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※赤い文字色のページには性描写があります


 色が落ちた青空が薄い闇の衣を纏い、もの悲しげな藍鼠色になってカーテンの隙間から夜の訪れを知らせるが、母が戻る時間にはまだ少し遠いことは壁かけ時計が律儀に、残酷に教えてくれる。
 少年が昨夜からつけっ放しにしていた豆球の灯りが滲む薄暗い部屋の中。寝台を長椅子のようにして座った男が暮羽を胸元に抱き寄せていた。男のこだわりなのか歪んだ趣味なのか、例のチェストから拝借した新たな下着をまたはかされている少年の白い股倉に突っ込まれた無遠慮な手が、布の中で不気味に蠢く。
「んう、ぅ、う……」
 叫びすぎて痛む喉から掠れた声を零す暮羽の出来物一つないなだらかな背中をぐるりと回って脇から生えて来た男の手が薄褐色の円をなぞり、微かな盛り上がりを素早くこする。暮羽の口から戸惑ったような声が吐息まじりに漏れたかと思うと、柔らかかった肉豆が硬い突起となって男の指の下で立ち上がった。鋭敏に反応する少年の肉体の素直さに男は相手の耳に笑いを吹きかけた。
「ふふっ、おっぱいがちょっと硬くなってるよ。 気持ちいいのかな?」
「ち、ちがぅ、気持ち良くなンかないッ……は、離して!」
 男の腕の中で暮羽は弱々しくもがくが、その姿も手の中で羽毛にくるまれたかよわい体を左右に身じろぎ、小さな羽をばたつかせながらピィピィ鳴き喚く雛鳥のように愛おしく感じ、男の口の端が高く吊り上がる。
「遠慮なんていらないんだよ。もっと気持ち良くしてあげようね」
 少年の愛らしさに駆り立てられた悪戯心が突起を辱める指を速め、暮羽の局所を弄ぶ手の動きもより激しくなる。下着の中に何か別の生き物が入り込んだかのごとく男の手が縦横無尽に暴れ回り、白布があちこちに跳ね回った。
「ぅあ! ああッ!! ゃ、やめ、て……!!」
 割れかかったベソかき声で拒み、小さな両手で何とか男の手首を掴んで制止しようとするが、子供が大人の男に腕力でかなう筈がなく、男は全く変わらぬ様子で蹂躙を続ける。それでも、拒絶の言葉を繰り返しながら手の力を強めようとする暮羽だったが、その瞳には困惑の色が広がりつつあった。
 力が全く入らない。指がかじかんだかのようにこそばゆく、男に爪を立てることも引っ掻くことも出来ない。「やめて」「離して」口から幾度も放つその言葉とは裏腹に、手の力がどんどん弱まっていく気さえする。まるで、今されている行為を黙認するかのように。
 何で……。暮羽の細かく震える唇から零れた吐息のごとき弱い声音を男は聞き逃さなかった。
「エイジくん、気持ちいいんだよね? 本当はもっとして欲しいんだよね?」
「! ち、違う、ちがう、ちがうッ!!」
 か細い声から一転、声を張り上げて首を何度も振って否定する少年を見て、男は絶やさぬ笑みに微少な呆れと苦味を混ぜた。そのような反応をしている時点で認めているようなものなのに。だが、それがまた子供らしくて何とも可愛らしい。男の笑顔が醜く捩じれた。動揺しているのであろう顔を見られぬように俯く少年の細い肩に改めて腕を伸ばすと、相手の身体と自分の身体をギュウッと密着させ、軋み合うほどに強く抱き寄せる。少年の強張る頬にうっすら無精髭が生える己の頬をなすり付けながら、男はずらりと並ぶ歯を惜しみなく見せた。
「大丈夫、パパに任せて。エイジくんがパパのことを忘れられなくなるぐらい、気持ち良くしてあげるからね」
「やだ、やらぁッ、やめれよぉ……!」
 泣いたことによる鼻づまりで余計に舌足らずに聞こえる暮羽の声に男のいびつな欲情が一層燃え上がり、下着の中に埋もれたままの手が小さな雄芽をつまんだ。そのまま薄皮を乱暴にずり下ろすと尖った悲鳴が耳に突き刺さったが、男は気に留める様子もなく、少年の下着の中で剥きだしになっている桜色の芯を包皮でこすって刺激する。自分の大切な場所に対する乱雑な扱いに鋭い痛みを覚えた暮羽は、真っ赤なしかめっ面の頬に涙の粒をぽろぽろ零した。
「うぐっ、えっく、ぃ、いやぁあああ……!」
 暮羽は泣きじゃくりながら、ほとんど無力になった小さな両手で玩弄をやめぬ男の手を空しく握った。痛い。恥ずかしい。こんなの、嫌だ。……嫌な、はずなのに。
 暮羽は微かな、だが確実な異変を身体の奥底に抱いていた。今まで感じたことのない不思議な疼きがへその下でグルグル回り、頭の奥もボンヤリしてくる。面妖ではあるが決して嫌ではないその感触。未知なる異変に視界も曖昧になり、少し蕩けた黒目がぽかんと一点を見つめる。唇から自然に溢れ出る細くて熱い息。無意識に浮き上がってしまう腰――自分の身体に起こっている異常事態にハッと気付いた暮羽は、反射的に張り詰めた声を走らせた。
「ッ! や、やだ! 手、とめてッ! な、なンか……へん……!」
「ん?」
 少年を襲っている異常の正体が分かっているはずなのに男はとぼけた声を出し、声と同じ表情の顔を傾げた。
「どうしたの? またオシッコしちゃいそうなのかな?」
「お、オシッコ?」
 相手の一言に暮羽は一瞬、この謎の現象の正体は尿意かと思ったが、即座にその考えを蹴り飛ばした。似ている気もするが、違う。だが、この感覚が何であるのかは考えても全く分からない。自分の身体はどこか壊れてしまったのだろうか。少年は混乱し、鼻から粘液の糸を垂らしてしゃくり上げた。
「えぐっ、うぐぅ、もう、やだ……怖いよお……」
 自分の今の状況への率直な感想を口にする暮羽に男は作ったような憫笑を浮かべると暮羽の横顔に唇を寄せ、頬に流れ続ける塩辛い雫を音を立てて吸い取った。
「よしよし、パパがエイジくんを助けてあげるね。エイジくんの苦しみをパパが取ってあげるからね」
 優しげな口調とは裏腹に下着の中の手は荒々しく動き、薄皮をつまんだままだった指が小さな本体を磨くようにゴシゴシと素早く、強くこすり上げる。局所への摩擦に暮羽は顎を仰向かせ、わななく唇を大きく開いた。
「あ! あッ! あ、あ、あ、あ!!」
 切迫感に満ちた喘ぎが刻まれる。必死に男の手首を掴んでいた手が離れ、そのまま流れるようにシーツを握り締める。渦巻く疼きが止まらぬ身体の芯がギュッと窄まる。浮かびっ放しだった腰が勝手に上向く。頭の奥が甘く沸騰する。視界に何も映らなくなる。
 少年の世界が一瞬真っ白になった。
「んきぅ!! ぅ、きゃううううぅう!!」
 四肢を痙攣させながら悲鳴のような声をあげた少年の純白な世界は砕け散り、たちどころに集って元通りになった。生まれて初めて感じた衝撃にグッタリと身体を男に預ける暮羽だったが、ふと奇妙な感触を覚え、その違和感の発生源に視線をやった瞬間に目を見開いた。
「あ……あ……」
 暮羽の嗄れた声が揺れる。男が手を突っ込んでいたことで生じていた下着の隙間から、ほぼ透明ではあったが微かに白く濁った液体が内股を伝っていた。考えるより先に鼻の奥がつんと痛み、新たな涙が太腿の上に降る。
「ど、ど、どうしよ……変なオシッコ出ちゃった……オレ、おかしくなっちゃった……」
 どこまでも無知を曝け出す少年の純粋さに男は相好を崩し、少年の肩から腕をさすって慰めの声音で言った。
「これはエイジくんが大人になったって印だよ。嬉しいなぁ、エイジくんが大人の白オシッコを初めて出した時の相手になれて」
 言いながら寝台を降りて暮羽の前に跪くと、支えを失った暮羽の身体が力なくシーツの上に落ちた。そのまま微動だにせぬ暮羽の両脚から下着を抜き取り、布の両端を広げて中を覗き込む。股の辺りにじっとりと染みている、子供が生み出した子種と言う禁忌の蜜。それは「刺激によってまた少年が失禁でもしてくれれば御の字」と思っていた男にとって想定外であり、僥倖であった。
「ひ、ひひっ、○学生の精通まで拝めるとは思わなかったなぁ。あぁ……×歳児の初射精ザーメンがねっとりついてる……」
「…………」
 男が湿った笑いを零し、下着に鼻を突っ込んで新鮮な種汁のにおいを堪能している様を暮羽はただただ焦点の定まらぬ眼で見つめていた。虚ろな視線を感じた男は少年の方を向き、不気味なまでに優しい笑顔で言った。
「大丈夫、これは誰にも売らないよ。これからパパは毎日このパンツを見たり嗅いだりしてエイジくんとのセックスを思い出すからね
「…………」
 小さく唇を開けたまま無言を維持する呆け顔の少年に男は改めてフフッと笑い、壁を見遣る。壁かけ時計の短針が「7」のやや左を指していた。
「あぁ、そろそろ帰らないと。エイジくんのお母さんと鉢合わせでもしたら面倒だからね」
 手の中の下着を大事そうに畳んで箱の中に入れ、大小様々な録画機器も箱の中に撤収させる。自分にとって宝箱となったダンボール箱を抱えながら、男は最初に会った時と同じ明朗な声で別れの挨拶をする。
「バイバイ、エイジくん。今日は楽しかったよ」
「…………」
「ふふっ、疲れちゃったかな?」
 どうやら頭の機能が停止しているらしい少年の額に男は口付けをした。だが、それだけでは足りなくなったのかわざわざ箱を床に置き、小さく開きっぱなしの唇に人工呼吸でもするかのように己の唇を深く食い込ませて口内を強く吸い、乳歯まじりの小さな歯列を嘗め回した。ぷはっ。男児の柔らかな口や甘露なる唾液を存分に味わった男は唇の端から零れる涎を拭いつつ、息を弾かせる。そのような目にあってもなお放心状態の少年に男は改めて別れを告げた。
「それじゃあね、エイジくん。さようなら
 下卑た笑顔の男は箱を抱え、部屋から姿を消す。ガチャン……。少しして、鉄の扉が閉まる音が聞こえた。後に残るのは、しんとした静寂。時計の針だけが薄暗い部屋の中でカチコチと小さく時の音を刻む。
「ぅ……」
 暮羽の口から久方振りに小さな声が漏れる。……帰った? もう、終わった? 再起動を始めた頭がゆっくりと考えだすが、今度は身体の方がまともに動いてくれない。全身の血液が鉛にでもなったかのように重く、頭一つ動かすのも億劫だ。だが
「…………」
 異常に重たい左腕を頑張って動かす。動きが鈍い手が向かった先は、男に散々いじり回された局部。指が僅かに痛む小さな雄に触れ、男にされたように皮をめくる。いまだ慣れぬ痛みに耐え、男の真似をして薄皮で自分の大事な本体をぎこちなくこすってみるが、先程と同じような狂おしい感覚ははどこにも見つからなかった。人知れず、鼻から溜め息が抜け、左手が力なくシーツに落ちる。
 そこまでした所で小さな身体に疲れがどっと押し寄せ、急激に強い眠気が暮羽を襲った。とにかく今は身体を休めなければならないと言う本能からの警告を素直に受け入れた暮羽は、腫れぼったい瞼をそっと閉じた。視界が闇に閉ざされた瞬間、頭の中が一度ぐるんと大きく回転する。そのまま彼は身体が落ちていくような錯覚を得ながら、ほぼ気を失う形で眠りに落ちた。

 小さなアパートの狭い廊下を一人の女がヒールの音高く足早に進み、家族が待つ部屋の前に立ち止まる。鍵を取り出すために鞄をまさぐっている時、同じ手に提げているスーパーのレジ袋から顔を覗かせているシュークリームを捉えた彼女は眼を細めた。それはここ最近、毎日のように夜遅くまで一人で自分の帰りを健気に待つ息子へのささやかな褒美であり、せめてもの贖罪であった。そんな自分の心に気付くのかは分からないが、大きな垂れ眼に数多の星を散りばめ、紅潮した頬を尖らせながら「おいしい、おいしい」と繰り返して嬉しそうにシュークリームにかぶりつくであろう我が子の幸せまみれの顔を想像すれば、自然と自分の顔も綻ぶ。
 暮羽の母親はウフフと笑い、鞄から取り出した鍵を鍵穴に挿し込んで左へと倒したが、いつもよりも手応えがなかった。それは、既に鍵が開いているということだ。
 まぁ! 母は表情で叫んだ。そして小さく溜め息をつき、微かに剥いた目をほんの少し吊り上げて扉を開けた。本当は小言は言いたくなかったのだが、息子の身を守るためにも施錠の大切さは伝えなければならなかった。
「ただいま。鋭次ー、お留守番の時は玄関に鍵をかけておきなさいってお母さんいつも言って」
 彼女の言葉が途切れた。家中が暗い。灯り一つついていない。息子が出てこない。あの子は昼寝でもしているのだろうか。こんな時間まで眠りこけるほど疲れているのか。それとも体調を崩しているのか。
 引っかかるのは家に入った途端に鼻を突いた異臭。それは、嗅ぎ覚えがある臭い。愛する男と交わり、子をなし、母となった女ならば誰もが知っているであろうあの臭い。
「!」
 臭いの正体を察すると同時に鼻を押さえていた指が唇に滑り落ちる。母の顔がサッと青くなった。
「鋭次? いるの? 鋭次!?」
 買い物袋を叩き付けるように床に置き、短い廊下をまろび駆ける母の後ろでレジ袋が倒れる。飛び出したシュークリームが彼女の後を追うようにコロコロと転がったが、僅か数センチで呆気なく止まった。
 もっとも息子がいる可能性が高い子供部屋に飛び込んだ母は、高くて短い悲鳴を飲んで口を覆った。豆球の乏しい灯りに照らされた部屋に置かれたベッドの上に自分の子供が裸に黒い靴下という不可解な格好でグッタリと横たわっていた。カーテンの隙間から射し込む月明かりも手伝って、顔だけでなく身体全体が青白く見える。
 母は震え始めた自分の身体を抱き締めて息を整え、意を決して蛍光灯の紐を数度引っ張った。白光が部屋の中に迸り、悲惨な全容が明らかになるや母は息子の名を叫んだ。
 狭い部屋に立ち込める大人の雄の汚臭。息子の身体の所々にこびり付いている種。太腿を伝って固まっている血液。ショックと恐怖のあまり失禁してしまったのだろう小水の臭いも嗅覚が捉え、血痕が散るシーツに臭いの発生源が大きく広がっている。
 強いめまいを覚え、思わずその場にへたり込みそうになった母だったが、子供のために何とか自分を奮い立たせると寝台の上の我が子に近付いた。彼は、鋭次は、生きているのだろうか。胸を突き破ってきそうな心臓を軽く握った拳で押さえつつ、血色のない唇に耳を寄せる。自分の過剰に高鳴る鼓動が邪魔をする中、か細い寝息が確かに聞こえた。弱々しくも定期的な呼吸。耳に微かに吹きかかる風。
 ……生きていた。良かった!
 とりあえず最悪の事態は免れたことを反射的に神に感謝した後、母はいつもよりも頼りなく感じる息子の身体をその汚れも構わずに抱き起こし、揺さぶりながら幾度も彼の名を呼んだ。暮羽の眉がピクリと動き、薄く閉じられた瞼がゆっくりと物憂げに開く。
「あぁ、鋭次……」
 目を覚ました我が子を強く抱き締める母の声は揺れていた。腕を、背中を何度もさする。とにかく、この子を病院に連れて行かなければ。いや、その前に警察に行ってこの子に何かをした犯人の手がかりを提供するのが先だろうか。どちらにしても、聞かねばならない。
「鋭次……」
 幼い息子に己が身に起こった事実を説明させるのはあまりにも酷であるのは彼女自身も分かってはいたが、愛する息子にとって最良の措置をとるために、母は心の痛みに耐えつつ静かに、出来る限り柔らかい声で問うた。
「一体何があったの……?」
「……パパ」
「え?」
 思わぬ単語に目を剥く母に暮羽は唇を笑みの形に歪めて細い掠れ声で続ける。
「パパに、遊ンでもらった……」
「え、鋭次、何を言っているの? お父さんは……」
 言いつつ母はハッとした。息子は夫や自分をお父さん、お母さんと呼び、パパママと呼んだことなど一度もない。では、彼は誰をパパと呼んでいるのだろうか。まさか、息子は自分を辱めたらしき男をそう呼んでいるのだろうか。だが、それは、何ゆえに?
 心のざわめきを表に出すように揺らめく母の瞳の中で少年は首を小さく傾けて再度笑う。その微笑は儚くも、どこか嬉しそうであった。
「お父さんじゃない。パパだよ……」
「あぁ……!」
 びっしり生えた長い睫毛をピクピクと痙攣させて呟く息子を、母は力の限りに抱きすくめる。声を、肩を震わせる彼女のまなじりに熱がじわっと滲んだ。