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[サイスコ]一方通行不可

  • 2017/08/08 20:25
  • カテゴリー:FF


好き、と言う感情が、よく判らない。

誰かを好きと思う事と、犬や猫を好きと思う事の違いは、なんとなく判る。
判るが、それを理性的に理屈で説明しろと言われると、非常に面倒臭い事になる。
それでもカテゴリで区別すれば全く違う箱に入れられるのは、判る。

判るが、判らない。
スコールにとって、誰かを“好き”と思う事は、そう言う事だった。

何かと強く繋がりを持つことで、その対象に傾倒し依存して行く事を、スコールは良しとしない。
他者がそうであるならば、自分に火の粉さえかからなければ好きにすれば良いと思うが、自分自身がそうした傾向を持つ事を、彼は決して許す事が出来なかった。
それは、埋もれてしまった記憶の中で、幼い時分に自分が姉に対して強く依存していた事と、それでいて彼女を失った事によるショックが大きかった所為に他ならない。
自分が泣き虫で何も出来ないから、姉は自分の事が嫌いになっていなくなったのだと、だから弱い自分から脱却する為にも、“自分一人の力で生きて行ける”───“何者にも頼る必要のない強い自分”を求めた。
だから、誰かに依存する事を少なからず含む、他者を“好き”と思う感情を、彼は自身の中に有する許容を持つことが出来なかったのだ。
その内に年齢を重ね、記憶は埋もれ、感情のみが残り、そこから枝を生やした極端な排他意識ばかりが値を増やして行いき、今に至る。

だと言うのに、突然、好きだったんだと言われても、困るのだ。
それを終生のライバルである筈の男から言われたら、尚更。

その言葉を聞いて以来、スコールはサイファーから逃げている。
彼を避ける事は、挑まれた勝負から逃げているようで業腹であったが、逢う度に何処か熱の籠った瞳で見られているような気がして、どうすれば良いのか判らず、踵を返してしまう。
その都度、逃げるな、と声を大きくされて、逃げるんじゃない、忙しいんだと言い返した。
実際スコールが忙しいのも確かであり、サイファーばかりを相手にしていられない事も事実。
だが、いつまでもそんな言い訳が通じる相手ではない事は、判っていた。

サイファーは短気に見えて存外と気が長い所がある。
他者の都合によって自分が待たされるのは嫌いだが、待つと決めれば腰を据える事が出来た。
今回は、スコールが自分を避ける原因に、自分の行動がある事は判っていたのだろう。
そしてスコールが混乱して逃げ回る事も、概ね予想していたに違いない。
だからスコールが向き合う事を避け、忙しさに感けて自分を無視する事も、当面は許容していたのだ───当面は。

しかし、そろそろ限界が来たのだろう。
魔女戦争後、指揮官用の執務室として誂えられた部屋の隅で、サイファーはスコールを追い詰めていた。


「そろそろ返事聞かせてくれても良いんじゃねえか?」
「……任務に関する質問なら、さっき答えただろ」


そうじゃねえよ、とサイファーは眉間の皺を深くして言った。
だろうな、とスコールは胸中で返す。

スコールは、壁とサイファーの躯に挟まれ、身動きが出来なくなっていた。
体を押し退けようとした腕は、その前に両手首とも捕まえられてしまい、壁に縫い付けられている。
腹を蹴ってみたが、びくともしなかったのが実に腹立たしい。
純粋な力勝負となると、この男に適わない事実も、また悔しかった。
力にアルテマをジャンクションしようか、と少々物騒な事を考える。

傍目に見て、この状況はどういう理由の末に成り立った物に見えるのだろう。
指揮官を壁際に追い詰め、拘束している、指揮官補佐代理。
その指揮官補佐代理は、魔女戦争の折にはスコールと繰り返し対決しており、命を削り合った相手である。
幼馴染の面々から見れば、それはそれで今は今、と言う認識であるのだが、サイファーの事をよく知らない───傍若無人の風紀委員であるとか、魔女の尖兵であるとか───者から見れば、非常に不穏な光景に見えるに違いない。
其処から妙な噂話でも立てられたら、折角シドやイデアが苦心してもぎ取った“更生期間”が無駄になってしまう。

その辺りの事は判っているのだろうな、とスコールが無言で睨んでいると、サイファーがずいっと顔を近付けて来た。
鼻先が触れそうな程の距離に、スコールは思わず頭を後ろへ持って行くが、直ぐに壁に当たって行き止まる。


「おい、近い。暑苦しい」
「ご挨拶だな。こうでもしないと、お前、こっち見ねえだろ」
「…こんな事してまで、あんたを見なきゃいけない理由がない」
「ない事ねえだろ」


判っているだろう、と翡翠の瞳が言外に告げている。
それを読み取ってしまう自分が面倒で、スコールは知らない振りをした。

視線を執務机の方へ向けて、溜まっている書類を気にしていると、


「おいコラ。無視すんな」
「……」
「キスするぞ」
「は!?」


思いも寄らぬサイファーの言葉に、スコールは思わず大きな声を上げた。
となれば、「聞こえてんじゃねえか」としたり顔をされて、くそ、と反応してしまった自分に毒吐く。
こう言う時は、何もかも聞こえない見えない振りをして流すのが得策だったと言うのに。


「まあ、無視してるつもりなら、それでも良いけどな。キスするから」
「するな!離せ!ふざけるのもいい加減にしろ!」
「ふざけて野郎にキスなんかするかよ」
「嫌がらせにしそうだ、あんたは」
「馬鹿。キスってのはロマンティックなもんなんだぜ。それで嫌がらせなんざ、それこそふざけてんだろ」


至極真面目な顔で、キスの特別性を語るサイファーに、だったら尚更嫌だ、とスコールは思う。

サイファーにとってキスが特別なものなら、それをする相手、したいと思う相手は、当然特別なものになる。
粗暴な見た目や言動に反して、ロマンチストな彼だから、その重要性は一入と言うものだろう。
同時に、サイファーがそれを“したい”と思う相手がどういう意味を持つのかも、判ると言うもの。

スコールは腕に力を入れ、身体を捩って、拘束する手に抵抗を示す。
歯を噛んで鬼気迫る表情を浮かべるスコールを、サイファーは捕まえる手の力は一切緩めないまま、じっと見詰めていた。


「お前な。そんなに嫌か」
「当たり前だ。誰があんたなんかとキスしたいと思うんだ」


剣を向け、命を殺ぎ合い、こいつにだけは負けたくないと思う事はあっても、口付け合いたいなんて思う訳がない。
スコールはきっぱりとそう言ったが、


「だったら、本気で抵抗すりゃ良いだろ」
「してる。あんたがバカ力なだけで────」
「ほーお?」


ずい、とまたサイファーが顔を近付けてくる。
鼻先どころか、唇が触れ合いそうな程の距離で、お互いの呼吸が微かに唇の縁をくすぐった。
スコールは、触れていないと思っているのは自分だけで、実は既に重なっているのではないか、とそんな錯覚を感じる程に距離が近い。

間近に迫った碧眼が、にやにやと楽しそうに笑っているのが判る。
その顔は、勝負をしている時、己の勝ちを確信してスコールを挑発して来る時に見せるものと同じだった。
それを見ると、スコールの内に秘める、対サイファーに過度に反応する負けず嫌いが疼く。


「こんなもんがお前の本気の抵抗か?」
「……何が言いたい?」
「判ってんだろ?」


含みばかりのサイファーの言葉に、スコールの眉間の皺が深くなる。

笑みを孕んでいた男の顔が、ふと消えて、強い意志を宿した瞳が、真っ直ぐにスコールを射抜く。
その瞬間、どくん、と心臓が跳ねたのをスコールは聞いた。


「教師相手みてえに、いい子ぶる必要なんかねえんだ。嫌なら嫌って言えば良い」
「……」
「それも言わねえで、だらだら逃げ回ってんのは、どう言う訳だ?」


指摘する言葉に、スコールはひっそりと奥歯を噛んだ。
蒼灰色の瞳が逸らされ、何もない床を睨むように見詰める。

────サイファーの言う事は最もだ。
相手がリノアやセルフィ、キスティスや、名前を憶えているかどうかも怪しい女子生徒ならいざ知らず、スコールが何某かの答えと、それを適切に表現する事が出来る言葉を探すまで、ずるずると引き伸ばしていても可笑しくない。
仮に相手が教師や目上の人間なら、面倒を嫌い、角を立てない方法を探して、早い内に決着を着けようとするだろう。
こういう事は、変に返事を引き伸ばし、期待を持たせるような期間を作る方が、反って面倒を起こすものなのだから。
しかし今回のスコールの相手はサイファーであり、話を長引かせるような必要もなければ、相手を慮って言葉を探すような期間も必要ない。
何せサイファーなのだから、切って捨てるのは簡単だ。
それでサイファーが激昂するようなら、剣の勝負にでも雪崩れ込んで、実力で黙らせる事だって出来るだろう。
遠慮も気兼ねもいらない相手だと判っているから、スコールが結論を出し、それを口にする事について、こうまで時間を必要とする事はない。

それなのにスコールがいつまでも逃げ回るのみで、明確な答えを避け続けていると言う事は、


「お前も俺に気があるんだろ」
「!?」


スコールの感情を代弁するかのようなサイファーの台詞に、スコールは目を丸くする。
バカな事を、と言いかけた唇に、サイファーのそれがやや強引に重ねられた。

蒼の瞳が零れんばかりに見開かれるのを、サイファーは至近距離で見ていた。
捕まえていた腕が、思い出したように抵抗を示す。
うーうーと唸る声も無視して、サイファーはスコールが静かになるまで、キスを続けた。

段々と酸素不足で抗う力を失うスコールに、サイファーはこっそりと笑みに目を細める。
ゆっくりと唇を開放すれば、はあっ、と不足した酸素を思い切り吸い込みながら、スコールはずるずるとその場に座り込む。


「ほら見ろ」
「……何が…」
「嫌じゃなかったんだろ」
「………」


サイファーの言葉に、スコールはまた眼を逸らす。
触れた感触の消えない唇に手の甲を当てて、スコールはぎりぎりと歯を噛んだ。

噛みつこうと思えば噛みつけた。
振り払おうと思えば出来た。
拘束する腕の力は強かったけれど、ジャンクションをすれば意外と簡単に逃げられたのだと言う事を、スコールはわかっている。

スコールの腕を掴んでいた手が離れ、くしゃくしゃと濃茶色の髪が掻き回すように撫でられる。
蹲って立てた膝に顔を伏せるスコールは、隠しきれない耳まで赤くなっていた。



何が理由で、そんなにも自分の気持ちを否定しようとしていたのかは判らない。
戸惑いと、混乱と、記憶の淵に埋もれた怯える感情と、どれが一番大きかったのかも判らない。
こんな感情が、いつから自分の中にあったのかも、何も。

目の前の男は、いつからこんな感情を抱いていたのだろう。
聞けばあっさり答えてくれそうなのが、自分との対比になるようで、それも酷く悔しい気がした。





『サイスコで好きだと自覚してからお付き合いするまでの話』のリクエストを頂きました。

こいつが好きだなんて認めたくない!って自覚してからひたすら否定の為に逃げ回るスコールが浮かんだ。
最終的に捕まって逃げ場を失くして、否応なく認めさせられる(嫌ではない)。
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