[レオスコ]シークレット・スケジュール
- 2012/12/06 22:06
- カテゴリー:FF
レオン×スコール(兄弟)で現代パラレル。
サラリーマンなレオンと、高校生のスコール。らぶらぶ。
携帯一つにスケジュール管理を任せるのは楽で良い。
しかし、どういう誤差が起きたのか消していないのに消えていたり、入力したつもりでしていなかったり、コピー・ペーストと言う簡単ツールに甘えて肝心な所の修正を忘れてしまっていたりと言う事も頻発し兼ねないので、それを思うと、幾らデジタルがこれだけ発展した現代と言えど、手書き記入のシステム手帳は手放せない。
人間は見て聞いて書いてと、この全ての行動でそれぞれ記憶しているから、聞いて覚え、見て覚え、書いたものをまた見て覚えと言う、アナログ作業を馬鹿にする事は赦されない。
レオンのシステム手帳と携帯には、それぞれ同じ内容が重複して記載されている。
手帳はアナログな代物なので、其処に記したものは、所持している自分が消さない限り、勝手に消える事はない。
携帯電話は今の時代、誰でも何処でも持っているし、小さなポケット一つに収めて手放しで持ち歩けるので、ふと気になった時にいつでも何処でも片手で取り出して確認する事が出来る。
ついでに大事な事は頭の中にもしっかりと記述し、忘れないように心掛けているので、レオンは重要な事柄については三重の管理をしていると言う事になる。
「────はい。はい。判りました。では、また後日、改めて……はい。日程については明日、また…はい」
ビルとビルの隙間から滑り込んでくる風は、随分と冷気含んでいて、先程まで室内にいた所為で温まっていたレオンの吐く息を白くさせる。
灰色の空からは、雨の匂いはしないものの、このまま冷えて行けば近日中に雪が降るかも知れない。
レオンの耳元で、ぷつり、と通信の切れる音がした。
リップノイズの酷かった通話から解放された事に、レオンはほっと胸を撫で下ろす。
それから携帯電話のカレンダーツールを開いて、記されているスケジュールメモに修正を加えようとして、手を止める。
ずらりと並んだスケジュールメモは、簡素な事のみをまとめて記載しているので、少々詳細に欠ける所があった。
レオンは嘆息して、携帯電話をスーツの胸ポケットに落とすと、マフラーと一緒に脇に抱えていた鞄の蓋を開けようとする。
が、マフラーが邪魔で仕方がなかったので、都合良く信号に引っ掛かったのを幸いに足を止め、シックなグレーカラーのマフラーを首に回す。
荷物が軽くなった所で、改めて鞄を持ち上げ、サイドポケットに入れていた手帳を取り出した。
パラパラとページを捲れば、スケジュール表には上から下までびっしりと文字が書き込まれている。
(全く、都合が悪くなりそうだと前々から判っていたのなら、もう少し早く連絡を寄越してくれれば良いものを……こっちの予定まで組み直さないといけないじゃないか…)
書き込まれたスケジュールを眺めながら、空き時間のありそうな日を探す。
横断歩道の信号が青へと代わり、周囲の人々が一斉に動き出した。
その流れに逆らわず、レオンも横断歩道を渡り始める。
白と黒の縞模様の上を、レオンは手帳に目を落としたまま、歩き続けた。
(8、9、10は…駄目だな。今週一杯、ねじ込む隙間はない。来週…そうだな、早くても来週だ)
三列目の数字の枠を追うと、週末に僅かに余裕の空白があった(一行の文字を書き込める程度のスペースだが)。
取り敢えず其処にボールペンでチェックを入れて、暫時予定として置く。
決定するには事務の指示を仰いでからだ。
丁度信号を渡り切った所で、レオンはシステム手帳を鞄に戻す。
首を撫でた冷気に眉根を寄せ、マフラーで口元まで覆った。
手触りの良いカシミアのマフラーは、今年の誕生日の時、弟からプレゼントとして贈られたものだ。
夏真っ盛りのあの時期、店頭に並んでいたのはマフラーではなく専らストールの類だったと思うのだが、インターネットの通販サイトでも利用したのだろうか。
カシミアはピンからキリまであるような商品で、安価なものならば3000円程度で手に入るが、弟がくれたこのマフラーは、明らかにケタがもう一つ増えるような、上等なものであった。
成程、夏休み前から何かコソコソやってるなと思ったらこれか────と、その数日前から必死に「なんでもない!なんでもないからな!」と言って、それまで気にしていなかった筈のレオンの部屋への入室拒否の理由を察して、レオンは心底安堵した。
世界で何より大切な弟に、思春期の親離れ(兄離れと言うべきだろうか)の兆候を感じて、喜び半分寂しさ半分で見守るつもりでいたレオンだったが、やはり思春期特有の現象とは言え、大切な弟に拒絶を示されるのは悲しい。
その内、父に対して今そうであるように、兄の自分にも手厳しい態度になるのだろうかとひっそりと憂いていたレオンであったが、本当に杞憂で良かったと思う。
レオンは、彼が贈ってくれたマフラーを身に着ける度に、そんな事を滔々と思い起こしていた。
不機嫌そうに眉間に皺をよせ、しかし頬も耳も真っ赤にして、ラッピングされた箱を差し出した弟。
ああ、彼に愛されている、大切にされている────それを感じ取る度に、知らずレオンの口元は緩む。
しかし、そんな彼を現実に引き戻す音が鳴る。
ポケットに入れていた携帯電話のバイブレーションだった。
取り出して液晶に表示された名前を見て、レオンは短く溜息を吐き、通話ボタンを押した。
「もしもし、レオンです。……クラウドか?」
『……ん』
「また何をやったんだ?お前は」
『…お詫び用のケーキがだな。どうやら店員が間違えて上下逆さまにして箱に入れていたようで』
「荒唐無稽も大概にしろ。やっぱりお前一人で行かせるんじゃなかった」
突飛な嘘をついて可愛げがあるのは、小学生の低学年までだ。
電話相手の後輩は、そんな年齢は十五年も昔に卒業している。
レオンは駅の改札に向かいながら、鞄を脇に挟んで、ポケットから定期入れを取り出した。
駅の改札口でカードの入った定期入れを翳し、奥へと進む。
「今何処だ」
『LOVELESS通りの広場』
「近くに何かないか。ケーキ屋でも和菓子屋でも。土産に持って行けそうなものを扱っている店。何か買って、何処かベンチにでも座っていろ。それ以上動くな」
『えー……俺、給料日前だから余分な金持ってないぞ』
「だったらもう動かなくて良い。俺が何か買っていく。お前は其処で待機」
『何処か建物入って良いか。寒い』
「好きにしろ。場所が落ち付いたらメールで連絡、いいな」
『ん』
「返事の仕方は?」
『はい。判りました』
「よし」
駅のホームに到着した所で、レオンは通話を切った。
ごう、と風が吹いて、通過電車が走り去り、風に煽られたマフラーの尻尾が、ひらひらと流れ踊る。
がたん、がたたん、と列車が通り過ぎた後、レオンは電車と突風が運んできた砂埃を嫌うように、コートの裾を軽く払った。
最近、美容院にすら行く暇がなかった所為で、不精に伸ばしていた髪が目元にカーテンを作る。
いつになったら切りに行けるかな、と前髪を人差し指と親指で摘まんで遊ばせていると、
「……レオン?」
耳に、いや体に、細胞に馴染んだ声が聞こえて、レオンは振り返る。
レオンと同じダークブラウンの髪と、ブルーグレイの瞳を持った少年。
ただし、髪の長さは首を隠す程度で、レオンのように肩に届くほどではない。
体格は、大人のレオンよりも発展途上の青さが目立って、有名進学校の制服の袖口から覗く手首は、その白さも相俟って、華奢な印象が強かった。
襟元はきちんと第一釦を嵌め、校章の刺繍が施されたネクタイもきちんと占めて、生真面目な性格である事が伺える。
少年の名は、スコールと言った。
正真正銘、血の繋がった、レオンの弟である。
「────そうか。試験前だったな」
「…ん」
十七歳、学生であるスコールが平日の昼間に駅にいる理由を察して、レオンは納得した。
この駅は丁度学校と自宅を結ぶ乗り換えになる駅なので、試験前で午前授業が終わって帰宅となったスコールがいても、何ら不思議はない。
「レオンは、仕事…?」
「ああ」
「…会社、戻るのか?」
「いや。その前に、寄る所が出来た。────ああ、悪い、ちょっと待て」
何処に、と問おうとしたのだろう口を開けたスコールを制して、レオンはポケットで震えていた携帯電話を取り出した。
着信の相手を確認し、通話ボタンを押す。
「もしもし、レオンハートです。はい。いえ、帰社はもう少し先になります。ストライフの件で────ええ、はい。一度、彼の様子を見てから、はい」
「………」
「────ああ、それは…私の方は、来週末なら空いているのですが。はい。宜しくお願いします。え?電話番号…?」
じ、と横から見詰める弟の視線を感じながら、レオンは電話相手の言葉に意識を傾ける。
鞄を足下に置いて手帳を取り出すと、ページを捲って電話帳一覧を開く。
「042-…XXX-XXXX…変わった?ああ、施設内の異動で…はい」
ボールペンで記載していた番号に消線を引いて、数字を書き直す。
アナウンスが鳴って、電車がホームに入って来た。
隣に立っているスコールが、通話を切らないレオンを見上げ、戸惑うような表情を浮かべている。
乗らないのか、と無言で指差すスコールに、先に乗るように目だけで促した。
スコールはちらちらとレオンの方を振り返りながら、促されたまま、素直に電車へと乗り込む。
「すみません、電車が来たので……はい。ああ、その件でしたら、後で確認します。折り返しまた、はい」
レオンは手短に返事をして通話を切ると、足下の鞄を拾って電車に乗り込んだ。
反対側のドアに寄り掛かっていたスコールの下へ行き、ドアを背にしたスコールと向かい合う位置に立つ。
そうすると、小柄ではないがレオンに体格で負けるスコールの体は、すっぽりとレオンの影に隠されてしまった。
「良かったのか、電話。急ぎの要件とかじゃなかったのか」
「いや。ただの連絡事項だから、それ程の事じゃない」
言いながら、レオンはもう一度システム手帳を開いた。
一つ、二つ、三つ、電話で聞いて変更した点や、書き直した記述が間違っていないか確かめる。
それから重要案件等の箇所書きメモを確かめ、電話で最後に確かめておいてくれと言われた内容を確認した。
これで一段落、とシステム手帳を鞄に戻し、顔を上げると、じっと此方を見つめる青灰色とぶつかった。
蒼の瞳には、レオンの首に巻かれたマフラーが映り込んでいる。
何か言いたげに緩んでいる唇を見つけて、レオンは小さく笑みを浮かべてスコールに訊ねる。
「どうした。何か可笑しかったか?」
「あ……い、いや。別に」
レオンの言葉に、スコールは小さく首を横に振った。
慌てたように明後日の方向を向くスコールに、レオンは可笑しな奴だな、とくすくすと笑った。
そうすると、ダークブラウンの髪の隙間から、赤くなった耳が更に赤くなるのが見えた。
スコールの額が、ドアの窓ガラスに押し付けられている。
ガラスの向こうで通り過ぎる風景の速度が落ちていくのが判ったが、この路線は開くドアの方向が決まっているので、此方のドアが開けられる事はない。
無理にスコールをドア前から離す必要はなかった。
─────ので、レオンはスコールを腕の中に囲うようにして、ドアと自分の体の間に閉じ込める。
「夕飯」
「…!」
耳元で囁けば、びくっ!と跳ねる細い肩。
その素直過ぎる反応に、くつくつと笑えば、じろりと横目に睨む蒼。
「夕飯、なんだ?」
「……まだ、決めてないけど…魚、にしようと思ってる」
「いいな。折角だから鱈にして、鍋にしないか?」
「鱈鍋?…なんでまた、急に」
「寒くなったからな。試験も近いし、準備に手間はかからない方が良いだろうと思ったんだが」
鱈はスーパーに売っている鍋用の切り身があるだろうし、野菜も冷蔵庫に残っているものを適当に切れば良い。
最近は便利なもので、ちょっと凝った出汁などは、入れて混ぜるだけと言うパックも売っている。
期末試験前とあって、スコールも勉強に集中したいだろうし、可惜に手の込んだものを作ろうとは思っていないだろう。
だったらいっそ鍋にしてしまえば、(大雑把に言えば)出汁と具を入れて火にかければ良いだけなので、簡単だ。
ぐぅん、と電車がカーブに差し掛かって、乗客の姿勢が傾いた。
レオンの背中に、どんっ、と人がぶつかる。
微かに揺らいだレオンに気付いて、スコールが気遣うような視線を向けたが、大丈夫、とレオンは小さく笑んだ。
ぶつかった人は、すみません、と背中越しにレオンに謝って、直ぐに離れて行った。
「────で、どうだ?今日の夕飯」
「別に、俺は何でも良かったし……レオンがそれが良いなら」
「お前が作ってくれるものなら、なんでも良いんだぞ」
「……じゃあ、今日は鍋にする……」
ふい、と視線を逸らし、窓ガラスに額を押し付けるスコール。
耳だけでなく、制服の襟口から覗く首も赤らんでいるのを見て、レオンはこっそりと笑みを浮かべた。
車内アナウンスが告げられ、電車が停止する。
レオンが下車する予定の駅に到着したのだ。
ちゅ、とスコールの耳元で小さな音が鳴って、スコールは目を見開いて振り返った。
その時には、レオンは既に電車を降りていて、
「じゃあ、また後でな」
ホームからひらりと手を振るレオンの唇が、そう紡いだ。
音がなくても、スコールにはちゃんと読み取れた。
ドアが閉まり、電車が遠退いて行くのをレオンは見送る。
四角い窓の向こうで、真っ赤になって耳を押さえている弟の姿があった。
中学生の頃から素直に甘えてくれなくなったのに、恥ずかしがる事ばかり素直に表す───本人は好きで表している訳でもないのだろうが───弟に、やはり可愛いものだなとレオンは思いながら、
「─────さて、」
本音を言うなら、あのままスコールと一緒に家に帰って、一緒にスーパーに行って、夕飯を作って。
試験に向けて勉強するスコールと、同じ空間で、ゆっくりとデスクワーク分の仕事を片付けて。
明日の朝まで、これからずっと二人きり────……と、そんな予定で行きたい所だったのだけれど、生憎、それは叶わない。
取り敢えず、この駅は西口から出た所に老舗の和菓子屋があった筈なので、其処に寄って。
いつの間にか来ていたメールに記された場所にいるであろう、手のかかる後輩を一発殴る事を決めて、緩んだマフラーを巻き直し、歩き出した。
出来る男なサラリーマンレオンさんに萌えた。
と言うか、スーツなレオンさんに悶えた。
なんでも完璧にこなせる若き有望社員の実態は、 全てが完璧なブラコン です。
どうでも良いけど、うちのKHクラウドは営業回りに行かせちゃ駄目だと思うw