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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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[スコリノ]掠める指先、その距離に

  • 2017/03/03 21:00
  • カテゴリー:FF


欲しいものは、と聞かれたら、幾らでも思いつくような気がしていた。
新しい服、それに似合うアクセサリーは勿論、新刊の文庫本や、流行りの漫画、雑誌、食べ物も。
お金も時間も、幾らあっても足りない位に、欲しいものは沢山ある。

スコールに「誕生日に何が欲しいか」と聞かれた時も、そんな気持ちを持っていた。
先ずはそんな言葉を投げてきたスコールに驚いた(何せ彼は、そう言う事には全般的に疎い人だから)ものだが、それはともかく、恋人が何かプレゼントしてくれると言うのなら、リノアが嬉しくない訳がない。
その内容が何であれ、スコールがくれるなら、リノアは飛び跳ねて喜んだだろう。
だから「なんでもいいよ」と言ったのだが、スコールは判り易く困った顔をした。
女子の流行り云々は勿論、きっと今までそんな経験もせずに生きてきたのだろう彼に、自由お題と言うものは酷く難しい課題だったのだろう。
何だって良いのに、彼の好きなシルバーアクセサリーや、カードゲームだって一緒にやってみると面白かったので、新しいブースパックだって構わない。
“誰に”貰ったのかが、リノアにとっては重要だった。
けれども、スコールを困らせたい訳ではなかったし、きっとこんな事に悩むのは子供の頃以来なのだろう彼に、リノアもどうせ貰うのなら特別な何かが良い、と思った。
消費してしまえば消えてしまうようなものや、ありきたり───何をもってして“ありきたり”とするのかは諸説あろうが───のものではなく、唯一無二のものが良い。
密かな我儘を胸に抱きつつ、リノアは悩むスコールに、一つ提案をした。

3月3日、リノアの誕生日。
その日、一緒に欲しいものを探して欲しい、と。

祝いたいと思っていても、どう祝えば良いのか判らないスコールには、渡りに船であった。
それで良いなら、とスコールは頷いて、すぐにその日のスケジュールを開けるように調整した。
キスティスやサイファーも心得たもので、指揮官周りの仕事をちゃくちゃくと片付けさせ、代理の立てられるものは代わりを務めた。
その様子を見てから、思っていた以上の我儘を押し付けてしまったような気がしたリノアだったが、当日、一緒にデリングシティを歩いている今、あの時言って良かった、と思う。

朝の内にバラムガーデンを発ち、昼前にデリングシティに到着した後、まずは腹拵えをした。
デリングシティではあちこちにあるファーストフード店で、手早く腹を膨らませて、少しだけお喋りをしてからウィンドーショッピング。
魔女戦争の後、ガルバディアは色々と不穏な匂いも滲んではいるが、住み暮らす一般人はいつも通りだ。
大きな通りに車がひしめき合い、立ち並ぶ店々は煌びやかな光とウィンドーで客を誘う。
色々と近道になる裏通りは、今は危ないから近寄るな、とスコールに言われた。
通り慣れた道もあるのに、とリノアは思ったが、今のガルバディアの情勢を思えば無理もない。
トラブルを産んでスコールの迷惑にはなりたくなかったので、彼の言う通りにした。

表通りにある店だけでも、かなりの数が軒を連ねている。
二人は、それを端から端までのんびりと歩きながら眺めていた。


「あっ、これ可愛い」


小さなジュエリーショップのウィンドーに光る石を見て、リノアは足を止めた。
並んでスコールも足を止め、恋人の視線を奪っているものを見る。

リノアが見ていたのは、淡いピンク色の宝石を抱いた、小さなイヤリング。
普段は清廉とした青色や、中間色の緑と言ったパステルカラーを身にまとう事が多いリノアだが、彼女はドレスアップ用に白や淡色の服も持っている。
スコールの頭にも、パーティ会場で出会った時のリノアの姿が浮かんでいた。
あの服なら、この可愛らしいイヤリングも似合いそうだ。


「……これにするか?」
「ん、んー。待って、もうちょっと見たい。お店に入ってもいい?」
「ああ」


スコールが頷くと、リノアは嬉しそうに、スコールの腕を引いて店の玄関を開ける。

店はこじんまりとしたものであったが、真ん中に大きなテーブルを据え、其処に敷き詰めるようにジュエリーアクセサリーが並んでいる。
壁にも様々なアクセサリーが並べられており、使えるスペースを全て陳列に利用しているようだった。
高い店ではなさそうだ、とスコールが思いながら値札を見遣れば、思った通りだ。
安価なものよりもゼロが一桁多かったが、それでも一般的な学生が買える程度の金額設定である。
恐らく、使われている宝石もイミテーションが多いのだろうが、代わりに種類も色も豊富と言うのが強味だろう。

まるで宝石箱のように並ぶアクセサリーを、リノアは目を皿のようにして眺めている。


「触ってもいいかなあ……」


呟くリノアの声を聞いて、スコールはレジカウンターにいる店員を見た。
女性店員と目が合って、にこり、と笑顔を向けられる。


「……大丈夫だろう。其処に鏡もあるから、合わせてみれば良い」
「うん」


スコールの言葉に、リノアも鏡の存在に気付いて安堵した。
白い指がそろそろと伸びて、軒先で見ていたものと同じ、薄桃色のイヤリングを手に取る。

リノアはテーブルの上の鏡の前で、横髪を後ろに流して、イヤリングを耳に当てた。
ひら、ひら、と宝石が柔らかな光を反射させる。
それをしばらく見た後、リノアは色違いのイヤリングを手に取って、交互に宛がって見比べ始めた。


「白の方が可愛いかな」
「……」
「あっ、このネックレスも可愛い」


リノアはイヤリングを元の場所に戻すと、花をモチーフにしたネックレスを手に取った。

ネックレスを試そうとして、リノアは既に身に着けているネックレスを思い出した。
一旦手に取ったものをテーブルに置いて、首にかけているネックレスのチェーンを外そうとする────が、


「んん~……」


リノアのネックレスの金具は、デザインとして、金具そのものが目立たないように小さなものが使われている。
お陰で髪をアップにしても、金具が目立たず、好きな服が着れるのだが、代わりに止め外しが少し煩わしい。

首の後ろで留め具を外そうと四苦八苦しているリノアの指。
その指が、決して器用な性質ではない事を、スコールは知っている。
やれやれ、と言う気持ちで、スコールは奮闘しているリノアの指をやんわり止めた。


「ふえ?」
「じっとしてろ」
「はいっ」


背中に回ったスコールの言葉に、リノアは背筋を伸ばして、気を付けの姿勢でピシッと止まる。
其処までしろとは言っていない、とスコールは思ったが、まあ良いか、と流して、いつも嵌めている手袋を外した。

スコールの指先が、ネックレスのチェーンを引っ掛ける。
後ろに引っ張ってしまわないように気を付けながら、スコールは留め具に爪先を当てた。
僅かに引っかかる突起を押して、カンの穴を開け、噛みあっていた金具を外す。


「いいぞ」
「あ、ありがとう」
「俺が持っていた方が良いか」
「う、うん」


スコールの気遣いに、リノアは赤い顔をしながら頷いた。
いそいそとその顔を反らすリノアに、スコールは気付かない。

赤らんだ顔を手団扇で冷ましながら、リノアは改めて、花のネックレスを手に取った。
チェーンの金具はこれも小さなものだったが、見ながらであれば、なんとか外せる。
早速それを試してみようと、首元にかかる髪を後ろへ流した時、


「リノア」
「ん?」
「…貸せ」
「これ?」


頷くスコールに、リノアはきょとんとした顔で、花のネックレスを差し出す。
スコールはリノアを鏡に向くように言って、ネックレスのチェーンを開いた。

まさか、とリノアが思っている間に、肩口から伸びてきたスコールの手が、リノアの首にネックレスを宛がう。

リノアは思わず大きな声を上げそうになって、慌てて口を噤んだ。
鏡の中に、真っ赤になった自分の顔と、そんな自分を見ているスコールの顔が映っている。
スコールの視線は、リノアの首下で光る花に向けられていて、赤い顔には気付いていないようだった。


「……良いんじゃないか」
「そ、そっかな?似合う?」
「……ああ」


スコールの言葉を聞いて、リノアはようやく鏡に映る自分を見た。

ほんのりと薄い水色を帯びた、小さな花の宝石。
髪の流れをいつもの形に整えてみると、流れる黒髪と相俟って、その光が引き立つ。
今日のカジュアルコーディネートと合わせても、違和感はない。

外すぞ、とスコールが言うので、リノアは小さく頷いた。
邪魔にならないように後ろ髪を前に流すと、項にスコールの指が触れる。
ほんの一瞬、掠めるだけだったそれにも、リノアは顔が熱くなるのを感じていた。
その傍ら、ちらりと卓上の鏡を見ると、ネックレスを外そうと、蒼い瞳が真剣に自分の後ろ首を見つめているのが見える。
シミとかないよね、変じゃないよね、と朝出かける時に確認して来なかった自分を恨んだ。

ちゃり、と小さな音と共に、スコールの手が離れる。


「……他も見るか?」
「ん、うー……」


言外に、まだ探すのを付き合ってくれると言うスコールの言葉は嬉しかった。
普段、中々二人で出掛けられない事もあり、今日は本当に久しぶりの二人きりの時間だったのだ。
だから欲しい物を決めずに歩いていた、と言う訳ではないが、結果的には久しぶりのデートであった事を、リノアは密かに喜んでいた。

だからもう少しこの時間を楽しみたい気持ちもある。
けれども、


「ううん。これにする」
「そうか」


リノアの答えに、スコールは短い言葉だけを返して、ネックレスを持ってレジカウンターへ向かう。
リノアはその後ろをヒヨコのようについて行った。

若者たちのやり取りを、女性店員も見ていたのだろう。
スコールが支払いを済ませると、店員は、


「このまま身に着けて行かれますか?無料でラッピングも致しますよ」
「あ……えーと、」
「………」


どちらでもどうぞ、と言う店員に、リノアはスコールを見た。
スコールは黙ったままで、リノアが決めて良い、と言う。


「じゃあ、ラッピングで…」
「お色が青とピンクと御座いまして……」


見本を見せる店員に、リノアはこっちで、と青の包装紙を指差した。

店員が綺麗に手早く、ネックレスを専用のボックスに納め、包装紙で包んで行く。
メッセージカードも奨められたが、スコールが判り易く目を反らしたので、リノアの方から断った。
口では言えない事も文字でなら書ける、と言う理屈はスコールには通じない。
その代わり、スコールは今日という日を一緒に過ごしてくれたから、リノアにはそれで十分だった。

プレゼントボックスを店の袋に入れて貰って、店舗を出る。
冬が終わって陽が長くなったお陰で、空はまだ明るい。


「今日はありがとうね、スコール」
「……別に。大した事じゃないだろ」
「そんな事ないよ」


スコールが今日という日を休みにする為、どれだけ頑張ってくれていたか、リノアは判っている。
そうして取った貴重な一日を、自分の為に費やしてくれた事も、リノアには堪らなく嬉しい事だった。
SeeDの人手不足や、月の涙による魔物の増加など、そうした日々に忙殺されているスコールの事を思えば、贅沢すぎる位だとも思う。


「んじゃ、そろそろ駅に行かなくちゃね」
「……?」


今日はもう十分。
そんな気持ちで、帰宅を促すリノアに、スコールが不思議そうに眉根を寄せる。


「…駅?」
「早く電車に乗らないと、バラムに着く前にガーデンの門が閉まっちゃうよ」


判っている事だとリノアが言うと、ああ、とスコールは合点したように零し、


「今日は帰らなくても良い」
「え?」
「明日も休みだし、外泊許可は取ってある。……リノアの分も」


スコールのその言葉の意味する所を理解するまで、リノアは少しの時間を要した。
ぼんやりとずつ理解していくに連れ、瑪瑙色の瞳が驚きに見開かれる。
それから、熱の収まっていた頬が、またぽっぽっと赤くなった。

ぎゅう、と腕に抱き着く重みから、スコールは顔を背ける。
しかし、その頬と耳が赤くなっているのを見つけて、リノアは胸の中が幸せで満たされるのを感じていた。





リノア誕生日おめでとう!
唯一無二の思い出とともに。

恋人が格好良くて可愛くて幸せ。
後日、ネックレスを見る度にスコールにして貰った事を思い出して赤くなるリノアでした。
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[カイスコ]今は、このまま 

  • 2017/03/01 22:03
  • カテゴリー:FF


静かな子供だった、と言うのが、カインのスコールに対する一番最初の印象だった。

公園のそばの養護施設で暮らしていたカインが、初めてスコールを見たのは、彼がまだ5歳の時。
近所に引っ越してきた若い夫婦の一人息子が、彼らの元で引き取られ暮らしているという姉に連れられ、公園に遊びに来た時の事だ。
彼は姉の影に隠れるようにぴったりとくっつき、初めまして、と挨拶する利発な姉に促されて、ぺこりと頭を下げていた。
人見知りの激しさはその頃から発揮されており、スコールはセシルの「はじめまして。お名前は?」と柔和な笑顔を浮かべた質問にすら、答えないまま姉の陰に隠れていた程だ。

初めましての挨拶の後も、スコールは姉から離れようとしなかった。
公園で遊んでいた子供達が「遊ぼう」と誘っても、スコールはどれも首を横に振り、おねえちゃんといっしょにいる、と答えた。
利発な姉が、子供達に「ごめんね」と困り顔で詫びていたのを、カインははっきりと覚えている。
あの頃のスコールにとって、大好きな姉以外の存在は、怖いものだったのだろう。

外遊びが好きそうではない、と言う雰囲気は正解で、彼は鬼ごっこもボール遊びも好きではなかった。
同じ年の男子達が、元気に公園を駆け回る傍ら、彼は幼い姉と一緒に砂遊びをしたり、花冠を作ったり。
その事を他の子供達に揶揄われ、中には「実は女なんだろ」とまで言う子供もいた。
その度、彼は「ちがうもん」「おとこのこだもん…」と泣き出す一歩手前の顔で、精一杯の反論を試みたが、今でも弁舌の立つ方ではない彼は、幼い時分にはもっと弱かった。
男の子達に揶揄われては、零れそうな大きな青灰色の瞳に涙を浮かべ、ぐすん、ぐすん、と泣き出してしまう。
成長するにつれ、そうした泣き虫癖は見えなくなったが、あの頃に培った経験は彼に強く根を張ってしまったようで、折々に自信のなさと言うものが垣間見える。
思春期になると、自分の弱さを認め難い、プライドも芽生えてきたようで、すっかり泣くことはなくなった。
が、相変わらず弁舌は立たないので、無言で相手を睨み続けている事が増え、眉間に皺を寄せる事も増えた所為か、彼の眉間にはいつも深い谷が出来ている。

幼年期の経験は、また別の場所でもスコールに根を張っていた。
子供の頃、隣近所の子供達から何かと揶揄われてばかりいた所為か、スコールは対人関係を構築する事に酷く消極的だ。
彼の面倒を見ていた姉の存在がなかったら、もっと悪い方向へ成長していたかも知れない事を思うと、“消極的”程度で済んだのは幸いかも知れない。

しかし、そんなスコールが、カインにだけは懐いていた。
いや、懐いていたと言う程、朗らかなものではない、とカインは思っている。
何せカイン自身に彼と遊んだと言う記憶はないし、スコールもカインに遊んで構ってとせっついてきた事はない。
ただ傍にいただけなのだ。
公園のベンチで本を読んでいたカインの隣に、いつの間にかちょこんとスコールが座っていた、と言うパターンが常である。
カインはスコールが来た事に気付いてはいたが、小さな子供───それも、ふとすれば泣き出してしまうような、人見知りの激しい子供───の扱いは得意ではなかったので、気付かないふりをして本を読み続けていた。
その内、遊び疲れた姉がスコールを迎えに来て、「スコールがお世話になりました」と言って帰っていく。
二人が目を合わせるのは、スコールが帰り際、ばいばい、とカインに小さく手を振る時くらいのものだった。

後から思えば、あの頃のスコールには、それ位の距離感が丁度良かったのかも知れない。
人見知りが激しいが、可愛らしい見た目と、庇護欲をそそる顔立ちで、姉と同じ年頃の女子には受けが良かった。
しかし、彼自身は人見知りが激しい為、あまり知らない人とは一緒にはいたくない。
そんな中、顔見知り程度は知り合いで、無理に距離を詰めてくる事のないカインとの距離は、スコールにとって楽だったのだろう。
ついでに、カインに話しかける子供と言ったら、幼馴染のセシル位のもので、他の子供は皆遠巻きにしているだけだったのも、スコールには良い避難所として機能していたのかも知れない。
カインとスコールのそうした関係は、今も続いている。

────が、意外や意外、高校生になった彼は、存外と友人というものに恵まれていた。
進学した先で、気の良い仲間達に出会えたのが、功を奏したのだろう。
相変わらず彼自身に積極性は薄いが、周りが彼を放っておかないので、一人になる事は少ない。
スコール自身は「煩い」「鬱陶しい」「しつこい」とにべもないが、口ではそう言いながらも、彼も決して友人達を厭う事はなかった。
中学生であった頃は、友人という存在そのものを忌避しているような節が見られていた事を思うと、良い方向に丸くなってきたと言える。
専ら姉とカインにくっついていた彼の幼少期を知るセシルは、「もうカインがいなくても平気かもね」と言っていた。
そうでなければ困るだろう、とカインは返したが、自分の後ろを無心についてきた子供がいなくなると言うのは、心なしか寂しいものがあるような、ないような────そんな気がした。

……しかし、そんな細やかな淋しさも、そう長くは続かない。


「カイン。ほら、来てるよ」


今日の授業が終わり、ゼミの予定もないと帰宅準備をしていたカインに、セシルが声をかけた。
にこにこと楽しそうに彼が指差す方向を見れば、中庭のベンチに座っている少年がいる。

やれやれ、とカインは溜息を一つ。
そんな幼馴染に、セシルは「また明日」と言って、一足先に教室を出て行った。



セシルから遅れる事、約一分半。
中庭のレンガ道を踏んだカインの足音に、少年───スコールが顔を上げる。
いつもながら、どうして足音だけで自分が来たと判るのか、カインには不思議だ。

柔らかな濃茶色の髪のカーテンの隙間から、青灰色の瞳が真っ直ぐにカインを見上げる。
カインはそれを見下ろして、教室で吐いたものと同じ溜息を吐いた。


「スコール。わざわざ俺を待たなくて良いんだぞ」
「……」
「こんな所で俺を待たずとも、ティーダやヴァンと帰れば良いだろう」


カインの言葉に、スコールは拗ねた様に唇を尖らせ、眉間に皺を刻む。

週に一度、スコールはカインが在籍する大学に来て、帰路を共にする。
この大学は、スコールの家と通う高校の中間地点に位置している為、帰り道を少し変えれば立ち寄れる立地になっていた。
よく一緒に帰っている友人達も同じようなものなので、彼らが大学に立ち寄る事自体は、不思議ではない。
しかし、スコールが、週に一度、カインが出てくるまで中庭で待ち続けていると言うのは、どうしたものか。
昨年の夏など、熱中症になりかけてまで待っていた事もあり、幾らなんでもこれは駄目だと、待つのを止めるように言ったのだが、その時のスコールが、まるで捨てられるのを待つ猫のような顔で見詰めてくるものだから、結局カインの方が譲る事となった。
以来、夏は日陰で水を常備して待つようになったのだが、そもそも、待たずに帰ればあんな事にはならなかったのだ。
子供の頃から懐いていた少年が、今も自分を慕ってくれる事に悪い気はしないが、此処まで傾倒されるというのは、些かどうかとも思う。

そんなカインの胸中など露知らず、スコールは拗ねた顔を続けている。
言葉以上に雄弁な瞳が、カインの言葉に対し、どうしてそんな事を言うんだ、と訴えていた。
その目に返せる言葉が見つからず、カインはもう一つ溜息を吐いて、


「……帰るぞ、スコール」
「……ん」


いつもの言葉をかけてやれば、スコールは少し安堵した声で頷いた。

歩き慣れた道を、いつもよりも少しだけ歩調を落として歩く。
それは、スコールと並んで歩く時の癖だった。
今でこそスコールの身長は177cmとそこそこの数字だが、子供の頃は同じ年頃の子供と比べても随分と小柄だった。
だからカインやセシルと言った年上の少年と一緒に歩くと、コンパスの差で直ぐに遅れてしまう。
それを追って走れば、足を縺れさせて転んでしまうのがお決まりだったから、いつしかカイン達はスコールの歩調に合わせて歩くようになった。
今ではスコールの足もすらりと長く伸び、運動神経も良くなり、少し走った程度で転ぶ事もないのだが、長年の癖と言うものは中々抜けず、二人並んで歩く時には、決まって歩調を落として歩いている。

夕暮れ道を歩く中、カインは何度となく考えていた事を口にした。


「スコール。何故お前は、いつも俺を待っているんだ?」
「……駄目なのか」
「そうは言っていない。だが、去年の夏も、今年も、熱中症で倒れかけた事があるだろう。あんな風になってまで、俺を待つ必要があるのかと聞いているんだ」


前述の夏は勿論の事、真冬でもスコールはカインが大学から出てくるのを待っていた。
高校生とは違い、終わる時間が不定期なので、長く待たされる事も少なくないだろうに、それでもスコールはカインを待っている。
まるで、子供の頃、姉が迎えにくるのをカインの傍で待っていた時のようだった。

中庭に来た時、カインを見つけた青灰色が、仄かに嬉しそうの細められるのを、カインは知っている。
それを見る度にむず痒くはあるが、悪い気はしなかった。
だから昨年の春、自分を待つスコールを初めて見た時は、姉が大学進学を期に留学し、幼年の頃から続く親近者がカインとセシル位しかいなくなった事もあり、好きにさせてやろうと思ったのだ。
しかし、あの時に比べれば、スコールは友人を持ったし、カインばかりを頼らなくても良いように見える。
そう思うと、カインには尚更、スコールが自分の下へやってくる理由が判らない。

隣を歩くスコールは、カインの質問に返事をしなかった。
足元を見つめて歩くスコールは、答えに宛がう言葉を探しているようにも見える。
カインは、また少し歩調を緩めて、スコールが言葉を見つけるのを待った。


「……」
「……ん?」


色の薄い唇が、微かに動く。
それを見つけて、しかし音は聞こえなかった事に、カインが何を言ったのかと確かめようとするが、


「なんでもない」
「……」


遮るようにそう返されて、カインは嘆息した。
それきり、スコールは貝のように口を閉ざす。

二人の間での沈黙は、特に珍しいことではない。
カインは元々寡黙な性質であり、スコールも自分から積極的に喋る性格ではない。
どちらも賑やかしよりも静寂を好むタイプであり、お互いがそうであると判っているから、沈黙の時間と言うものに窮屈さを感じる事もないのだ。
だからこそ、二人の関係は、幼少の頃からずっと続いており、スコールがカインに懐いたとも言える。

大学からスコールが住む家までは、歩いて十分程度。
カインは其処からまたしばらく歩いた場所に、一人暮らしをしている。

スコールの家の玄関前まで来た所で、カインは隣の少年を振り返った。
足を止めたスコールは、まだ俯いたまま、じっと口を噤んでいる。
気まずそうな雰囲気を滲ませている少年に、二度目の嘆息が漏れるカインであったが、その眦か微かに緩んでいる事を見る者はいない。


「来週も来るのか」
「………」


応とも否とも、スコールは答えない。
ある意味、正直な反応であった。

そうか、とカインが零すと、それをどう受け取ったのか、スコールが下唇を噛んだ。
鬱陶しがられている────そう受け取ったのは、想像に難くない。
スコールの思考は、基本的にマイナスに向かって動くのだという事を、カインはよく知っている。

そんなスコールの柔らかな髪を、カインの手がくしゃりと撫でた。


「それなら、次からは図書室で待っていろ。あそこなら空調が効いている」


カインの言葉に、スコールが顔を上げる。
眉間の皺を忘れ、きょとんとした顔で見上げる少年は、まだまだ幼い顔立ちをしていた。

撫でる手を放し、じゃあな、とカインは背を向ける。
あ、とスコールは口を開けたが、彼は遠ざかっていく男を呼び止める声を持たなかった。
しかし、まるでその声が聞こえたかのようにカインが振り返る。



蒼と菖蒲色が交じり合う。
男の形の良い唇が弧を描くのを見て、少年は静かに呼吸を失った。





カイン×スコールと言うか、カイン(→)←スコールと言うか。

スコールが自分の気持ちを言うのを待ってるカイン。
庇護欲もあったり、相手はまだ子供だしという気持ちもあって、カインが自分の方から言うのは控えてる。
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[けものびと]あったかいところがいい

  • 2017/02/22 23:00
  • カテゴリー:FF
2月22日で猫の日と言う事で、獣人レオンと獣人スコール。
主な設定と今までの話は此処と此処。





つい先日、春一番の風が吹いたと、ニュースで言っていた。
けれども一転、その日の夜から急激な冷え込みがやって来て、翌日にはまるで真冬のような寒さに逆戻り。
暦の上で言えばまだ春とは言い難く、それを思えば無理からん事とも言えるが、それまで少しずつ暖かくなりつつあった事もあり、人々は油断していた所を襲われたような気分だった。

明日の朝食がないと気付き、急いでスーパーに出かけただけで、冷たい向かい風に叩かれたラグナの体は、すっかり冷えた。
寒い寒いと帰って来たラグナが玄関を開けると、其処にいつも丸まって待ってくれていた獣人の兄弟は、今日はいない。
寂しいと思いつつ、これもまた無理はないと判っている。
リビングや寝室は暖房が効いているので温かいが、玄関ばかりはそうも行かない。
リビングのドアを開け放ったままにしていても、外からの冷気が滑り込んでくる玄関だけは、中々暖まってはくれないのだ。
ましてや夕食を終えて一時間弱となれば、彼等はそろそろ寝る時間である。
無人のリビングを覗いて、ラグナは彼等が寝室の寝床に入っているであろう事を確かめた。

明日の朝食に使う食材を冷蔵庫に詰めてから、ラグナは風呂へ。
少し熱めの湯を張った湯船に身を沈めると、血行が良くなったお陰で、ぶるりと体が震えた。
それも治まるまで、じっくりゆっくり体を温める。

風呂上りに、久しぶりにビール缶を冷蔵庫から出した。
一人暮らしをしていた時は、風呂上りのビールは習慣であったが、獣人の兄弟を拾ってからは控えていた。
彼等がこの暮らしに慣れた頃、色々なものに興味を持つようになって、ラグナが飲んでいたビールをぺろりと舐めた事がある。
どちらも判り易く顔を顰め、口直しに必死に水を飲んだだけでなく、ふらふらと足元が覚束なくなったり、短毛に覆われた顔の皮膚が赤らんでいる見える事に気付いた時は、彼等にアルコールは厳禁だと悟った。
それ以来ラグナは、うっかり兄弟が酒を口にしないよう、アルコール類の摂取を控えている。
とは言え、風呂上りのビールの気持ち良さは忘れ難く、兄弟が眠ってから一本だけ、と偶の密かな楽しみは継続されている。

窓の向こうで、風が唸りを上げて吹いている。
天気予報を見てみると、明日は晴れるが、風は強く冷たいと言っていた。
明日は兄弟をマンション裏の公園で遊ばせてやりたいと思っていただけに、少々残念だ。
あれだけ風が冷たかったら、空気も冷えているだろうし、まだまだ体の小さな兄弟には辛いかも知れない。
元々彼等はサバンナで暮らしていたのだから、余り寒い所には連れ出さない方が良いだろう。

ビールを空にし、摘まんでいた柿の種も無くなった所で、ラグナはお開きにした。
冷たい水道水で手早く皿を洗って、空き缶の中も水洗いし、シンクの横に干して置く。
明日のゴミは何の日だったかなあ、と頭を掻きつつ、ラグナは寝室へと向かった。

豆電球のみを点けた寝室の中で、一つしかない大き目のベッドの上に丸まっている獣人の兄弟───レオンとスコール。
保護したばかりの頃は、一緒に寝る事なんて夢のまた夢と思う程に警戒していた彼等だったが、共に過ごす日々の中で、ラグナへの警戒心はすっかり消えた。
今では毎日、同じベッドの中で寝起きをしてくれる程、二人はラグナに信頼を寄せている。
ラグナは、彼等が自分と同じベッドで眠っている姿を見る度、その喜びを感じていた。

レオンとスコールは、ぴったりと身を寄せ合い、温もりを逃がさないように丸くなっていた。
暖房が効いている部屋の中とは言え、やはり空気全体の仄かな冷えを感じるのか、それとも暖房の風の所為か。
ラグナは暖房の風の位置を調整し、兄弟に直接当たらないようにして、二人の体に毛布を掛けてやった。

電気のリモコンを片手に、寝ている二人を起こさないようにベッドに乗る。
きしり、と軋む音に、ぴくっ、とレオンの耳が動いた。


「……ぐぅ……」
「あっ。悪い悪い、起こしたか」


ラグナは自分の毛布を手繰り寄せつつ、顔を上げたレオンの頭を撫でる。
丸い鼻がひくひくと動いて、寝床に入って来た者の正体を確かめているようだった。
いつもは細い瞳孔が大きく開いて、目の前にいる人物をじっと見つめた後、ぷん、と尻尾を振って、くぁあう、と大きく口を開けて欠伸をする。


「よしよし。眠たいんだな。起こしてごめんな」


むにゅむにゅと口を動かし、眠たげに目を細めるレオン。
ラグナは、そんなレオンの耳の裏をくすぐって、寝てて良いよ、と言った。

ラグナに言われた事が判ったのか、元より眠くて堪らないのか、レオンは直ぐに顔を伏せた。
うつらうつらとしている様子が判る。
これなら程無く寝るだろう───とラグナは思ったのだが、


「……んぐぅ……」
「ありゃ」


今度は、弟のスコールが顔を上げる。
兄が身動ぎしていた事を感じ取って、目を覚ましたのだろうか。

ラグナは、兄と同じく眠たげに目を細めたまま顔を上げているスコールに、丸い頬を撫でてあやす。


「スコールも起こしちゃったな。ごめんな」
「……ぐぁう……」
「まだ夜だからな。寝てていいよ」
「んぐぅ……」


スコールは鼻頭に皺を寄せながら、眠たげな目許を猫手で洗う。
それから兄と同じように、くあああ、と大きな欠伸をしてみせた。

弟が起きた事に気付いたのか、レオンもまた眠ろうとしていた目を開ける。
レオンの舌がスコールの頬を舐め、毛繕いの心地良さにスコールが気持ち良さそうに喉を鳴らす。
─────と、


「………」
「………」
「ん?」


スコールが上を向いて、頭を小さく揺らしている。
その傍ら、レオンも同じように天井を仰いで、ひくひくと鼻を動かしながら、頭を小刻みに揺らし、


「………っぷしゅ!」
「ぷしゅんっ!」


同時に行われた可愛らしいくしゃみに、ありゃりゃ、とラグナは眉尻を下げて笑う。

鼻先の水気と寒さを嫌うように、ぶるぶると頭を振る兄弟。
ラグナはそんな二人を毛布で包み、小さな体から熱が逃げないようにしてやった。
が、スコールが毛布の中からするりと抜け出してしまい、ラグナの布団の中へと潜り込んで来た。


「うぅ、ぐぁう。がぁう」
「おいおいスコール、重たいよ」


幼いながらも、“ライオン”モデルらしい大きな手が、ラグナの腹の上を動き回る。
生活環境の変化から、少し筋肉の落ちて来たラグナの腹を、ぐっぐっと肉球が押していた。

弟が傍からいなくなって、レオンがまたふるりと身を震わせる。
寒さを嫌った幼い体は、弟を追うようにして、ラグナの布団の中に潜り込んで来た。
布団の中で大きな塊が二つ、ラグナの腹や胸を踏みながら、あっちへこっちへ動き回っている。
ラグナは流石に重いなあ、と思いつつ、二人が落ち付けるのを待った。

先に落ち付いたのはスコールの方で、彼はラグナの腹に体を乗せて丸くなった。
肉布団の暖かさは彼のお気に召したらしく、このまま眠るつもちのようだ。

しかし、ごちん、と布団の中で固いものがぶつかる音が鳴る。
どうやら、丸くなっているスコールの頭と、温かい寝床を探していたレオンの頭がぶつかったようだ。


「ぐぅ」
「…がぁう」
「うー」


布団の中で、レオンがスコールの顔を舐めている。
ごめんな、と謝っているようだった。


「がぁう」
「うぁ」
「うぉっ……ちょっと重…っ」


スコールが丸くなっているすぐ傍で、レオンも体を丸める。
レオンは、体の半分をラグナの腹に乗せていた。
かかる重みは耐えられない程ではないものの、若干、呼吸が阻害されているような気がする。
このままでは、ラグナがゆっくりと眠るのは難しい。

改めて寝入ろうとしている二人には悪いと思ったが、ラグナは一度起き上がった。


「ちょっとごめんな」
「ぐあう?」
「がう?がうぅっ」


寝床が動いた事に驚いたのか、不満だったのか、布団の中で二人が焦ったように動き出す。
ひょっとしたら今までの行動は全て寝惚けていて、ラグナが起き上がった事で目を覚ましたのかも知れない。
悪い事したかな、と思いつつ、ラグナは布団を捲り上げて、二人の腹の上から抱き上げた。


「があうぅ」
「ああ、寒いんだな。うん。だからほら、スコールは此処」
「ぐぅん……」
「レオンはこっち。これなら皆暖かいだろ」


ラグナはスコールとレオンを、それぞれ自分の両脇に下ろしてやった。
心地良かった肉布団がなくなって不満なのだろう、スコールがぐぅぐぅと喉を鳴らして不満を訴える。
ラグナはそんなスコールの背中をぽんぽんと撫でて、片腕に包むようにして抱き寄せた。

レオンはと言うと、スコールと離された事が嫌だったのだろう、もぞもぞと身動ぎし、兄弟の間に横たわるラグナの体を乗り越えようとする。
爪を引っ込めたレオンの手が、ラグナの胸を踏んでいるが、ラグナはレオンの背中を捕まえて、元の位置へと引き戻した。
それでもレオンは暫く抵抗していたが、ラグナが離してくれそうにない事を悟ると、頭だけを持ち上げてラグナの胸にぽてっと乗せ、反対側にいるスコールを見詰めるようになった。

スコールも兄と同じように、寝心地の良いラグナの腹へ戻ろうとしていたが、背中に触れる掌の体温に、次第にそれを忘れて行った。
落ち着いた時には、スコールもレオンも、ラグナの胸に頭を乗せ、お互いの顔を見ながら、うとうとと舟を漕いでいる。

ラグナは、二人の髪に似た濃茶色の鬣を、ゆっくりと指で撫で梳いた。


「……ぐぅ……」
「……がぁう……」


微かに零れた鳴き声は、甘えるように柔らかい。

すぅ、すぅ、と胸に触れる規則正しい二つの寝息。
暖かいなあ、と頬を緩めて、ラグナはゆっくりと目を閉じた。





猫の日と言う事で、獣人レオンと獣人スコールと保護者ラグナ。

皆くっつきあってぽかぽか。
しかしラグナは朝まで寝返りが打てないので、起きたらちょっと体が固くなってる。
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[フリスコ]初めての朝

  • 2017/02/08 22:51
  • カテゴリー:FF


体にじんわりとした重みがまとわりついているのを感じながら、フリオニールは目を開けた。
少し肌寒さが滑り込んでくる中で、最初に見たのは天幕の天井だ。
明かりとりの窓から白んだ光が零れ落ちているのを見付けて、朝が来た事を知る。

今日の食事当番は誰だっただろう。
そんな事を考えながら、フリオニールはのろのろと起き上がった。
心なしか腰が痛いような気がして、寝違えでもしたか、誰かに蹴られたのだろうか、と寝惚けた頭で考える。
よく一緒のテントで過ごすティーダ等は、寝ている時も元気が良いので、フリオニールはよく蹴られる。
しかし、ティーダの鼾と言うものも聞こえず、辺りはとても静かなものだ。
テントの外から鳥の囀りが聞こえると言う事は、このテントの中にティーダはいない。
食事当番かな、と思いながら、フリオニールは取り敢えず布団から出ようと起き上がった。

その時だ。


「……ん……」


微かに聞こえた小さな声。
ああ、誰か他にも此処にいたのか、と声のした方を見て、


「────!!」


直ぐ隣───正しく傍らに寄り添うように蹲っていた少年を見て、フリオニールの眠気は吹き飛んだ。

濃茶色の髪、白い肌、色の薄い小さな唇、見紛う事のない額の傷。
戦士と言うにはやや華奢な印象を与える身体つきと、少し力を入れて握れば折れてしまいそうな首。
その首下に、細いシルバーチェーンが絡み付き、鎖骨の上を通っているのが扇情的に映る。
チェーンに通された銀細工が、窓からの光を柔らかく反射させていた。
銀細工を抱いた肌は、日焼けを知らないかのように白く透き通り、少し体温は低いけれど、だからこそ熱を持つと判り易く赤くなる。
その様子をフリオニールは、つい数時間前まで見ていた。

固まるフリオニールの傍らで、寒さを嫌う猫のように丸くなっていたのは、スコールだった。
細い躯には一糸と身に着けてはおらず、フリオニールが起き上がって毛布を攫ってしまった所為で、彼の白肌は冷たい朝の冷気に晒されている。


「……んぅ……」
「!」


眼を閉じたまま、ふるりと肩を震わせたスコールに、フリオニールは我に返った。
慌てて毛布をスコールの体にかけ、裸身を隠すように包み込む。
暖が戻って来た事に安心したのか、スコールの眉間の皺がふにゃりと解け、すうすうと穏やかな寝息が聞こえ始めた。

起きる様子のないスコールに、ほうっと胸を撫で下ろしたフリオニールだったが、今度は自分が寒くなった。
ぶるりと身震いした体を自分の腕で抱き慰めて、自分も裸であった事を思い出す。


(そうだ、昨日……)


自分の有様と、スコールの格好と。
それぞれの認識をして、ようやく、フリオニールは昨夜の事を思い出した。

昨晩、フリオニールとスコールは、初めて閨を共にした。
想いを遂げても長らく清い仲であった二人だが、仲間達の後押し───スコールは要らない世話だと言っていた───のお陰で、昨晩、ようやく身も心をも繋げるに至った。
どちらも経験がある訳ではなかった上、ぼんやりと聞いていた知識とも違う状況に、初めは探り探りで覚束なかった。
どうしても受け入れる側のスコールの負担は否めないし、フリオニールはそれを和らげてやる術もよく知らない。
それでも、なんとか体を繋げることが出来ると、頭の中が真っ白になる位に満ち足りた。
後は少しずつ、少しずつ……と思っていられたのは、途中まで。
何度目の口付けだったか、その時にスコールが「……来てくれ」と言った瞬間、フリオニールの理性は完全に焼き切れた。
其処から先は無我夢中で、細い躯を掻き抱いて、やがて精も根も尽きて眠りに落ちた。

融け合った時の熱を思い出して、フリオニールは顔と言わず体と言わず真っ赤になる。
頭の中に走馬灯のように駆け巡る恋人の痴態に、鼻の奥から何かが競り上がって来た。
思わず鼻頭を抑えて、フリオニールは毛布に包まっているスコールから目を逸らす。


(あんな、に……なるなんて……)


姿形から言動から、スコールはストイックであった。
同い年であると言うティーダや、よく一緒に行動するジタンやバッツと並んでいると、尚の事それが強調される。
だからと言う訳でもなかったが、フリオニールは、スコールがあんなにも乱れるとは想像もしていなかった。
普段が禁欲的な雰囲気がある分、ギャップはかなりのもので、それがフリオニールの理性を吹き飛ばす原因にもなったのは間違いない。

そんな事を考えながら、取り敢えず服を着よう、とフリオニールは思った。
昨夜、始める前に脱いだ服は、テントの隅に丸めてまとめられている。
取りに行こうと腰を上げた時、


「……フリオ……?」
「あ……」


身動ぎする気配を感じ取ったか、スコールがぼんやりと目を開けていた。

スコールは毛布に包められていた身をもぞもぞと捩らせて、毛布の中から這い出た。
白くしなやかな背中が現れるのを見て、ごくり、とフリオニールの喉が鳴る。


「んん……っ」


体に違和感があるのか、スコールは腰に手を遣っている。
摩るように細い指が自分の腰を撫でて、楽な姿勢を探して、何度も足を組み替えた。
昨夜、その足が自分の体に絡み付いて来たのを思い出して、フリオニールの顔がまた赤くなる。

毛布から出たスコールは、ぺたりと座り込んだまま、猫手で目を擦っていた。


「…さむ……」
「ほ、ほら。ちゃんと毛布被らないと、風邪を引くから」


フリオニールはスコールの下へ戻って、彼の足下に塊になっている毛布を拾った。
拡げたそれでスコールの体を包み直すと、まだぼんやりとした蒼灰色がフリオニールを見上げる。


「……フリオニール……?」
「あ、ああ」


名を呼ばれて、フリオニールはどぎまぎと返事をした。

心臓の音が煩い。
恋人が自分を見ていると言うだけで、こんなにも緊張するなんて知らなかった。
いや、スコールと恋仲になって以来、二人きりになる度に似たような緊張感を抱いてはいたが、こんなにもガチガチになった事はない筈だ。
────昨夜は事の直前まで、今以上の緊張に見舞われたのだが、今のフリオニールに其処まで思い出す余裕はない。

眠気の所為だろう、いつもよりも幼い雰囲気を宿す蒼の瞳が、じっとフリオニールを見ている。
それを見ていると、なんだか小さな子供を見ているような気がしたが、毛布の隙間から覗く鎖骨や白い足は、間違いなく昨夜フリオニールが具に見ていたもので。


「………!」
「……?」


真っ赤になって目を逸らすフリオニールに、スコールはことんと首を傾げる。
蒼灰色の瞳は、じっとフリオニールの顔を見ていたが、ふとその視線が下へと落ち、


「……フリオニール」
「なっ、なんだ?」


名前を呼ばれて、今度の返事は思い切り裏返った。
どうにも平静には戻れないフリオニールに、スコールの白い手が伸びる。

ぐっ、とフリオニールの腕が強い力で引っ張られ、不意を突かれた形になったフリオニールの体は簡単に傾いた。
膝から落ちたフリオニールの体が、毛布をまとったスコールの腕に受け止められる。
重みに負けて、二人の体が諸共に床に倒れたが、スコールは目を白黒させるフリオニールに構わず、自分より一回り大きな体を毛布で自分ごと包み込んだ。


「え、ちょ、スコール、」
「あんたも、風邪引く……」


スコールはフリオニールの胸に頬を寄せ、また丸くなってしまった。
濃茶色の髪が、フリオニールの胸板や鎖骨をくすぐっている。
ぴったりと密着する肌の温もりに、フリオニールはスコールの耳元で自分の心臓が煩く鳴っているのを自覚していた。
しかしスコールはそんな音は露とも聞こえていないようで、猫のように目を細めると、そのまますぅすぅと寝息を再開させてしまった。

呆然としていたフリオニールが現実に戻って来たのは、それから一分後。
今までの、触れ合う事すら避けるような頑なさが、まるで嘘のような恋人の姿に驚く。
その傍ら、安心し切ったスコールの寝顔が嬉しい。
これはやはり、身も心も繋げ合う事が出来たからこそ、見る事が出来るものなのだろう。



テントの外から、朝食を思わせる匂いがする。
起きなければと思いつつ、腕の中の温もりが心地良くて、フリオニールはまた目を閉じた。





2月8日と言う事でフリスコ。
いつも周りがやきもきするようなフリスコばかり書いてる気がしたので、ド直球(の翌朝)を書いてみた。

仲間達は空気を読んでいるので、起こしには行かない。
そんで二人は、お膳立てされてるので事はバレバレなんだけど、必死にいつも通りの顔で起きて来ようとするんだと思います。意味ないけど。
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