[クラスコ]遠くの空に願うよりも
- 2012/07/08 00:29
- カテゴリー:FF
78デイなのでクラスコ!一日遅れの七夕ネタで!
7月7日が七夕だと言うのは、本来は、旧暦────太陰暦を指してのものだと言う。
太陰暦の7月7日は、太陽暦で言えば8月の上旬~中旬に当たり、成程、この時期ならば確かに空もよく晴れている事であろう。
7月7日など、また梅雨明けを終えていない地域も多いのに、どうやって全国で天の川銀河の観察が出来ようか。
………と言った雑学の切れ端を披露した所で、
「だから今日は七夕じゃない。だから行かない」
手元の本から顔を上げる事すらせず、きっぱりと言った少年に、クラウドは溜息を一つ。
ロマンチストな気質ではないと自覚しているクラウドではあるが、かと言って、ロマンチシズムを一つも持っていないのかと言われると、そうではないと自分でも思う。
特別好んでいる訳ではないけれど、古来より語られている神話や伝説を、「下らない」の一言で切って捨てる程、冷めている訳でもないのだ。
だから、恋人同士の記念日に執心している事もないが、時間があれば、機会があれば────と思う事はある。
一年に一回、待ちに待った逢瀬に心を躍らせる天上の恋人達にあやかってみたい、とか考えたりする事だって、あるのだ。
しかし、そんなクラウド以上に、年下の恋人はとても現実的である。
先述の“七夕の7月7日は、正確には今日ではない”と言った話も、そうした一面から出てきたものなのだろう。
「……そうか」
「……ん」
なんとか出した言葉に対して、スコールはとても短い返事。
いや、視線は相変わらず本の文字を追っているので、返事ですらなかった。
音が聞こえたから反応した、ただそれだけの事。
そうか、ともう一度クラウドは小さく呟いて、頭を掻いた。
2人暮らしで質素な、最低限のものしか置かれていないリビングに、夕暮れの光が差し込んでいる。
それはスコールが座っているソファの後ろにある窓から滑り込んで来ていて、お陰で、スコールの頭の影が、彼が手に持っている本に落ちている。
視辛くないのだろうか、とクラウドは思ったが、スコールは其処から動くつもりはないらしく、じっと文字を追い続けている。
─────誘い方が悪かったのだろう、とクラウドは分析する。
天体が好きな訳でもないし、遠出が好きな訳でもないし、人ごみなんて何よりも大嫌いなスコールに、七夕祭りなんて魅力も何もあったものではなかったのだ。
祭りと言ってもごくごく小さなもので、近所の神社に人が集まり、笹に願い事を書いた短冊を提げるだけ。
けれど、由緒正しいお祭りらしく、毎年そこそこの人が集まって来る為、近頃はそれをアテにした屋台も見かけるようになった。
数年前の、近所の人達が集まるだけの七夕祭りならともかく、人影の増えて来た最近の七夕祭りに、スコールの重い腰が上がる筈もなかったのだ。
誘うのならもっと上手く、「ちょっと出かけないか」とか「コンビニ行かないか」とか、そうした言葉を選ぶべきだった。
気難しい恋人の素っ気ない態度に、ひっそりと寂しさを感じつつ、クラウドはソファに片足を乗せて、窓のカーテンを閉めようとした。
が、留め具にまとめられていたカーテンを開こうとして、其処に絡められている糸を見付ける。
「……?」
なんだ、と思ってカーテンをずらすと、細長い何かがタコ糸で括りつけられ、窓の向こうにひょこりと頭を出している。
西日の眩しさが目に慣れた頃になって、クラウドはようやく、其処にあるものが、今日に相応しいもの─────笹である事に気付く。
こんなもの、家にあっただろうか。
考えてから、なかったよな、とクラウドは思う。
家にないから、毎年、七夕祭りの日は神社に出かけるのが習慣になっていたのだ。
「スコール、この笹─────」
どうしたんだ、と聞こうとして、出来なかった。
すっくと立ち上がったスコールが、すたすたと速足でリビングを抜け、自室に篭ってしまったからである。
益々、どうしたんだ、と思いつつ、クラウドは窓から顔を出している笹を見る。
笹の先端には、ひらひらと細長い紙が揺れている。
短冊である事は判ったが、誰の物だろう、とクラウドは一瞬首を傾げた。
普通に考えれば同居人である恋人のものであるのだが、スコールはこういったものに自ら手を出す事は少なく、毎年の七夕祭りも、誰かが誘えば一緒に行く、程度のものだった。
そんなスコールが、自分で笹を買って、短冊を書いて吊るした、とは、中々想像がつかなかったのである。
クラウドは、カーテンの留め具に括り付けられていたタコ糸を解いて、窓から顔を出していた笹を回収した。
一緒に取り込んだ短冊を手に取って、裏返っていたそれを表に戻し、
「──────……なんだ、」
書かれている文字を見て、クラウドは小さく笑みを零して、全てを思い出して、理解する。
毎年のように出かけていた、神社での七夕祭り。
スコールはその祭りに、必ず誰かと一緒に行くのだが、その相手はクラウドであるとは限らない。
クラスメイトのティーダや後輩のジタン、姉であったり父であったり、────クラウドも其処に加わらせては貰うけれど、二人きりで祭りに行った事は、今までなかったと言って良い(スコールが幼い時分を除けば、であるが)。
その方が、人ごみ嫌いのスコールも気が紛れるので、クラウドも吝かにはしていなかった。
けれど、どうやらスコールは、そういう訳でもなかったらしい。
クラウドは、ソファを下りると、笹と短冊をテーブルに置いて、スコールの部屋に向かった。
ドアを開けると、ベッドに突っ伏して丸くなっている少年がいる。
昔からスコールが拗ねている時の仕草だと、クラウドは知っている。
「スコール」
名前を呼ぶと、スコールの頭が微かに揺れたが、彼は動こうとしない。
構わず、クラウドはスコールのベッドに乗った。
シーツに顔を埋めているスコールの頭を撫でて、赤くなった耳み顔を寄せる。
「今年は二人で、七夕祭り、すればいいよな」
天上では、一年振りに逢う恋人達が、二人きりで仲睦まじく過ごすのだ。
だから今年は自分達も、二人きりで過ごしたって良いだろう。
──────素直になれない恋人が、小さな紙切れに精一杯書いた願い事を、叶えてあげる為に。
なんかこのクラウド、大人だな……
7月7日が七夕だと言うのは、本来は、旧暦────太陰暦を指してのものだと言う。
太陰暦の7月7日は、太陽暦で言えば8月の上旬~中旬に当たり、成程、この時期ならば確かに空もよく晴れている事であろう。
7月7日など、また梅雨明けを終えていない地域も多いのに、どうやって全国で天の川銀河の観察が出来ようか。
………と言った雑学の切れ端を披露した所で、
「だから今日は七夕じゃない。だから行かない」
手元の本から顔を上げる事すらせず、きっぱりと言った少年に、クラウドは溜息を一つ。
ロマンチストな気質ではないと自覚しているクラウドではあるが、かと言って、ロマンチシズムを一つも持っていないのかと言われると、そうではないと自分でも思う。
特別好んでいる訳ではないけれど、古来より語られている神話や伝説を、「下らない」の一言で切って捨てる程、冷めている訳でもないのだ。
だから、恋人同士の記念日に執心している事もないが、時間があれば、機会があれば────と思う事はある。
一年に一回、待ちに待った逢瀬に心を躍らせる天上の恋人達にあやかってみたい、とか考えたりする事だって、あるのだ。
しかし、そんなクラウド以上に、年下の恋人はとても現実的である。
先述の“七夕の7月7日は、正確には今日ではない”と言った話も、そうした一面から出てきたものなのだろう。
「……そうか」
「……ん」
なんとか出した言葉に対して、スコールはとても短い返事。
いや、視線は相変わらず本の文字を追っているので、返事ですらなかった。
音が聞こえたから反応した、ただそれだけの事。
そうか、ともう一度クラウドは小さく呟いて、頭を掻いた。
2人暮らしで質素な、最低限のものしか置かれていないリビングに、夕暮れの光が差し込んでいる。
それはスコールが座っているソファの後ろにある窓から滑り込んで来ていて、お陰で、スコールの頭の影が、彼が手に持っている本に落ちている。
視辛くないのだろうか、とクラウドは思ったが、スコールは其処から動くつもりはないらしく、じっと文字を追い続けている。
─────誘い方が悪かったのだろう、とクラウドは分析する。
天体が好きな訳でもないし、遠出が好きな訳でもないし、人ごみなんて何よりも大嫌いなスコールに、七夕祭りなんて魅力も何もあったものではなかったのだ。
祭りと言ってもごくごく小さなもので、近所の神社に人が集まり、笹に願い事を書いた短冊を提げるだけ。
けれど、由緒正しいお祭りらしく、毎年そこそこの人が集まって来る為、近頃はそれをアテにした屋台も見かけるようになった。
数年前の、近所の人達が集まるだけの七夕祭りならともかく、人影の増えて来た最近の七夕祭りに、スコールの重い腰が上がる筈もなかったのだ。
誘うのならもっと上手く、「ちょっと出かけないか」とか「コンビニ行かないか」とか、そうした言葉を選ぶべきだった。
気難しい恋人の素っ気ない態度に、ひっそりと寂しさを感じつつ、クラウドはソファに片足を乗せて、窓のカーテンを閉めようとした。
が、留め具にまとめられていたカーテンを開こうとして、其処に絡められている糸を見付ける。
「……?」
なんだ、と思ってカーテンをずらすと、細長い何かがタコ糸で括りつけられ、窓の向こうにひょこりと頭を出している。
西日の眩しさが目に慣れた頃になって、クラウドはようやく、其処にあるものが、今日に相応しいもの─────笹である事に気付く。
こんなもの、家にあっただろうか。
考えてから、なかったよな、とクラウドは思う。
家にないから、毎年、七夕祭りの日は神社に出かけるのが習慣になっていたのだ。
「スコール、この笹─────」
どうしたんだ、と聞こうとして、出来なかった。
すっくと立ち上がったスコールが、すたすたと速足でリビングを抜け、自室に篭ってしまったからである。
益々、どうしたんだ、と思いつつ、クラウドは窓から顔を出している笹を見る。
笹の先端には、ひらひらと細長い紙が揺れている。
短冊である事は判ったが、誰の物だろう、とクラウドは一瞬首を傾げた。
普通に考えれば同居人である恋人のものであるのだが、スコールはこういったものに自ら手を出す事は少なく、毎年の七夕祭りも、誰かが誘えば一緒に行く、程度のものだった。
そんなスコールが、自分で笹を買って、短冊を書いて吊るした、とは、中々想像がつかなかったのである。
クラウドは、カーテンの留め具に括り付けられていたタコ糸を解いて、窓から顔を出していた笹を回収した。
一緒に取り込んだ短冊を手に取って、裏返っていたそれを表に戻し、
「──────……なんだ、」
書かれている文字を見て、クラウドは小さく笑みを零して、全てを思い出して、理解する。
毎年のように出かけていた、神社での七夕祭り。
スコールはその祭りに、必ず誰かと一緒に行くのだが、その相手はクラウドであるとは限らない。
クラスメイトのティーダや後輩のジタン、姉であったり父であったり、────クラウドも其処に加わらせては貰うけれど、二人きりで祭りに行った事は、今までなかったと言って良い(スコールが幼い時分を除けば、であるが)。
その方が、人ごみ嫌いのスコールも気が紛れるので、クラウドも吝かにはしていなかった。
けれど、どうやらスコールは、そういう訳でもなかったらしい。
クラウドは、ソファを下りると、笹と短冊をテーブルに置いて、スコールの部屋に向かった。
ドアを開けると、ベッドに突っ伏して丸くなっている少年がいる。
昔からスコールが拗ねている時の仕草だと、クラウドは知っている。
「スコール」
名前を呼ぶと、スコールの頭が微かに揺れたが、彼は動こうとしない。
構わず、クラウドはスコールのベッドに乗った。
シーツに顔を埋めているスコールの頭を撫でて、赤くなった耳み顔を寄せる。
「今年は二人で、七夕祭り、すればいいよな」
天上では、一年振りに逢う恋人達が、二人きりで仲睦まじく過ごすのだ。
だから今年は自分達も、二人きりで過ごしたって良いだろう。
──────素直になれない恋人が、小さな紙切れに精一杯書いた願い事を、叶えてあげる為に。
なんかこのクラウド、大人だな……