日々ネタ粒

日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

  • Home
  • Login

日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

エントリー

[レオスコ]消えない傷痕

  • 2014/08/08 21:21
  • カテゴリー:FF


闘争の世界なのだから、傷なんてものは逐一気にしていたらキリがない。
近距離での戦闘を自分の持ち場としていれば尚更で、迫る敵との対峙は勿論、後方に控える仲間を庇う事も少なくない。
となれば、生傷なんてものは次から次へと作られるもので、それを一つ一つ丁寧に治療していたら、あっと言う間に魔力も薬も枯渇してしまう。

だと言うのに、レオンはスコールが怪我をする度、一つ一つに丁寧に治療魔法を施して行く。
無論、擦り剥いたとか打ち身程度の傷なら気にしないが、明らかに刃が掠めた痕だとか、火傷になりかけた皮膚の炎症は、スコールが何度言っても放って置かなかった。
魔力を回復する方法は、魔法薬に頼る以外には、自然な回復を待つしかない。
ティナやルーネスのような、魔法に秀でたタイプは比較的回復が早いようだが、レオンはそうではなかった。
どちらかといえばスコールと同じ、物理戦を得意とする彼の魔力は、貴重なものである。
戦術の一部としても活躍し、時に刃ともなるその魔力は、決して無駄遣いして良いものではないのだ。

────と、何度も言っているのに、今日もまた。


「スコール」


呼ぶ声に、スコールは判り易く不機嫌な顔をして振り返ってやった。
眉間に深い皺を刻んだ少年の顔を見て、レオンはぱちりと瞬き一つしたが、それ以上は気にしない。


「さっき、脇腹をやられただろう。見せてみろ」
「……特に問題はない。放って置いて良い」
「それは確認してから判断する。ほら」


レオンはスコールの腕を捕まえて引き寄せると、シャツの裾を捲った。
うわ、と引き攣った声を上げるスコールに構わず、レオンは赤黒く擦れたスコールの脇腹を見て、目を細める。

傷を作ったのは、義士が放った闘氣をまとった矢だ。
詰めた距離から放たれたそれを、スコールは寸での所でかわしたが、氣と風圧に皮膚を持って行かれた。
戦闘に支障が出る程の傷にはならなかったので、皮膚が引き攣る感覚は無視して、戦闘を続行していたのだが、やはり激しく動けば傷は広がるものである。
じっとりと赤い色を滲ませた皮膚に、今度はレオンの眉間に深い皺が刻まれた。

レオンの右手が傷に宛がわれる。
スコールはそれから逃れようと身を捩ったが、レオンの左腕が腰に回され、しっかりと捕まえられた。


「動くな、傷が開く」
「あんたは無闇に魔法を使うな!これ位、放って置けば塞がる!」


持って行かれた皮膚の幅が大きかった所為で、見た目には酷い傷に見えるが、肉を削がれた訳でもない。
初めこそ裂かれた皮膚の痛みがあったが、それももう終わった。
赤も大方固まっており、これ以上の出血はないだろう事が伺える。

しかし、レオンにはそんな事は関係なかった。
淡い光がレオンの手の中に生まれて、スコールの傷口を覆い隠して行く。

スコールが幾ら言っても、暴れても、レオンは治療が終わるまでスコールを離そうとしなかった。
体格も筋力もレオンに劣るスコールでは、力勝負で叶う筈がないのだ。
結局、スコールが眉間に深い皺を寄せ、レオンが気が済むのを待つ事になる。
そうしてようやく解放された頃には、脇腹にあった傷は、その痕すらも残されていなかった。


「よし」
「………」


満足したように頷いて、捲っていたシャツを戻すレオン。
スコールは違和感のなくなった脇腹に手を当てて、唇を尖らせていた。


「他に傷はないな?」
「……ん」
「ん?」


問いに小さく頷いたスコールであったが、そんなスコールを、レオンはまじまじと見詰める。


「……ない」
「そうか」


スコールの言葉を、信じているのか、いないのか。
読めない表情でレオンは頷いて、スコールに背を向け、歩き出す。

スコールは、レオンの背中を見詰めて歩いていた。
レオンは、後ろをついて来る気配には気付いているのだろうに、時折確認するように後ろを振り返ってスコールを見た。
まるで、小さな子供が迷子になってしまわないように確かめているようで、スコールは益々不機嫌になる。

レオンは、いつでもこんな調子だった。
彼の方が年上で、精神的にも余裕があるのは仕方がないとしよう────納得は出来ないが。
だが、だからと言って、あからさまに子供扱いされるのは、スコールのプライドが許さなかった。


「……レオン」


いい加減に、言ってやらねばなるまい。
そう思ったスコールが、遂に行動に移したのだから、レオンの此の行動は本当に長い間続いていた事が伺える。

呼ばれて振り返ったレオンが足を止めたので、スコールも立ち止まった。
どうした、と問い掛けるレオンの声は、心配の色が滲んでいる。
やはり何処か痛めていたのか、とでも言い出しそうな男を、スコールは眦を尖らせて睨む。


「いちいちこっちを振り返るな」
「…唐突だな」
「それと、俺が怪我をしたからって、一々治しに来るな」


固い口調で言ったスコールに、レオンの眉間に皺が寄せられる。

不機嫌な顔をした者同士で睨み合う。
いや、レオンは特に睨んでいるつもりはないだろう、眉間の皺とスコールの思い込みの所為でそう見えるだけだ。
そうして向き合っていると、お前らやっぱりよく似てるなー、と揶揄いに来るジタンとバッツは、今日はいない。


「俺は、あんたが思ってる程子供じゃない。あいつらと違って逸れる事もないし、少し傷を放って置いたって何ともない」
「………」
「だから、一々俺なんかに、魔力の無駄遣いとか、するな」


小さな女子供ではないのだと、スコールは言った。
傷一つで泣く事もないし、道に迷ったからと言って立ち尽くして泣き出す程幼くもない。
自分がするべき事も、その為になにをすべきかと言う事も、何を優先するべきかも、スコールは判っている。
それなのに、それらをまるで無視して子供扱いするレオンには、いい加減に業が煮える気分だった。

────が、レオンはしばらくきょとんとした表情を浮かべた後、


「……別に、そんなつもりはなかったんだが」


眉尻を下げ、スコールと同じ濃茶色の長い髪を掻いて呟いた。
蒼の瞳が言葉を探すように彷徨い、数秒の間が開く。


「お前は、放って置くと傷を隠すから、早い内に治した方が良いと思ったんだ」
「深い傷なら自分でちゃんと治療する」
「…悪いが、お前のその言葉は信用ならないな」


直ぐに意地を張るから、と苦笑して言うレオンに、スコールの眉間に深い皺が浮かぶ。
また子供扱いだ、と不機嫌を深めるスコールだったが、


「それに、俺が確かめたいんだ。お前の身体に、俺以外の痕はないんだって事を」


スコールの身体に刻まれる“痕”────それが傷痕であれ、何であれ、レオンは許せなかった。

日焼けを知らない白い肌は、痕が残ると殊更目立つ。
腫れて赤くなるのも、血の巡りが悪くなって内出血を起こすのも、実際の傷以上に際立って見える。
此処は闘争の世界で、スコールは傭兵なのだから、傷などあって当たり前のものであり、スコールの言う通り、一々気に留める方がどうかしていると言えるだろう。

それでも、レオンは許せなかったのだ。
額に刻まれた傷は仕方がないとして(自分にも同様のものもあるし)、他はどうしても許容する事が出来ない。


「お前の身体に、俺以外が触れた痕跡なんていらないから」


レオンの持ち上げた手が、指が、スコールの首筋を撫でる。
ジャケットのファーで見え隠れする微妙な位置に、赤い華が咲いている事を、スコールは知らない。
そして首の後ろには、微かに噛み付いた痕が残っている事も、彼は知らない。

レオンの言葉の意味を判じ兼ねたのだろう、スコールはぽかんとした表情でレオンを見上げていた。
そんなスコールの額に、レオンは徐に唇を寄せる。
ちゅ、と言う小さな音が聞こえて、スコールはようやく我に返った。


「ちょ……あんた、何して」
「……くく、」
「なんで笑ってるんだ」


睨むスコールを交わすように、レオンはくるりと踵を返す。
先を歩きだしたレオンに、スコールは眉間に深い皺を寄せて、後を追って歩き出した。

前を歩きながら、レオンは振り返らずに言う。


「スコール。俺は別に、お前を子供扱いしてはいないぞ」
「…嘘吐け」
「本当だ。嘘なら、あんな事をする筈がないだろう」


────あんな事。

何とは明言されていないその言葉に、スコールの顔が思わず赤くなる。
それを読んだように肩越しに振り返った蒼が、「何を思い出したんだ?」と笑って問うから、スコールの不機嫌は益々増した。





逐一スコールの傷を治すレオンを書いてみたら、過保護と独占欲まみれになった。
でもスコールの方も満更でもない。
  • この記事のURL

ページ移動

  • [8親子]今、此処にある幸せを抱いて
  • 記事一覧
  • [ラグスコ]プライベート・ワンタイム

ユーティリティ

2025年07月

日 月 火 水 木 金 土
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
  • 前の月
  • 次の月

カテゴリー

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

新着エントリー

[ヴァンスコ]インモラル・スモールワールド
2020/12/08 22:00
[シャンスコ]振替授業について
2020/11/08 22:00
[ジェクレオ]貴方と過ごす衣衣の
2020/10/09 21:00
[ティスコ]君と過ごす毎朝の
2020/10/08 21:00
[ジタスコ]朝の一時
2020/09/08 22:00

過去ログ

  • 2020年12月(1)
  • 2020年11月(1)
  • 2020年10月(2)
  • 2020年09月(1)
  • 2020年08月(18)
  • 2020年07月(2)
  • 2020年06月(3)
  • 2020年05月(1)
  • 2020年04月(1)
  • 2020年03月(1)
  • 2020年02月(2)
  • 2020年01月(1)
  • 2019年12月(1)
  • 2019年11月(1)
  • 2019年10月(3)
  • 2019年09月(1)
  • 2019年08月(23)
  • 2019年07月(1)
  • 2019年06月(2)
  • 2019年05月(1)
  • 2019年04月(1)
  • 2019年03月(1)
  • 2019年02月(2)
  • 2019年01月(1)
  • 2018年12月(1)
  • 2018年11月(2)
  • 2018年10月(3)
  • 2018年09月(1)
  • 2018年08月(24)
  • 2018年07月(1)
  • 2018年06月(3)
  • 2018年05月(1)
  • 2018年04月(1)
  • 2018年03月(1)
  • 2018年02月(6)
  • 2018年01月(3)
  • 2017年12月(5)
  • 2017年11月(1)
  • 2017年10月(4)
  • 2017年09月(2)
  • 2017年08月(18)
  • 2017年07月(5)
  • 2017年06月(1)
  • 2017年05月(1)
  • 2017年04月(1)
  • 2017年03月(5)
  • 2017年02月(2)
  • 2017年01月(2)
  • 2016年12月(2)
  • 2016年11月(1)
  • 2016年10月(4)
  • 2016年09月(1)
  • 2016年08月(12)
  • 2016年07月(12)
  • 2016年06月(1)
  • 2016年05月(2)
  • 2016年04月(1)
  • 2016年03月(3)
  • 2016年02月(14)
  • 2016年01月(2)
  • 2015年12月(4)
  • 2015年11月(1)
  • 2015年10月(3)
  • 2015年09月(1)
  • 2015年08月(7)
  • 2015年07月(3)
  • 2015年06月(1)
  • 2015年05月(3)
  • 2015年04月(2)
  • 2015年03月(2)
  • 2015年02月(2)
  • 2015年01月(2)
  • 2014年12月(6)
  • 2014年11月(1)
  • 2014年10月(3)
  • 2014年09月(3)
  • 2014年08月(16)
  • 2014年07月(2)
  • 2014年06月(3)
  • 2014年05月(1)
  • 2014年04月(3)
  • 2014年03月(9)
  • 2014年02月(9)
  • 2014年01月(4)
  • 2013年12月(7)
  • 2013年11月(3)
  • 2013年10月(9)
  • 2013年09月(1)
  • 2013年08月(11)
  • 2013年07月(6)
  • 2013年06月(8)
  • 2013年05月(1)
  • 2013年04月(1)
  • 2013年03月(7)
  • 2013年02月(12)
  • 2013年01月(10)
  • 2012年12月(10)
  • 2012年11月(3)
  • 2012年10月(13)
  • 2012年09月(10)
  • 2012年08月(8)
  • 2012年07月(7)
  • 2012年06月(9)
  • 2012年05月(28)
  • 2012年04月(27)
  • 2012年03月(13)
  • 2012年02月(21)
  • 2012年01月(23)
  • 2011年12月(20)

Feed

  • RSS1.0
  • RSS2.0
  • pagetop
  • 日々ネタ粒
  • login
  • Created by freo.
  • Template designed by wmks.