[ヴァンスコ]猫のポルカ
- 2014/12/08 22:18
- カテゴリー:FF
12月8日なので、現代パラレルでヴァン×スコールだと言い張る!
「スコール、ピアノ弾いてくれよ」
昼休憩に食事を終えると、ノート見せてくれよ、と言うトーンと全く同じ音調で、ヴァンは言う。
それを聞いた周囲の生徒達は、また恐れ多い事を、と言わんばかりの表情で、ヴァンとスコールを遠巻きに見つめていた。
スコールはその瞬間の、針の筵にいるような感覚が嫌いで、何も言わずにさっさと教室を出て行く。
その後をヴァンが躊躇わずについて来るのは、いつもの事だった。
────スコールは高校生で、プロのピアニストだ。
今年の春まで海外で生活しており、去年の夏まではプロとしてステージに立ち、鍵盤を弾いていた。
そんなスコールが、実に十年振りに母国に帰り、普通科の高校に編入したのには、訳がある。
スコールとヴァンは、幼い頃、同じ養護施設で暮らしていた。
その養護施設で、スコールは義姉と慕った少女を喜ばせようと弾いたピアノで、自身の才能を開花させた。
その後、スコールは七歳の時にスカウト同然の形で引き取られ、海外へと移ってしまう。
ヴァンとは手紙の遣り取りが長らく続いていたが、十五歳の時にスコールの方から返事が届かなくなり、二人の関係は疎遠になった。
その頃にはスコールは既にプロとして舞台に立っていたと言う話を聞いていた為、ヴァンはきっと仕事が忙しくなったのだろうと思ったが、真実は少し違っていた。
仕事が忙しく、筆を執る時間も減っていたのは確かだが、それ以上にスコールを蝕んでいたのは、生まれて初めてのスランプと言うものだった。
天才少年と誉めそやされた少年の、人生初のスランプを、周囲はしばらく静観していたが、スランプは一年以上も続き、このままではどうにもならないと判断した近親者は、一度ピアノの事をすっきりと忘れ、普通の少年として生活してはどうかと提案した。
スコールは初めは拒んだものの、幼い頃から変わらずに接してくれた義姉にも勧められ、ようやく鍵盤から離れる決意をし、母国の土を踏むに至る。
スコールが世界に名立たる天才ピアニストだと言う事は、母国でもよく知られていた。
ミーハーな少年少女達も、人伝いにその噂を聞き、転校初日には物見遊山でスコールの周りには人だかりが出来た。
しかし、生来からコミュニケーションに関しては全くの不得手である上、人嫌いのスコールである。
「ちょっと弾いてみて」と言う生徒達のリクエストを黙殺し続けている内に、好奇の目は次第に減り、代わりに「お高くとまった奴」と言う目で見られるようになった。
他人に構われる事が嫌いなスコールにとっては良い事だったが、唯一、ヴァンだけがスコールに構うのを止めなかった。
きっちりと制服を着込んだスコールと、ネクタイ所か襟下も緩め、シャツも崩してと言う格好のヴァンが並んで歩く光景は、最近はすっかり見慣れたものになった。
天才ピアニストと、マイペースで知られた少年が並んでいる事に、始めは目を丸くしていた生徒達も、今は呆れたように見守るだけだ。
その呆れた視線は、専らヴァンに向けられたものであったが、ヴァンはそれも気にしていない。
「なあなあ、スコール。この間の現国のテスト、どうだった?」
「……別に」
「いつもと一緒?良いよなあ。俺、赤点ギリギリだった。答えのプリント見たらさ、ちゃんと合ってるのに、バツにされてるんだ。なんでだろ」
不思議そうに首を傾げるヴァンを横目に見て、スコールは一度だけ見た事のある、ヴァンの答案用紙を思い出していた。
答案用紙に書かれた文字は、まるで暗号かと思うようなものであった。
スコールが見た時には、数学の答案用紙だった為、答えとなる数字を何とか読解する事が出来た───それも、幼馴染でヴァンの字癖を知っているからこそ出来た事だ───が、現国となるとそうは行くまい。
長々と書かれた長文の答えを解読するのを、教師が早々に諦めたのは、想像に難くない。
不満げに唇を尖らせるヴァンに、字の練習をしろ、とスコールは思った。
口に出して言わないのは、言った所で渋い顔が帰って来るだけなのが判るからだ。
階段を下りて行くスコールとヴァンの横を、女子生徒のグループが擦れ違う。
後ろの方で「噂の天才ピアニスト!」「見ちゃった!」等と言う声が聞こえて、スコールは眉根を寄せた。
その肩書きを聞くのもうんざりして、スコールは母国に帰って来たと言うのに、結局耳から離れない。
苛々とした表情で階段を下りる横で、ヴァンはいつもと変わらず、雑談を振って来る。
「うちのクラス、五時間目って化学なんだ。実験とかやらないかな」
「実験は先週したんだろう」
「そうだけど。ただ机に座ってカリカリ書いてるより、実験の方が面白いだろ」
スコールにしてみれば、机に座って書くのも、実験をするのも大差ない。
黒板に書いてあるものをノートに書き移して行くか、目の前で起きている事を書き記して行くかの違いだけだ。
ヴァンの話は取り留めもなく、定まりもなく続く。
「二時間目の体育でさ、バスケやったんだ」
「……で?」
「俺、シュート入った。凄いだろ?でも負けちゃったんだよな」
惜しかったのに、と言うヴァンに、ふぅん、とスコールは気もそぞろな返事だ。
聞いているのかいないのか判らない反応も、ヴァンは気にせず話し続ける。
そうしている内に辿り着いた教室の前で、スコールは足を止めた。
鍵の具合を確認する為、扉の取っ手を軽く弾いてみると、抵抗なく隙間が開く。
これ幸いと、スコールが教室へ入ると、ヴァンも後ろをついて中に入る。
扉を閉めれば、昼休憩の喧騒すらも遠くなる其処は、音楽室だ。
確りとした防音の壁と、二重窓で閉じられたこの教室は、音楽の授業以外では余り使われる機会がなかった。
この学校のブラスバンド部は、活動にはあまり積極的ではないらしく、週に二回の放課後に練習が行われるのみであった。
ヴァンは今までその事を気にした事もなかったが、スコールが転校して来てからは、これで良かったのだと思っている。
「静かだよなぁ、此処」
「…防音が効いてるからな」
喚起の為か、空いていた窓をスコールは全て閉めて行く。
それに倣って、ヴァンも窓を一つ一つ閉め、鍵をかけた。
全ての窓を閉め終わると、外の喧騒は全く聞こえなくなり、閉じた世界に二人きりになる。
ヴァンが壁際に立てかけ並べてあるパイプ椅子を運び出している間に、スコールの足は教卓の横に置かれたグランドピアノへと向かった。
「スコールって、昔から静かな所が好きだよな」
「煩いのが嫌いなんだ」
「俺は嫌いじゃないけど。でも、静かな所も好きだな」
「…あんたは場所に好き嫌いなんてないだろ」
スコールはピアノの蓋を開け、椅子に座った。
目の前に並ぶ音の階段に、適当に指を置くと、ぽーん……と音が鳴る。
スコールの脳裏に、嘗てこの鍵盤の上で絶え間なく動いていた自分の指が思い出された。
その形をなぞろうと、手を鍵盤に置いてみるが、それきり、体は動かない。
─────天才ピアニストと謡われた少年は、ある時から全くピアノが弾けなくなった。
流麗に滑っていた指は、始めはぎこちなく惑うようになり、次第にそれは悪化し、遂には一指と揺れる事がなくなったのだ。
周囲はこれに驚いたが、最も困惑していたのはスコールだ。
ピアノだけが自分の拠り所であったと言っても過言ではないスコールにとって、それを弾く手を失う事は、自分の存在理由を失うも同然である。
何とか早い復帰をと、無理矢理ピアノを弾こうとした事もあったが、改善の兆しはなく、去年の夏には遂に舞台に立つ事も、その場所に向かう事も出来なくなった。
義姉や信頼の置ける人々から勧められた母国での生活でも、スコールは思うようにピアノを弾く事が出来ない。
そんな自分を思い知る度、スコールは自分の心の空虚が広がって行くような気がしていた。
だから───生来の人嫌いもあるけれど───同級生達の「ピアノを弾いて」と言う言葉を黙殺するしかなかったのだ。
……しかし、何故だろうか。
スコールにもよく判らなかったが、母国に帰って来て、一つだけ判った事がある。
「……それで、何を弾けば良い?」
「いつもの奴」
「…そればっかりだな」
「だって俺、それしか知らないもん」
ヴァンの言う“いつもの奴”とは、スコールが幼い頃、初めて義姉とヴァンの前で披露した曲の事だ。
当時、引っ込み思案だったスコールと親しくしてくれたのは、姉とヴァンくらいのものだった。
その姉に喜んで貰おうと、こっそり練習した曲を、姉だけでなく仲の良いヴァンにも聞いて貰いたいと思い、発表の場に誘った。
ヴァンが知っているスコールのピアノの音は、あの頃から変わっていない。
姉に喜んで貰う為、一生懸命に頑張って、緊張しながら弾いた曲────それがヴァンの“スコールのピアノ”だった。
スコールはもう一度、両手を鍵盤の上に置いた。
今まで動く気配を見せなかった指が動き、ぽぽ、ぽん、ぽん、ぽん、と単音が鳴る。
それは次第に音層を重ねて行き、楽しげなリズムを刻んで、スコールの指が鍵盤を跳ねる。
「それ、なんてタイトルだったっけ」
パイプ椅子に逆向きに座って、ヴァンが問う。
スコールはピアノを弾く手を止めないまま、答えた。
「“Kissanpolkka”」
ああ、そうだ、とヴァンは言う。
しかし、明日になってもヴァンはきっと「いつもの奴」と言うだろう。
幼い頃も彼は、スコールにピアノを強請る時、「いつもの奴」と言っていたから。
ピアノを弾きながら、スコールはちらりと見詰める幼馴染に目を遣った。
彼はスコールのピアノに合わせて体を揺らしながら、誰もが知っている歌を歌っている。
幼い頃と変わらないその光景に、スコールは知らず知らず、口元を緩めていた。
12月8日なので、ヴァンスコ!
天才ピアニストなスコールと、幼馴染のヴァンでした。
色々ストレスが溜まってスランプになったスコールだけど、ヴァンの前だけなら弾けると言う設定(言わないと判らない)。
オフ用に考えていた話なので、色々とごちゃごちゃした背景設定とかがあったりする……しかも本筋はヴァンスコよりもティダスコメインと言う……
いつかきちんと書けたら良いなと思ってます。そんなのばっかりだな!
Kissanpolkka=猫のマーチ=猫ふんじゃった
「スコール、ピアノ弾いてくれよ」
昼休憩に食事を終えると、ノート見せてくれよ、と言うトーンと全く同じ音調で、ヴァンは言う。
それを聞いた周囲の生徒達は、また恐れ多い事を、と言わんばかりの表情で、ヴァンとスコールを遠巻きに見つめていた。
スコールはその瞬間の、針の筵にいるような感覚が嫌いで、何も言わずにさっさと教室を出て行く。
その後をヴァンが躊躇わずについて来るのは、いつもの事だった。
────スコールは高校生で、プロのピアニストだ。
今年の春まで海外で生活しており、去年の夏まではプロとしてステージに立ち、鍵盤を弾いていた。
そんなスコールが、実に十年振りに母国に帰り、普通科の高校に編入したのには、訳がある。
スコールとヴァンは、幼い頃、同じ養護施設で暮らしていた。
その養護施設で、スコールは義姉と慕った少女を喜ばせようと弾いたピアノで、自身の才能を開花させた。
その後、スコールは七歳の時にスカウト同然の形で引き取られ、海外へと移ってしまう。
ヴァンとは手紙の遣り取りが長らく続いていたが、十五歳の時にスコールの方から返事が届かなくなり、二人の関係は疎遠になった。
その頃にはスコールは既にプロとして舞台に立っていたと言う話を聞いていた為、ヴァンはきっと仕事が忙しくなったのだろうと思ったが、真実は少し違っていた。
仕事が忙しく、筆を執る時間も減っていたのは確かだが、それ以上にスコールを蝕んでいたのは、生まれて初めてのスランプと言うものだった。
天才少年と誉めそやされた少年の、人生初のスランプを、周囲はしばらく静観していたが、スランプは一年以上も続き、このままではどうにもならないと判断した近親者は、一度ピアノの事をすっきりと忘れ、普通の少年として生活してはどうかと提案した。
スコールは初めは拒んだものの、幼い頃から変わらずに接してくれた義姉にも勧められ、ようやく鍵盤から離れる決意をし、母国の土を踏むに至る。
スコールが世界に名立たる天才ピアニストだと言う事は、母国でもよく知られていた。
ミーハーな少年少女達も、人伝いにその噂を聞き、転校初日には物見遊山でスコールの周りには人だかりが出来た。
しかし、生来からコミュニケーションに関しては全くの不得手である上、人嫌いのスコールである。
「ちょっと弾いてみて」と言う生徒達のリクエストを黙殺し続けている内に、好奇の目は次第に減り、代わりに「お高くとまった奴」と言う目で見られるようになった。
他人に構われる事が嫌いなスコールにとっては良い事だったが、唯一、ヴァンだけがスコールに構うのを止めなかった。
きっちりと制服を着込んだスコールと、ネクタイ所か襟下も緩め、シャツも崩してと言う格好のヴァンが並んで歩く光景は、最近はすっかり見慣れたものになった。
天才ピアニストと、マイペースで知られた少年が並んでいる事に、始めは目を丸くしていた生徒達も、今は呆れたように見守るだけだ。
その呆れた視線は、専らヴァンに向けられたものであったが、ヴァンはそれも気にしていない。
「なあなあ、スコール。この間の現国のテスト、どうだった?」
「……別に」
「いつもと一緒?良いよなあ。俺、赤点ギリギリだった。答えのプリント見たらさ、ちゃんと合ってるのに、バツにされてるんだ。なんでだろ」
不思議そうに首を傾げるヴァンを横目に見て、スコールは一度だけ見た事のある、ヴァンの答案用紙を思い出していた。
答案用紙に書かれた文字は、まるで暗号かと思うようなものであった。
スコールが見た時には、数学の答案用紙だった為、答えとなる数字を何とか読解する事が出来た───それも、幼馴染でヴァンの字癖を知っているからこそ出来た事だ───が、現国となるとそうは行くまい。
長々と書かれた長文の答えを解読するのを、教師が早々に諦めたのは、想像に難くない。
不満げに唇を尖らせるヴァンに、字の練習をしろ、とスコールは思った。
口に出して言わないのは、言った所で渋い顔が帰って来るだけなのが判るからだ。
階段を下りて行くスコールとヴァンの横を、女子生徒のグループが擦れ違う。
後ろの方で「噂の天才ピアニスト!」「見ちゃった!」等と言う声が聞こえて、スコールは眉根を寄せた。
その肩書きを聞くのもうんざりして、スコールは母国に帰って来たと言うのに、結局耳から離れない。
苛々とした表情で階段を下りる横で、ヴァンはいつもと変わらず、雑談を振って来る。
「うちのクラス、五時間目って化学なんだ。実験とかやらないかな」
「実験は先週したんだろう」
「そうだけど。ただ机に座ってカリカリ書いてるより、実験の方が面白いだろ」
スコールにしてみれば、机に座って書くのも、実験をするのも大差ない。
黒板に書いてあるものをノートに書き移して行くか、目の前で起きている事を書き記して行くかの違いだけだ。
ヴァンの話は取り留めもなく、定まりもなく続く。
「二時間目の体育でさ、バスケやったんだ」
「……で?」
「俺、シュート入った。凄いだろ?でも負けちゃったんだよな」
惜しかったのに、と言うヴァンに、ふぅん、とスコールは気もそぞろな返事だ。
聞いているのかいないのか判らない反応も、ヴァンは気にせず話し続ける。
そうしている内に辿り着いた教室の前で、スコールは足を止めた。
鍵の具合を確認する為、扉の取っ手を軽く弾いてみると、抵抗なく隙間が開く。
これ幸いと、スコールが教室へ入ると、ヴァンも後ろをついて中に入る。
扉を閉めれば、昼休憩の喧騒すらも遠くなる其処は、音楽室だ。
確りとした防音の壁と、二重窓で閉じられたこの教室は、音楽の授業以外では余り使われる機会がなかった。
この学校のブラスバンド部は、活動にはあまり積極的ではないらしく、週に二回の放課後に練習が行われるのみであった。
ヴァンは今までその事を気にした事もなかったが、スコールが転校して来てからは、これで良かったのだと思っている。
「静かだよなぁ、此処」
「…防音が効いてるからな」
喚起の為か、空いていた窓をスコールは全て閉めて行く。
それに倣って、ヴァンも窓を一つ一つ閉め、鍵をかけた。
全ての窓を閉め終わると、外の喧騒は全く聞こえなくなり、閉じた世界に二人きりになる。
ヴァンが壁際に立てかけ並べてあるパイプ椅子を運び出している間に、スコールの足は教卓の横に置かれたグランドピアノへと向かった。
「スコールって、昔から静かな所が好きだよな」
「煩いのが嫌いなんだ」
「俺は嫌いじゃないけど。でも、静かな所も好きだな」
「…あんたは場所に好き嫌いなんてないだろ」
スコールはピアノの蓋を開け、椅子に座った。
目の前に並ぶ音の階段に、適当に指を置くと、ぽーん……と音が鳴る。
スコールの脳裏に、嘗てこの鍵盤の上で絶え間なく動いていた自分の指が思い出された。
その形をなぞろうと、手を鍵盤に置いてみるが、それきり、体は動かない。
─────天才ピアニストと謡われた少年は、ある時から全くピアノが弾けなくなった。
流麗に滑っていた指は、始めはぎこちなく惑うようになり、次第にそれは悪化し、遂には一指と揺れる事がなくなったのだ。
周囲はこれに驚いたが、最も困惑していたのはスコールだ。
ピアノだけが自分の拠り所であったと言っても過言ではないスコールにとって、それを弾く手を失う事は、自分の存在理由を失うも同然である。
何とか早い復帰をと、無理矢理ピアノを弾こうとした事もあったが、改善の兆しはなく、去年の夏には遂に舞台に立つ事も、その場所に向かう事も出来なくなった。
義姉や信頼の置ける人々から勧められた母国での生活でも、スコールは思うようにピアノを弾く事が出来ない。
そんな自分を思い知る度、スコールは自分の心の空虚が広がって行くような気がしていた。
だから───生来の人嫌いもあるけれど───同級生達の「ピアノを弾いて」と言う言葉を黙殺するしかなかったのだ。
……しかし、何故だろうか。
スコールにもよく判らなかったが、母国に帰って来て、一つだけ判った事がある。
「……それで、何を弾けば良い?」
「いつもの奴」
「…そればっかりだな」
「だって俺、それしか知らないもん」
ヴァンの言う“いつもの奴”とは、スコールが幼い頃、初めて義姉とヴァンの前で披露した曲の事だ。
当時、引っ込み思案だったスコールと親しくしてくれたのは、姉とヴァンくらいのものだった。
その姉に喜んで貰おうと、こっそり練習した曲を、姉だけでなく仲の良いヴァンにも聞いて貰いたいと思い、発表の場に誘った。
ヴァンが知っているスコールのピアノの音は、あの頃から変わっていない。
姉に喜んで貰う為、一生懸命に頑張って、緊張しながら弾いた曲────それがヴァンの“スコールのピアノ”だった。
スコールはもう一度、両手を鍵盤の上に置いた。
今まで動く気配を見せなかった指が動き、ぽぽ、ぽん、ぽん、ぽん、と単音が鳴る。
それは次第に音層を重ねて行き、楽しげなリズムを刻んで、スコールの指が鍵盤を跳ねる。
「それ、なんてタイトルだったっけ」
パイプ椅子に逆向きに座って、ヴァンが問う。
スコールはピアノを弾く手を止めないまま、答えた。
「“Kissanpolkka”」
ああ、そうだ、とヴァンは言う。
しかし、明日になってもヴァンはきっと「いつもの奴」と言うだろう。
幼い頃も彼は、スコールにピアノを強請る時、「いつもの奴」と言っていたから。
ピアノを弾きながら、スコールはちらりと見詰める幼馴染に目を遣った。
彼はスコールのピアノに合わせて体を揺らしながら、誰もが知っている歌を歌っている。
幼い頃と変わらないその光景に、スコールは知らず知らず、口元を緩めていた。
12月8日なので、ヴァンスコ!
天才ピアニストなスコールと、幼馴染のヴァンでした。
色々ストレスが溜まってスランプになったスコールだけど、ヴァンの前だけなら弾けると言う設定(言わないと判らない)。
オフ用に考えていた話なので、色々とごちゃごちゃした背景設定とかがあったりする……しかも本筋はヴァンスコよりもティダスコメインと言う……
いつかきちんと書けたら良いなと思ってます。そんなのばっかりだな!
Kissanpolkka=猫のマーチ=猫ふんじゃった