[子サイ&子スコ]閉じ行く世界の、とある隙間
- 2011/12/22 20:16
- カテゴリー:FF
「サイファー、誕生日おめでとう」
イデアの言葉を真似するように、沢山の声で同じ言葉がリピートされる。
それがサイファーにはむず痒くも嬉しくて堪らなかった。
石造りの家の外では、しんしんと雪が降り続けている。
締め切った窓は、部屋と外気の温度差の所為でほんのりと雲っていた。
荒涼としたセントラ大陸は、どの季節でも少し気温が低く、夜になると陽の光を失った為に冷え込みも一層進む。
冬の只中ともなれば尚の事そうで、石造りの部屋の中も、放って置けば冷蔵庫の中のように冷たくなる。
小さな子供ばかりがいる中で、そんな酷な環境を作る訳にはいくまいと、シドが作った小さな暖炉は、冬に入る前からフル活動されている。
温かくて柔らかくて、賑やかな、閉ざされた世界。
其処で迎えた、生まれてから五回目の誕生日。
「はい、サイファー!プレゼント!」
そう言って小さな箱を差し出したのは、セフィだ。
受け取って箱の蓋を開けてみると、真っ白な毛糸で編まれた、所々解れたマフラー。
「皆で編んだのよ」
「大事にしてね」
キスティとアービンの言葉に、判ってるよ、といつものように少しぶっきら棒に言う。
けれども、声は言葉ほど刺々しくはなかったから、キスティがいつものようにサイファーを窘める事はしなかった。
サイファーは箱からマフラーを取り出して広げて見る。
綺麗に編まれている所はママ先生、幅が一律になっているのがキスティ、気紛れに歪んでいるのがセフィ、その後のズレを直しているのがアービン、解れているけど案外と整っているのは多分ゼル。
見ただけで、誰が何処まで手をかけたのかがなんとなく判るのが、少し可笑しかった。
くすぐったさを隠しながら、サイファーはマフラーを首に巻く。
「うん、似合う似合う」
「サイファー、あったかそう」
アービンとゼルが嬉しそうに行った。
頑張って良かったねー、とセフィがキスティに笑いかけた。
それを見詰めて、サイファーはふと、この寒いのに玄関傍でじっと動かない子供の事を思い出す。
「皆でって、スコールも編んだのか?」
暗い茶色の髪に、少しくすんだ、けれど綺麗な青の瞳をした子供。
此処にいる子供達の中で、ゼルの次に背が低くて、ゼルと同じくらいに泣き虫な子供。
いつも姉の後ろをついて歩いていた、今はそのついて行く手をなくした、泣く事を忘れた泣き虫な子供。
ほんの少し前まで、揶揄ってやると直ぐに泣いていたその子供は、近頃、めっきり泣く事をしなくなった。
サイファーが何を言っても、ほんの少し視線を向けて来るだけで、直ぐにそっぽを向いてしまう。
サイファーは姉を追い駆けてばかりの子供も好きではなかったけれど、今の、誰も何も見ていない青はもっと嫌いだった。
子供達はそれを知っているから、サイファーの言葉に、キスティとアービン、ゼルが言い難そうに顔を見合わせた。
────その傍らで、
「そうだよ~。マフラーのポンポンつけたの、スコールなんだよ」
にこにこと楽しそうに、嬉しそうに言ったのはセフィだ。
隣ではイデアもまた、いつもの優しくて温かな笑みを浮かべて、「ええ、そうよ」と言った。
サイファーは、マフラーの先端についている、丸いポンポンを見る。
縫い付け方はとても綺麗になっていて、正直、あの不器用な子供がこれをこなしたとは思えなかった。
けれど、にこにこと笑うイデアもセフィも、嘘をついている訳ではないだろう。
きっとスコールの下にこれを持って行って、針を毛糸に一度だけ通しさせたとか、そんな所に違いない。
子供らしからぬ顰め面でポンポンを見るサイファーに、イデアは小さく笑みを零す。
金色の髪を優しく撫でると、サイファーの緑の瞳がイデアを見上げた。
「とても綺麗につけられているでしょう。スコール、とても頑張ってくれたのよ」
「……うん」
真相がどうであれ、ママ先生がそう言うのなら、サイファーからは何も言わない。
素直に頷いたサイファーに、イデアは笑みを深めた。
カチリ、と部屋のドアが鳴る音がして、イデアが其方を振り返る。
子供達は次のメインであるケーキに夢中になっていたが、サイファーはなんとなく、椅子を立ったイデアを目で追っていた。
部屋の中に入って来たのはスコールで、イデアは小さな彼の体を抱き上げた。
スコールは肩を震わせてイデアに縋り付き、イデアはそんな子供の背中を優しく撫でてやっている。
子供が繋ぐ手を失った日から、何度も何度も繰り返された光景だった。
スコールを抱いたイデアが、寝室の方へと消えて行く傍で、キスティがカットされたケーキを皿に移し終えた。
ケーキは全部で8個にカットされていて、その内一つは冷蔵庫の中にある───多分シドの分だろう。
サイファーの前にも、特別にメッセージの添えられたチョコレートと一緒に、ケーキが運ばれた。
他のケーキに比べるとほんのちょっと大きい部分が渡されたのは、今日の主役がサイファーだからだ。
そんなサイファーのケーキを、セフィが少し羨ましそうに見てるのを見て、アービンが自分のを半分あげる、と言った。
ケーキなんてものは、此処にいる子供達にとって、特別な時にだけ食べられる、特別な御馳走だった。
だから皆、目の前に来ると直ぐに食べてしまう。
────けれども、この時のサイファーは、中々ケーキに手を付けなかった。
「あれ、サイファー、何処行くの?」
椅子から降りたサイファーに、ゼルが言った。
サイファーはちらりとゼルを見ただけで、ぷいっと無視する。
寝室からイデアが出て来たのを入れ違いで、サイファーはドアの隙間を潜った。
「サイファー?」
部屋を出たばかりのイデアが、ドアを開けて呼びかけたが、サイファーは応えなかった。
寝室に並んだベッドの一番奥で、シーツに包まっている子供の下へ向かう。
ベッドの住人────スコールは、ダンゴムシのように小さく丸まっていた。
今は一人きりで使っているそのベッドに、ほんの少し前まで、他の誰かが一緒に丸くなっていたのをサイファーは知っている。
ベッドの傍まで行ってみると、スコールはまだ起きていた。
「おい、スコール」
「………!」
びくっ、とシーツに丸まったスコールが小さく跳ねた。
「ケーキ、食べないのかよ」
「………」
「オレが食べるぞ、余ったケーキ」
滅多に食べられないケーキが好きなのは、スコールも他の子供達も一緒だ。
少し前なら、こう言ってやれば、「いや!」と言って跳ね起きて来た。
……けれどスコールは何も言わず、ダンゴムシになったまま。
「本当に食べるぞ」
実際は、それをしようとしたら、きっとキスティに見付かって取り上げられるに決まっている。
お菓子もご飯も、きちんと人数分あるのだから、誰かのものを勝手に取ったりするのは駄目だ。
けれど、此処でスコールがサイファーに「食べて良い」と言ってしまうか、「食べちゃダメ」と主張しない限りは、必ずしもサイファーが余ったスコール分のケーキを食べてはいけない、と言う事にはならなくなってしまう。
サイファーはちゃんとスコールに言ったのだから。
何も言わないスコールに、サイファーはむーっと唇を尖らせる。
「折角ママ先生が作ってくれたんだぞ」
誰かの誕生日の時にだけ食べられる、ママ先生の手作りケーキ。
今日はサイファーの誕生日で、だから主役もサイファーなのだけれど、ケーキは皆の為にも作られた。
それを食べないなんて。
折角作ってくれたのに。
語尾が少し強くなった所為で、またスコールがびくっと体を震わせた。
そのお陰と言って良いかは判らないが、スコールがそろそろとシーツから顔を覗かせる。
頼りない光を宿した青灰色が、窓から差し込む雪明りに照らされて、暗闇の中にぼんやり浮かぶ。
瞳に映り込んだサイファーの顔は、少し機嫌の悪そうなもので、再三スコールがびくっと体を竦ませた。
────が、サイファーの首を覆う白を見て、ぱちり、と瞬きを一つ。
「……サイファー、それ」
ベッドに横になったままのスコールの言葉に、サイファーはああ、と自分がマフラーを巻いたままにしていた事を思い出す。
「……これ、お前がつけたってセフィが言ってた」
マフラーの先についている、丸いポンポンを弄りながら、サイファーは言った。
うん、とスコールが小さく頷く。
「ママ先生に、教えて貰ったんだよ」
教えて貰って、僕がつけた。
僕が頑張ったら、サイファーもきっと喜ぶからって。
そう言ったスコールに、サイファーは少し意外に思った。
姉の事しか見えてない、ずっと姉だけを待ち続けているスコールが、サイファーが喜ぶかも知れない事に手を動かすなんて。
綺麗な青い宝石が、ほんの僅かでも、サイファーを想う事があるなんて。
寝室は、暖炉のあるリビングに比べると少し冷えていたが、凍える程ではない。
マフラーも必要ない程度だったので、解こうかと思ったサイファーだったが、
「サイファー…それ、あったかい?」
口元をシーツに埋めて聞いてきたスコール。
サイファーも、スコールと同じように、マフラーの波に口元を隠して言った。
「ああ」
「……そう」
良かった。
そう呟いて、スコールが小さく笑う。
サイファーが何ヶ月か振りに見た、スコールの笑顔だった。
サイファー誕生日と言う事で、サイスコ……?
自分の中でサイファー像が固まってなかった。駄作偽キャラすみません。
うちの子スコはエル姉ちゃん一番で、世界も殆どそれで埋まってますが、決してエル姉以外の事が見えていない訳ではなくて、ただそれを認識して「自分が一人ぼっちじゃない」事に気付くほどの心の余裕がなかった、と言うイメージ。
サイファーは幼馴染組の中では年上だし、なんだかんだで面倒見が良さそうな気がします。ジャイアン気質でもあるけど。