犬になれ。完全に恐慌状態に陥っている利家が信長の命令に逆らえる訳が無く、言われたままに四つん這いになる。
信長の身体がおもむろに動き、犬の浮いた脇腹の下に自分の片方の腿を滑り込ませ、残りの膝を床に付けた。うっすらと汗ばんだ背中を撫でるその手は張りの良い丘へと進んで、幾度も舐めるように撫で回す。利家の口から、んっ…と色めいた吐息が小さく漏れた。
「ククッ」
漏れた声を鋭く聞き取った信長は嘲笑し、いやらしく回していた手を柔らかな山間で止める。
(このまま、入れられる……)
この後の信長の行動を予測し、覚悟を決めるしかないと何とか意識を変えようとした利家だったが、直後にその何もかもが吹き飛んだ。
「―――――!!?」
最初は声も出ずにただ目を白黒させるだけだったが、再度同じ衝撃が襲った瞬間に利家は自分がされている行為を理解し、同時に痛みと羞恥から生じる涙と悲鳴が溢れ出た。その間にも例の撃はより激しくなって弾けるような音を連発させる。
「い、痛いっ!! ひぃっ! ぃた、痛い! 信長様ぁ!!」
四肢をバタつかせて何とか逃れようとする犬の身体を押さえ付け、力の限りに臀部を打つと、肌の色をしていた其処は見る見る内に無残な赤に染まっていく。それでも手を緩める事無く一定の間隔で平手を浴びせて“躾”をする信長の視界の隅に、うろたえている様子の勝家が見えた。
「ひっく……ぃやだ…こんな……ぅぐ……嫌だっ……ぅわあぁあああっ!!」
すっかり赤くなった鼻や開きっ放しの口から透明の粘糸を垂れ流しながらしゃくり上げ、泣き叫ぶ利家の醜い姿さえも魔王にとっては高揚の種に過ぎず、繰り返される破裂音に嘲りの哄笑が混ざった。
「っ! ひぅ…!」
躾が繰り返される中、利家の身体が急にブルッと震え、打たれる度に股の間で品無く揺れていた根に右手が伸びる。強い恐怖の余り、過呼吸に近い息をしながら自分の方を振り返った利家の縋るような涙目に、信長はある事を思い出して唇の端を吊り上げた。
…あの時と同じ。
「いかがした、利家」
反応と瞳を見た時点で利家の状態は大方解していたのだが、わざと片眉を上げて何も分からぬ風に問うと、犬は情けない顔をよりクシャクシャにさせて泣きじゃくった。
「の、信長様…お、お願い…です………に……かせて…ください…」
近くで呆然としながらも視線も逸らせぬ様子の勝家には聞かれたくないのか、肝心の所を小声にしてしまう利家に愚かさと愛しさを感じつつもその手は大きく振り上げられ、その口は無情な台詞を吐く。
「聞こえぬな」
「あっ、あっ………信長様…どうか行くのを許してください…! 後生ですから、行かせ……いぁあああぁあ!! も…駄目……で、出るっ! 漏れるうぅうう!!」
巨大な紅葉が散る柔らかな山脈に渾身の力を込めた平手を食らわせてやると、利家の身体は再度嫌な感じに震え、そのままビクビクッと小さな痙攣を繰り返す。
直後、信長の太腿に面妖な感触が広がった。「……」
無言で視線を下へと向けると、白い小袖が異変の正体である液体の色に染まりながら太腿にべっとりとへばり付き、布が吸収しきれなかった分は足を伝って床に溜まりを作り始めていた。
そこまで確認した所で、言葉にならぬ声を出して嗚咽する犬から生温かく濡れた足を汚らわし気に離す。
「えぐっ、ひうっく………ぅあ、あ……あぁあああ……」
信長から解放されると同時に、真っ赤な顔で子供のような泣き声を出しながらも両手で水源を押さえ隠そうとするが、そのような行為を魔王が簡単に許す筈が無く、勢い良く利家を突き飛ばして尻餅をつかせたかと思うと
「いっ…!! は、離してくださいっ! 信長様っはな、し…!!」
その背後に座り、利家が慌てて閉じようとしていた両膝を掴んで強靭な力で思い切り抉じ開ける事で、犬の痴態が晒される。開かれた門の奥で、すっかり縮みあがっている男茎が未だ衰えぬ勢いで弧を描きながら小水を飛ばし、パシャパシャと音を立てて小さく温かな池を床に広げていった。
「やだっ! 嫌だ!! み、見てる……叔父貴が見てる……こんな…トコ…あぁぁ!! み、見ないでくれよぉ!!」
両手で隠した顔を幾度も激しく振って哭泣する利家が作り続ける溜まりの先には、微塵も動かぬ勝家がおり、瞬きすら忘れて想像を絶する状況を凝視していたが、見るなと言う拒絶の言葉にハッと我に返ったように目を瞬かせ、慌てて顔を横に逸らした。僅かながら安堵する利家の耳元で信長がつまらなげに鼻をフンと鳴らしたが、直ぐに何かを思いついたらしく、湯気立つ液体の勢いが漸く弱まりだした先端を肩越しに眺めながら、冷たい微笑を浮かべて言った。
「だらしなく小水を垂れ流しおったわ」
「…………」
もはや言い訳を口にする気力も無いのか、息を震わせながら無言で顔を背けて目を閉じる利家の涙に濡れた頬に信長の顔が近付き、伸びた舌先が幾重にも描かれた線を撫でる。
「一度ならず二度も信長の目の前で粗相をするとは、な。うぬは後ろの穴だけでなく、この方も締まりが悪いと言う事か」
「ひゃうっ…!」
背後から忍び込んで来た手が、全てを出し終えたばかりの茎をやんわりと掴み、少し前とは打って変わって柔らかになったそれを軽く振ると、先端に残っていた汁が数滴の雫になって辺りに散った。
もう、許してください。相手のか細い声が確かに耳に入ったが、黙殺して続ける。
「うぬは本当に手のかかるうつけよ。これは人としての…親の躾が足りぬのではないか? 勝家」
「なっ!」
突然、自分に矛先が向かれた事に瞠目しつつ背けていた顔を戻すと、信長は歯が軽く見えるほどに笑みを深めた。横では利家が混乱した様子で自分と信長の間で赤い目を幾度も往復させている。勝家の瞳に映る信長が眼を細め、口を開いた。
「うぬにとってこれは我が子のようなものであろう? ならば、うぬが親として躾けよ」
「そ、それは」
「出来ぬ、と申すか?先程信長がしたようにすれば良いだけの事、ぞ?」
「…………」
視線を少し信長の横にずらせば、目に入るのは不安げに震える利家の涙に濡れた顔。とても、今の状態の彼を信長がしたように痛め付ける気にはなれず、だが拒絶の言葉も言えずに黙してしまった勝家だったが、信長はそのような反応を予想していたのか機嫌を損ねた様子は見せず、寧ろ笑みに残虐な色を加えた。
「ならば」
言うや否や利家の後頭部を鷲掴みにし、思い切り叩き付けるようにその頭を押しつけると裏返った悲鳴が勝家の耳を貫いた。
土下座のような体勢で床すれすれの所に寸止めされた利家の鼻先にあるのは、彼が作った生温かい溜まり。
「これを利家に全て啜らせ、飲ませるのを躾とするか」
「そ、そんな……ぃあ…や……嫌っ…嫌だ、やだああぁ!!」
「うぬに拒絶の権利は無い。これも勝家がうぬの躾を拒んだから、ぞ」
「お、叔父貴っ、助け、てっ、叔父貴いぃい!!」
助けを求めて叫ぶ利家が強く目を閉じると、其処から零れた雫が池に小さな波紋を作り、信長はそれを嘲笑いながら押さえる手に力を加える。余りに非情な光景を勝家は暫し困惑の表情で眺めていたが、やがて深呼吸するかの如く数秒ほど目を閉じ、直後に大きく見開いて心中で叫んだ。えぇい、ままよ!!
「承知…致した。わしが利家に仕置きをしまする故、何卒その手をお放しになって頂けぬか」
叫ぶ心とは裏腹に口から出た声は普段通りの安定した重さで、発した本人も己の冷静な声色に驚きすら覚えた。
自然と垂れる勝家の頭に信長はせせら笑い、あれほど強く掴んでいた手を呆気なく離しながら皮肉っぽく言う。最初からそう言えば良かったものを。
「行け利家。今度は勝家に躾けて貰うが良い」最悪の躾から解放された犬は、小さく返事をしながら力無く立ち上がり、おぼつかぬ足取りで勝家の眼前に歩み寄ってペタンと腰を下ろす。
二人の瞳が交わった時、犬の目が微かに細められ、唇が動いて無音の台詞を紡いだ。有難う、と。
馬鹿な子よ。
勝家も声無き返事をしようとしたその時
「何をしておる。早うせぬか」
魔王の声が一瞬の安息すら掻き消した。二人は小さく嘆息し、子は信長にされた時と同じように両手両膝を床に付け、親は信長がしたように相手の腹を太腿に乗せて片膝をついたが、猿のように赤く腫れ上がった痛々しい其処を目にすると、勝家は手を動かせなくなった。
「勝家」
有無を言わさぬ急かし声が、手を無理矢理動かそうとする。何もしないで終わる事は全く望めないと悟った勝家は、数分前と同じ台詞を同じように胸中で叫び、手を大きく振り上げたが
「っ!」
やはり、目当ての箇所の痛々しさが目に入った途端に打つ手は著しく減速し、ペチン、と、まるで強さを感じぬ気の抜けた音が鳴った。
ぬるい。明らかに気を害した声に二人の胸が大きく跳ねた。
「うぬはそれが子犬の頃に悪戯をした仕置きとして尻を思い切り打ったと言うておったではないか。同じようにせねば躾にならぬ、ぞ」
「はっ」
「叔父貴…」
勝家の返事を聞いたかつての子犬が、振り向きながら心配そうな顔を浮かべる。その揺れる瞳を見詰め返しながら、勝家は自分にしか聞こえない小声で詫びた。
「許せ、利家」
バシンッ!
「ひ、いっ…!!」
全ての力を込めて打った手に痛みが走ったのは己の胸も痛いからか。それでも満足気に頷く信長の手前、止める事は出来ず、熱に近い痛みに耐えて幾度も叩くと、打たれた尻はより悲惨な色に変わり、自分の手と同じく熱を帯びているようだった。
「ひっ! ひあっ! んっ! うっ! うっ!」
鋭く響く仕置きの音に合いの手を入れるような利家の短い悲鳴に、信長は含み笑いを、勝家は呻きをそれぞれ漏らす。
手だけでなく耳まで痛くなりそうな苦しみと戦いながら十は打った頃、勝家は、ふと太腿の辺りに小さな違和感を覚えた。
何かが触れている。熱い、何かが。
(よもや…)
それの正体が何であるかは同性である勝家には容易に分かったが、そうなった理由が分からなかった。信長に打たれ、腫れ上がった尻を再度自分に叩かれる。苦痛と屈辱以外の何物でもないその行為に何故利家は……。異変に戸惑いながらも赤い手の平でより赤い尻を改めて打つ。
「あっ…!」
直後に耳に入った声も今までとは違う“色”が入っていた。
「利い…」
「利家」
思わず手を止めて相手の名前を呼ぼうとした瞬間、抑揚に特徴のあるその声が同じ名を呼ぶ。
「うぬは何故勃たせておる。勝家に尻を打たれて感じた、と申すか?」
「い、いえっ!」
何かしらの言い訳をしようとしていた利家の眼前に既に信長はおり、開きかけていた口は、彼の右手が両頬を強く挟む事で封じられる。唇を尖らせた歪み顔でもがく犬の瞳を覗き込みながら、信長は冷嘲した。
「この期に及んで、まだ口で抗うか。この変態犬が」
「ふぅん……う……うぅ…」
「勝家、もう良い。躾ではなく褒美になってしまうのでは何の意味も成さぬわ」
「はっ」
答えながら利家から身を離すと、袴越しに熱が触れていた箇所に、先程まで無かった染みが小さく付いていた。自分が勝手に思っていたよりも強い色情を持っているらしい利家に少なからず驚き、戸惑い、ほんの微かながら失望する勝家の心中に構う様子も無く、信長は奪うように利家を引き寄せ、そのまま流れるように横たえる。
信長の腕の隙間から利家は動かぬ勝家を見遣り、小さく彼を呼びながら一筋の涙を零した。