二人で横になると狭苦しいベッドの中、望月と早坂はお互いの方を向かい合って子供のようにじゃれ合い、互いの身体が触れ合う度にクスクスと嬉しそうに笑っていたが、ふと早坂が望月の手をふわりと包み込んだ。
「ねぇ、駿くん。その、今度の朝は迎えに行くからね。先に行ったりしないでよ?」
「! あぁ、行ったりしねぇよ。良ちゃんが来るまで門から一歩も離れないから」
「いや、そこまで徹底しなくていいんだけど」
早坂の言葉から普段と変わらぬ関係を取り戻せた(自分にとっては“普段以上の関係を結べた”になるのだが)事を確信した望月が満面の笑みを浮かべて早坂の手を握り返す。直に伝わる早坂の体温を感じながら幸福感に目を細めていると、駿くんと自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ん?どうした?」
「聞いてもいいかな。駿くんってどうして僕の事が好きになったの? 僕よりも魅力的な人なんて他にも沢山いると思うんだけど」
「どうして、か……」
自分に余程自信がないのか、少しおどおどした様子で聞いて来る早坂の黒髪を丁寧に梳きながら、目の前の彼に友情を越えた感情を抱いた理由を考える。惚れた要素は色々とあるのだが、やはり一番は
「笑顔、かな」
「笑顔?」
「あぁ」
自分の答えにきょとんとする早坂にニッコリと笑いかけながら、望月は再度口を開いた。
「良ちゃんって笑った時の顔すっげー可愛いんだ」
「か、可愛いって……」
やっぱ、男相手じゃ誉め言葉にならねぇかな。一転して複雑な表情になった早坂を見て困ったように笑ってポリポリと後ろ頭を掻く望月であったが、一度言い始めた台詞を途中で切るのは流石にスッキリしない、と言うか、この際に全てを吐き出したかったので気にした様子も見せずに言葉を続けた。
「可愛い以外、表現のしようがねぇんだよ。お前と違って俺は馬鹿だからさ。良ちゃん、普段は何処か気取ったような顔してるけど、何か嬉しい事があったりすると笑うだろ? その時、目がキラキラ輝いて引き込まれるんだ」
「い、いや、それだけ表現出来れば充分だよ。可愛い、か。そっかぁ……」
「うん、可愛い。お前が意識してない分、余計に無垢に見えてスッゲー可愛い」
「そんな、可愛い可愛い連呼しなくていいってば。恥ずかしいから」
「へへっ」
赤くなった顔を伏せる早坂に望月も照れ臭そうに笑い、照れ隠しに早坂の赤い頬をプニプニッと突付くと突付かれた方の身体がくすぐったそうに捩れる。目の前で小さく暴れる身体を押さえるように望月は早坂を抱き締め、耳元で小さく囁いた。
「笑顔だけじゃない。頭がいい所も、人見知りが激しいけどホントは凄く優しい所も、他人の事を気遣って自分を無理させるちょっと不器用で心配な所も……何もかもが俺を虜にしたんだ。……好きだ」
「駿くん……」
「……あ、あははははっ! な、な、何か恥ずかしいっつーか、ケツが痒くなりそうだな。え、えーっと。俺も良ちゃんが俺を好きになった理由を聞かせて貰おうかなーっと!」
自分で言った言葉に顔を真っ赤にし、頭から湯気を出しながら手を無駄にジタバタさせて空笑いをする望月を見た早坂は暫く呆気に取られたような表情を浮かべていたが、すぐにクスッと望月を魅了した例の笑顔を見せた。僕、君のそう言う所が好きなのかも。普段は自信たっぷりな態度なのに、こう言う時は何処か小心者になってしまうギャップ…と言うか不器用さが。目の前で空笑いをする望月に心の中で答えつつ、早坂はゆっくりと口を開いた。
「人を好きになるのに理由なんて要るの?」
早坂の答えに望月は暫く目を丸くしていたが、突然頬を膨らませて子供のようにむくれた。
「あ、ずりぃ。俺には好きになった理由言わせといてさ」
「あはははっ……ゴメンゴメン。やっぱり僕も言わないと不公平だよね。うーん……まぁ、色々好きな所とか憧れる所は確かにあるんだけど……。それ以上に一緒にいて凄く安心するんだよ。駿くん、一人だった僕に声をかけてくれて、それからずっと一緒にいてくれたから」
「……」
何も言わずに話を聞き、自分の髪を撫でて来る相手の手の温もりに目を細めながら早坂は自分の顔を相手の胸に預けた。
「こんな事言ったらアレかも知れないけど……僕にとっての君はもう、他人とか親友とかに括れない位に大きな存在なんだよ? 家族……とは違うけど、それ位にとても大きな存在」
「良ちゃん……」
早坂の言葉にだらしなく伸びそうな鼻の下を必死に抑え、それを見抜かれぬよう早坂の頭を胸に強く押し付ける。その腕力に押さえ付けられた方は少し苦しげにもがいていたが、構わずに望月は密かに言いたかった“トドメ”の一言を口にした。
「このまま……ずっとずっと一緒にいような」
「……それは無理だよ」
「えっ!?」
てっきり“うん”と笑顔で頷くとばかり思っていただけに、思わぬ答えに素っ頓狂な声をあげて胸の中の頭を引き離して相手の瞳を見詰める。親友の凍った表情を見た早坂は悲しそうに眉を顰めた。
「来年の春から暫くお別れだよ。僕、今の家を出て医大に通うつもりだから。父さんみたいに病気で苦しむ人を少しでも助けられるような医者になりたいから……」
「……」
口をぽかんと開けつつも望月は早坂の父親が有能な医者であり、時折大手術を成功させてテレビや新聞に名前や顔が出る事も、その父親を見て育った息子が医者を志している事も昔から知っていた。知っていた。本当は分かっていた。永遠に一緒にいる事が出来る訳じゃないって。例え友情は続いても、共に笑い合う事が出来なくなる日が来るって。何時かは二人が離れてしまう時が来てしまうって。でも、でも、さっきの“トドメ”の言葉は撤回したくなくて
「嫌だ!!」
「駿くん……」
「お別れなんて嫌だ……離れるなんて嫌だ……離すもんかぁ!!」
大事な宝物を取られる事を拒む幼児のように顔を真っ赤にして泣きじゃくり、金切り声を出しながら早坂を力の限りに強く抱き締めると悲しげな表情は戸惑いに変わった。
「来年の春なんてあっという間じゃねぇか……そしたら、良ちゃん俺の前からいなくなるのかよ……! そんなの、やだ……嫌だあぁっ!!」
「僕だって、本当は駿くんと一緒にいたい。でも、夢を捨てたくもないんだ……」
望月の涙が伝染ったのか早坂の視界も瞬く間に滲み、数度瞬きをすると視界が微かに鮮明になると同時に頬を熱い何かが伝う。激しくしゃくりあげる望月の背中を優しく擦りながら、早坂は少しでも今の空気を和らげる為に微かにおどけて言った。
「君も僕も進学とかの為に今の家を出て一緒に暮らせたらいいのにね」
「!」
泣きじゃくっていた望月の頭の上で電球が眩く光り、早坂の肩を掴んで引き離すと同時に瞳をじっと見詰める。突然の行動に首を傾げ、辺りに?マークを散らす早坂に望月は、にーっと白い歯を見せ、さっきの号泣は嘘のような笑顔を見せた。
「そうだよ! 一緒に住めばいいんだ!」
「はぁ!?」
「俺達二人っきりで暮らせば邪魔者もいなくて、こうしてヤりまくれるしー♪」
一人で甘い生活を夢見ているのか、妄想の世界へと飛んで行こうとしている望月の意識を早坂の待って、と言う声が呼び戻した。
「邪魔者いなくて、その、ヤりまくれるって……。ま、まぁ、それは置いといて。駿くんも僕と同じ医大受けるの? 医者になる訳?」
「あ? 俺の頭で良ちゃんと同じ大学行ける訳ねぇだろ? 医者になる気なんて全然ないし」
顔をほんのりと赤く染めつつボソボソと問う早坂の髪をクシャッと大きく掻き回しながら笑うと、髪が少しボサボサになった赤い顔が小さく首を傾げた。
「じゃあ、どうやって……」
「だからぁ、お前が通う医大の近くにある大学探して其処に俺が進学すりゃいいんだよ」
「え、ちょっと」
「俺、今まで進路の事全然考えてなかったけど決めた。良ちゃんの学校の近くにある大学受ける」
「しゅ、駿くん! 進路決定って大事な事なんだよ!? そんな事でいいの!?」
信じられないと言った様子で話す早坂を見詰め返しながら望月は後ろ頭をポリポリと掻き、ハハッと笑った。
「俺ん家の親がうるせーんだよ。大学だけは出とけって。だからいいんだ。俺は良ちゃんと暮らせる。俺の親は俺が大学に進学するから安心。一石二鳥、な!」
「そ、そうかな」
「そうだって! で? お前、何処の医大受ける訳?」
望月の強引さに気圧されてたじろぎつつも、本命から順番に希望の大学の名を口にすると望月はうんうんと何度も頷き、手近なメモ紙にその大学名を記していった。
「よし、じゃあ俺はその大学の近くの学校を調べりゃいい訳だ。よっし燃えて来た!!」
半ばオーバーヒートしつつある情熱を抑え切れずに両腕を天に突き上げて叫ぶ望月を早坂は複雑な表情で見詰め、ずっと胸に抱いていた不安を口にした。
「で、でも、もし、駿くんが目指す大学がレベルが凄く高い大学ばかりだったらどうするわけ? い、いや、駿くんを馬鹿にしてるんじゃなくて」
「その時は死ぬ気で勉強するって。俺、良ちゃんと一緒に暮らせるって思えば頑張れると思うから」
「駿くん……」
望月の言葉に漸く嬉しそうに笑みを浮かべた早坂の口元を手の平が覆って押さえつけて来る。突然の行動に目を丸くする早坂に望月は改めて笑顔を見せた。
「もし、どっちかが落ちたら……とか言うなよ? その時はその時だ。まぁどうせ落ちるとしたら俺だろうから、良ちゃんの住む部屋に下宿して浪人生活させて貰うけど♪」
「も、もうっ、君って本当に世の中を気楽に見てるね。君のそう言う所、ちょっと羨ましいけど……」
口元を塞いでいる望月の手を掴み、それを顔から軽く離してボソボソと赤い顔で言う早坂をニコニコと見詰めていた笑顔が、突然真面目な顔になって早坂の手を両手で包み込む。思わずきょとんとする早坂の瞳を望月は真正面から強く見詰めつつ言った。
「俺、頑張るからな。まだ、良ちゃんと離れ離れになりたくないから」
「……うんっ」
真剣な顔に向かって大きく頷き、そのまま額をコツンと合わせあう。どちらからともなく腕がゆっくりと伸び、二人は幾度目かの口付けをした。
――頑張った。俺はやれる事は全てやったつもりだ。右手の携帯電話を切ると同時に左手に視線を動かすと先日受験した大学名が大きく印刷された封筒が握られている。これを開けた瞬間、全てが決まる。天国か、それとも………
「駿くん!」
連絡を受けると同時に走って来たのであろう早坂が息を切らしながら部屋のドアを開け、忙しく望月の横に座ると望月は普段は滅多に見せない自信なさげな情けない顔を見せた。
「……良ちゃんは本命の医大に合格出来たんだよな。ま、お前は滅茶苦茶頭いいし、模試でもA判定以外見た事なかったもんな。問題は俺だ。試験終わってから自己採点したんだけどよ。あの問題もこの問題も出来てなくって……」
封筒を手に持ったまま項垂れる茶色がかった頭を早坂が大丈夫だよ、と撫でてくる。温かい手が少しだけ自分に勇気を与えたような気がした。
「今更あぁだこうだ言っても仕方ないよ。後は結果だけ。駿くん、凄く頑張ってたの僕知ってるから。最初はD判定だったのに年明けの模試でB判定取れてたじゃないか。その後もずっとずっと頑張ってたのを僕は見てたから」
「良ちゃん……」
「信じてるよ、僕。駿くんの努力は報われるって」
「…………」
元気付けるようにニッコリと笑う早坂の顔を望月はジッと見詰めていたが、やがて決心したかのように鋏を手に取り、封筒に刃を当てた。
「じゃあ、開けるからな。……どんな結果になっても泣くなよ?」
「それは無理。君が受かってたら嬉し泣きしそうだから」
「ったく……」
早坂の答えに困ったように笑いながらゆっくりと封筒の上部を切り開いて行き、刃が進むごとに二人の心臓がバクバクと忙しく跳ねる。望月の微かに震える手が封筒から綺麗に折り畳まれた白い手を摘み出す。
暫しのち、二人の少年がいる部屋で桜の花が満開になった。
<To Be Continued......?>
![]()
<後書き…と言うか長い言い訳>
やっぱり鬼畜の方が向いてるのかな私
前回の早坂受け番外編の内容が余りにも悲惨でキャラ(特に早坂)が不幸だったので
「たまには幸せな話を書いてやるか!!ラブラブ甘々でGo!!」と意気込んで書き始めたのは良いのですが
書いている内に微妙に何かがズレたような…
今回は私の妄想設定をこれでもかと出しまくってる、ある意味イタイ内容になってしまいました。
望月と早坂が近所の幼馴染と言うのも、早坂は女の子に間違えられる位に可愛い男の子だったと言うのも
早坂が人見知り激しくて一人ぼっちでいる所を望月が声をかけたと言うのも
(中略)
トドメに早坂の父親が医者であると言うのも全てが私の妄想設定です。妄想馬鹿。
い、いや…「想像力が逞しい」と言ってください(無理)
何と言うか「子供の頃からずっと一緒だった二人」みたいな話を書きたかったんですよね。
あと、前回の番外編の中で早坂は好きな人と結ばれなくて色々と可哀想な目に会わせてしまったから
今回の小説で好きな人と結ばれて幸せにさせたかったんです。
…でも、その好きな人に脳内で滅茶苦茶にレイプされるわ、沼丘の不良集団にボコられるわ
一番最初は半ば強姦の形で無理矢理入れられるわで散々。
「今回は早坂を幸せにしよう!」と言う意気込みは一体何処へ。
で、でも最後には望月と結ばれたので許して下さい←…。
それにしても「友情から愛情へと変わる過程」って難しいですね。
早坂が望月に愛情を抱くようになった理由が上手く表現出来なくて残念であると同時に己の文章能力の無さを痛感。
相手は強姦して来たくせに、その最中に「好きだ」と繰り返し言っただけで
「え?僕の事、本気で好きなの?これって胸キュン!?」と惚れるのかなぁ普通。
まぁ、早坂も無意識の内に望月に惹かれてて
彼とのHがきっかけで自分が抱いている感情が愛情であると気が付いた…って事にして下さい。
後書きで説明しまくって最悪ですな。
なお、この小説は「続く…?」みたいな事を書いていますが
実は今後書く予定の「望月×早坂 同棲話」の伏線になっております。
同じ屋根の下で2人きりで暮らす…と言うシチュエーションでの話が凄く書きたかったので。
同棲話はSS集になりそうな予感。書いてみないと分からないですけど。
同棲SSは気が向いた時に気楽に書くような話にしたいと思います♪
あ。この小説のタイトルは実はフロントミッション(1st)の曲から取りました。
望月と早坂の子供の頃の思い出話であると言う事で小説のタイトルに使ってしまいました。
タイトルの響きや曲の感じも凄く好きですしね。サカタ萌え←関係ねぇだろ。
実はかなり不慣れなラブラブ話(になってるのか?)を読んで下さって有難う御座いました♪
<どうでも良い話(?)>
何となく、早坂が初登場した裏小説(「駿」第2章)を読み返してみました。
早坂のキャラが今と全然違っていました(完)
あの頃はまだ早坂の妄想設定は余りなかったし、今ほど萌えていなかったし、早坂と言うキャラ自体掴めてなかったし(以下省略)
と言うか、あの当時はまだ早坂は攻めだった気がします。今では完全な総受けですが。
…あの当時の早坂と今の(この小説の)早坂、口調が全然違うよ…