う資格があるんですか? 勝負を挑んで来た先輩に頭部ギリギリのビーンボールを投げて恐怖心を与えた挙句、最終的には彼のメンタルを駄目にした貴方が? 分の悪い相手になるとエメリーボールを使って勝負を切り抜けようとする貴方が? 他にも様々な方法で障害に成り得る選手を汚い手で潰して来た貴方が?」
「くっ……」
 反論が出来ない。何故なら、咎めの口調で相手が言ってきた事は全て身に覚えのある疚しい事実だったから(そのような事に関心がなさそうな風薙が気付いていたのには正直驚いたが)。無意識に視線を落とす暮羽に風薙は小馬鹿にしたような声で追い討ちをかける。
「まぁ、そう言う訳で、暮羽さんが俺にこんな事命令されたーって大騒ぎしても誰も信じないと思いますよ? 俺も俺なりに暮羽さんが勝手に触ってきたーとか適当に言いますし。そうなった場合、チームメイトの皆さんはどっちの言い分を信じるでしょうね?」
「……」
 回答はしなかったが、正解はハッキリ分かっていた。ほぼ全員が風薙の言い分を信じるに決まっている。実力主義のランキングシステムにおいて風薙は自分よりも上位ランカーであるし、何よりも相手のランク等全く意に介さず、誰に対しても分け隔てなく朗らかに接してくる彼に対し、自分は普段の素行の悪さや風薙にも指摘された汚いやり口で多くのチームメイトに疎まれ、恨まれているからだ。自業自得と言ってしまえば、それまでなのだが。
「分かりました? 暮羽さん」
 非難し、馬鹿にしてきた風薙の声色は今度は諭すようなそれになっていた。
「どんなに足掻いても、貴方は俺に逆らえないんです。だから四の五の言わずに命令通りに動いてください」
 言いながら、握り続けていた暮羽の左手を解放し、椅子にどっかと座り直してニッコリと笑む。
「サッサと終わらせた方が効率が良いみたいな事を言っていたのは暮羽さんでしょ?」
「……」
 風薙の指の形がうっすら浮かぶ手首を暫し呆然と撫でていた暮羽だったが、やがて抗えぬ何かに手繰り寄せられるようにパイプ椅子に近付き、のろのろと膝を折った。

 ……気持ち悪い。
 ユニフォーム越しに刺激をしたのは僅か数分の事で、今は盛大に露出されている風薙の本体を握る暮羽は、率直な感想を心の中で呻いた。同性である自分も同じ物を持っているとは言え、とても直視が出来ずに自然と顔を逸らして手の中の肉をギクシャクと扱く暮羽の頭上から何とも楽しそうな風薙の声が降りて来た。
「ほら、暮羽さん。ちゃんとこっち見てマッサージしてくださいよ」
「うっ……この、変態が……!」
 恨みがましい声を絞り出して顔を相手の方へと向けるが、その頬は紅を注したように赤く、微かに揺れる瞳は相手の顔を見れば良いのか己の手中で硬度を少し増しているそれを見れば良いのか迷い泳いでいる。
「くそッ……!」
結局わざと眼のピントをずらして視界を霞ませ、相手の顔も局所もぼやけさせた状態で何とか手を上下させる暮羽だったが、ふとその手が熱視線を浴びている事に気が付いた。
「な、何だよ。何ジーッと見てンだコラ」
 上ずりそうな声を辛うじて抑えて威圧の声を無理矢理出すと、風薙は涼しい顔でサラリと言った。
「いや、暮羽さんもオナニーする時はそんな感じで自分のちんこ扱くのかなーって思って。暮羽さんって小指立てるタイプなんですね」
「!! な…なッ……!」
 元々大きめの瞳を見開き、口をあんぐりさせ、顔を茹でたてのタコのように湯気を出しそうなまでに真っ赤にする相手の反応に風薙はふっと小さく笑った。図星、か。
「そ、そンな訳、ねェだろうが……」
 否の台詞を吐く暮羽ではあったが、風薙を刺激する手は先程と違って明らかに小刻みに震えていた。何故か目は風薙に指摘された小指を立てた手に釘付けになり、赤い顔の熱はみるみる高くなっていく。風薙の品の無い一言で、何だか自分の自慰行為を見られているような気がして来て、其処から生じる羞恥心に胸の奥が痛いほど窄まる感覚に暮羽が襲われている中、風薙もどうやら暮羽と同じような錯覚を感じたらしかった。だが、湧いて来たのは含羞ではなくただただ強い興奮で、その高ぶりは素直にある場所へと向かって行く。
「! ひッ……! な、何か、なンか、出て……うわぁあ!」
 普段の彼からはまず聞けないであろう悲鳴を上げる暮羽の手の内で風薙が脈打ち、先端からみるみる蜜が溢れ出て握っている左手を容赦なく濡らしていく。何やら喚きながら思わず離してしまった手で床の拭き掃除をする相手に、風薙はわざとらしいほど大きな溜め息を浴びせてやった。
「何かも何もただの我慢汁じゃないですか。 暮羽さんだってオナニーしてたら出てくるでしょう?」
「うぅ……手ェ洗いてェ……も、もう良いだろ!? もうこれだけやってやりゃ充分だろ!?」
 既に半分べそをかいている暮羽が金切り声に近い声で嘆願すると、風薙はふぅと息を吐いて肩を軽く下げた。
「ま、良いでしょう」
 思わぬ答えについ顔に安堵の色を浮かべる暮羽だったが、慌てて怫然とした顔を作り直して立ち上がると、風薙を怒りの瞳でねめ、何とか捨て台詞を唸るように出した。
「……てめェ、覚えとけよ」
 そう言いつつも実は一刻でも早くこの部屋から出て行きたくて、やや焦った様子で背中を向けると、椅子がカタンと鳴る音と風薙の冷ややかな声の重奏が背中越しに聞こえた。
「はぁ? 何勝手に終わらせてるんですか?」
「え? あンだよ、てめェがもう良いって言ったじゃね……ッ!!」
 振り向こうとした時には風薙の両手が後頭部を掴んでおり、突然の事で目を白黒させる暮羽の顔は乱暴に引き寄せられていた。そして、気が付けば 
「ッ!! ぅん、んぐ! ぅぐ、うぅう……んむぅぅううう!!!」
 両膝を床に強く叩き付けられる事で数分前と同じ体勢を強制され、無意識に“あっ”と言う為に微かに開いた口に先程触れさせられた猛りを無理矢理捻じ込まれ、そのまま容赦なく奥まで突っ込まれた暮羽の顔に風薙の腰がグイグイと押し付けられていた。
「もう良いって言うのはですね、“手での刺激はもう良い”って意味なんですよ? 命令は最後まで聞いてください暮羽さん」
「ふぐ、うう、ぐっ……んぐ! んうぅうう!!」
 鼻先を擽る茂みの感触に涙ぐみながら、必死に顔を引き剥がそうとするが、相手の何処にこれ程までの力があったのか超人的な腕力で後ろ髪を鷲掴みにし、ガシガシと暮羽の頭を荒々しく揺さぶって来る。口内に味わった事のない苦味が広がり、熱い肉の先端に幾度も喉の奥を突かれる事で食道の辺りまで熱い何かが込み上げて来ているのを感じた。もがく暮羽を風薙の優越感に浸った声が襲う。
「ハハッ、暮羽さん涎ダバダバ出てるじゃないですか。そんなに俺のちんこ美味いんですか?」
 それはただ単に口蓋垂を刺激される事で自然と唾液が溢れて来ただけに過ぎないのだが、口の中を涎と蜜と風薙に満たされてしまっている暮羽には否みも何も出来ず、出来る事と言えば首を振って拒絶の意を表す事とひたすらにべそ混じりの呻吟を繰り返すのみ。色が赤から青へと変わった顔の口の端から光る涎の糸を幾重にも垂らしてユニフォームの胸元に刻まれた壱琉大学の名を濡らし、口内が容量以上に満ちる事で醜く膨らんだ頬に涙を伝わせ、時折肩を上下させて嘔吐く暮羽の様子を見下ろす風薙を不意に得も言われぬ心地良い寒気が貫いた。
 何だこれ。ゾクゾクする。暮羽さんにフェラしてもらって気持ち良いってのもあるんだろうけど、どっちかと言うと今の暮羽さんを見ているだけで身体がブルブルと気持ち良く怖気たつ。
 あの暮羽さんが跪いてる。あの暮羽さんが俺のペニスを泣きながらしゃぶってる。あの暮羽さんが下手したら戻しそうな青い顔して苦しんでる。
 そう、“あの”暮羽さんが!
 いつも生意気で何処か偉そうなあの暮羽さんが。相手が上位ランカーだろうと先輩だろうとふてぶてしい態度をとって、敬語もろくに使わない暮羽さんが。汚い手を使っても悪びれず、ろくに謝りもしない暮羽さんが。そして、何よりプライドが高いあの暮羽さんが!
 その暮羽さんを俺は今屈服させようとしている。その暮羽さんを俺は今まさに自分のモノにしようと……
 その辺りまで考えた所で、寒気は身体の中心付近に集まって、風薙の腰の辺りをキュッと刺激した。その促されるような感触に自分の今の状態を簡単に把握した風薙は一度大きく息を吐き、口の両端を大きく吊り上げて白い歯を零した。
「はぁっ……暮羽さん、俺、もうイキそうなんです。このまま出しますから、飲んでくださいね?」
「!! うぐ! うンぐ!! ふぅ、ふぅうう!!! ふぅぐううぅぅ!!!!!」
 非情な口内射精宣言に暮羽は見開いた瞳にこんもりと涙を浮かべて激しく首を打ち振り、風薙の黒い縮れ草がそよぐほどに激しく鼻から息を出して必死で峻拒した。その反応が風薙の不可思議な甘い寒気を強めている事も知らずに。
「はぁ、はぁっ……駄目です、これは、命令ですっ、くっ……あ、あっ……い、イクッ……! の、飲んでくだっ、で、出る……飲めえっ!!」
「ふっ、ふぅう、んむっ……!! んぐ、ぅご……んんんうううううぅぅう!!!!」
 焼け付くほどの痛みを感じるほどに相手の髪を強く握り締め、身体の中心部を思い切り相手の顔を引っ付けて尻の筋肉に力を入れると、待ち兼ねたように熱い精汁が尿道を全速力で駆けるのを感じ、そのまま飛び出た種は暮羽のとうに容量の限界を超えている口の中に蒔かれていった。
「う、ぐッ……!!」
 絶頂を迎えた瞬間に相手の手の力が僅かに弱まった隙を突いて、暮羽は頭を風薙の下半身から引き離し、膨れた口元を重ねた両手で覆う。何とか命令通りに飲もう(正直、飲まなければ何をされるか分からないと言う恐怖はあった)と彼なりに努力しようとしたみたいだが、やはり簡単に嚥下出来るものではなく。
「う、うえッ、うえぇええ!! が……かはっ……ゲホッ、げっほ、ゲホゲホゲホッ!!」
 床に両肘と両膝を突き、眼と口を大きく開いて舌を伸ばすと白濁混じりの大量の涎が吐瀉物のように流れ落ち、丸まった背中を跳ねさせて激しく咳き込んだ。その余りにも惨めな男の姿に風薙は改めてゾクゾクと身を震わせる。何だこれ何だこれなんだこれナンダコレ……
「う、ぐっ、えほッ……」
 少し落ち着いてきたらしい暮羽は揺れる手の甲で口の周りを濡らす体液を拭い、ゆっくりと、恐る恐る、濡れた瞳で風薙を見上げる。その顔は未だ青く、心に未来永劫癒える事のない傷をつけられてしまった子供のように哀れで弱々しく、拭い切れなかった体液で汚れた唇をわななかせながら出す声も、か細く頼りないものだった。
「た、頼む……頼むから、もうやめてくれ……こ、この事は誰にも言わねェから……だから……」
「……ははっ」
 先輩の哀願に最初は気の抜けた笑いが出るが
「あはははははははははっ!!!」
 即座にそれは高らかな哄笑と化した。
 懇願してる! あの暮羽さんが! この俺に“もうやめてくれ”って! 口から精液交じりの涎を垂らしながら! 無様に這い蹲って! 弱者の顔で!! 敗北者の泣き顔で!!
 不意に、風薙を包む甘い冷気が形を変えた。それはインクのような何かになり、ある意味では真っ新とも言える彼の心にパタタッ…と零れ落ちて、瞬く間にじわじわじわりと滲み拡がっていく。そのインクはこの世界には存在しない色。甘くてほろ苦くて温かくて冷たくて穏やかで激しくて幸せで悲しくて優しくて残酷で純粋で淫猥で…そして何よりも危険な、禁断の果実の色。
「……誰にも言わない?」
 高笑いをピタリと止めて口の中で呟く風薙の瞳の奥に冷淡な陰が浮かび、温かみのまるでない薄笑いを浮かべて言う。
「“言わない”じゃなくて“言えない”ようにしてあげますよ」
 それは無慈悲な宣告だったが、ただただ茫然と風薙を見詰める暮羽がそれを聞き取る事はなかった。