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※赤い文字色のページには性描写があります
「はうっ……ぅ」
古びたアパートの薄暗く狭い部屋の中で寝台が軋み、それに横たわった苦しげな男の声が重なる。捲れたシャツから露出した胸部の辺りを風薙の頭が蠢き、彼のその手はハーフパンツの上からハッキリした形が浮かびつつある肉を握っては緩め、緩めは握ってを繰り返し、時折手の平でゴシゴシと擦り上げる。やがて、じれったくなって来たのかチェック柄の膝丈パンツを足首まで引き摺り下ろすと、相手の方も足を自転車をこぐようにもぞもぞと動かしたりバタ足のように足首を上下させて摺り下ろし、自らそれを蹴り脱いだ。
んー、暮羽さんも結構ノッて来た? 胸の筋肉の線に沿って舌を這わせ、彼がよく履いている動物キャラクターがプリントされた下着の上から件の刺激を繰り返しながら上目使いで相手の様子を窺うと、自分に行為を頼んできた(まぁ、無理やり言わせたようなものだが)時とは違う意味で顔を赤らめた彼が息を荒げ、時折何かを懇願するように自分の頭頂部付近を潤んだ瞳で見下ろしていた。
「暮羽さん、どうかしました?」
敢えて意地悪な質問をぶつけてみると、相手は何でもないと言わんばかりにブンブンと首を振って汗を散らした。その反応が何とも可愛くて、ついついもっと苛めたくなる。と言う訳で。
「あー、そうですか。そろそろこっちに欲しいのかなー、なんて思ったんですけど」
「! ひっ、あ、あっ、ああぁぁ!! や、やめっ、ば、ひああぁ!!」
前を玩弄していた手を滑らかに後部に移動させ、肉付きの良い其処でくるっと一周させたかと思うと、お目当ての場所に中指を添えて、下着に描かれた犬のキャラクターを巻き添えにして沈ませる。決して処女ではない、寧ろ男慣れしている其処は下着の布ごと指を飲み込んで行った。
「や、やめっ、やめ、ろってェえ……!」
涙混じりの上ずり声を心地良く聞き、下着を持ち上げるほどに雄々しくなっている肉搭の側面を布ごと唇で挟んでいく。下から上へ。上から下へと丁寧に。サーモンピンクのトランクスの一部分ががみるみる色濃くなっていくが、その原因は風薙の唾液だけではなく。
「ははっ、ここが一番濡れてるじゃないですか」
一度下半身から口を離し、最も色濃く濡れた搭の頂点を親指の腹でグリグリと押さえ込んで撫で回すと、暮羽の身体が大きく仰け反り、開いた喉から奇声に近い悲鳴が飛び出た。
「さて、と」
布から染み出た蜜に濡れる親指を舐りつつ、早くも肢体を小刻みに揺らす暮羽の腰に手を寄せて、汗ばむ身体と所々が濡れた下着の間に指を滑らせた。汗でへばりついていたり某所に布を引っ掛けてしまったりでやや苦労しながらも何とかトランクスを引き下ろして全てを露出させた後に、そっと相手の顔を盗み見るが、本人の口からは得意の悪態も拒絶の声も何も聞こえては来ず、ただ軽く握った利き手の甲を目を隠すように当ててハァハァと肩で息をしている。
「……」
曝け出された暮羽のそそり立つ局所に視線を戻した風薙の口角が小さく上がる。いつもなら、ここで自分も下を脱いで全てを剥き出しにし、相手が苦痛や恐怖で泣こうが喚こうがお構い無しに欲望のままに無理矢理突っ込み、腰を繋げて自分のペースで揺さぶるだけだ。
そう、いつもなら。
だが、今夜は。
「暮羽さん、ちょっと待っててくれますか?」
声が聞こえると共に間近に感じていた風薙の熱が離れ、ベッドを軋ませ降りる音、フローリングに裸足を貼り付け剥がしながら進む音が続いた後で、軋んだ扉の開閉音がした。音の発生場所と種類から、風薙の向かった先がトイレと同室になっている三点ユニットバスだと分かった暮羽はハァッと露骨な溜め息を吐いた。
何かと思ったらションベンかよ。そんなのヤる前に行けっての。
心の中で非難するもその瞳は何処か落ち着きがなく、やがて指が躊躇いがちにある場所に近づいていく。
「……んっ」
風薙の玩弄から解き離れてしまって密かな寂しさを感じる己の本体に手を添えて、ベタベタ濡れる先端を人差し指の爪の先で軽く擦る。中途半端な所で止めやがって、萎えるだろうが。文句を言うのはあくまで頭の中だけで、口から出るのは小さな喘ぎ。一度触れてしまうと止められない。普段一人で慰めている時のように緩く包んだ手を上下させながらも、その目は風薙が消えた先を何度も見遣る。トイレだから終わったら流すよな。流す音が聞こえた時に手を離せば良い訳だから……
「はぁ、はっ、あぁ……」
シーツに沈んでいたもう片方の手がついに動き出す。震える指が恐る恐る向かう先は禁断の場所。あの日、野球部の練習中に風薙に騙され呼び出され、白昼堂々処女を散らされるまでは触れる事さえなかった……
ガチャッ。
「!!」
流水音無しで風薙が出て来ると言う想定外の展開に暮羽は目を大きく見開き、慌てて両の手をシーツに戻した。
え? え!? 何だコイツ、便所じゃなかったのか!? それとも、アレか。コイツ、ションベンは流さない主義? いや、人の家なら流せよ。つーか、自分の家でもちゃんと流せ。
軽いパニックを起こして、勝手に風薙の普段の行動を決め付けてしまっている暮羽の横たわるベッドにさっきと同じ足音が近付いて来た。
「おっと」
自分が寝る予定だった布団の上で蛍光灯の紐が顔に触れ、風薙は無意識の内に手で払うが、それは律儀に元の場所に戻って来た。ゆらゆら揺れる紐を捕まえて、風薙は一瞬考えた。蛍光灯、点けようかな。だが、風薙の脳内会議で出されたその議案はすぐに却下される。「まぁ、普段は真っ昼間とか明かりがガンガン点いた部屋でヤッてるし、たまにはこんな闇の中で夜目を頼りにしっぽりやるのも良いでしょう」議長の案が発案者の鶴の一声によって満場一致で可決された。
さて、頭の中の一人遊びはこの辺にして。
「暮羽さん、これなーんだ」
「先輩にタメ口かよ」
自分の事をがっつり棚に上げて非難する暮羽の目の前で風薙が何かを左右に振った。あっ。“何か”を認識した暮羽が小さく口を開けた。風薙が指で抓んだ小さなボトルの正体は洗面台に置いてあったワセリン。
「さっき、風呂借りた時に見つけてから気になってたんですよねー。暮羽さん、これ何に使ってるんですか? 肌のケア? ちょっとした傷薬代わり? ランキング変動対決の時の不正行為? オナニー?」
「最後の方は何だコラ」
「はははっ」
実際は一番最後以外の全ての理由で使わせて貰っているのだが、相手が適当に笑って流している所を見るとさして興味がないらしいので、面倒な説明は省かせてもらう事にした。
「で、何なんだよ。ンなモン持って来て」
軽く唇を尖らせて怪訝そうに聞いた瞬間、風薙の適当な笑顔が相手を慈しむそれに変わる。
「言ったじゃないですか。優しくするって。これ塗った方が痛くないでしょ?」
蓋を開けて人差し指と中指を突っ込み、暫し掻き回した後に持ち上げられた二本の指には見慣れた白い油がたっぷりと乗っていて、その指を小さく広げた風薙はにこやかに言った。
「ハイ、暮羽さんお尻出してくださーい。四つん這いがいいかなー?」
それは病院の若いお気楽看護士のような声色だったが、暮羽にはそれは自分の緊張を緩める為に作ったものだと思った。
今は、そう思いたかった。
寝台の上で四肢を付く暮羽の腰を背後に回った風薙が少しだけ持ち上げた。どう見ても交尾を求める獣のような体勢になっている自分の姿にグラグラするような熱が脳を蒸しているのを感じたが、直後に襲ってきた異変に熱い頭が激しく上向いた。
「いッ……な、なンかっ、へ、へんっ、あ、いゃあああぅ……!」
日常生活においては別の事に使っている油も手伝って風薙の指は呆気なく侵入し、限界まで伸ばした指が丹念に油を中に塗り込んでいく。その動きは最初の方こそ丁寧だったが、相手も興奮して来たのか少しずつ荒っぽくなってきて長い指が容赦なく暴れ出した。一気に引き抜き、即座に突き刺す。中で指を蟹のハサミを真似するように繰り返し開く。そして、温かな肉壁をコリコリと引っ掻く。
「あ、はぁっ、ん、ちょ、動き、もう、ちょっと、あんっ、ゆっくり、あぁ、ゆっくりいいいい!!」
「は、ははっ……ヤバイ、暮羽さん、中、すっごくヤバイ……」
うわ言のような声を零しつつ、相手の悲鳴も構わずに指を貪欲に捏ね繰り回している内に固形状態だった油はしっかりと溶け、体液代わりとなってシーツに雫を零し始めた。このまま油塗れの穴に突っ込んでしまいたい欲求と全力で戦いながら、風薙はすっかり汗で濡れた借り物のハーフパンツのポケットをまさぐった。中から出て来た銀色のアルミ袋に包まれた小さな何かを破り開けようとする指の戦慄きからは彼らしからぬ焦燥感すら覚える。
「はぁ、はぁ……なに? 何、してンだよ……ンだよ、それ」
またしても途中で放り出される形となり、明らかに不満を抱いた声を出しながら暮羽が首を大きく捻って風薙の手元を見ると、見られた方は曖昧な笑顔を返し、手中の小袋の端にあるギザギザを抓んでヒラヒラッと振って見せた。
「ゴム、ですよ。この前、合コン用に一箱買った時にサンプルとして貰ったんです。あ、これ、ポリエチレン製だからワセリン塗ってても平気なんですよ。普通の奴だとワセリンで溶けちゃうらしいんですよねー」
「……」
肩で息をしながら無言で見てくる暮羽に取り入るように風薙は笑顔を小さく傾けて続けた。
「それに、普段こう言うイイヤツって買ったりしないから、貰った時に“ここぞって時に使おう!”って思ってたんです。それで、その」
彼は、手の中の袋を落ち着きなく両手の指で軽く捩じったり揉んだりし、そのまま目線を落として口籠る。
「今が、その、“ここぞって時”だと思って……」
「……」
敢えて無言を維持する暮羽だったが、その胸は何故か激しく掻き乱され、心臓が拳と化して中から何度も全力で殴られているかのように高鳴っていた。何だよ、何がここぞって時だよ。いかにも、俺が大切な人だからーみたいな言い方しやがって。俺は騙されねぇぞ。今までお前にされた、言いたくも思い出したくもないあの事は一生忘れねぇし、恨んでんだからな。恨んで……あぁ、もう、畜生。
「……ェよ」
「え?」
聞き取れなかった言葉を風薙が反射的に鼻先を上げて聞き返すと、暮羽はふいと顔を逸らしてポツリと繰り返した。
「……要らねェよ、そんなの」
「え……」
思わず息を飲み込んで、手の平に目を落とす。現在のような展開になるかもしれないと予想し、暮羽が茶を飲みに席を外した時にコッソリと自分の財布から抜き出してポケットに忍ばせた避妊具が其処に乗っていた。視線を相手へと向けると、暮羽の方は例の卑猥な体勢のまま何かを待っている。避妊具。暮羽。交互に見る。段々、暮羽の方へ目を向ける時間の方が長くなる。どちらかと言うと、さっきからずっと狙っている濡れ濡れ小穴を凝視していると言った方が正しい。
「要らない、って……このまま、生でヤッていい、って事ですか?」
言いながらも既に肝心の身体の方は着々と準備を進めていた。両足の中心部が熱い。痛い。苦しい。出したい。スッキリしたい。抱きたい、抱きたい、犯したい。風薙が切羽詰った状態である事を熱くて微かな震え声から察したのか、暮羽はハッと息を吐き捨てた。
「今まで散々人をナマで犯っといて、今更ゴムも何もねェだろうが。入れてェンだろ? サッサと入れりゃ良いじゃねェか。がっつきやがって」
「……くっ!!」
何だか台詞の最後の方は相手にそっくりそのまま返してやりたい気分ではあったが、そんな事をする時間すら無駄に感じるほどに身体は限界をとうに越えていた。取って置きの銀の小袋は哀れ床へと放り捨てられ、じっとり湿った暮羽の広い背中に後ろから抱きつき、相手の名前を幾度も呼ぶ口が触れた先から舌を伸ばしてちょっぴり塩辛い水の珠を掬い取り、相手の腰を乱暴に持ち上げて自分の腰を突き出せば、未だに自分の下半身は着衣している事に今更気付き、慌ててそれを借り物であるのも構わず荒々しく引き摺り下ろすと、風薙の分身が待ち兼ねたように頭を振りながら飛び出した。
「あ」
忙しない様子の相手の方へ何気なく振り返った暮羽の瞳を風薙の整った顔にはやや似合わぬ気もする猛々しい男が強く射抜いてきた。思わず生唾を飲み込み、無意識に漏れる感嘆の溜め息を震わせる。上の服も勢い良く脱ぎ捨てている相手を熱く揺れる眼でボンヤリと見ている内に、疼きが止まらぬ後ろから女のように生温かい蜜が零れ落ちるのを感じた暮羽は慌てて臀部に手を添えた。