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 身を隠していた隣部屋から殆ど強制の形で今の部屋に入れられた勝家の目は落ち着き無く動いていた。
 耳には普段は聞き慣れぬ、だが聞いているだけで身体が妙な反応をしてしまいそうな水音が嫌でも入り、少しでも瞳を前方に向ければ、胡坐をかいた信長の足の上に座らされ、その鎖骨の辺りに頭を乗せてもたれかかっている利家が視界に入る。
 今や邪魔になった小袖も下着も剥ぎ取られ、生まれたままの姿となった利家の胸部の前で両の膝小僧が重なり、其処から八の字に広がる膝下の隙間に入り込んだ魔王の指が、例の濡れた音を立てていた。
「勝家に見られて昂ぶっておるのか? 何時も以上に熱く、好い感じに締めて来おるわ」
「はぁ…はぁ…あ……はぁぅ…ち、違…あぁっ! あっ、あん……」
 己の出した精や相手がだらしなく垂れ流す唾液を掻き集めた指で窄まりを撫でて濡らし、中に数本入れて激しく前後させると利家は犬のようにクゥン…と鳴き、直後に恥ずかしげに拳を口に押し当てた。
 そんな二人の様に想像以上に卑猥かつ目も当てられぬ下劣さを感じ、勝家の視線は自然と落ちて、利家の揺れる足先や床へと集中する。
「何処を見ておる勝家。うぬの子の愛い姿を見てやらぬか」
「…や……嫌だ…叔父貴…見ないでくれよ…ぉ…!」
 見ろと言う主君に、見るなと言う我が子同然の青年。
 正反対の言葉に勝家は逡巡し、一瞬だけ信長の命令通りに視線を上げると、相変わらず体液まみれの長い指が何度も出入りしている穴と、利家が幼子だった頃に水遊びに付き合った際に目にしたそれとは全く違う形状を成して屹立した成人の肉搭が、先端を湿らせながら揺れるのが垣間見え、やはりその姿は到底直視出来ずに、慌てて利家の望み通りに視線を地に戻す。
 その反応に信長は不満げに鼻から息を抜いたが、まぁ良いと誰にとも無く呟いた。
「ならば、せめて声だけでも聞け。犬の発情の遠吠えを、な」
「…………」
 頭を下げたまま唇を噛み締める勝家は自分に助けを求めるような利家の声を聞いた気がしたが、何もする事が出来ずに固く目を閉じた。愛する子も救えぬ己の不甲斐無さを強く呪う勝家の聴覚が聞きたくない声を無情に感知する。
「あっ……信長…様…! そ、そこはっ、駄目です…ひぁあ…!」
 脇の下から伸びて来た手が利家の胸元をまさぐり、一部色濃い円をなぞり、その中心に位置する突起を強く弾くと、裏声混じりの悲鳴が部屋に響いた。それでも信長は玩弄の手を止めず、弾きに飽きると親指と人差し指で膨らんでいる其処を抓んで捏ね回し、相手の苦痛など構わず強く押し潰す。性的弱点を激しく攻められ続ける事で利家の身体を快楽の熱が駆け巡り、震えながらも色が入った声で絶叫した。
「あっ! んあっ! ゃあぁん…!! だ、駄目……おっぱい駄目えぇええ……!」
「ククッ、本性が出て来たな、犬よ」
 完全に自分の手の内で溺れている犬の遠吠えを堪能しながら勝家を見やった信長は満足気に唇を吊り上げる。
 一見、無反応のように見える勝家だが、その身体は小さく震え、筋が浮いていた拳も今や血の巡りが悪くなるほど強く握り締めているせいか白く変色しかかっていた。可能ならばすぐにでも間に割って入って止めに入りたい所を耐えているのだろう勝家の憤懣が、手に取るように分かった気がした信長は、鬼柴田と呼ばれるその男の心をより乱したらどうなるだろうかと言う捻くれた好奇心が湧き、ただその欲求を満たさんが為に利家の柔らかな蕾に入った指を律動させ、中を乱暴に掻き回した。
「あぁっ! あはぁあん! あんっ!! ゆ、指がっ、信長様の、指が、俺の濡れ濡れ穴、クチュクチュ、クチュクチュってぇえ!」
「くっ!」
 普段の彼からは想像も出来ぬ淫猥な台詞と信長が言う所の“発情した”声に、頭を垂れたままの勝家の口から重い呻きが漏れ、より強く握る拳の裏で爪が深く食い込む。
 いっそ己の耳を切り落としたくなる衝動すら覚えるその声を少しでも聞くまいと、勝家は神経を別方向へと向けようとしたが、それが逆に意識してしまう形になってしまい、聞きたくない音が余計に耳に流れ込んで来た。性的な水音。信長の含み笑い。利家の泣き声と嬌声。

 悦楽に理性を殆ど奪われ、感じるがままに声を出しながらも、利家は勝家の呻吟を聞く度に胸を鷲掴みにされるような痛みを覚えていた。
 叔父貴が俺の声を聞いてる。俺が乱れて口走ってる言葉を聞いてる。こんな声聞かれたくないのに。こんな台詞聞いて欲しくないのに。
「はぁ……はっ…叔父…貴……」
 信長の腕の中でされるがままになりながら、利家は小さく勝家を呼び、自分の右手をしげしげと眺め、人差し指を鉤のように曲げてゆっくりと口元に近付ける。そして
「んっ……んふっ……ぐぅ、んっ! んぅう!!」
「?」
 突如、利家の声が篭った事に勝家は眉を寄せたが、それでもその姿を見る事が未だ出来ず、身体自体は微動だにしない。信長の笑い声が利家の小さく篭った声と重なった。
 一体、何が起こっていると言うのか。
 その答えに繋がる物が暫し後に床に落ち、其処に向けたままだった眼の中にそれが入った時、勝家は瞠目し、反射的に顔を上げて叫んだ。
「利家!?」
「……うん……ふぅん…ふぐうぅ…」
 床に散った赤い斑点の正体が、固く目を閉じた利家の口元から新たに滴り落ちる。勝家に嬌声を聞かせたくない一心で人差し指に立てた歯は信長が利家を嬲る度に強く突き刺さり、血が噴き出ていた。
「わ、わぬし、何をしておる! やめぬか!!」
 歯の形に皮膚を突き破られて血が溢れる指を見た勝家は声を荒げるが、利家は赤い線が走る指を離さずに首を左右に振るばかり。何と言う事を…と声を震わせる勝家の眼前で、上機嫌な様子の魔王の舌が利家の敏感な耳朶を舐って指の傷を深めようとする。
「其処までして勝家に声を聞かせたくないのか。いたいけな事よ。のぉ? 勝家」
「…………………」
「んう! ふうぅ! んっ、んっ! んぐうぅうっ!!」
口では“いたいけ”などと言いながらも指の動きはやはり無遠慮で、すっかり解れた穴の入り口を撫で、弄り、突っ込んで内壁を躊躇無く引っ掻く。そのような狼藉を加えられながらも利家の肉体はそれにすら快感を覚える所まで達してしまい、淫らな声が飛び出そうになるが、歯の力を強めて勝家に聞かれる事を阻止する。舌に血の味が広がっていく中、ギリギリと嫌な音が指から聞こえ、痛いと言うより熱さを感じる傷が骨まで達しているような気さえした。
 信長が利家を弄ぶ毎に歯の食い込みが深くなっていき、鮮血が止め処なく溢れる指を凝視する勝家の胸の内で、一つの大きな不安が駆け巡っていた。
 このままでは……
「んっ! ぅんっ!! んんう!! …ひ、ひぐっ……ひぐぅううう!!」
 それでも指を離そうとせぬ利家の身体が突然弾け、腰の辺りからガクガクと激しく上下しだす。
 利家の異変に抱いている不安が一気に肥大化するのを感じた勝家がついに動きを見せた瞬間、信長は蹂躙し続けていた熱い肉壁の中にある微かな違和感を、止めを刺すが如く指で強く押し込んだ。耐え難い感触が一気に絶頂を促し、利家は目を強く閉じたまま仰け反って吠える。
「ふぐううぅ! んあ、あぁっ……あぎぃいいいいいーーーーっ!!」
「利家!!」
 ガチン!
 痛みを感じるほどの歯の強い接触と響きが顎に響いた時、声を抑える為の猿轡代わりに使っていた指が口から離れているのに気付いた利家は、息を切らしながら瞳を開けた。
 達した直後で何となくボンヤリした視界に入るのは、自分の真っ赤な人差し指とその手首を掴んでいる武骨な手と大きく息を吐く男の月代。その主は
「お、叔父貴…」
「…何を考えておるのだ、わぬしは。放っておらば指を噛み千切りそうだったではないか」
 吐精する際に一瞬だけ口を開いた隙に彼は立ち上がり、全力で駆け寄り、手首を引っ掴んで、自分の口から指を引き離したのか。
 呆然とする利家の眼前で俯いたままだった勝家が顔を上げた時、利家は眼を大きく見開いて息を呑んだ。
「あ…あ……お、叔父貴…こんな…す、すまねぇ…」
「この程度で一々気に病むな。情けない。それよりも指は大丈夫なのか? かような事でわぬしは指を失す気だったのか?」
 利家の胸に飛び込み、手を引いた際にかかってしまった種が髭面からポタポタと垂れ落ちていたが、当の本人は気にする様子はなく、未だ歯形から血が滲み出ている指が痛々しい手をややぎこちなく擦ると、利家は大粒の涙を零し、幾度も勝家を呼びながら互いの鼻先が引っ付きそうな程に顔を近付けた。
「本当にすまねぇ……お、俺……」
 相手の微かな戸惑い顔に付いてしまった己の精を舐め取ろうと言うのか、何故か頬を紅潮させている利家の舌がゆっくりと伸びる。その紅く濡れた舌先に白濁が乗ろうとしたその時、背後から伸びた手が犬の尻尾を掴んで乱暴に引いた。
「ひっ!い、痛っ!!」
 髪を強く引っ張られて痛がるが、彼は手を離さず、寧ろ余計に力を込めて犬を床に引き摺り倒し、そのまま髷を掴んだ手を掲げて自分と相手の顔を強制的に引き合わせた。
 先程、鬼に犬が顔を寄せた時のようにピッタリと。
 魔王の異名に相応しい眼力に瞳を貫かれ、動く事も目を逸らす事も出来なくなった利家の揺れる瞳に、信長は冷たい瞳そのままの声で言い放った。
「誰が勝手に達して良いと言うた?」
「!!」
 利家の顔がサッと青褪め、小さく開いた口から、あ…あ…と震えた声が零れる。その恐怖に引き攣る顔をジックリと眺めて楽しみつつ黒い声は続く。
「うぬは達する時にはイクだの何だの品無き声で喚き、それを信長が許した時に出していた筈。それすらせずに勝手に、しかも後ろの穴だけで精を吐き出すとは…やはりうぬは肉欲に塗れた駄犬よ」
「ち、ち、違うんです! 信長様! 俺、言ったンです! イクって言ったンです!! で、でも、あの、指咥えてたからそう聞こえなかっただけ…で……」
「予の許しを得ずに射精した挙句、言い訳までするか」
 必死に弁解しても信長の心は動かず、蛙と化した自分を一時も逃さぬ蛇の瞳がゆっくりと細くなる。信長は手の中にある髪の結びを掴み直し、床に利家を叩き付けた。床板に顎を強かに打ち、痛がる利家を、見下ろす魔王の黒い影が覆う。
「よもや、これ程までにたわけな犬だとは思わなかったわ。躾け直さねばならぬな」
「お、大殿」
 それまで黙して飼い主と犬の加虐と被虐を見ていた勝家が耐えかねたように口を開くが
「いかがした?」
「い、いえ…」
 静かながらも強く、冷たい魔の瞳に一瞥されると言葉が喉の辺りで詰まってしまい、結局何も言えずに俯く勝家の顔から白い粘りが滴り落ちた。