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くのいち1−1


 僕は階段を上った。

「むうっ!?」

 いきなりの展開で面食らった。

 これまでの五重塔は、大きな塔の中に立てられた小さな塔の構造であり、一つの階に小さな部屋が二つ用意されていた。それぞれ1人バージョン、3人バージョンと分かれていたのである。

 だが、僕の目の前に広がっている光景は、そういった狭い部屋とはまったく対極的な、だだっ広い空間なのだった。

 この五重塔に入る前には、外観からしても、このような広さを持つ構造とは考えられなかった。

 日本風の庭園が数十メートルにわたって拡がっており、周囲を壁で囲んではいるが、内側には樹木や草花、枯山水、池、添水(ししおどし)まで用意されている。奥まったところに、茶室のような小さな日本家屋まであった。

 空間がゆがめられていて、本来は狭い五重塔内部が、広く拡張されているのだろう。それで、こんな特殊なステージを作ったというワケか。

 スッ……

「!!」

 突然天井から、1人の少女が降ってきた! あまりに音もなく、自信たっぷりに、風を切るように落ちてきたので、華麗すぎる動きに、僕は驚きさえできなかった。

 五重塔なので、天井はある。造られた日本庭園と対照的に、壁や天井は「構造物の内部」という感覚を思い出させてくれる。

 少女はその天井に身を潜め、僕が来るのを待っていたということになる。そして、鮮やかな動きで、僕の前に降りたのである。

 紫色の忍者服に身を包んだ少女。からだは十分に発達していて、女性らしさを存分にたたえているが、顔つきがまだまだあどけない。ダンサーやレオター、風俗嬢たちよりも、ずっと若い感じだ。

 忍者少女……すなわち”くのいち”が、今度の敵というわけか。すぐに理解できた。

 少女は屈んで片膝を地面につけ、もう片足を突き立てた姿勢で、サッと僕の方を見上げた。大きくつぶらな瞳が、凛とした忍者の威厳と対照的に、若くあどけない魅力を具えている。鍛え上げられたくのいちの貫禄と、若さ故のいとけない顔立ちのギャップがたまらない。

 忍者服といえども、特殊な構造になっている。横尻が露出していて、内股もあらわだ。ひも1本引っ張るだけで、すぐに全部が脱げるように細工されているらしい。つまり、忍者服を身につけていても生足の感触を男性に刻みつけることができ、すぐに裸で戦う戦法に切り替えることもできるなど、即戦力になっているということだ。

 そして上半身部分は、簡単に胸をあらわにすることができるくらいに開かれている。ちょっと動いただけで、即座に大きなおっぱいの谷間が丸見えになる。この視覚攻撃により、男性を即座に勃起させる忍術に仕立て上げているようだ。

 くのいちは忍者服の下には何も身につけておらず、なまの乳やオンナの上に、特殊な服が重ねられているだけのようだった。

 そして、くのいち忍者なら顔を隠しているイメージだが、彼女は何も顔を覆っていなかった。やや丸みを帯びた幼い顔立ち。それでいて大きな瞳はややつり上がっていて、顔立ちも整っている。若々しいポニーテールが、ふさふさと風に揺れた。

 少女は片手を自分の胸元に突っ込んだ。これは、たえず乳頭をこねくり回して精神統一を図るためである。戦闘準備が整えば、セックス一色に精神を集中させると同時に、即座に挿入できるよう、オンナを滴らせるためのものでもあった。

 そのポーズが決まると、もはやくのいちは完全に戦闘モードになった。

 だが……

 くのいちという忍者は、男性顔負けの諸々の忍術・武術・剣術を使いこなした上で、あえてそれらを駆使せず、もっぱら”体術”のみを駆使して、任務を果たすのだという。

 昔から、セックスを武器に敵忍者を籠絡し、精を奪い尽くして枯れさせることで、権力を握った集団だ。

 請け負う仕事も、色仕掛けで権力者を手込めにしたり、わざと妊娠して後継者争いに乗じたり、さらには、セックスそのものを処刑に使うことも多々あったという。一晩で一生分の精を奪い尽くす秘術さえあると聞く。

 そのテクニックも、身体の強化鍛錬も、最高峰にまで高められた集団、それがくのいちの里である。その構成員が今度の敵なのだ。すぐに反射的に戦闘すれば、思わぬ反撃を受けて敗北してしまうかも知れない。

 まずは……敵を知ることから始めねば。

「……。」
僕は間合いを取りながら警戒した。

 くのいちの乳房や横尻、内股を凝視すれば、たちまちペニスが反応する。若々しく溌剌とした肉体は、どこまでもやわらかく白くてみずみずしかった。

 それだけの性的魅力を、ただ見せつけるだけで醸し出せるんだ。

 風俗嬢やしおりたちよりも強力な敵と見ていいだろう。安易に踏み込まず、敵の性質や個性を見極めるんだ。

「……拙者、とあるくのいちの里より、おのが精をいただくために馳せ参じつかまつった忍びの者。むらさき しのめ と申します。よわいは……もうすぐ17ッ!」

「なるほど……わかいな……」

 とらわれペンギンでいえば、レベル2か1という強豪という計算だ。それに輪をかけて性的な攻撃に特化したくのいち忍術の数々を使いこなす。ただのセックス慣れした女性と思っていると痛手を負いそうだ。

「警戒に超したことはあるまい……よい判断です。しかし、若いと思って侮っていますね。くのいちにとってこの年齢は、もはや熟練の類、完成しきっているということ。なぜならくのいちは……毛も生えぬうちから性の修行を日々積み重ね、14になる頃には、立派に敵忍者やターゲットの男性を手込めにできる“一人前”なのですから。」

「やはりな……あどけない顔立ちながら、16とは思えないほど女性的に発達した体。すでに数えきれぬ精を絞りつくし、男たちの一生分の精をたっぷりと身に浴びて、肉体を強化したようだな……」

 じりじりと間合いを拡げながら、敵の実力を推し量ってみる。特殊な鍛錬で強化されたくのいち。それは……この世界につれられてきた風俗嬢のようなにわか仕込みとは、格が違うのだった。

 むらさき しのめ……その名は覚えておこう。

 すでにオーラからして違っている。

 しなやかな身のこなし、おとなの女性そのものに成熟した身体、それでいて若さとピチピチした肌は磨き抜かれた状態のまま健在ッ! 様々な“くのいち忍法”を駆使し、のし上がってきた、本物の実力派ということだな。それでいて、女子高生的な子供っぽい顔立ちを残している。そのギャップがかえって、彼女の性的魅力を高めている。

「無駄な抵抗はしない方がいいですよ……あなたくらいの男性は、鍛練を積んだ忍者ならいくらもいます。そんな男たちを、私はいくらでも倒してきたのですから。ふ……お覚悟を。」

「……。」
くっそ……圧倒される……

「……という設定です。」

「……ぇ……え?」

「あいやゲフンゲフン、なんでもないです! なんでもないのっ!」

 い……いま……こいつ……なんて言っ……お覚悟を……なんだと? という設定です、と言ったのか……?? いったいなんのことだッ! なんのことだァァ!?

 いまこいつ、なんと言ったんだ!? 『お覚悟を、という設定です』……『設定です』『設定です』と言ったのか!?

「むらさきしのめっ! 今お前なんて言ったんだ! 『設定です』『(中略)お覚悟をという設定です』と言ったのかッ!?」

「うぐっ……い、いや……その……ぷぎゅっ……あのっ……に、二度言う必要は、あ、ありませんですわよ!」

 こ……こいつ……確かに圧倒的な性的魅力と、手練れを感じさせる強敵感がぽんぽん色気として振りまかれている……だが……それをたった一言「設定です」でぶちこわしたというのかッ……!?

 た……ただものではないぞ……この女子。

 どこかの女子校から引っ張り込まれて、この世界に来る時にくのいちの“設定”をよこされた……だとすると、とたんに小物感がプンプン漂うじゃあないかっ!

 いま実感として分かった。こいつ……アホだ。現実世界では天然バリバリのアホ娘だ。女学生の制服に身を包んでキャピキャピ暮らしていて、夢の世界に連れてこられて、くのいちになっただけの……アホの子だ。

「ふふふ……面白い。僕の敵はこうでなくてはな。」
ここの女はみんな変だ。あらためて僕は、それを実感させられたのだった。

「あーっ!! そのカオは、私がアホで忍術も使えないただのコギャルだと思ってますね!」

 こぎゃる言うな……

「分かりました! それなら、私が本物のくのいちであることを、今証明してみせますっ! 高度な忍術を使うから、そこの木で目隠しして、10数えてください。忍者だから、見事に隠れきって見せますっ!」

「え゛〜……めんどくさ……」

「いいからやれよ!」

「ちぇー……」

 仕方なく僕は、そばにあった大木に向けて目をかくし、数を数え始めた。

「いーち……にーい……」

「ちょっと待たんかいっ!!!」

 どきゃああ!!

「うぎゃああ!!」

 突然脇腹に思いっきり跳び蹴りを噛まされた! いっぱい肋骨が折れ、内蔵に容赦なく突き刺さる。忍者としての体術はどうやら本物のようだ。

 が、精神世界なので、物理的なダメージは瞬時にして治ってしまうのだった。

「い……痛い……なにをするだぁー!」

「仮にもレディの前なんだから、上品にフランス語で数えなさいよ! フランス語で!」

「えぇえぇえ〜〜……」

「何か文句でも!?」

「いえ……ないです……」

 これ以上逆らっても仕方ないオーラで、僕は仕方なく、フランス語で10数えることにした。てかフランス語だと上品なのか? その感覚は謎すぎる。

「あーん……どーう……とろあ〜…………なあ、3の次って何だっけ?」

「途中で見るんじゃあないッ!!!!!!」

 見ると、ハリボテの岩の中に入り込もうとしているしのめちゃんの姿があった。その岩は、外観は岩にまったくそっくりで見分けがつかないのだが、中はがらんどうで、女の子1人がすっぽり隠れられるようになっていた。

「見ろ! この中に入って絶対に見つけられないように特別にあつらえられた、忍者道具の岩のハリボテだぞ!」

「へえ。よくできてんなあ。」
コツコツとハリボテを叩いてみせる。

「おのれー……ゆるさん! やはりとことん精を抜き取って、死ぬほど後悔させてやるっ! 覚悟してよね!」

「はぁ……」

 そもそもフランス語とか言わなかったら成功していたような……やっぱりこの娘、アホだ。正真正銘、アホの女子高生だ。



######

姉:「あの子……技は切れるんだけど……アタマが……」

 モニターを見ていた姉が溜息をついた。

######



 とにかく。

 意味は良く分からないが、とにかく実力はありそうだ。今までの相手と同じと考えたら、痛い目に遭うだろう。

 風俗嬢たちのように、ここにつれられてきた時に“にわか仕込み”でソープ技を叩き込まれたのと、構造としては同じだが、それでも彼女の場合、設定されている“年季”が違いすぎる。

 くのいち技を叩き込まれ、設定上だが、幼い頃より肌を磨き、オンナを磨き、セックス技の数々を極めた、本物の強豪だ。しかも、16歳と若くて溌剌としている。侮っては瞬殺されるぞ!

 真っ向勝負でもいいが、搦め手を使う方が効果的かも知れない。あっと驚くような奇策に出て、アタマの悪い女子高生くのいちの裏をかけば、思わぬ形で勝機を掴み、くのいち淫法を出し抜くこともできるかも知れない。

 とらわれペンギンでは、敵の年齢が下がるごとに、男性側の期待値が高まり、中学を出たばかりの高一娘は、初々しすぎて、若く清らかな肢体に次々と精を抜き取られていった。

 その長所を存分に生かしながら、同時に16とはとても思えないような数々の熟練忍術が繰り出されることを覚悟しなければならない。

 初めのうちの忍者としての口上は堅苦しかったが、実際にやりとりしてみると、やっぱり今風の若娘そのまんまのようだ。すっかり“地”があらわになったアホの子だが、それでも、瞳の大きなつり目少女、ほっぺもツルスベだ。かわいい。僕好みである。

 やはり姉さんは、僕がタイプにしている女性を次々と用意してくる。タイプといっても、いくつか種類があって、一つに絞ってはいないけれども、つまりいくつかのタイプの娘に心を奪われるわけだが、その数種類のタイプをよく知っていて、それに合った子をチョイスして、この夢世界に送り込んでくるんだ。なかなか姑息である。

 それに、どこか抜けたような天然属性も、僕の琴線に触れてしまう。ここでメロメロになったら、確実に僕の敗北が確定する。気を引き締めなくては。

 いくつかの手はある。

 相手のオツムの隙を突いて、反撃に出る搦め手が、やはり有効だろう、

 さっきしのめちゃんは、自分が隠れて見つからないようにする忍術を披露しようとした。アホだから失敗したが。

 それをまねて、逆にこっちが隠れてしまうというのも手だろう。しのめはアホだから、こちらの誘いにはしっかり騙されて従ってしまうだろう。僕も知識の上では、いくつかの忍術を知っている。それを駆使して、まさか同じ忍術で対抗してくるとも思わないだろうから、うまくすれば隠れきることができるかも知れない。

 むらさきしのめが僕を見つけられない、ということは、僕が背後から彼女の隙を狙えるってことだ。そうすれば、いかにくのいちといえども、一方的にマウントポジションを取られ、結果、僕の方から一方的に大ダメージを与えることもできるはずだ。

 もちろん、相手もくのいち、忍術を使う熟練男性はたくさん相手にしてきた、という設定だ。あっさり見つかってしまい、形勢逆転に持ち込まれるリスクはあるだろう。

 かくれんぼが不利だというなら、鬼ごっこでもいい。こちらが鬼になって、追いかけるしのめちゃんを捕まえ、同様にマウントポジションと主導権を取ってしまう作戦だ。

 頭の悪さを突いて、前方に回り道をする形で突然捕まえる、なんて展開になれば、すぐにでも相手の自由を奪うことができる。そのくらいには、僕の熟練したセックス技は冴えているんだ。

 だが、敵はアタマが悪くても体術は優れているので、捕まえられず、逃げ切られたらピンチだ。背後を取られ、反撃されてしまうことになる。

 敵が強力なら、あえてこっちが逃げてみせるのもいいだろう。隙を見せるようにしながら、実は逃げながら反撃のチャンスを考えるんだ。

 上手に逃げ続け、出し抜く方法をひらめくことができれば、こちらの勝ちになるだろう。注意深く、したたかに、頭を使って作戦を練る。頭脳戦なら、どう考えてもむらさきしのめに何一つ劣ることはないだろう。

 もちろん、捕まってしまえばアウトだ。覚悟は決めよう。

 逆に、実力勝負に打って出る方法もありかも知れない。

 その場でセックスバトルをガチで展開する。敵はくのいち、相当のレベルの肉体と忍術を駆使できるはずだが、こっちだって、数え切れない女たちを昇天させてきたんだ。体ごとぶつかったからといって、確実に敗北する道理とまでは言えないだろう。

 相手の真の実力は未知数だが、それでも、ちゃんと戦ってちゃんと勝つことができれば、僕は堂々と上をめざすことができるじゃあないか。姉さんのような卑怯な手で勝ちたいわけでもないんだ。

 あとは……あの奥にある和室に、戦場を移すことも可能だろう。

 室内戦に持ち込めば、庭で戦うよりも、寝技を中心にいろいろな戦法をとることもできるし、相手の動きに対抗する方法も見つけやすい。庭が広いだけに、それを悪用されて、こっちが不利になるようなことはあってはならない。

 というわけで、選択肢は5だ。慎重に選ばなければ、かろうじて勝てたとしても、あまりよい結果にはならないだろう。

 忘れてはいけない。この五重塔では、連戦がルール、しかも回復は、敵が用意した薬や装置に頼るしかない。だから、勝てばよいのではなく、精力をきちんと温存して、先々まで見て、作戦を立てなければいけないんだ。

 難しい舵取りだ。相手がどんな技で責めてくるか、逆転されないか……不安でいっぱいだ。

 しかし、それでも勇気を振り絞って、果敢に挑戦しなければ、僕の活路は開けないんだ。思いだして欲しい。人間讃歌は「勇気」の讃歌ッ!! 人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!! この悪魔の手先どもに、それを思い知らせてやる!


−選択肢−

 くのいち1−2 こちらがかくれんぼする
 くのいち1−3 こちらが鬼になる
 くのいち1−4 逃げるんだよォォォ!!
 くのいち1−5 正攻法でその場で戦闘
 くのいち1−6 和室で戦う



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