模型屋さんで零戦のプラモデルを買ったら、大抵は52型です。漫画などで、カウリング(エンジンカバー)から排気管が突き出していても、52型。博物館で見ることができるのもこの52型という程メジャーなタイプです。
緒戦において連合国空軍を震撼させた零戦21型でしたが、昭和18年に入る頃には既にF6F”ヘルキャット”やP-51、さらにはF4Uコルセアなどの2000馬力エンジンを搭載した新鋭機に太刀打ちできない状況にありました。零戦の後継機と期待された「烈風」は開発の遅れから、新型機よりも21型の性能向上型が必要になりました。重点とされた点は速度の向上と武装の強化にありました。
設計主務の堀越二郎技師はエンジンを栄11型(940馬力)から栄21型(1130馬力)に交換していた2号零戦(通称 零戦32型)をベースに設計を開始しました。これまでカウリングの下に突き出した集合排気管形式を機体後方に突き出した単排気管形式に改めました。この形式は推進力上昇に貢献し、速度はこれまでの530キロから570キロまで上昇しました。
武装についても20ミリ機銃は新規格のものに換装されました。この新型20ミリ機銃は機構がドラム給弾式からベルト給弾式に替わり携行弾数が100発から125発に増加し、攻撃力が上がりました。さらにアメリカ機に対して全く通じなくなっていた7.7ミリ機銃2丁を廃止し、代わりに13ミリ機銃を3丁装備しました。また翼面下部にロケット弾発射装置も取り付けられ、大型爆撃機や既に日本近海に出没していた潜水艦を標的にした作戦も可能になりました。
防御面に関してもささやかながら強化され、防弾ガラスの採用、主要部の防弾装備や炭酸ガス式自動消火装置の装備なども施されました。しかしアメリカの防弾装備のレベルには遠く及ばず、かえって機動性を損なうと部隊によっては独断で防弾ガラスを外すケースも多かったようです。
昭和18年夏に完成した零戦52型丙はシリーズ中最も生産されたタイプで、当時最前線であったソロモン方面から順次配備されいきました。しかし、武装強化の弊害で運動性の落ちた52型は新人パイロットには手に余る機体で52型が配備された部隊でも21型を新人が使っているという皮肉な結果になった話があります。
サイパン、フィリピン、沖縄、本土防空戦に死力を尽くして戦いましたが、物量と技術力に物を言わせたアメリカに勝てるはずもなく、大戦最末期には特攻機として使用された悲劇の戦闘機として人々に記憶されることになりました。
余談になりますが、史上まれに見る駄作映画「パールハーバー」では昭和16年当初、配備はおろか開発さえされてもいない52型がハワイ上空を悠々と飛んでいる姿を見ることができます。歴史考証を都合よく捻じ曲げた反日映画を見るくらいなら古くとも映画「トラ!トラ!トラ!」の方がはるかにマシです。
(こっちはT-6テキサンを改造した零戦21型のそっくりさんが登場します)
性能諸元(零戦52型 A6M5)
全長; 9.12m
全幅; 11.00m
全高; 3.509m
正規全備重量; 2733kg
エンジン; 中島「栄」21型 (公称出力 1100HP)
最大速度; 556km/h
航続距離; 1900km
武装; 20o機銃×2 13mm機銃×2
爆弾:30kg×2または60kg×2