[スコスコ]スツール・エン・ダンス
- 2017/08/08 21:00
- カテゴリー:FF
アナザースコール(指揮官衣装)×ノーマルスコールです。
ドッペルゲンガーを見ているようで、酷く気分が悪かった。
単純にそれに等しいものであれば、他のイミテーションと同じように屠れば終わる話だったのだが、そうも行かなかった。
それが想像していた以上に強かったと言う誤算もあるが、それが自分と同じように喋り動くのだから、此方のペースが崩される。
饒舌とまでは言わずとも、自分よりも口が回りそうなのも腹が立つ。
そして、何よりスコールの苛立ちを煽るのは、その井出達だ。
姿形が自分とそっくり、鉱石じみたイミテーションと違って肌から髪から顔パーツまで色を再現している事は勿論だが、その癖、違う衣服を身にまとっているのが癪に触った。
この世界に召喚されてから随分と経つが、スコールはあまり衣服の種類を持っていない。
平時から来ているファー付きのジャケットの他は、何処で着用していたのだったか───自分のものである事に間違いはない筈だが───黒のノースリーブのシャツ位のもの。
休息時に着るラフな服も幾つかあるので、それらをローテーションさせれば、生活に置いて特に困る事はなかった。
だから、元の世界で着れる事を目指していた服がない事も、特に気にしてはいなかった。
バラムガーデンに所属するものだけが獲得できる称号、SeeD。
正式にその名を持つ事を許された者だけが着る事が許される、制服────通称SeeD服。
それを、まさか自分そっくりのイミテーションが着ているだなんて、業腹だ。
スコールにとって不幸中の幸いと言えるのは、このイミテーションが混沌の駒だと言う事だ。
他の戦士に使われているのか、混沌の神に“戦士”として召喚されたのかは知らないが、スコールはそれについては深く気にしていない。
彼の出生等と言うものは、屠ってしまえば意味のないものなのだから。
ジタンとバッツと共に斥候に出たスコールを、混沌の大陸への道筋で迎えたのが、SeeD服を着たイミテーションのスコールだった。
彼との遭遇は非常に厄介であったが、スコールは構わず剣を構える。
傍らに魔女か皇帝でもいれば違うが、彼は単独で現れた時、スコール以外には露とも興味を示さない。
今日も単独現れたイミテーションは、通例の如く構えた剣をスコールへと向けた。
この相手に限っては、スコールも売られた喧嘩を買わない理由はなく、寧ろ一刻でも早く自分のドッペルゲンガーもどきを消したいのが本音であった。
だからこれも通例の如く、スコールはジタンとバッツに斥候任務を続けるように指示して、自身はその場に残って剣を握った。
イミテーションは、実力までそっくりスコールを鏡にしていた。
冷静に打ち合えばいつまでも鍔迫り合いが続き、思考も同じなのか、攻めるタイミングも退くタイミングも重なる。
となれば先手を打ちながら相手の行動の先の先の先を読むのが勝利の鍵となるが、それもお互いに同じ事を考えているのだろう。
裏を掻き、その裏を掻き、そのまた裏を────と繰り返される読み合いは、何度重ねられても、決着まで辿り着かない。
こうなってくると、勝負の差は精神面から縺れて来る。
余裕を見せているのは、癪な事に、イミテーションの方だった。
元々スコールは、このイミテーションと対峙する度に、苛立ちを募らせていた。
自分とそっくりの形、SeeD服を着ている事、加えて常に何処か余裕を滲ませた表情を浮かべている事。
一つ一つの気に入らない事が積み重なり、今では自分と同じガンブレードを持っている事すらも腹立たしくて仕方がない。
武器の形なんてものは、他の鉱石じみたイミテーションも同じ事なのだが、こと目の前のイミテーションに対する苛立ちは、有象無象の比ではなかった。
そうしたスコールの苛立ちは、心の何処かで、焦燥にもなっていたのだろう。
先んじたつもりの一手が、勇み足であった事に気付いた時には、既に遅かった。
「貰った!」
「!!」
喜々すら滲ませたような表情で、イミテーションはスコールの剣を打ち上げた。
強い力で弾かれたガンブレードに響いた振動が、スコールの手を痺れさせる。
緩んだ力から逃げるようにガンブレードが宙に舞い、弧を描き、イミテーションの後方数メートルの場所へと突き刺さった。
しまった、と自分の状況を把握したと同時に、肩からの当て身を食らって後ろに吹き飛ぶ。
受け身も取れずに地面を転がったと思ったら、その体を捕まえられて、地面に背中を押し付けられた。
重石が腹の上に乗った直後、目の前に閃いた銀色に、死ぬ、と確信する。
────しかし、銀色はスコールを貫く事はなく、ガキンッ、と固い岩盤にぶつかった音を立てて、イミテーションのガンブレードは、スコールの顔のすぐ横に突き立てられていた。
「……っ!」
間一髪の所で生き延びた事は理解する。
同時に混乱も襲った。
マウントを取ったこの状態で、この距離で、最後の一撃を外すなど、絶対に有り得ない。
意図的でなければ起きない事だと、スコールは眉根を寄せて、腹に乗る男────SeeD服のドッペルゲンガーを睨んだ。
腹に乗る重石は勿論の事、その体重はスコールの両腕も捉えていた。
片足の裏でスコールの右腕を踏み、左腕は逆の足の膝で押さえ付けている。
しっかりと部位を捕えて押さえ付けている為、スコールは体を起こす事も出来ない。
「…何のつもりだ…!」
闘志と敵意を失わない瞳で、スコールはイミテーションを睨みつける。
イミテーションは、蒼灰色の瞳にうっそりと昏い笑みを浮かべていた。
「気分はどうだ?“スコール”」
「……っ!」
自分と同じ顔に、自分の名前を呼ばれる。
酷く奇妙で、気分の悪い話だ。
スコールは体を捩って、伸し掛かる男を払い除けようとするが、ぐり、と腕を踏む足に力が入るだけだった。
SeeD服は式典等でも着用する事もあってか、地味であるか厳めしいかの軍服とは違い、やや加飾がある。
とは言え、そのままの格好で戦闘に突入する事も計算に入れられている為、案外と動きやすい作りで出来ている。
服に合わせて配給されるブーツも同様で、靴底には厚みもあり、甲の部分には鉄も仕込まれていた。
この為、ただの靴に比べれば重みがあり、履く者が意識して力を込めて踏みしめれば、靴裏の溝が歯のように踏むものに食い込んでくる。
長袖のジャケット越しに、スコールは靴裏の感触に顔を顰めていた。
一瞬の油断と、判断ミスが招いた結果に、悔しさと、それ以上にこの状況への屈辱感が募る。
イミテーションはそんなスコールを見つめ、くつくつと嗤った。
「良い格好だな、“スコール”」
「……黙れ」
「一度でいいから、お前をこうしてやりたかった」
「なら満足したな。退け。殺してやる」
吐き捨てるように言うスコールに、そうは行かない、とイミテーションは言う。
スコールの真横に突き立てられていたガンブレードが引き抜かれた。
持ち上げられれば、今度こそ終わりだろうと思ったスコールだったが、イミテーションは剣を握る腕は横に垂れたまま、殺意を見せる事はない。
見下ろす蒼には愉悦が灯り、獲物を前にした猛獣のように、赤い舌が薄い唇を舐る。
チャリ、と小さな音を立てて、ガンブレードが持ち上げられる。
グリップの尻に取り付けられた銀色を見付けて、スコールの眉間の皺が深くなった。
「そう睨むな」
「……」
「俺もお前も、同じなんだから」
「……一緒にするな」
嫌悪を隠さないスコールの表情に、イミテーションのスコールがくつくつと笑う。
「お前は、自分が“本物”だと思っているのか?」
「……?」
イミテーションの言葉に、スコールはその意味を汲み取れずに眉を潜める。
だが、相手がイミテーションであり、混沌の駒である事を思い出し、思考を引き締める。
意識して眼力を失うまいとするスコールに、イミテーションはゆっくりと顔を近付けた。
体を屈める事で、腕を踏む足に重みが加わっている。
スコールは腕の骨が抗議を上げるのを聞きながら、痛みを顔に出すまいと唇を噛む。
スコールの喉元に詰めたい刃が当てられた。
少しでも動けばどうなるのか、それを匂わせながら、スコールの顔を間近で見詰めながら言う。
「この世界にあるものが、本物だと思うか?己が本物でるとするならば、何を持って偽物になると思う?」
「……」
「お前が本物だと思うものは、偽物でもある。違いは、それを本物であると思うか、偽物であると思っているか、それだけだ」
「……意味不明。黙れ」
「お前が本物と言えば、お前にとっては本物だろう。お前が自分を“本物”だと思い、俺を“偽物”だと考えるように。だが、それは逆でも成り立つ話だ。俺が俺を“本物”で、お前を“偽物”だと思えば、そう言う事になる」
「……」
「つまり、この世界にあるのは、そんなものだけだと言う事だ」
それを締め括りのようにして、イミテーションは満足そうに薄昏い笑みを浮かべる。
戯言だ、とスコールは思っていた。
妙に自分にそっくりなものだから、顔を近付けられると鏡を見ているようで酷く気持ちが悪いが、結局目の前の男はイミテーションだ。
それを除いても、この“SeeD服を着たスコール”は、混沌の駒────敵以上の何物でもない。
魔女や皇帝の入れ知恵や、仲間すら利用し合う関係にある混沌の戦士が喋る事など、姦計を含むものでしかない。
敵の下らないお喋りに付き合う暇があったら、この状況を打破する手段を考えるべきだ。
スコールは早々にその結論に行き着いて、伸し掛かる男の隙を伺うが、喉元に突き付けられた銀剣が何よりも邪魔で仕方がない。
(魔法を打てば。だが、この状態では、当てる事も出来ない)
腕を左右に投げ出される形で押さえ付けられている為、自由に動くのは手首位のもの。
魔力を集約させ形にするまでの時間を考えると、剣が喉を貫く方が早いのは明らかだ。
どうすれば、と思考を巡らせていると、相手もそれを察したのだろう。
イミテーションの唇が弧をに歪み、触れそうな程に近付けていた顔が離れる。
すると今度は、空の左手がするりとスコールの鎖骨を擽った。
「……!?」
突然の意図の読めない触れ方に、スコールが目を瞠る。
イミテーションはスコールのその表情に、楽しそうに笑った。
「素直な反応は面白いな」
「……っ!」
馬鹿にされている。
スコールはそう感じて、ぎろりと同じ顔の男を睨んだ。
喉に突き付けられていた剣が引き、矛先を変える。
逆手で持ったガンブレードの切っ先が、スコールのシャツの襟を引っ掛けた。
そのまま手首の捻りだけでゆっくりと剣先が動いて良くと、繊維がぷちぷちと小さく音を立てながら千切れて行き、スコールの胸元が露わになる。
「な……」
何を、とスコールが再度目を瞠ると、イミテーションは自分のSeeD服の襟詰めボタンを外した。
その仕草を見て、ぞわりと悪寒染みたものがスコールの背中を奔る。
イミテーションの手が、ひたり、とスコールの胸に宛がわれた。
ゆるゆると動く手の動きが、まるで愛撫を思わせるものになって、スコールの背中に益々怖気が走る。
嫌なものが近付いて来るのを感じて、スコールは頭を振り、足を暴れさせて、抵抗を試みた────が、未だイミテーションが握る銀刃は、スコールの肌の上数ミリの場所で止まっている。
「あまり暴れると、黙らせるぞ」
「……っ!」
黙らせる、と言う言葉が、単純にその言葉通りのものではない事は直ぐに判った。
この状況から銀刃が少しでも力を籠めれば、胸でも腹でも、簡単に刺し貫く事が出来る。
心臓の位置にピンポイントで突き立てられれば、即死だろう。
「かと言って、全く反応がないと言うのも面白くない」
「…俺はお前の玩具じゃない」
「玩具だ。お前は俺の、俺はお前の、な」
「違う!俺は玩具じゃない!」
そんな物にはならない、と反論するスコールに、イミテーションは益々笑みを深めていく。
含みのある表情を浮かべる、自分とよく似た顔の異物に、スコールは嫌悪感ばかりが募っていた。
何処か人を馬鹿にしたような表情も、それを自分が向けられている事も、腹立たしくて仕方がない。
もう偽物の持ち物でも構わない、胸に宛がわれたガンブレードを奪って、その切っ先を目の前の男の顔面に突き刺してやりたかった。
ぎりぎりと射殺さんばかりの眼光で睨み続けるスコールに、イミテーションがまた顔を近付ける。
「俺にとってはどうでも良いが、お前にとって、俺はお前の偽物だ」
「……」
「その偽物に本物が食われたら、どうなると思う?」
何を示唆して問うているのか、その意味も、問う事の意味も、スコールには判らない。
ただ、目の前の“偽物”がこの状況を面白がっている事だけは確かだろう。
腹立たしい、忌々しい。
全く違う表情をしている筈なのに、まるで鏡を見ているようで。
まるでこの世界にあるもの全て、自分さえも、鏡の中にいるようで、粉々に砕いてしまいたい。
その時、砕けて散る中に、自分の破片があるのかどうか、“スコール”は知らない。
『スコスコで、アケディアのSっ気のあるSeeD服スコールと、いつものスコール』のリクエストを頂きました。
指揮官スコール×ノーマルスコール、見ていてとても美味しい組み合わせ。
アケディアのスコールは美人で生意気ですが、指揮官フォームともなるとまたSみが増しますね。
そんな訳で、ヒールブーツで部下を踏んづけてそうな指揮官様が降臨しました。
ドッペルゲンガーを見ているようで、酷く気分が悪かった。
単純にそれに等しいものであれば、他のイミテーションと同じように屠れば終わる話だったのだが、そうも行かなかった。
それが想像していた以上に強かったと言う誤算もあるが、それが自分と同じように喋り動くのだから、此方のペースが崩される。
饒舌とまでは言わずとも、自分よりも口が回りそうなのも腹が立つ。
そして、何よりスコールの苛立ちを煽るのは、その井出達だ。
姿形が自分とそっくり、鉱石じみたイミテーションと違って肌から髪から顔パーツまで色を再現している事は勿論だが、その癖、違う衣服を身にまとっているのが癪に触った。
この世界に召喚されてから随分と経つが、スコールはあまり衣服の種類を持っていない。
平時から来ているファー付きのジャケットの他は、何処で着用していたのだったか───自分のものである事に間違いはない筈だが───黒のノースリーブのシャツ位のもの。
休息時に着るラフな服も幾つかあるので、それらをローテーションさせれば、生活に置いて特に困る事はなかった。
だから、元の世界で着れる事を目指していた服がない事も、特に気にしてはいなかった。
バラムガーデンに所属するものだけが獲得できる称号、SeeD。
正式にその名を持つ事を許された者だけが着る事が許される、制服────通称SeeD服。
それを、まさか自分そっくりのイミテーションが着ているだなんて、業腹だ。
スコールにとって不幸中の幸いと言えるのは、このイミテーションが混沌の駒だと言う事だ。
他の戦士に使われているのか、混沌の神に“戦士”として召喚されたのかは知らないが、スコールはそれについては深く気にしていない。
彼の出生等と言うものは、屠ってしまえば意味のないものなのだから。
ジタンとバッツと共に斥候に出たスコールを、混沌の大陸への道筋で迎えたのが、SeeD服を着たイミテーションのスコールだった。
彼との遭遇は非常に厄介であったが、スコールは構わず剣を構える。
傍らに魔女か皇帝でもいれば違うが、彼は単独で現れた時、スコール以外には露とも興味を示さない。
今日も単独現れたイミテーションは、通例の如く構えた剣をスコールへと向けた。
この相手に限っては、スコールも売られた喧嘩を買わない理由はなく、寧ろ一刻でも早く自分のドッペルゲンガーもどきを消したいのが本音であった。
だからこれも通例の如く、スコールはジタンとバッツに斥候任務を続けるように指示して、自身はその場に残って剣を握った。
イミテーションは、実力までそっくりスコールを鏡にしていた。
冷静に打ち合えばいつまでも鍔迫り合いが続き、思考も同じなのか、攻めるタイミングも退くタイミングも重なる。
となれば先手を打ちながら相手の行動の先の先の先を読むのが勝利の鍵となるが、それもお互いに同じ事を考えているのだろう。
裏を掻き、その裏を掻き、そのまた裏を────と繰り返される読み合いは、何度重ねられても、決着まで辿り着かない。
こうなってくると、勝負の差は精神面から縺れて来る。
余裕を見せているのは、癪な事に、イミテーションの方だった。
元々スコールは、このイミテーションと対峙する度に、苛立ちを募らせていた。
自分とそっくりの形、SeeD服を着ている事、加えて常に何処か余裕を滲ませた表情を浮かべている事。
一つ一つの気に入らない事が積み重なり、今では自分と同じガンブレードを持っている事すらも腹立たしくて仕方がない。
武器の形なんてものは、他の鉱石じみたイミテーションも同じ事なのだが、こと目の前のイミテーションに対する苛立ちは、有象無象の比ではなかった。
そうしたスコールの苛立ちは、心の何処かで、焦燥にもなっていたのだろう。
先んじたつもりの一手が、勇み足であった事に気付いた時には、既に遅かった。
「貰った!」
「!!」
喜々すら滲ませたような表情で、イミテーションはスコールの剣を打ち上げた。
強い力で弾かれたガンブレードに響いた振動が、スコールの手を痺れさせる。
緩んだ力から逃げるようにガンブレードが宙に舞い、弧を描き、イミテーションの後方数メートルの場所へと突き刺さった。
しまった、と自分の状況を把握したと同時に、肩からの当て身を食らって後ろに吹き飛ぶ。
受け身も取れずに地面を転がったと思ったら、その体を捕まえられて、地面に背中を押し付けられた。
重石が腹の上に乗った直後、目の前に閃いた銀色に、死ぬ、と確信する。
────しかし、銀色はスコールを貫く事はなく、ガキンッ、と固い岩盤にぶつかった音を立てて、イミテーションのガンブレードは、スコールの顔のすぐ横に突き立てられていた。
「……っ!」
間一髪の所で生き延びた事は理解する。
同時に混乱も襲った。
マウントを取ったこの状態で、この距離で、最後の一撃を外すなど、絶対に有り得ない。
意図的でなければ起きない事だと、スコールは眉根を寄せて、腹に乗る男────SeeD服のドッペルゲンガーを睨んだ。
腹に乗る重石は勿論の事、その体重はスコールの両腕も捉えていた。
片足の裏でスコールの右腕を踏み、左腕は逆の足の膝で押さえ付けている。
しっかりと部位を捕えて押さえ付けている為、スコールは体を起こす事も出来ない。
「…何のつもりだ…!」
闘志と敵意を失わない瞳で、スコールはイミテーションを睨みつける。
イミテーションは、蒼灰色の瞳にうっそりと昏い笑みを浮かべていた。
「気分はどうだ?“スコール”」
「……っ!」
自分と同じ顔に、自分の名前を呼ばれる。
酷く奇妙で、気分の悪い話だ。
スコールは体を捩って、伸し掛かる男を払い除けようとするが、ぐり、と腕を踏む足に力が入るだけだった。
SeeD服は式典等でも着用する事もあってか、地味であるか厳めしいかの軍服とは違い、やや加飾がある。
とは言え、そのままの格好で戦闘に突入する事も計算に入れられている為、案外と動きやすい作りで出来ている。
服に合わせて配給されるブーツも同様で、靴底には厚みもあり、甲の部分には鉄も仕込まれていた。
この為、ただの靴に比べれば重みがあり、履く者が意識して力を込めて踏みしめれば、靴裏の溝が歯のように踏むものに食い込んでくる。
長袖のジャケット越しに、スコールは靴裏の感触に顔を顰めていた。
一瞬の油断と、判断ミスが招いた結果に、悔しさと、それ以上にこの状況への屈辱感が募る。
イミテーションはそんなスコールを見つめ、くつくつと嗤った。
「良い格好だな、“スコール”」
「……黙れ」
「一度でいいから、お前をこうしてやりたかった」
「なら満足したな。退け。殺してやる」
吐き捨てるように言うスコールに、そうは行かない、とイミテーションは言う。
スコールの真横に突き立てられていたガンブレードが引き抜かれた。
持ち上げられれば、今度こそ終わりだろうと思ったスコールだったが、イミテーションは剣を握る腕は横に垂れたまま、殺意を見せる事はない。
見下ろす蒼には愉悦が灯り、獲物を前にした猛獣のように、赤い舌が薄い唇を舐る。
チャリ、と小さな音を立てて、ガンブレードが持ち上げられる。
グリップの尻に取り付けられた銀色を見付けて、スコールの眉間の皺が深くなった。
「そう睨むな」
「……」
「俺もお前も、同じなんだから」
「……一緒にするな」
嫌悪を隠さないスコールの表情に、イミテーションのスコールがくつくつと笑う。
「お前は、自分が“本物”だと思っているのか?」
「……?」
イミテーションの言葉に、スコールはその意味を汲み取れずに眉を潜める。
だが、相手がイミテーションであり、混沌の駒である事を思い出し、思考を引き締める。
意識して眼力を失うまいとするスコールに、イミテーションはゆっくりと顔を近付けた。
体を屈める事で、腕を踏む足に重みが加わっている。
スコールは腕の骨が抗議を上げるのを聞きながら、痛みを顔に出すまいと唇を噛む。
スコールの喉元に詰めたい刃が当てられた。
少しでも動けばどうなるのか、それを匂わせながら、スコールの顔を間近で見詰めながら言う。
「この世界にあるものが、本物だと思うか?己が本物でるとするならば、何を持って偽物になると思う?」
「……」
「お前が本物だと思うものは、偽物でもある。違いは、それを本物であると思うか、偽物であると思っているか、それだけだ」
「……意味不明。黙れ」
「お前が本物と言えば、お前にとっては本物だろう。お前が自分を“本物”だと思い、俺を“偽物”だと考えるように。だが、それは逆でも成り立つ話だ。俺が俺を“本物”で、お前を“偽物”だと思えば、そう言う事になる」
「……」
「つまり、この世界にあるのは、そんなものだけだと言う事だ」
それを締め括りのようにして、イミテーションは満足そうに薄昏い笑みを浮かべる。
戯言だ、とスコールは思っていた。
妙に自分にそっくりなものだから、顔を近付けられると鏡を見ているようで酷く気持ちが悪いが、結局目の前の男はイミテーションだ。
それを除いても、この“SeeD服を着たスコール”は、混沌の駒────敵以上の何物でもない。
魔女や皇帝の入れ知恵や、仲間すら利用し合う関係にある混沌の戦士が喋る事など、姦計を含むものでしかない。
敵の下らないお喋りに付き合う暇があったら、この状況を打破する手段を考えるべきだ。
スコールは早々にその結論に行き着いて、伸し掛かる男の隙を伺うが、喉元に突き付けられた銀剣が何よりも邪魔で仕方がない。
(魔法を打てば。だが、この状態では、当てる事も出来ない)
腕を左右に投げ出される形で押さえ付けられている為、自由に動くのは手首位のもの。
魔力を集約させ形にするまでの時間を考えると、剣が喉を貫く方が早いのは明らかだ。
どうすれば、と思考を巡らせていると、相手もそれを察したのだろう。
イミテーションの唇が弧をに歪み、触れそうな程に近付けていた顔が離れる。
すると今度は、空の左手がするりとスコールの鎖骨を擽った。
「……!?」
突然の意図の読めない触れ方に、スコールが目を瞠る。
イミテーションはスコールのその表情に、楽しそうに笑った。
「素直な反応は面白いな」
「……っ!」
馬鹿にされている。
スコールはそう感じて、ぎろりと同じ顔の男を睨んだ。
喉に突き付けられていた剣が引き、矛先を変える。
逆手で持ったガンブレードの切っ先が、スコールのシャツの襟を引っ掛けた。
そのまま手首の捻りだけでゆっくりと剣先が動いて良くと、繊維がぷちぷちと小さく音を立てながら千切れて行き、スコールの胸元が露わになる。
「な……」
何を、とスコールが再度目を瞠ると、イミテーションは自分のSeeD服の襟詰めボタンを外した。
その仕草を見て、ぞわりと悪寒染みたものがスコールの背中を奔る。
イミテーションの手が、ひたり、とスコールの胸に宛がわれた。
ゆるゆると動く手の動きが、まるで愛撫を思わせるものになって、スコールの背中に益々怖気が走る。
嫌なものが近付いて来るのを感じて、スコールは頭を振り、足を暴れさせて、抵抗を試みた────が、未だイミテーションが握る銀刃は、スコールの肌の上数ミリの場所で止まっている。
「あまり暴れると、黙らせるぞ」
「……っ!」
黙らせる、と言う言葉が、単純にその言葉通りのものではない事は直ぐに判った。
この状況から銀刃が少しでも力を籠めれば、胸でも腹でも、簡単に刺し貫く事が出来る。
心臓の位置にピンポイントで突き立てられれば、即死だろう。
「かと言って、全く反応がないと言うのも面白くない」
「…俺はお前の玩具じゃない」
「玩具だ。お前は俺の、俺はお前の、な」
「違う!俺は玩具じゃない!」
そんな物にはならない、と反論するスコールに、イミテーションは益々笑みを深めていく。
含みのある表情を浮かべる、自分とよく似た顔の異物に、スコールは嫌悪感ばかりが募っていた。
何処か人を馬鹿にしたような表情も、それを自分が向けられている事も、腹立たしくて仕方がない。
もう偽物の持ち物でも構わない、胸に宛がわれたガンブレードを奪って、その切っ先を目の前の男の顔面に突き刺してやりたかった。
ぎりぎりと射殺さんばかりの眼光で睨み続けるスコールに、イミテーションがまた顔を近付ける。
「俺にとってはどうでも良いが、お前にとって、俺はお前の偽物だ」
「……」
「その偽物に本物が食われたら、どうなると思う?」
何を示唆して問うているのか、その意味も、問う事の意味も、スコールには判らない。
ただ、目の前の“偽物”がこの状況を面白がっている事だけは確かだろう。
腹立たしい、忌々しい。
全く違う表情をしている筈なのに、まるで鏡を見ているようで。
まるでこの世界にあるもの全て、自分さえも、鏡の中にいるようで、粉々に砕いてしまいたい。
その時、砕けて散る中に、自分の破片があるのかどうか、“スコール”は知らない。
『スコスコで、アケディアのSっ気のあるSeeD服スコールと、いつものスコール』のリクエストを頂きました。
指揮官スコール×ノーマルスコール、見ていてとても美味しい組み合わせ。
アケディアのスコールは美人で生意気ですが、指揮官フォームともなるとまたSみが増しますね。
そんな訳で、ヒールブーツで部下を踏んづけてそうな指揮官様が降臨しました。