[クラスコ]プレゼントボックス 2
- 2013/08/11 21:15
- カテゴリー:FF
こっちこっち、と楽しそうに尻尾を揺らすジタンに手を引かれ。
早く早く、と此方も楽しそうに笑うバッツに背を押され。
連れて来られたのは、クラウドの自室。
「じゃっ!」
「おやすみー!」
「………は?」
軽快な挨拶をするなり、ジタンとバッツは、ぱっと踵を返して散って行った。
クラウドをその場に残し、各々の自分の部屋へ向かって。
────待て。
俺は、スコールは何処に行ったんだ、と訊いた筈だ。
それがどうして、自分の部屋に連れて来られる事になるんだ。
クラウドのその疑問は、音にする間もなく、訊ねる相手を失った。
バタン!とジタンの部屋の扉が閉じられる音が聞こえ、バッツの階段を上る足音が響く。
クラウドが彼らを追い駆ける事は簡単だが、追い駆けて捕まえて、何をしようと言う気もない。
ただただ、困惑に佇んでいたクラウドだったが、はた、と我に返ると、自分の部屋へと向き直った。
(……まさかとは思うが)
此処に、彼がいるのだろうか。
滅多に他人の領域に───部屋の主が許可しても尚───近付こうとしない、彼が。
クラウドは微かに緊張感を抱きつつ、自室の扉を開けた。
ギィ、と蝶番が音を立てて、電気のついていない部屋に、廊下の明かりが微かに差し込む。
その滑り込んだ微かな光が、部屋の真ん中にあるものを浮き上がらせていた。
クラウドは部屋に入って、電気を点けると、眼を擦った。
目の前に在るものが俄かに信じられなくて。
「…………」
しかし、何度目を擦って見ても、目の前にあるものは変わらない。
部屋の中心にどんと鎮座した、腰程の高さのある、四角形の箱は、確かに其処に存在していた。
一体何処から調達して来たのだろうか。
四角形の箱は、ピンクに白のドット柄で、如何にも可愛らしい風だ。
それに赤色の大きなリボンが括り付けられており、蓋の上で蝶結びに結われている。
如何にもな“プレゼントボックス”の様相をしたそれには、メッセージカードも添えられており、「Happy Birthday!」の文字と、チョコボの絵が綴られていた。
クラウドの脳裏に、楽しそうな表情のジタンとバッツが蘇る。
このプレゼントボックスをこの部屋に運び込んだのは、十中八九、あの二人だろう。
(………まさか)
スコールは何処に行ったんだ、とクラウドは彼等に聞いた。
そして彼等は、この部屋にクラウドを連れて来た。
……まさか、いや、まさか。
仕掛けたジタンやバッツ、ノリのよいティーダや、案外となんでも面白がって便乗するセシルならともかく。
殊更に真面目な気質故に、その真面目さを逆手に取られ、悪戯を仕掛けられる事のあるウォーリアでも、百歩譲って判る、としても。
あの気難しくて恥ずかしがり屋の彼が、こんな真似をする筈が。
いや、しかし、現状で考えられるのは、それしかない。
ついでに言うと、恋人が案外と押しに弱い性質である事も思い出し、
「……スコール」
呼んでみると、ガタッ、とプレゼントボックスが揺れた。
早く開けろ、と言わんばかりのそれに、クラウドは思わず漏れかけた笑いを噛み殺す。
リボンを解いて、蓋を開ける。
すると其処には、両手を布のリボンで縛られ、更にはリボンで猿轡をされているスコールが蹲っていた。
窮屈そうに長い足を縮め、じろりと睨む蒼灰色の瞳には、不機嫌を通り越した怒気が滲んでいる。
そんな恋人を見て、くく、とクラウドが殺し切れなかった笑いを漏らしたのは、無理もなく。
「あんた、ジタンとバッツが相手だと、本当に無防備だな。少し妬けるぞ」
「……っ!!」
上から箱の中を覗き込んで言ったクラウドを、射殺さんばかりの眼でスコールが睨む。
さっさと助けろ、と言わんばかりのスコールに、クラウドは苦笑した。
箱の中にいるスコールを捕まえて、腕の力で持ち上げる。
脇下から抱えるように持ち上げると、捕まれている場所が嫌なのか、スコールはもぞもぞと身動ぎしたが、こればかりは我慢して貰わなければならない。
スコールをプレゼントボックスから助け出すと、クラウドは彼の口に噛まれている猿轡を外した。
ようやく許された正常な呼吸に、はぁっ、と吐息が漏れるのが聞こえた。
そして、ぎらり、と凶悪な眼光が閃いた。
「あいつら、後で絶対殴ってやる…!」
あいつら────勿論、スコールをこんな目に遭わせた、ジタンとバッツの事だろう。
予想通り過ぎて、クラウドはくつくつと笑う。
ぎりぎりと怒りに歯噛みするスコールの横顔は、いつもの冷静を務めるものとは違い、非常に青臭くて、クラウドは微笑ましさを誘われる。
そんな事を当人が知れば、莫迦にしているのかと烈火の如く怒るのだろうが、それすらクラウドには愛しかった。
唯一、不満を呈するとすれば、そうした表情を引き出す事が出来るのが、自分ではないと言う事か。
猿轡を外してから、口元に笑みを浮かべて自分を見下ろす男を、スコールは見上げた。
じぃ、と無音の訴えを寄越す蒼灰色に、クラウドが気付き、首を傾げていると、
「早く解け」
可愛らしいリボンで縛られた両腕を突き出して、スコールは言った。
傭兵として教育されているのなら、縄抜け位は出来ないのだろうか。
そう思いながらクラウドはスコールを拘束するリボンを解こうとして、ぴた、と思い留まる。
「……クラウド?」
早く解いてくれ、と言うスコールだったが、クラウドの手はリボンに触れない。
それどころか、クラウドは一度出した手を引っ込めると、顎に手を当てて考え込んだ。
「クラウド、何してる」
「……うーん……」
「早く解け。あいつらが逃げる」
ジタンとバッツが逃げる前に、一発殴らないと気が済まない。
眉間に深い皺を刻んで呟くスコールだが、きっと彼らの顔を見たら、また絆されるのだろう。
いや、宣言通り一発くらいは喰らわせるのかも知れないが、彼らの口八丁に丸め込まれるのは目に見えている。
何せあの二人は、この気難しそうに見える少年の操縦方法と言うものを、よくよく心得ているのだから。
自分以上に恋人の機微に聡いあの二人に、妬ける気持ちは否めない。
しかし、スコールとクラウドの間に関わる事で、一番気を回してくれるのも彼らである事は確か。
────そんな二人が、どうしてスコールをこんな目に遭わせたのか判らないほど、クラウドはスコールのように鈍くはない。
「うん。よし」
「───うわっ!?」
熟考を重ねる事、数秒。
やっぱりそうだろうな、と結論を出したクラウドは、スコールの腕のリボンをそのままに、彼をひょいっと姫抱きにした。
突然の浮遊感に目を丸くスコールが、現状を把握する前に、クラウドはスコールをベッドに降ろす。
二人分の体重を受け止めたスプリングが、ぎしっ、と音を立てて軋んだ。
「あ、な……?」
「折角だしな」
「!」
ベッドに寝かされ、自分の上に馬乗りになった男に気付いて、スコールが目を瞠る。
ちょっと待て、とでも言おうとしたのか、開いた薄い唇を、クラウドは己のそれで塞いだ。
「んぅっ……!」
じたばたと、スコールの自由の足が暴れている。
しかし、馬乗りになった男には大した効果はなく、クラウドは存分にスコールの咥内を貪った。
二人の体の間に挟まれたスコールの腕が、ぐいぐいとクラウドを押し退けようとしていたが、スコールが純粋な力押しでクラウドに勝てる筈もない。
おまけに、スコールは未だに腕をリボンで縛られたままだ。
思う程の抵抗は出来ず、くぐもった抗議の音も、クラウドは黙殺した。
絡めようとする度に逃げていた舌を、ようやくの思いで捕まえる。
ちゅ、と絡み合わせた瞬間に、びくっと細い肩が震えたのが判った。
けれどその後からは、暴れていた足も静かになって、一時は強張った体も、少しずつ解けて行く。
ちゅぅ…と名残を惜しむように舌を吸ってやれば、ふるり、と閉じた瞼が震えたのが見えた。
ゆっくりと唇と離して行くと、銀糸が引いて、ぷつりと切れる。
キスで腫れたように膨らみ、濡れた唇を隠すように、スコールは拘束された腕で口元を隠した。
「……あんた、何してるんだ…」
「何って、プレゼントを貰おうかと」
「……誰がプレゼントだ」
「お前だろう。中々気の利いた趣向だ」
そう言いながらクラウドは、スコールの腕に結われたリボンの端を遊ばせる。
スコールはその手を見ながら、眉間に深い皺を寄せ、
「違う。こんな筈じゃなかったんだ」
「じゃあ、どうなる予定だったんだ?」
「……この箱の中に、皆が持って来たプレゼントを入れて、あんたに渡すんだって、バッツが言っていた。俺はティーダに言われてケーキを作っていたから、そんなもの、用意する暇もなかったけど…」
スコールの話を聞いて、クラウドは噴き出しそうになるのを寸での所で堪えた。
プレゼントが用意できなかったのは、何もスコールに限った話ではない。
見回りに行っていたジタンやフリオニール、部屋の飾りつけをしていたルーネス達も用意できていない。
そもそも、急な事だったので、誰もプレゼントなんて買いに行く暇もなかったのだ。
だから、「皆が持って来たプレゼント」なんてある筈がない。
普段、頭の回転は早い筈なのに、妙な所で鈍いと言うか、天然と言うか。
しかし、そんな恋人を愛らしく思うのも確かで、クラウドは不満そうに顔を顰めるスコールの額にキスを落とす。
「バッツとジタンにしてやられた訳だな」
「………」
「そう怒るな。それに、俺はちゃんとプレゼントを貰ってるつもりだから」
そう言って、クラウドはスコールの腕に結ばれたリボンを解く。
てっきり固く結ばれているとばかりおもったリボンは、思いの外あっさりと解けてくれた。
内側から解こうとするのと、外側から紐の先端を引いて解くのとでは、かかる力が逆である事は判っているつもりだが、こうも簡単に解けてしまうと、実はそれ程固く結ばれている訳ではなかったのではないか、とクラウドは勘繰ってしまう。
その辺りの真相については、後でジタンとバッツにでも聞いてみる事として。
リボンを解いたクラウドは、仲間からのプレゼントを前にして、言った。
「これで、ジタンとバッツからのプレゼントは貰ったが────お前は俺に、どんなプレゼントをくれるんだ?」
触れそうな程に近い距離で囁けば、青灰色の瞳が逃げるように彷徨った。
けれども、拘束から逃れた少年の体は、決して其処から逃げようとはしない。
おずおずと伸びた腕が、クラウドの首に回される。
真っ赤な顔で精一杯、触れるだけのキスをする恋人が、愛しくて堪らなかった。
クラウド誕生日と言う事で、クラスコ!
紳士的に振る舞いつつも、貰えるものは貰います。
スコールもこれくらいお膳立てして貰ってからじゃないと、素直になれないし。ツンデレって大変だ。