信長の居室や寝室と言った“何時もの場所”ではなく、城の片隅に位置する離れに呼ばれた瞬間から、利家は言い様の無い不安に駆られていた。何時もの場所よりは周りの人間に声や音を聞かれる可能性は薄いが、それはつまり、どんなに泣き叫んでも助けも何も望めない事も意味していた。
一週間程前のあの無理押し的な挿入以上に苦痛を伴う行為や屈辱的な何かを強要されるのかも知れない。そのような恐怖感に脅えながら、薄い小袖姿の利家は何時もと同じ膝つき体勢で主君の肉搭を手で数度擦り、硬度が微かに増すと半ば焦っているかのように口の中にそれを導いた。
「珍しいな。今日は積極的ではないか。うぬは口淫が苦手ではなかったか?」
「んっ」
わざとらしい台詞にうっすらと非難の感情を込めた眼で見上げるが、相手は何食わぬ顔のまま犬の逆立った髪を撫で、“積極的”である理由をよりわざとらしく言った。
「そうか。うぬは先日痛い目を見たのであったな。うぬの準備不足ゆえに」
「……」
その時の事を思い出したのか、頬を紅潮させて視線を落とす利家に信長は笑みを強めつつ、本人にとっては一刻でも早く忘れたいに違いない恥辱をアッサリと口にした。
「痛みの余りに泣き叫び、挙句の果てには白目を剥いて失禁した姿は傑作であった…ぞ、利家」
「んぐぅう!!」
言葉の終わりと同時に後頭部を掴んで喉の奥まで捻じ込むと、苦しげな悲鳴混じりの呻きが腰の辺りから聞こえて来る。屈辱と苦しみに涙を浮かべる利家の姿に歪んだ昂ぶりを覚えた魔王は腰を揺さぶり、口蓋睡の辺りに先端を何度もぶつけた。
「んぅううっ! んっ! ぐっ! うげぇ…!」
喉奥にぶつけられる度に吐き戻しそうな感触を覚え、実際に幾度か肩を上下して嘔吐く犬に魔王は笑い、溢れ出る唾液が己を包み込んでいく温もりをより堪能せんと利家の髷を掴み、乱暴に前後させた。
「どうした、もっと濡らさぬか。もっと信長を悦ばせぬか」
「ん! んうぅ!! ふぐううぅう……!!」
口内のそれを出し入れする度に多量の涎が糸を引きながら滴り落ちて利家の震える膝や褥の上に雫を散らし、そんな中で塞がれている口の分まで必死に鼻で息をする為に生じる音色を何とも滑稽に感じた信長は、残虐な笑みを一層深めつつ、何時ものように利家の頭を掴んで己の両足の間に押し付けた。
「信長が精、此度こそは飲むのだぞ、犬」
その言葉の直後に微かに重い呻きが信長の口から漏れ、それと同時に今までに幾度も味わされた筈なのに慣れる事の出来ぬ苦味が利家のつばきに溢れた口内に一気に広がって行った。
…言う通りにしないと何をされるか分からない。利家は恐慌し、口元に両手を添えながらも何とか飲み下そうとしたが、先程から自分に纏わり付く吐き気がその行為を妨害してしまい、結局
「うっ……うえっ…! ゴホゴホ、ゲホッ!! ぐえっ!」
信長の強い視線の先で喉仏を生々しく上下させながら青い顔を一瞬仰け反らせた利家は、目を大きく見開いて涎混じりの精を両手の上に戻し、そのまま汚れた両手の平を床板に貼り付けて獣の体勢になると、先端から唾液の糸引く舌を限界まで伸ばし、全身を収縮させながら苦しげに嘔吐いて、口の中を容量以上に満たしていた体液を吐き散らした。
一部始終を見ていた魔王の手が咽る犬の尻尾を思わせる髷に掴み、乱暴に自分の眼前まで引き上げて無理矢理視線を絡ませる。
「あ……あ…」
切れ長の冷たい瞳から目を逸らせず、口の端からだらしなく糸を引かせながら身体を震わせる犬に信長は目を微かに細めて嘲った。
「かように地に這い蹲る姿は犬のうぬに相応しき良き姿よ。だが、幾度となく精を飲ませようとしてもそれが出来ぬ覚えの悪さは気に入らぬ」
言葉が終わると共に髷を引き寄せて利家の短い悲鳴を耳に入れたかと思うと、直後には勢い良くその手を突き出しながら髷を掴んでいた手を離すと言う激しい動きに、利家は受身も取れずに派手に尻餅をついた。強かに打った其処に眼を向けて痛そうに撫で擦る利家だったが、眼前に近付いて来た相手が膝を付いて、自分のはだけた小袖の裾の間に手を伸ばして来るとハッと瞠目した。
「や、やだ…嫌です…信長様……やめてください…!」
首を幾度も振って拒絶の意思を示すが、勿論この相手には通用する訳が無く、乱れた衣から覗く屈曲した両足の間に細長い指が近付いて来た。
「この方の口の中に出した時は喜んで飲むと言うに」
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!!」
下着の上から目当ての場所を人差し指と中指で素早く幾度も擦ると、その速度に合わせたような裏返った嬌声が刻まれ、その声を心地良く聞きながら、指を可能な限り奥まで布もろともに捻り入れると、如実に反応した腰の辺りがビクビクと跳ねて、露わになった時から既に膨らみを帯びていた前部も窮屈そうな盛り上がりを見せ始める。
涙に濡れた頬を紅くして息を荒げる利家の薄く閉じた瞼を信長は面白そうに眺め、一瞬ながら利家から眼を逸らす形で横目で何かを一瞥して笑みを強めた後に、改めて利家に視線を戻した。
「うぬの今のその姿。勝家はどう思うであろうな?」
「はぁ、はぁ…だ、駄目、ですっ…ど、どうか…叔父貴には……言わないで…くだ、さい…」
乱れた呼吸の中で途切れ途切れながらも懇望する利家の頬に魔王の顔が近付き、赤い舌が頬に引かれた涙の線をゆっくりと舐る。そしてその動きと同じようなねっとりした声色で問うた。
「何ゆえ? 何故うぬは勝家に知られるのをそのように恐れる?」
「何故、って…」
いきなりの問いに利家は戸惑いがちに口をつぐんだが、やがて瞳を逸らしたまま、おもむろに口を開いた。
「……こんな事してるって叔父貴が知ったら…叔父貴、俺の事見損なうだろうから……見損なって、そのまま叔父貴に嫌われたら…俺、俺……」
言っている内に“勝家に見捨てられる自分”が脳裏を掠めたのか声を震わせて涙を一粒零す犬の耳に、信長の聞き慣れた言葉が入ってくる。
「で、あるか」
「で、ですから……叔父貴には黙っていてください! お願いします!! どうか…どうか…!」
声を裏返して縋り付く犬の頭に信長の手が伸び、幼子を慈しむように優しく撫でて来る。意外な反応に思わず顔を上げる利家の潤んだ瞳に、何処か穏やかささえ覚える信長の笑みが映った。
「言わぬ」
短いながらも笑みそのままの静かな声色を聞いた利家は胸を撫で下ろす。だが、直後の台詞が安堵の表情をきょとんとしたそれに変えた。
「言う必要も、無い」
「?」
言いながら視線を自分から隣の部屋に通じる襖戸へと移す信長の行動の意が分からずに首を傾げる利家だったが、自分も信長と同じ方向に目を向けた時に肩がドキリと大きく跳ねるのを感じた。
よくよく見ると襖に一寸ほどの隙間があり、人の気配を感じる。
隣の部屋に誰かいる。
第三者の存在を認識すると同時に、自然と祈りの言葉が心の中で繰り返される。どうか、どうか彼以外の人物でありますように――
「聞いたか? 利家が恐れる理由が。うぬはどう思うておる」
主君の優しい笑みは魔王の嘲笑に戻り、襖に向かって問うが返事も何の反応も無い。信長はクッと小さく笑って立ち上がると、注目の的であるその戸に近付き手をかけた。
もう良いぞ、入れ。言いながら信長が勢い良く襖を開け放った瞬間、利家は心臓が胸を突き破る感触を得た。
「そ、そん、な……叔父、貴…」
思わず、乱れた小袖を掴む両手を胸の前で交差させて女のように裸体を隠す利家の視界の中で、今の姿を一番見られたくなかった彼が仏頂面で腕を組み、胡坐をかいて座っていた。
「な、な、何で…叔父貴が…こんな……どうして…」
「…………」
勝家は相変わらず無言だったが、利家と一瞬ながら目が合うと、ばつが悪そうに顔を逸らした。そんな勝家を瞬きもせずに見詰めたまま固まってしまった利家の肩に信長の手がゆっくりと乗り、手の平から利家の小さな震えを感じながら、勝家の代わりに彼が部屋に存する理由を答えた。
「うぬも勝家も互いを欺き、隠しておったのだろう? 信長はその下らぬ欺瞞から、うぬらを解放してやりたかっただけ、ぞ。フハハハハハハ!」
信長の高笑いが耳に刺さる中、利家は頭の中では重たい渦が巻いていた。隠していた? 欺瞞? 俺じゃなくて、叔父貴も? それって……
「…知ってたンか? 叔父貴」
喉の奥にへばり付く言葉を必死に引き剥がして問う利家に勝家は伏せがちだった頭を上げたが、目が合った瞬間に先程と全く同じ表情で同じように眼を外し、小さく開いた口から掠れた声で言った。
「…すまぬ」
「――――――!」
勝家の謝罪の意味を解したらしく、そんな……と口の中で呟く利家の瞬きを忘れた瞳から涙がポロポロと零れ、そのまま床に突っ伏しながら声をあげて泣き出すと、勝家は普段はまず見せない困惑の表情を浮かべつつ主君へ目をやったが、当の相手は自分達の反応を楽しんでいるかのような笑顔で自分を見返した。その瞳に自分には理解出来ぬ魔王の黒さのような物を感じながら、勝家は小さく呻く。
(利家を救えるかも知れぬとは言え、なんと酷な…)
数日前。利家を苛烈な陵辱から救いたい一心で信長の部屋を単身訪れ、何とか利家から手を引いて貰えぬかと頭を垂れたあの日。信長は盤上に石を置いた指を顎に添えて自分を見据えた。
「それは本心で言っておるのか?」
「無論。この願いを聞いて頂けるならば、この勝家、大殿の為にいかなる務めも果たしまするゆえ何卒」
「いかなる務めも、か」
「はっ」
直後、主君に向けたままの頭頂にコツンと痛みを覚えると共に、何かが落ちる音が聞こえる。頭は動かさず、黒目だけ音の方へ向けると、黒い石が床の上で左右に細かく揺れていた。碁石を投げ付けられた事を悟り、大殿の機嫌を損ねてしもうたかと危惧しつつゆっくりと面を上げると、魔王の冷笑が目に飛び込んだ。
「ならば、信長と利家のまぐわいでも見て貰うとしようか」
「!?」
思わぬ台詞に顔を強張らせる勝家を見て信長はククッと黒い笑い声を漏らし、床に落ちたままの石を拾い上げて盤上に置いた。
「それが務め、よ。果たせれば、うぬの願いの受諾、考えてやっても良い」
「……」
何とも信憑性の無い言葉ではあったが、利家を解放する可能性が僅かでもある限り、信長の言う“勤め”を果たすしかないと勝家は思った。そう、全ては利家のために。
そして、自分は口の中で小さく、だがハッキリと承知仕ったと言って―――
「いっ、嫌です! ぃやっ!嫌だあぁああっ!!」
回想に耽っていた勝家を現実に戻したのは涙混じりの悲鳴だった。
ハッと顔を上げると、自分の目の前で悲鳴の主が魔王に組み敷かれ、必死の抗いも空しく小袖の前を乱暴に広げられて汗ばむ胸部を晒されていた。
ぐぅ…と声を漏らす勝家を信長はチラリと見て笑い、再度視線を利家に戻してその肉体を撫で回す。
「何をそのように抗っておる。いつも信長と愉しんでいる行為ではないか」
「……嫌…です…無理です……叔父貴の前で…こんな事出来ねぇ…」
「今更、何を言うておる。自分から信長の肉棒にしゃぶりつく様も、口の中に出してやっても飲まずに犬の如く這いつくばって吐き戻した醜い姿も全て見られておるのに」
「本当なのか? 叔父貴」
隣部屋に隠れていた事を知ってから薄々気付いてはいたが、それでも確認するように問うと、勝家は無言で目を閉じて深く頷いた。
そう言う答えが返って来るのは充分予測はついていたし、覚悟もしていたつもりだったが、実際に憶測が事実に変わった瞬間、利家は鳩尾の辺りに焼け付くような痛みを覚えた。立て続けに容赦なく襲い来る耐え難い現実が、存外脆い心だけでなく、頑強な肉体まで蝕み始めているのか。
熱く痛む胸元を押さえて顔を顰める利家を見ても信長は同情する様子は全く無く、寧ろ興じるように、苦しげな顔に己の唇を近付けた。
「んっ…ん………はうっ…ふぁ…」
歪んだ唇に相手の唇が触れたかと思うと赤く濡れた舌がぬるりと忍び込み、無意識に逃げようとする自分の舌を執拗に追跡して絡み付いてくる。未だ口の中に残っていた種と唾液が卑猥な水音をたてながら掻き回され、銀糸を引きながら利家の顎を伝い落ちた。濡れた唇を幾度も食み、その刺激によってあっけなく陥落した砦の中へと伸びた舌が中を舐め回し、溢れる体液を音を立てて啜る。
性交を始める儀式とも言える行為に頬を紅潮させ、敏感な身体をひくんひくんと小さく上下させる利家を抱き寄せつつ、信長は勝家の方を向いて言った。
「刮目せよ、勝家。この犬の本性を」
言いながら信長は笑みを強める。目の先の勝家は無表情に戻っていたが、組んでいた腕は何時の間にか解かれ、拳が膝の上に乗っていた。実は心が乱れているのであろう、至る所に太い血管が浮き出て細かく震えている拳が。
「…御意」
何とか言葉を返す勝家だったが、その濁声は確かに拳と同じく小さく震えていた。