[ジェクレオ(+ティスコ)]我儘な大人
- 2014/06/07 00:31
- カテゴリー:FF
色々血迷って燃え滾ってジェクト×レオンで現代パロ。
ちょこっとティーダ×スコールもあり。
家が近所であった事は勿論だが、共に父子家庭でもあった所為か、ラグナ一家とジェクト一家は、それぞれの息子達が幼い頃から付き合いが深かった。
特にラグナ家の次男であるスコールと、ジェクトの一人息子ティーダは、同い年と言う事もあり、保育園にいた頃から常に一緒に行動している。
ラグナ家の長男のレオンは、弟とは8歳の年齢差があり、確り者で、スコールと一緒に遊ぶティーダの面倒を見る事も多かった。
それぞれの家長であるラグナとジェクトも、度々互いの家に行っては酒を飲み交わし、子育てについて愚痴を零し合ったりと言う仲だ。
幼年の頃から共に過ごしてきたスコールとティーダは、現在、高校二年生になっている。
レオンは大学を卒業後、外資系の商社へと就職し、父同様に忙しい日々を送っていた。
ジェクトは40代になった今でも、現役のプロサッカー選手として活躍しており、息子が成長した事もあって、プレイシーズン中は家を不在にする事も増えた。
こうしたそれぞれの家庭事情で過ごす内、独りを嫌うティーダと、顔に出さずとも寂しがり屋の気質があるスコールは、成長した現在でも一緒に過ごす事が多くなっている。
夕方、レオンが仕事を終えて家に帰ると、今日もスコールとティーダがリビングでじゃれ合っていた。
「いーじゃん、ちょっと位」
「駄目だ」
「スコールのケチ」
「ケチで結構だ。とにかく離れろ」
「えー」
「えーじゃない。重い!退け!」
ソファの向こうから聞こえる声と、食み出している足がじたばたと暴れているのを見て、レオンはやれやれ、と眉尻を下げて苦笑した。
足音だけでは気付かないだろうと、わざとドアを音を立てて閉めてやる。
ガチャン、と言う金具の音に、ぴたっ、と暴れていた足が動きを止め、背凭れの向こうから蜜色の髪がひょっこり覗く。
「あ、レオン、お帰り!」
「ただいま」
「退け!」
「あいてっ!」
嬉しそうに兄代わりの帰宅に挨拶するティーダに、レオンも挨拶を返す。
その直後、スコールの姿が背凭れ向こうから出て来て、代わりにティーダがレオンの視界から消えた。
どたっと言う音がしたので、きっとソファから転がり落ちたのだろう。
何するんスか、お前が退かないからだ、と言う弟達の遣り取りを聞きながら、レオンはネクタイを解いて、スーツをハンガーにかける。
「随分賑やかにしていたな。元気なのは良いが、テーブルとかに頭をぶつけないように気を付けろよ」
「スコールが暴れなきゃ大丈夫っスよ」
「お前がくっついて来なければ済む話だ」
お互いに責任を押し付け合うように言う弟達に、レオンはくすくすと笑う。
そんな兄を見て、スコールが唇を尖らせた。
「部屋に戻る」
「じゃあ俺も一緒に」
「あんたは来るな」
席を立ったスコールを追って立ち上がろうとしたティーダだったが、じろりと蒼に睨まれて、ぴたりと動きを止めた。
判り易く怒気を滲ませた鋭い眼光に、幼馴染も流石に怯んだようだ。
すたすたと足早にリビングを出て行こうとするスコールを、レオンが呼び止める。
「スコール、夕飯は食べたのか?」
「まだだ。作って置いてある。あんた、先に食べてくれ」
「お前は食べないのか」
「ティーダが帰ったら食べる」
「スコールぅ~っ」
けんもほろろなスコールに、ティーダが何とも情けない声で幼馴染を呼ぶ。
スコールは返事もしないまま、リビングのドアを開けた。
其処で、どんっ、と大きな塊にぶつかる。
一体何が、と鼻頭を押さえながら、眉根を寄せて顔を上げれば、黒髪に真っ黒に日焼けした肌と、熊のように大きな体躯をした男が立っていた。
ティーダの父親、ジェクトである。
「おっと。なんだ、スコールか」
「ジェクト……」
「うちの泣き虫がこっちに────いるな」
「げっ、親父!」
スポーツバッグを肩に担いでいるジェクトは、つい数時間前、海外での強化合宿を終えて帰宅した所だった。
自分の家に人気がないのを見て、いつものように幼馴染宅にいるのだろうと、荷物を置く事もせずに此方に来たようだ。
ティーダは、レオンが帰宅した時と違い、数週間ぶりの父の顔を見るなり、判り易く顔を顰めた。
ジェクトはそんな息子の表情を気に留めず、リビングを出て行こうとしているスコールに気付き、大きな体を退かして出入口を開けた。
「邪魔したな。ほら、行けよ」
「……ん」
「あ、ちょっ、スコール!待てって、俺も」
「さっきも言った。あんたは来るな」
慌ててスコールの後を追おうとしたティーダだったが、釘を刺されて、がっくりとソファの背凭れに倒れ込む。
その間にスコールはリビングを出て行ってしまった。
ジェクトはにやにやとした表情を浮かべて、ソファに突っ伏している息子に視線を移し、
「随分嫌われてんじゃねーか。今度は何やったんだ?」
「別に何もしてねーよ」
「何もしてねえのに嫌われたってか」
「嫌われてもねえっつの!」
ジェクトに揶揄われ、噛み付くように反論するティーダ。
ジェクトは判り易い反応を返す息子の様子に、くつくつと楽しそうに笑っている。
それが益々息子を煽り、ティーダもティーダで其処で無視が出来ないから、尚更父が助長してしまう。
またジェクトが何かを言おうとした時、キッチンからコーヒーを持って出てきたレオンが割り込んだ。
「ジェクト、その辺にして置いたらどうだ。ティーダも落ち付け」
「へーい」
「だって、レオン!」
「ほら、ティーダ。全員分のコーヒーを淹れたから、スコールに持って行ってくれ」
仲裁したレオンに、悪いのは親父なのに、と言おうとしたティーダだったが、差し出された二つのマグカップを見て動きが止まる。
マグカップの中のコーヒーは、ミルクを一杯と、砂糖を二杯入れた甘めのもので、弟達の為に用意されたものだ。
マリンブルーの瞳がぱち、ぱち、と数回瞬きをした後、兄代わりの男を見上げる。
柔らかい笑顔を浮かべる蒼灰色の瞳は、ティーダがよく知っているものとよく似ていて、少し違う。
ティーダは、自分がよく知る寂しがり屋の蒼を思い出して、レオンが差し出したマグカップを受け取り、席を立った。
マグカップで塞がった両手の代わりに、背中でリビングのドアを開けて、ティーダは部屋を出て行く───去り際、父にべぇっと舌を出してから。
リビングに残ったジェクトは、深々と溜息を吐いて、先程まで息子が落ち付いていたソファを陣取る。
レオンは、ジェクト用に入れた氷を浮かせたアイスコーヒーのグラスをローテーブルに置いて、ジェクトの隣に腰を下ろす。
「おう、サンキュ」
「ああ」
「悪いな、いつもうちのガキが世話かけてよ」
「別に構わないさ。ティーダも俺にとっては弟みたいなものだし」
レオンの言葉に、ジェクトはなら良いんだけどな、と呟いた後で、
「所で、スコールの奴は何を怒ってたんだ?どうせうちのガキが何かしたんだろうけどよ」
「いや……多分、原因は俺だろうな」
レオンの答えに、ジェクトは「あ?」と首を傾げる。
何があったのかと無言で問う視線を受けて、レオンは眉尻を下げて言った。
「俺の帰って来たタイミングが悪かった。そんな所だよ」
「……ふーん?」
多くは語らないレオンであったが、その情報だけで、ジェクトが理解を得るには十分であった。
髭を蓄えた口が、にやにやと悪戯を孕んだ笑みを浮かべるのを見て、レオンは口にしていたコーヒーカップを離し、
「言うなよ、ジェクト。スコールにまで拗ねられたら、俺の手に負えない」
「判ってる判ってる。でもよ、たまーに、突っついてやりたくなるんだよなあ」
「やめてくれ……」
どうしても息子を揶揄いたいジェクトに、レオンは溜息を吐いて抑制を頼む。
ジェクトは何かと息子を揶揄うが、それは決して悪意があってのものではない。
とは言え、スコールもティーダも共に17歳で、色々とデリケートな年齢なのだ。
父親に対して強い反発心や対抗意識を持ったり、自分の内面的な部分を他人に触れられる事を強く嫌悪したり、一度臍を曲げると中々折れなかったり。
拗ねた彼等を宥めるのは、案外と大変な事なのだと、昔から弟達の面倒を見て来たレオンはよく知っている。
だが、ジェクトがティーダを揶揄いたがる気持ちが、レオンにも判らない訳ではない。
幼い頃から気難しく、交友関係は決して広くはなく、親しい人間にも滅多に感情を剥き出しにする事がない弟、スコール。
そんな彼が今、判り易く感情を吐露する瞬間がどんな時なのか、レオンは判っていた。
その詳細について、本人から色々聞きたい気持ちはあるのだが、今はもう少し待つべきだ、と思う。
コーヒーを傾けるレオンの隣で、ジェクトは赤い双眸を細める。
その目は、先程までの悪戯の満ちたものとは違い、“父親”の気配が滲んでいる。
「ったく、一丁前に色気づきやがって」
「………」
「お前にしてみりゃ、大事な弟に悪い虫が着いたようなもんだろ?」
「……別に」
ジェクトの言葉に、レオンはくすりと笑って言った。
蒼い瞳には、ジェクトとよく似た、庇護する者を愛する光が浮かんでいた。
「ティーダの事はよく知ってる。素直な良い子だ。信頼してる」
「そう言ってくれるんなら、まあ、良いけどな」
ジェクトはソファの背凭れに寄り掛かり、肩越しに振り返って、閉じられたリビングのドアを見る。
弟も息子も、まだしばらく、此方へ戻って来る様子はない。
それを確かめて、ジェクトは隣に座っている青年の肩を抱いて、強い力で引き寄せた。
逞しい男の、丸太のように太い腕に抱かれて、レオンが目を瞬かせる。
数秒の遅れの後、自分の状況を知ったレオンは、赤い顔でジェクトの腕から逃げようともがき始めた。
「ちょ……ジェクト!」
「あん?」
「は、離れてくれ。スコール達が戻って来たら、」
「来てねえよ。だから大人しくしてろ」
じたばたと手足を暴れさせていたレオンだったが、太い腕の檻はびくともしない。
増してジェクトの体幹は、プロの格闘家と並べても劣らない程のものである。
幾らレオンの身体がそこそこ鍛えられていると言っても、敵う筈がなかった。
レオンはしばらく抵抗していたが、程無く諦めた。
やれやれ、と溜息を吐いて身体の力を抜きながら、頼むから今は戻って来ないでくれ、と自室にいるであろう弟と幼馴染の少年に願う。
体重を委ねたレオンの背中を、逞しい腕が抱く。
その温もりと力強さに、言い知れない安堵感を感じながら、レオンは罪悪感も抱いている。
「……ジェクト……」
「離さねえぞ」
「判ってる。でも……ティーダに、悪い……」
幼い頃に母を失くし、生まれて間もなかった弟を守り、男手一つで二人の息子を育てる父を支えてきたレオン。
早い段階で甘える事を止めた彼に、遅蒔きながら、「甘えて良い」と教えたのが、ジェクトだった。
確り者に見えて、その所為もあって何もかも背負ってしまい勝ちだったレオンだったが、ジェクトにだけは自分を預けて良いと思えるようになった。
それはレオンにとっても良い事だったし、肩の力が抜けるようになった事を、父と弟からも喜ばれた。
しかしレオンの脳裏には、昔から面倒を見て来た少年の、屈託のない笑顔が浮かんでいる。
弟と共に、物心つく以前から見ていた少年の唯一の肉親が、ジェクトだ。
そのジェクトを、彼から奪っているような気がしてならない。
瞼を緩く伏せたレオンの呟きに、ジェクトは口を噤んだ。
しばらくの静寂があって、────くしゃり、と大きな手がレオンの頭を撫で、強い力で抱き締められる。
「ジェク、」
「お前がンな事言ったら、俺はお前ら皆に悪いと思ってる」
「……?」
何の事だ、とレオンは顔を上げようとしたが、頭に添えられた手が力を籠めた所為で、出来なかった。
顔を見られたくないのかも知れない。
レオンは大人しく、ジェクトの胸に顔を埋め、じっとしていた。
「うちのバカが、お前とラグナが大事にしてるモンを取っちまって。俺は、ラグナからお前を取ろうとしてる」
「………」
「ラグナにとっちゃ、お前とスコールは宝物だ。良く知ってるからって、奪って良いモンじゃねえ」
ジェクトの言葉に、レオンは目を伏せる。
ラグナに対する、罪悪感や背徳感と言うものは、ずっと抱えている。
いつかは伝えようと思うけれど、伝えた時に反対される事、今のジェクトとの関係を否定される事が怖くて、レオンは切り出す事が出来なかった。
スコールとティーダが自分達の関係を隠したがるのも、きっと同じ気持ちがあるからだろう。
───それでも、とジェクトは言った。
レオンを抱く腕に力が篭って、けれどもその腕は優しい熱も持っていて、レオンは離れたくないと思う。
「……それでもな。俺は、お前を離したくはねえんだよ」
既知の友から、大切なものを奪おうとしている。
それはきっと、酷い裏切りなのだろうとジェクトも思う。
それでも、弱い心を押し隠して、一人で立ち続けようともがき続けていた青年を、ジェクトは放っておく事が出来なかった。
自分だけに伸ばされる甘える手を、今更手放す事は出来ない。
こうして自分が捕まえていなければ、いつか彼が知らない間に壊れてしまうような気がするから。
頭を押さえていた手から力が抜ける。
レオンが顔を上げると、ジェクトは明後日の方向を向いていたが、その耳が赤くなっている。
「………まあ、それに。なんだ。お前が母親なら、うちのガキも喜ぶだろ」
「……俺は母親にはなれないぞ。男だから」
茶化すように言ったジェクトに、レオンはくすりと笑った。
────熱いものが唇に触れる。
弟達は、まだ戻って来ない。
だからもう少しだけ、このままでいても良いだろう、とレオンは目を閉じた。
ジェクレオと言う超俺得+青春ティスコ。
ジェクレオは大人同士で色々切なかったり、じれったい事になりそうで萌える。
そんな脇で、ティスコもすったもんだしてると可愛い。
でもってラグナパパごめんね。でもラグナなら許してくれるんじゃないかと勝手に思ってる。泣きながら「うちの息子を幸せにしないと許さないからな!!」って息子達の意思を尊重してくれる筈。
ちょこっとティーダ×スコールもあり。
家が近所であった事は勿論だが、共に父子家庭でもあった所為か、ラグナ一家とジェクト一家は、それぞれの息子達が幼い頃から付き合いが深かった。
特にラグナ家の次男であるスコールと、ジェクトの一人息子ティーダは、同い年と言う事もあり、保育園にいた頃から常に一緒に行動している。
ラグナ家の長男のレオンは、弟とは8歳の年齢差があり、確り者で、スコールと一緒に遊ぶティーダの面倒を見る事も多かった。
それぞれの家長であるラグナとジェクトも、度々互いの家に行っては酒を飲み交わし、子育てについて愚痴を零し合ったりと言う仲だ。
幼年の頃から共に過ごしてきたスコールとティーダは、現在、高校二年生になっている。
レオンは大学を卒業後、外資系の商社へと就職し、父同様に忙しい日々を送っていた。
ジェクトは40代になった今でも、現役のプロサッカー選手として活躍しており、息子が成長した事もあって、プレイシーズン中は家を不在にする事も増えた。
こうしたそれぞれの家庭事情で過ごす内、独りを嫌うティーダと、顔に出さずとも寂しがり屋の気質があるスコールは、成長した現在でも一緒に過ごす事が多くなっている。
夕方、レオンが仕事を終えて家に帰ると、今日もスコールとティーダがリビングでじゃれ合っていた。
「いーじゃん、ちょっと位」
「駄目だ」
「スコールのケチ」
「ケチで結構だ。とにかく離れろ」
「えー」
「えーじゃない。重い!退け!」
ソファの向こうから聞こえる声と、食み出している足がじたばたと暴れているのを見て、レオンはやれやれ、と眉尻を下げて苦笑した。
足音だけでは気付かないだろうと、わざとドアを音を立てて閉めてやる。
ガチャン、と言う金具の音に、ぴたっ、と暴れていた足が動きを止め、背凭れの向こうから蜜色の髪がひょっこり覗く。
「あ、レオン、お帰り!」
「ただいま」
「退け!」
「あいてっ!」
嬉しそうに兄代わりの帰宅に挨拶するティーダに、レオンも挨拶を返す。
その直後、スコールの姿が背凭れ向こうから出て来て、代わりにティーダがレオンの視界から消えた。
どたっと言う音がしたので、きっとソファから転がり落ちたのだろう。
何するんスか、お前が退かないからだ、と言う弟達の遣り取りを聞きながら、レオンはネクタイを解いて、スーツをハンガーにかける。
「随分賑やかにしていたな。元気なのは良いが、テーブルとかに頭をぶつけないように気を付けろよ」
「スコールが暴れなきゃ大丈夫っスよ」
「お前がくっついて来なければ済む話だ」
お互いに責任を押し付け合うように言う弟達に、レオンはくすくすと笑う。
そんな兄を見て、スコールが唇を尖らせた。
「部屋に戻る」
「じゃあ俺も一緒に」
「あんたは来るな」
席を立ったスコールを追って立ち上がろうとしたティーダだったが、じろりと蒼に睨まれて、ぴたりと動きを止めた。
判り易く怒気を滲ませた鋭い眼光に、幼馴染も流石に怯んだようだ。
すたすたと足早にリビングを出て行こうとするスコールを、レオンが呼び止める。
「スコール、夕飯は食べたのか?」
「まだだ。作って置いてある。あんた、先に食べてくれ」
「お前は食べないのか」
「ティーダが帰ったら食べる」
「スコールぅ~っ」
けんもほろろなスコールに、ティーダが何とも情けない声で幼馴染を呼ぶ。
スコールは返事もしないまま、リビングのドアを開けた。
其処で、どんっ、と大きな塊にぶつかる。
一体何が、と鼻頭を押さえながら、眉根を寄せて顔を上げれば、黒髪に真っ黒に日焼けした肌と、熊のように大きな体躯をした男が立っていた。
ティーダの父親、ジェクトである。
「おっと。なんだ、スコールか」
「ジェクト……」
「うちの泣き虫がこっちに────いるな」
「げっ、親父!」
スポーツバッグを肩に担いでいるジェクトは、つい数時間前、海外での強化合宿を終えて帰宅した所だった。
自分の家に人気がないのを見て、いつものように幼馴染宅にいるのだろうと、荷物を置く事もせずに此方に来たようだ。
ティーダは、レオンが帰宅した時と違い、数週間ぶりの父の顔を見るなり、判り易く顔を顰めた。
ジェクトはそんな息子の表情を気に留めず、リビングを出て行こうとしているスコールに気付き、大きな体を退かして出入口を開けた。
「邪魔したな。ほら、行けよ」
「……ん」
「あ、ちょっ、スコール!待てって、俺も」
「さっきも言った。あんたは来るな」
慌ててスコールの後を追おうとしたティーダだったが、釘を刺されて、がっくりとソファの背凭れに倒れ込む。
その間にスコールはリビングを出て行ってしまった。
ジェクトはにやにやとした表情を浮かべて、ソファに突っ伏している息子に視線を移し、
「随分嫌われてんじゃねーか。今度は何やったんだ?」
「別に何もしてねーよ」
「何もしてねえのに嫌われたってか」
「嫌われてもねえっつの!」
ジェクトに揶揄われ、噛み付くように反論するティーダ。
ジェクトは判り易い反応を返す息子の様子に、くつくつと楽しそうに笑っている。
それが益々息子を煽り、ティーダもティーダで其処で無視が出来ないから、尚更父が助長してしまう。
またジェクトが何かを言おうとした時、キッチンからコーヒーを持って出てきたレオンが割り込んだ。
「ジェクト、その辺にして置いたらどうだ。ティーダも落ち付け」
「へーい」
「だって、レオン!」
「ほら、ティーダ。全員分のコーヒーを淹れたから、スコールに持って行ってくれ」
仲裁したレオンに、悪いのは親父なのに、と言おうとしたティーダだったが、差し出された二つのマグカップを見て動きが止まる。
マグカップの中のコーヒーは、ミルクを一杯と、砂糖を二杯入れた甘めのもので、弟達の為に用意されたものだ。
マリンブルーの瞳がぱち、ぱち、と数回瞬きをした後、兄代わりの男を見上げる。
柔らかい笑顔を浮かべる蒼灰色の瞳は、ティーダがよく知っているものとよく似ていて、少し違う。
ティーダは、自分がよく知る寂しがり屋の蒼を思い出して、レオンが差し出したマグカップを受け取り、席を立った。
マグカップで塞がった両手の代わりに、背中でリビングのドアを開けて、ティーダは部屋を出て行く───去り際、父にべぇっと舌を出してから。
リビングに残ったジェクトは、深々と溜息を吐いて、先程まで息子が落ち付いていたソファを陣取る。
レオンは、ジェクト用に入れた氷を浮かせたアイスコーヒーのグラスをローテーブルに置いて、ジェクトの隣に腰を下ろす。
「おう、サンキュ」
「ああ」
「悪いな、いつもうちのガキが世話かけてよ」
「別に構わないさ。ティーダも俺にとっては弟みたいなものだし」
レオンの言葉に、ジェクトはなら良いんだけどな、と呟いた後で、
「所で、スコールの奴は何を怒ってたんだ?どうせうちのガキが何かしたんだろうけどよ」
「いや……多分、原因は俺だろうな」
レオンの答えに、ジェクトは「あ?」と首を傾げる。
何があったのかと無言で問う視線を受けて、レオンは眉尻を下げて言った。
「俺の帰って来たタイミングが悪かった。そんな所だよ」
「……ふーん?」
多くは語らないレオンであったが、その情報だけで、ジェクトが理解を得るには十分であった。
髭を蓄えた口が、にやにやと悪戯を孕んだ笑みを浮かべるのを見て、レオンは口にしていたコーヒーカップを離し、
「言うなよ、ジェクト。スコールにまで拗ねられたら、俺の手に負えない」
「判ってる判ってる。でもよ、たまーに、突っついてやりたくなるんだよなあ」
「やめてくれ……」
どうしても息子を揶揄いたいジェクトに、レオンは溜息を吐いて抑制を頼む。
ジェクトは何かと息子を揶揄うが、それは決して悪意があってのものではない。
とは言え、スコールもティーダも共に17歳で、色々とデリケートな年齢なのだ。
父親に対して強い反発心や対抗意識を持ったり、自分の内面的な部分を他人に触れられる事を強く嫌悪したり、一度臍を曲げると中々折れなかったり。
拗ねた彼等を宥めるのは、案外と大変な事なのだと、昔から弟達の面倒を見て来たレオンはよく知っている。
だが、ジェクトがティーダを揶揄いたがる気持ちが、レオンにも判らない訳ではない。
幼い頃から気難しく、交友関係は決して広くはなく、親しい人間にも滅多に感情を剥き出しにする事がない弟、スコール。
そんな彼が今、判り易く感情を吐露する瞬間がどんな時なのか、レオンは判っていた。
その詳細について、本人から色々聞きたい気持ちはあるのだが、今はもう少し待つべきだ、と思う。
コーヒーを傾けるレオンの隣で、ジェクトは赤い双眸を細める。
その目は、先程までの悪戯の満ちたものとは違い、“父親”の気配が滲んでいる。
「ったく、一丁前に色気づきやがって」
「………」
「お前にしてみりゃ、大事な弟に悪い虫が着いたようなもんだろ?」
「……別に」
ジェクトの言葉に、レオンはくすりと笑って言った。
蒼い瞳には、ジェクトとよく似た、庇護する者を愛する光が浮かんでいた。
「ティーダの事はよく知ってる。素直な良い子だ。信頼してる」
「そう言ってくれるんなら、まあ、良いけどな」
ジェクトはソファの背凭れに寄り掛かり、肩越しに振り返って、閉じられたリビングのドアを見る。
弟も息子も、まだしばらく、此方へ戻って来る様子はない。
それを確かめて、ジェクトは隣に座っている青年の肩を抱いて、強い力で引き寄せた。
逞しい男の、丸太のように太い腕に抱かれて、レオンが目を瞬かせる。
数秒の遅れの後、自分の状況を知ったレオンは、赤い顔でジェクトの腕から逃げようともがき始めた。
「ちょ……ジェクト!」
「あん?」
「は、離れてくれ。スコール達が戻って来たら、」
「来てねえよ。だから大人しくしてろ」
じたばたと手足を暴れさせていたレオンだったが、太い腕の檻はびくともしない。
増してジェクトの体幹は、プロの格闘家と並べても劣らない程のものである。
幾らレオンの身体がそこそこ鍛えられていると言っても、敵う筈がなかった。
レオンはしばらく抵抗していたが、程無く諦めた。
やれやれ、と溜息を吐いて身体の力を抜きながら、頼むから今は戻って来ないでくれ、と自室にいるであろう弟と幼馴染の少年に願う。
体重を委ねたレオンの背中を、逞しい腕が抱く。
その温もりと力強さに、言い知れない安堵感を感じながら、レオンは罪悪感も抱いている。
「……ジェクト……」
「離さねえぞ」
「判ってる。でも……ティーダに、悪い……」
幼い頃に母を失くし、生まれて間もなかった弟を守り、男手一つで二人の息子を育てる父を支えてきたレオン。
早い段階で甘える事を止めた彼に、遅蒔きながら、「甘えて良い」と教えたのが、ジェクトだった。
確り者に見えて、その所為もあって何もかも背負ってしまい勝ちだったレオンだったが、ジェクトにだけは自分を預けて良いと思えるようになった。
それはレオンにとっても良い事だったし、肩の力が抜けるようになった事を、父と弟からも喜ばれた。
しかしレオンの脳裏には、昔から面倒を見て来た少年の、屈託のない笑顔が浮かんでいる。
弟と共に、物心つく以前から見ていた少年の唯一の肉親が、ジェクトだ。
そのジェクトを、彼から奪っているような気がしてならない。
瞼を緩く伏せたレオンの呟きに、ジェクトは口を噤んだ。
しばらくの静寂があって、────くしゃり、と大きな手がレオンの頭を撫で、強い力で抱き締められる。
「ジェク、」
「お前がンな事言ったら、俺はお前ら皆に悪いと思ってる」
「……?」
何の事だ、とレオンは顔を上げようとしたが、頭に添えられた手が力を籠めた所為で、出来なかった。
顔を見られたくないのかも知れない。
レオンは大人しく、ジェクトの胸に顔を埋め、じっとしていた。
「うちのバカが、お前とラグナが大事にしてるモンを取っちまって。俺は、ラグナからお前を取ろうとしてる」
「………」
「ラグナにとっちゃ、お前とスコールは宝物だ。良く知ってるからって、奪って良いモンじゃねえ」
ジェクトの言葉に、レオンは目を伏せる。
ラグナに対する、罪悪感や背徳感と言うものは、ずっと抱えている。
いつかは伝えようと思うけれど、伝えた時に反対される事、今のジェクトとの関係を否定される事が怖くて、レオンは切り出す事が出来なかった。
スコールとティーダが自分達の関係を隠したがるのも、きっと同じ気持ちがあるからだろう。
───それでも、とジェクトは言った。
レオンを抱く腕に力が篭って、けれどもその腕は優しい熱も持っていて、レオンは離れたくないと思う。
「……それでもな。俺は、お前を離したくはねえんだよ」
既知の友から、大切なものを奪おうとしている。
それはきっと、酷い裏切りなのだろうとジェクトも思う。
それでも、弱い心を押し隠して、一人で立ち続けようともがき続けていた青年を、ジェクトは放っておく事が出来なかった。
自分だけに伸ばされる甘える手を、今更手放す事は出来ない。
こうして自分が捕まえていなければ、いつか彼が知らない間に壊れてしまうような気がするから。
頭を押さえていた手から力が抜ける。
レオンが顔を上げると、ジェクトは明後日の方向を向いていたが、その耳が赤くなっている。
「………まあ、それに。なんだ。お前が母親なら、うちのガキも喜ぶだろ」
「……俺は母親にはなれないぞ。男だから」
茶化すように言ったジェクトに、レオンはくすりと笑った。
────熱いものが唇に触れる。
弟達は、まだ戻って来ない。
だからもう少しだけ、このままでいても良いだろう、とレオンは目を閉じた。
ジェクレオと言う超俺得+青春ティスコ。
ジェクレオは大人同士で色々切なかったり、じれったい事になりそうで萌える。
そんな脇で、ティスコもすったもんだしてると可愛い。
でもってラグナパパごめんね。でもラグナなら許してくれるんじゃないかと勝手に思ってる。泣きながら「うちの息子を幸せにしないと許さないからな!!」って息子達の意思を尊重してくれる筈。