[寺院オール]空知らぬ日の“特別”
- 2012/05/06 22:37
- カテゴリー:最遊記
一日遅れになりましたが、こどもの日ネタ。皆でほのぼの
いつものように、三蔵の執務室で暇を持て余していた悟空にとって、悟浄と八戒の来訪は幸いだった。
悟浄に遊び相手をして貰うでも、八戒が持って来てくれたおやつを食べるでも良い。
延々と仕事に耽る三蔵の傍で、構って貰える時間が来るのをぼんやりと待つより、ずっと有効的な時間だ。
「悟浄、八戒、いらっしゃい!」
「はい、お邪魔してます」
「相変わらず煩ぇ猿だな、お前は」
ぐりぐりと悟浄の手が悟空の頭を撫でる。
やめろよ、と悟浄の手を払おうとする悟空を、八戒が微笑ましそうに眺めている。
静かだった執務室が俄かに騒がしくなったのを受けて、三蔵が眉間に皺を寄せる。
しかし、此処にいる面々に何を言おうと無駄であるのは判り切った事なので、三蔵は溜息を一つ吐いただけだった。
次いで集中力も斬れたのか、手に持っていた筆を置き、取り出した煙草に火を点けた。
「で、お前ら、何の用だ?」
じろりと睨む紫電には、暗に「用がないなら帰れ。要があるならさっさと済ませて、とっとと帰れ」と言うオーラが滲んでいる。
それも目の前の男達には無駄なものでしかないが。
三蔵の言葉に、八戒は手に持っていたバスケットを見せてにこやかな笑みを浮かべる。
「今日は、悟空にこれを渡しに来たんです」
「ふえ?オレ?」
悟空は悟浄を押し退けて、なになに、と期待に満ちた眼差しで八戒に駆け寄る。
何せ、八戒が持って来ているバスケットには、いつもクッキーやパイなどの食べ物が入っているからだ。
それは大抵、八戒の手作りで、悟空の土産の為にと作られたものでる事が殆どである。
わざわざ“悟空に”と八戒が明言しなくても、食べ物の類は須らく悟空の胃に収まるものなのだが、それでも明言される事で、悟空にとっては特別感が増したように思えるのだ。
八戒は、悟空にバスケットを覗き込ませてやりながら、蓋代わりに被せていた手拭を取った。
すると其処には、大きな葉に包まれた、もちもちとした掌サイズの白い塊。
「何、これ?」
「おや、知らないんですか?柏餅です」
「かしわ……もち?」
「今日はお子様の日だからな」
「誰がお子様だ!」
“お子様の日”がどういうものなのか、それと“かしわもち”がどういう関係なのか悟空には判らなかったが、悟浄の言葉が自分をバカにしたものである事は理解できた。
噛み付くように叫んだ悟空を、宥めるように八戒が撫でる。
「まぁまぁ悟空。それより、これ、早めに食べちゃって下さい。固くなると美味しくありませんからね」
「マジ?じゃあ急いで食う!」
「待て、バカ猿。てめえ、さっきまでクレヨン触ってただろうが。手洗って来い」
「うえ~………うー…」
三蔵の言葉に、悟空は面倒臭いとばかりに顔を顰めた。
が、それをじろりと睨まれて、渋々従う事にする。
実際、悟空の手は画用紙に落書きしていた時に触っていたクレヨンの所為で、色とりどりに染まっていた。
悟空は急ぎ足で寝室に向かうと、洗面所で手を洗い、丁寧にクレヨンの汚れを落とす。
三蔵に見て貰っても怒られないくらい、きちんと綺麗にしてから、執務室へと戻った。
「ただいま!食べていい?」
手を見せて三蔵に問うと、無言で紫電が瞼裏に伏せられる。
無言の了承を貰って、悟空は早速、八戒の手から一つ貰って口に運ぶ。
むにぃ、ともち米独特の粘りの良さに対抗して、ぐっと顎で強く噛んで引っ張る。
中には餡が入っており、これも八戒が小豆から煮て自らの手で作ったのだろう、しつこくない甘味が口一杯に広がった。
喉詰まらすなよ、と言う悟浄に生返事をして、悟空はむぐむぐと一所懸命顎を動かした。
思い切り頬張った一口を、よく噛んで飲み込む。
さて二口目、と思った所で、悟空はじっと見つめる三対の視線に気付いた。
「何?」
紫電と紅と翡翠。
それぞれ無言で見詰める視線に、何かあるのかと問うてみると、
「いえ、なんでも」
「気にすんな、気にすんな」
「………」
────そう言われても、じっと観察されているようで、なんだか落ち着かない。
「…そういや、皆は食わねえの?」
「ええ。この柏餅は、悟空の為に作ったものですから」
「そうそう。だから気にせずに食えよ」
「葉は食うなよ。食用じゃねえからな」
順々に繋げて言われて、悟空はきょとんと首を傾げた。
食べているのを観察されていたから、てっきり、彼らも食べたいのかと思ったのに、違うらしい。
気にはなるが、気にせずどうぞ、と言うので、悟空は食べる事に集中する事にする。
時間が経つと美味しくなくなると言うなら、美味しいうちに全部食べてしまいたい。
見詰められながら食事をするのは、どうにも気恥ずかしい事だったけれど、
初めて食べた柏餅はとても美味しかったから、来年も食べたいと思った。
うちの三蔵、悟空に行事ごとを教えなさ過ぎだろう……教えても毎年出来るか判らないからね、うん。
悟浄と八戒は、行事に感けて悟空を構いつけたいだけです。
いつものように、三蔵の執務室で暇を持て余していた悟空にとって、悟浄と八戒の来訪は幸いだった。
悟浄に遊び相手をして貰うでも、八戒が持って来てくれたおやつを食べるでも良い。
延々と仕事に耽る三蔵の傍で、構って貰える時間が来るのをぼんやりと待つより、ずっと有効的な時間だ。
「悟浄、八戒、いらっしゃい!」
「はい、お邪魔してます」
「相変わらず煩ぇ猿だな、お前は」
ぐりぐりと悟浄の手が悟空の頭を撫でる。
やめろよ、と悟浄の手を払おうとする悟空を、八戒が微笑ましそうに眺めている。
静かだった執務室が俄かに騒がしくなったのを受けて、三蔵が眉間に皺を寄せる。
しかし、此処にいる面々に何を言おうと無駄であるのは判り切った事なので、三蔵は溜息を一つ吐いただけだった。
次いで集中力も斬れたのか、手に持っていた筆を置き、取り出した煙草に火を点けた。
「で、お前ら、何の用だ?」
じろりと睨む紫電には、暗に「用がないなら帰れ。要があるならさっさと済ませて、とっとと帰れ」と言うオーラが滲んでいる。
それも目の前の男達には無駄なものでしかないが。
三蔵の言葉に、八戒は手に持っていたバスケットを見せてにこやかな笑みを浮かべる。
「今日は、悟空にこれを渡しに来たんです」
「ふえ?オレ?」
悟空は悟浄を押し退けて、なになに、と期待に満ちた眼差しで八戒に駆け寄る。
何せ、八戒が持って来ているバスケットには、いつもクッキーやパイなどの食べ物が入っているからだ。
それは大抵、八戒の手作りで、悟空の土産の為にと作られたものでる事が殆どである。
わざわざ“悟空に”と八戒が明言しなくても、食べ物の類は須らく悟空の胃に収まるものなのだが、それでも明言される事で、悟空にとっては特別感が増したように思えるのだ。
八戒は、悟空にバスケットを覗き込ませてやりながら、蓋代わりに被せていた手拭を取った。
すると其処には、大きな葉に包まれた、もちもちとした掌サイズの白い塊。
「何、これ?」
「おや、知らないんですか?柏餅です」
「かしわ……もち?」
「今日はお子様の日だからな」
「誰がお子様だ!」
“お子様の日”がどういうものなのか、それと“かしわもち”がどういう関係なのか悟空には判らなかったが、悟浄の言葉が自分をバカにしたものである事は理解できた。
噛み付くように叫んだ悟空を、宥めるように八戒が撫でる。
「まぁまぁ悟空。それより、これ、早めに食べちゃって下さい。固くなると美味しくありませんからね」
「マジ?じゃあ急いで食う!」
「待て、バカ猿。てめえ、さっきまでクレヨン触ってただろうが。手洗って来い」
「うえ~………うー…」
三蔵の言葉に、悟空は面倒臭いとばかりに顔を顰めた。
が、それをじろりと睨まれて、渋々従う事にする。
実際、悟空の手は画用紙に落書きしていた時に触っていたクレヨンの所為で、色とりどりに染まっていた。
悟空は急ぎ足で寝室に向かうと、洗面所で手を洗い、丁寧にクレヨンの汚れを落とす。
三蔵に見て貰っても怒られないくらい、きちんと綺麗にしてから、執務室へと戻った。
「ただいま!食べていい?」
手を見せて三蔵に問うと、無言で紫電が瞼裏に伏せられる。
無言の了承を貰って、悟空は早速、八戒の手から一つ貰って口に運ぶ。
むにぃ、ともち米独特の粘りの良さに対抗して、ぐっと顎で強く噛んで引っ張る。
中には餡が入っており、これも八戒が小豆から煮て自らの手で作ったのだろう、しつこくない甘味が口一杯に広がった。
喉詰まらすなよ、と言う悟浄に生返事をして、悟空はむぐむぐと一所懸命顎を動かした。
思い切り頬張った一口を、よく噛んで飲み込む。
さて二口目、と思った所で、悟空はじっと見つめる三対の視線に気付いた。
「何?」
紫電と紅と翡翠。
それぞれ無言で見詰める視線に、何かあるのかと問うてみると、
「いえ、なんでも」
「気にすんな、気にすんな」
「………」
────そう言われても、じっと観察されているようで、なんだか落ち着かない。
「…そういや、皆は食わねえの?」
「ええ。この柏餅は、悟空の為に作ったものですから」
「そうそう。だから気にせずに食えよ」
「葉は食うなよ。食用じゃねえからな」
順々に繋げて言われて、悟空はきょとんと首を傾げた。
食べているのを観察されていたから、てっきり、彼らも食べたいのかと思ったのに、違うらしい。
気にはなるが、気にせずどうぞ、と言うので、悟空は食べる事に集中する事にする。
時間が経つと美味しくなくなると言うなら、美味しいうちに全部食べてしまいたい。
見詰められながら食事をするのは、どうにも気恥ずかしい事だったけれど、
初めて食べた柏餅はとても美味しかったから、来年も食べたいと思った。
うちの三蔵、悟空に行事ごとを教えなさ過ぎだろう……教えても毎年出来るか判らないからね、うん。
悟浄と八戒は、行事に感けて悟空を構いつけたいだけです。