[クラスコ]僕の為に頑張ってくれる君がとても愛おしい
- 2012/08/11 23:07
- カテゴリー:FF
現代クラスコでクラウド誕生日!
誕生日には、毎年のように、同僚や幼馴染から沢山のプレゼントや食べ物を贈られる。
プレゼントの中身は、大半がシルバーアクセサリーの類で、流石に付き合いの長い面々には好みが熟知されており、クラウディウルフの新作や限定品、中にはオーダーメイドと言った豪華なものが並ぶ事もある。
食べ物は、趣味のゲームやバイク以外には無頓着な所為で、一ヶ月の半分以上をカップラーメンで過ごすクラウドを気遣ってのものだ。
此方の詳細は非常に現実的なもので、レトルト食品が各種多様に揃えられていたり、時には米を貰う事もある。
貰える物はきちんと受け取り、食べ物も消費期限内にきちんと料理して食べる事にする。
それが終わればまたカップラーメン生活であるが、クラウドはこの極端な差をあまり気にしていない。
お陰で、何年経っても彼の食生活は惰性なままである。
アクセサリーは後で一頻り眺めて、気に入ったものを日替わりで身に付ける事にした。
限定品やオーダーメイドは、勿体なくて仕舞い込んで置こうかと思ったが、アクセサリーと言うものは、身に付けていて年季を経て更に味が出て来るものだ。
身に付けていれば、それを贈ってくれた人も、きっと喜んでくれるだろう。
殊更に高価なものだけは、やはり気後れも激しいので、此処ぞと言う時にだけ使う事に決めたが。
職場で貰ったプレゼントは、全てまとめて自宅に配送させて貰った。
社員割引+誕生日割引でかなり安くして貰えたが、どうせ送り先はクラウドの自宅なのだし、誕生日限定でタダにしてくれたら良いのに……と思ったが、下手にそんな事を口に出して、『誕生日特別割り増し』なんて言われたら絶望を贈られるようなものなので、クラウドは喉まで出かかった希望を寸での所で飲み込んだ。
配送と言う仕事柄、あちこちに顔を出すので、色々な所にかなりの人数の知り合いがいる。
その中の殆どから、逢って誕生日であると聞くなり「おめでとう!」と言われたのには、鼻柱が痒くなったが、やはり嬉しいものだった。
プレゼントとして、「今持ち合わせがないから、これやるよ!」とバッツから食べかけのホットドッグを差し出された時には、流石に「いらない」と丁重にお断りしたが(無論、彼のこれは冗談で、近場のコンビニで改めてジュースを奢って貰った)。
他にも、配達先のぬいぐるみショップに配送した時は、店員のティナから「これ、あげるね」と50センチ大のモーグリぬいぐるみを差し出され、「仕事の途中だから、すまないが大荷物は…」とやんわり断る(代わりに小さなチョコボストラップを貰った)などと言った遣り取りがあったが、概ね、平和な誕生日祝いであったと言える。
そして、無事に誕生日の仕事を全て終わらせた頃、クラウドの携帯電話に一通のメールが入っていた。
「スコールからか」
年下の恋人からのメールだと気付いて、俄かにクラウドの声が弾んだ。
今日がクラウドの誕生日である事は、スコールも知っている筈。
何せ、配達の道中に擦れ違ったティーダやジタンも知っていたのだから、芋蔓式で彼も知っていると考えて良いだろう。
しかし、配達中に彼に逢う事は叶わなかったので、誰よりも恋人から欲しかった祝いの言葉も、今年はお預けか、と考えたのだが、メールの受信を確認すると、やはり「待っていて良かった」と嬉しくなる。
─────が、開いたメールの文面を読んで、クラウドは先程の高揚が急降下していくのを感じた。
(夕飯とスポーツドリンク買って来いって……いや、俺が勝手に期待していただけだから、別に構わないんだが……)
メールの内容は、非常に事務的でシンプルなものであった。
冷蔵庫の中身が空だから、夕食の材料と飲み物、他雑貨を買って来て欲しいとの事だ。
スコールは一人暮らしをしていて、クラウドは頻繁に彼の家に上がらせて貰っており、夜を共にする事も少なくない。
最近は、仕事終わりのクラウドがほぼ毎日のように彼の自宅に行くので、スコールもクラウドが自分の所に来るの普通の事のように思えているらしく、当たり前のようにこうしたメールを送ってくる。
気難しく、人と一緒にいる事を拒む傾向のあるスコールが、こうした甘えにも似た行動を取るのは、彼がクラウドの事を信頼し、想ってくれている事も裏返しだ。
そう思えば、急降下した気持ちが再び高揚して行く。
スコールが住んでいるマンションの最寄スーパーで要望にあるものを一通り買い揃え、改めて恋人の家へとバイクを走らせる。
マンションは所謂高級なんたらと言う奴で、とても高校生の一人暮らしで住めるものとは思えないものとなっている。
なんでも、このマンションを選んだのはスコールの父親らしく、「セキュリティ第一!」で探した(他にも色々細かい条件があったらしい)結果、このマンションに辿り着いたのだそうだ。
スコールは最初、高級マンションになど住むつもりはなく、自分でアルバイトして稼いで生活できる範囲の物件を探すつもりだったようだが、スコール曰く「過保護で過干渉」な父は、これ以下のランクで息子の一人暮らしを認めてくれなかったらしい。
マンションの駐輪場にバイクを停め、買った諸々を持って、ポケットに入れていた合鍵でロックを解除し、マンションのエントランスに入る。
エレベーターで上がって、8階で降りて、フロアの角部屋になるドアのインターホンを押した。
程なく、かちゃん、とインターホンが通話になる音がして、
「スコール、来たぞ。夕飯も買った。両手が塞がってるから、そっちから開けてくれ」
言い終わると、かちゃん、と通話が切れる音。
妙だな、とクラウドは首を傾げた。
いつもなら「判った」と一言くらいは反応がある筈なのだが。
考えている間に、カチャ、とドアの鍵が外される音がして、そっと扉が開けられる。
「……おかえり」
「ああ、ただいま。どうした?」
ドアの隙間から顔だけ出しているスコールに、クラウドは首を傾げる。
このままスコールが其処にいると、クラウドはいつまで経っても中に入れない。
それでは、クラウドも休めないし、買って来た夕飯の材料や雑貨も渡せない。
じっと佇むクラウドの前で、スコールはうぅ、と苦々しい表情を浮かべている。
スコールの白い頬に、薄らと赤みが差しているのを見付けて、クラウドは片手の荷物を床に置いて、スコールの額に手を伸ばす。
「風邪でもひいてたのか?」
「……違うっ」
ぱしん、とクラウドの手を払うスコールだったが、やはり彼の頬は赤い。
体調不良ではないのだら、一体どうしたのだろう、とクラウドが考えていると、
「何かついてるぞ」
ドアの陰から僅かに見えたスコールの手に、白いものが付着していた。
スコールはなんの事だ、と一瞬きょとんとして自分の手を見下ろし、付着しているものを見て、益々顔を赤くさせた。
「なっ……なんでもない!」
「……?」
なんでもなくはないだろう、と思いつつ、クラウドはドアを引いて大きく開かせた。
あ、とスコールが戸惑うように手を右往左往させたが、構わずに床に下ろしていた買い物袋を持ち直して、敷居を跨ぐ。
スコールの態度に不審さが募るものの、家の中には何も変わった様子はない。
自分以外の男を連れ込んだとか、そうした疑いを考えた訳ではなかったが、恋人の様子が可笑しいとなると、流石のクラウドも不安になってしまうものだった。
しかし、玄関にはスコールの靴だけで、トイレや風呂場に人の気配はしないし、通路向こうのリビングから物音もなかったので、部屋の中にスコール以外の誰かがいる訳ではなさそうだ。
取り敢えず、買って来た食材を冷蔵庫に収めようと、キッチンに入った所で、クラウドは足を止めた。
「………これは……」
キッチンは、散々な有様だった。
潔癖症気味な一面のあるスコールの家のキッチンは、いつでも綺麗に保たれている。
それが今日は、シンクには現れていない菜箸やボウル、バット諸々が詰まれており、調理台にも白い液体の入ったボウルが置いてある。
調理台の周りの壁には、ボウルに入っているものと同じ白い液体があちこちに飛び散っており、床にも落ちている。
チーン、と音を鳴らした電子レンジの蓋を開けてみると、丸い型の中にふんわりと膨らんだスポンジ生地が入っていた。
クラウドはスポンジ生地を調理台の隙間に置いて、ボウルに入っている白い液体を覗き込んだ。
入ったままになっていた泡立て器についていた白を指で掬って舐めれば、それは優しい甘さで。
「スコール、」
この惨状と甘い白について問おうとしたクラウドが振り返ると、真っ赤になって睨んでくる青灰色とぶつかった。
クラウドがじっとその瞳を見詰め返していると、耐え切れなくなったように、スコールの方が目を逸らした。
そうして耳まで赤くなっているのが見えて、クラウドは小さく笑みを漏らす。
買い物袋は床に置いて、クラウドはスコールへと歩み寄った。
徐に腕を伸ばして抱き締めれば、視界の端でスコールに白い肌が沸騰したように赤くなる。
「ケーキ、作ってくれてたのか」
「……だって、あんた、誕生日だろ」
「ああ」
「…でも、失敗した。生クリーム…固まらなくて……」
一人暮らしで料理もそこそこ出来るスコールだが、菓子の類は作った事がない。
だから生クリームの固め方も判らず、あれこれと奮闘している間に液体があちこちに飛び散ってしまったのだろう。
決して彼自身甘いものが得意な訳でもあるまいに、既製品を買いに行くと言う手もあったのに、わざわざ自分の為に手作りしようとしてくれたのかと思うと、クラウドは顔が緩んでしまって元に戻らない。
スポンジも上手く行かなかった、と呟くのが聞こえて、そんな事はないだろう、とクラウドは言った。
先程取り出したスポンジ生地は、綺麗に膨らみ、焼き色がついている。
するとスコールは、「……4回目」と呟いて、恥ずかしさを誤魔化すように、クラウドの服の端を力一杯握る。
「……あんたが帰って来るまでに、作ってしまおうと…思ったんだけど……」
間に合わなかった。
駄目だった。
そんな事を繰り返し呟くスコールの声は、泣き出す手前のものになっていた。
クラウドは、抱き締めていたスコールの体を放すと、服端を握っていた少年の手を取った。
手の甲についていた白いもの─────ホイップクリームに舌を這わすと、青灰色がきょとんと瞬き一つして、
「………あっ…んた、何してっ!」
「勿体ないと思ってな」
「は、放せ、馬鹿!」
真っ赤な顔でクラウドの手を振り解こうとするスコールだったが、確りとした男の手は一向に離れない。
クラウドは、沸騰しそうな程に赤くなったスコールを上目に見詰めながら、もう一度白い肌に舌を乗せた。
さらりとした甘さが口の中に広がって、クラウドの口端から白がつぅ、と零れ、
「ケーキもいいが、俺はお前が食べたいな」
──────目尻を吊り上げた少年が、何事か言おうとする前に、唇を塞いだ。
クラウド誕生日おめでとう!
同棲している訳ではないけど、殆ど同棲状態の社会人クラ×高校生スコ。
だからこの後、クラウドは家に帰らないで、スコールをじっくり堪能するんだと思います。
誕生日には、毎年のように、同僚や幼馴染から沢山のプレゼントや食べ物を贈られる。
プレゼントの中身は、大半がシルバーアクセサリーの類で、流石に付き合いの長い面々には好みが熟知されており、クラウディウルフの新作や限定品、中にはオーダーメイドと言った豪華なものが並ぶ事もある。
食べ物は、趣味のゲームやバイク以外には無頓着な所為で、一ヶ月の半分以上をカップラーメンで過ごすクラウドを気遣ってのものだ。
此方の詳細は非常に現実的なもので、レトルト食品が各種多様に揃えられていたり、時には米を貰う事もある。
貰える物はきちんと受け取り、食べ物も消費期限内にきちんと料理して食べる事にする。
それが終わればまたカップラーメン生活であるが、クラウドはこの極端な差をあまり気にしていない。
お陰で、何年経っても彼の食生活は惰性なままである。
アクセサリーは後で一頻り眺めて、気に入ったものを日替わりで身に付ける事にした。
限定品やオーダーメイドは、勿体なくて仕舞い込んで置こうかと思ったが、アクセサリーと言うものは、身に付けていて年季を経て更に味が出て来るものだ。
身に付けていれば、それを贈ってくれた人も、きっと喜んでくれるだろう。
殊更に高価なものだけは、やはり気後れも激しいので、此処ぞと言う時にだけ使う事に決めたが。
職場で貰ったプレゼントは、全てまとめて自宅に配送させて貰った。
社員割引+誕生日割引でかなり安くして貰えたが、どうせ送り先はクラウドの自宅なのだし、誕生日限定でタダにしてくれたら良いのに……と思ったが、下手にそんな事を口に出して、『誕生日特別割り増し』なんて言われたら絶望を贈られるようなものなので、クラウドは喉まで出かかった希望を寸での所で飲み込んだ。
配送と言う仕事柄、あちこちに顔を出すので、色々な所にかなりの人数の知り合いがいる。
その中の殆どから、逢って誕生日であると聞くなり「おめでとう!」と言われたのには、鼻柱が痒くなったが、やはり嬉しいものだった。
プレゼントとして、「今持ち合わせがないから、これやるよ!」とバッツから食べかけのホットドッグを差し出された時には、流石に「いらない」と丁重にお断りしたが(無論、彼のこれは冗談で、近場のコンビニで改めてジュースを奢って貰った)。
他にも、配達先のぬいぐるみショップに配送した時は、店員のティナから「これ、あげるね」と50センチ大のモーグリぬいぐるみを差し出され、「仕事の途中だから、すまないが大荷物は…」とやんわり断る(代わりに小さなチョコボストラップを貰った)などと言った遣り取りがあったが、概ね、平和な誕生日祝いであったと言える。
そして、無事に誕生日の仕事を全て終わらせた頃、クラウドの携帯電話に一通のメールが入っていた。
「スコールからか」
年下の恋人からのメールだと気付いて、俄かにクラウドの声が弾んだ。
今日がクラウドの誕生日である事は、スコールも知っている筈。
何せ、配達の道中に擦れ違ったティーダやジタンも知っていたのだから、芋蔓式で彼も知っていると考えて良いだろう。
しかし、配達中に彼に逢う事は叶わなかったので、誰よりも恋人から欲しかった祝いの言葉も、今年はお預けか、と考えたのだが、メールの受信を確認すると、やはり「待っていて良かった」と嬉しくなる。
─────が、開いたメールの文面を読んで、クラウドは先程の高揚が急降下していくのを感じた。
(夕飯とスポーツドリンク買って来いって……いや、俺が勝手に期待していただけだから、別に構わないんだが……)
メールの内容は、非常に事務的でシンプルなものであった。
冷蔵庫の中身が空だから、夕食の材料と飲み物、他雑貨を買って来て欲しいとの事だ。
スコールは一人暮らしをしていて、クラウドは頻繁に彼の家に上がらせて貰っており、夜を共にする事も少なくない。
最近は、仕事終わりのクラウドがほぼ毎日のように彼の自宅に行くので、スコールもクラウドが自分の所に来るの普通の事のように思えているらしく、当たり前のようにこうしたメールを送ってくる。
気難しく、人と一緒にいる事を拒む傾向のあるスコールが、こうした甘えにも似た行動を取るのは、彼がクラウドの事を信頼し、想ってくれている事も裏返しだ。
そう思えば、急降下した気持ちが再び高揚して行く。
スコールが住んでいるマンションの最寄スーパーで要望にあるものを一通り買い揃え、改めて恋人の家へとバイクを走らせる。
マンションは所謂高級なんたらと言う奴で、とても高校生の一人暮らしで住めるものとは思えないものとなっている。
なんでも、このマンションを選んだのはスコールの父親らしく、「セキュリティ第一!」で探した(他にも色々細かい条件があったらしい)結果、このマンションに辿り着いたのだそうだ。
スコールは最初、高級マンションになど住むつもりはなく、自分でアルバイトして稼いで生活できる範囲の物件を探すつもりだったようだが、スコール曰く「過保護で過干渉」な父は、これ以下のランクで息子の一人暮らしを認めてくれなかったらしい。
マンションの駐輪場にバイクを停め、買った諸々を持って、ポケットに入れていた合鍵でロックを解除し、マンションのエントランスに入る。
エレベーターで上がって、8階で降りて、フロアの角部屋になるドアのインターホンを押した。
程なく、かちゃん、とインターホンが通話になる音がして、
「スコール、来たぞ。夕飯も買った。両手が塞がってるから、そっちから開けてくれ」
言い終わると、かちゃん、と通話が切れる音。
妙だな、とクラウドは首を傾げた。
いつもなら「判った」と一言くらいは反応がある筈なのだが。
考えている間に、カチャ、とドアの鍵が外される音がして、そっと扉が開けられる。
「……おかえり」
「ああ、ただいま。どうした?」
ドアの隙間から顔だけ出しているスコールに、クラウドは首を傾げる。
このままスコールが其処にいると、クラウドはいつまで経っても中に入れない。
それでは、クラウドも休めないし、買って来た夕飯の材料や雑貨も渡せない。
じっと佇むクラウドの前で、スコールはうぅ、と苦々しい表情を浮かべている。
スコールの白い頬に、薄らと赤みが差しているのを見付けて、クラウドは片手の荷物を床に置いて、スコールの額に手を伸ばす。
「風邪でもひいてたのか?」
「……違うっ」
ぱしん、とクラウドの手を払うスコールだったが、やはり彼の頬は赤い。
体調不良ではないのだら、一体どうしたのだろう、とクラウドが考えていると、
「何かついてるぞ」
ドアの陰から僅かに見えたスコールの手に、白いものが付着していた。
スコールはなんの事だ、と一瞬きょとんとして自分の手を見下ろし、付着しているものを見て、益々顔を赤くさせた。
「なっ……なんでもない!」
「……?」
なんでもなくはないだろう、と思いつつ、クラウドはドアを引いて大きく開かせた。
あ、とスコールが戸惑うように手を右往左往させたが、構わずに床に下ろしていた買い物袋を持ち直して、敷居を跨ぐ。
スコールの態度に不審さが募るものの、家の中には何も変わった様子はない。
自分以外の男を連れ込んだとか、そうした疑いを考えた訳ではなかったが、恋人の様子が可笑しいとなると、流石のクラウドも不安になってしまうものだった。
しかし、玄関にはスコールの靴だけで、トイレや風呂場に人の気配はしないし、通路向こうのリビングから物音もなかったので、部屋の中にスコール以外の誰かがいる訳ではなさそうだ。
取り敢えず、買って来た食材を冷蔵庫に収めようと、キッチンに入った所で、クラウドは足を止めた。
「………これは……」
キッチンは、散々な有様だった。
潔癖症気味な一面のあるスコールの家のキッチンは、いつでも綺麗に保たれている。
それが今日は、シンクには現れていない菜箸やボウル、バット諸々が詰まれており、調理台にも白い液体の入ったボウルが置いてある。
調理台の周りの壁には、ボウルに入っているものと同じ白い液体があちこちに飛び散っており、床にも落ちている。
チーン、と音を鳴らした電子レンジの蓋を開けてみると、丸い型の中にふんわりと膨らんだスポンジ生地が入っていた。
クラウドはスポンジ生地を調理台の隙間に置いて、ボウルに入っている白い液体を覗き込んだ。
入ったままになっていた泡立て器についていた白を指で掬って舐めれば、それは優しい甘さで。
「スコール、」
この惨状と甘い白について問おうとしたクラウドが振り返ると、真っ赤になって睨んでくる青灰色とぶつかった。
クラウドがじっとその瞳を見詰め返していると、耐え切れなくなったように、スコールの方が目を逸らした。
そうして耳まで赤くなっているのが見えて、クラウドは小さく笑みを漏らす。
買い物袋は床に置いて、クラウドはスコールへと歩み寄った。
徐に腕を伸ばして抱き締めれば、視界の端でスコールに白い肌が沸騰したように赤くなる。
「ケーキ、作ってくれてたのか」
「……だって、あんた、誕生日だろ」
「ああ」
「…でも、失敗した。生クリーム…固まらなくて……」
一人暮らしで料理もそこそこ出来るスコールだが、菓子の類は作った事がない。
だから生クリームの固め方も判らず、あれこれと奮闘している間に液体があちこちに飛び散ってしまったのだろう。
決して彼自身甘いものが得意な訳でもあるまいに、既製品を買いに行くと言う手もあったのに、わざわざ自分の為に手作りしようとしてくれたのかと思うと、クラウドは顔が緩んでしまって元に戻らない。
スポンジも上手く行かなかった、と呟くのが聞こえて、そんな事はないだろう、とクラウドは言った。
先程取り出したスポンジ生地は、綺麗に膨らみ、焼き色がついている。
するとスコールは、「……4回目」と呟いて、恥ずかしさを誤魔化すように、クラウドの服の端を力一杯握る。
「……あんたが帰って来るまでに、作ってしまおうと…思ったんだけど……」
間に合わなかった。
駄目だった。
そんな事を繰り返し呟くスコールの声は、泣き出す手前のものになっていた。
クラウドは、抱き締めていたスコールの体を放すと、服端を握っていた少年の手を取った。
手の甲についていた白いもの─────ホイップクリームに舌を這わすと、青灰色がきょとんと瞬き一つして、
「………あっ…んた、何してっ!」
「勿体ないと思ってな」
「は、放せ、馬鹿!」
真っ赤な顔でクラウドの手を振り解こうとするスコールだったが、確りとした男の手は一向に離れない。
クラウドは、沸騰しそうな程に赤くなったスコールを上目に見詰めながら、もう一度白い肌に舌を乗せた。
さらりとした甘さが口の中に広がって、クラウドの口端から白がつぅ、と零れ、
「ケーキもいいが、俺はお前が食べたいな」
──────目尻を吊り上げた少年が、何事か言おうとする前に、唇を塞いだ。
クラウド誕生日おめでとう!
同棲している訳ではないけど、殆ど同棲状態の社会人クラ×高校生スコ。
だからこの後、クラウドは家に帰らないで、スコールをじっくり堪能するんだと思います。