[悟空&ジープ]いつも通りの聖なる日
- 2011/12/25 00:10
- カテゴリー:最遊記
全くそんな風ではないけど、一応クリスマス話。
吹き付ける風の冷たさに、悟空はぶるっと身を震わせた。
その肩で、ジープが小さなくしゃみを零す。
雪の降り積もった山の中で一人、取り残されている。
原因は他でもない悟空自身で、雪の積もった坂道での戦闘中、足を縺れさせて転んだ事にある。
それなりの急斜角だった為に、悟空は結構なスピードで転がり落ち、その先にあった崖から落下してしまった。
幸運だったのは、降り積もった雪がクッションになったお陰で、怪我らしい怪我をしなかった事か。
ジープは転がって行く悟空を追い駆けて、崖の下まで降りて来た。
どうせこの積雪ではジープの足を頼りにする事は出来ないから、飼い主の手を離れても問題はない。
寧ろ、逸れた悟空が一人で歩き回って迷子にならないように見張る事こそ、今のジープに課せられた役目であると言える。
そうした経緯で、悟空とジープは、二人────一人と一匹で、崖下で三蔵達の到着を待っている。
ちゃんと迎えに来てくれるかな、と悟空は少しばかり不安だったのだが、ジープが此処にいるのなら、三蔵も悟空との合流を急ぐだろう。
何せジープがいなければ、一行の進みは格段に遅くなるし、何より物臭な彼が自分の足で旅をするなど、先ず有り得ない事だ。
それを考えると、悟空は尚の事、ジープが自分を追い駆けて来てくれた事を感謝せずにはいられない。
……でも、この寒さは、正直、辛い。
「う~っ……マジで凍りそう」
両腕を摩りながら呟いた悟空に、ジープが頷くように小さく鳴いた。
これだけ寒い日なら、いつもは外套を羽織っているのだが、今はそれも手元にない。
戦闘となると飛び跳ね周る悟空にとって、嵩張る防寒具は、邪魔にしかならないのだ。
今日は吹雪いてもいないし、動き回っていれば温まると思って投げていたのだが、こんな所でそれが裏目に出るとは。
適当な木の下に移動して、風よけにし、悟空はその根本に蹲る。
じっとしていると足元から冷えてくるような気がしたが、それは立っていても同じ事だ。
せめて残った熱だけは手放すまいと、自分の身体を抱き込むようにして丸くなった。
そんな悟空の襟元に、温かなものが触れる。
「ジープ?」
キュ、と耳元で聞こえてきた小さな声。
背中の鬣が悟空の耳元に当たって、少しくすぐったかった。
真っ白で、何もかもが埋まってしまったような世界の中で、直ぐ傍に感じられる、温かな熱。
それがどれだけ得難くて、寒い世界でどれだけ心安らぐものなのか、悟空は知っている。
一人と一匹で、真っ白な世界の中で蹲る。
見上げた空は曇天に覆われていて、今にも空から結晶が落ちて来そうだった。
それをぼんやりと見つめながら、そう言えば───と、悟空は今朝の会話を思い出す。
「今日って、クリスマスらしいんだよな」
悟空の呟きに、ジープが小さく首を傾げた。
「八戒が言ってた。ほら、八戒って日記つけてるじゃん。あれで日付、覚えてるんだって」
成程、と言うように、ジープが瞬き一つして頷いた。
今日はクリスマスなんですねえ、と言った八戒に、直ぐに悟浄が反応した。
今年はサンタクロース来るのかね、と悟空に向けて言った彼の目は、明らかに子供扱いして揶揄っているものだった。
悟空は頬を膨らませ、そんなに子供じゃないと言い返したが、その実、17歳頃までサンタクロースの存在を信じていたのも事実で、顔が赤くなるのは誤魔化せなかった。
そもそも、悟空がそんな年齢になるまでサンタクロースを信じていたのには、訳がある。
元々クリスマスと言う行事を知ったのが、悟浄と八戒の二人と知り合ってからだったので、先ずスタートが遅かったのだ。
クリスマスは異国の宗教が祭事の一つとしていたものが、形を変えて一般に広まったものであったから、仏教を信仰する寺院にいた悟空が知らなかったのも無理はない。
八戒は悟空にクリスマスを教えると共に、サンタクロースと言う奇蹟者がいる事も教え、それから三年間、渋る三蔵を説き伏せ、サンタクロースからプレゼントを貰うと言う演出で悟空を楽しませたのである。
そうした過去から、悟空は17歳のクリスマスに、枕元に忍び寄る人の気配に気付いて目を覚ますまで、サンタクロースの正体を知らなかったのだ。
それを今になって揶揄われて、悟空は恥ずかしくて堪らなかった。
仕返しに、悟浄が腹に綿を詰めて赤い服を着て、白髭をつけると言う、ノリノリでサンタクロースに紛争していた事を言ってやれば、悟浄も赤くなって「ありゃジャンケンで負けただけで、ノってた訳じゃねえ!」と言われたが、真実がどちらであるにせよ、悟空にとっては良い攻撃材料である事には変わらない。
二年前にサンタクロースの正体を知ってからも、悟空へのクリスマスプレゼントは続いた。
去年は既に旅に出ていたし、正体も判っていたし、期待はしていなかったのだけれど、宿屋で眠って朝になると、枕元に小さな箱が置いてあった。
添えられたメッセージカードには、英字で『MerryXmas!』の文字があって、毛糸の手袋が入っていた。
もう子供ではないつもりだったけれど、やはり貰うと嬉しいもので、悟空は暫くの間、手袋をずっと嵌めていた。
八戒の手作りであったそれは、程なく戦闘の最中にボロボロになってしまったのだけれど、それでも八戒は嬉しそうにしていた。
────でも、今年のクリスマスは、そんな華やかさや楽しさとは、縁遠いものになりそうだ。
「ぜーんぜん、クリスマスらしくないよなあ。って言うか、寧ろ厄日って感じ」
最早日常と化した襲撃を受けて、坂道で足を滑らせ、崖の下に転落して、三蔵達から逸れた。
待機を余儀なくされた崖下の森の中は、吹きつける風が冷たく、雪に覆われた地面もとても冷たい。
正に踏んだり蹴ったりである。
うんざりとした表情で溜息を吐いた悟空を見兼ねてか、ジープが慰めるように頬を摺り寄せて来た。
悟空はくすぐったさに目を細め、ジープの喉を指先で撫でる。
「へへ、サンキュな、ジープ」
笑う悟空に、ジープも嬉しそうに鳴いて見せる。
そんなジープに、悟空はまた口元を綻ばせ、
「なあ、ジープ。今日はなんか散々でさ、ちっともクリスマスっぽくないけどさ。でもオレ、別につまんないとか、そういう事はないんだ」
悟空の言葉に、ジープが不思議そうに首を傾げる。
────クリスマスらしさなど欠片もないし、命の遣り取りばかりで、ろくに心が休まる事も出来ないのは、いつもと同じ。
旅に出る前のようにサンタクロースが来るとも思えず、去年のように宿で明日の朝を心待ちにする事もなかった。
寧ろ今は、三蔵達に置いて行かれはしないかと、些かの不安もあったりする、のだけれど。
不思議と悟空の心は落ち着いている。
辺り一面の雪景色の中に、一人でも。
「昔は……こういう時に一人でいると、凄く心細くて。三蔵と一緒にいても、やっぱり不安で」
荒涼とした岩肌も、何処までも続く青い空も、そこに輝く太陽も、雪の白が何もかも覆い尽くして行くのを見た。
ただただ見詰める事しか、あの頃の悟空には許されなくて、音すら消えて行く世界で、悟空はじっと蹲っていた。
────今、白い世界の中で、一人蹲っているように。
500年の白は、悟空の心の中に根を張り、ほんの数年前までじっと巣食っていた。
雪を見てはしゃぐ事もなく、遊びたがる事もなく、胸の奥から湧き上がる冷えて行く感覚に、じっと閉じ籠り続けてきた。
外の世界へ連れ出してくれた太陽の声も、その時だけは、雪の中に消えて行くような気がして、効くのも怖くて。
それなのに、今は少しも怖くない。
真っ白な雪の世界に一人取り残されていても。
(……多分、)
今はきっと、雪を怖いと、そう思う暇すらないから。
雪を怖いと思うよりも先に、賑やかで楽しくて、暖かい記憶が思い出されるから。
怖くない。
怖くない。
今が一人ぼっちでも。
「三蔵達、まだかなぁ。腹減ったな、ジープ」
言ってから、ああ、と悟空は思い出す。
今は一人ぼっちなんかじゃないんだと。
触れ合う温もりは、確かに此処に存在する。
遠くから聞こえた呼び声に、悟空は立ち上がる。
走り出す足が止まる事は、もう、ない。
なんか真面目な話になった。
うん、凄くクリスマスらしくない! うちのサイトではいつものこと!
吹き付ける風の冷たさに、悟空はぶるっと身を震わせた。
その肩で、ジープが小さなくしゃみを零す。
雪の降り積もった山の中で一人、取り残されている。
原因は他でもない悟空自身で、雪の積もった坂道での戦闘中、足を縺れさせて転んだ事にある。
それなりの急斜角だった為に、悟空は結構なスピードで転がり落ち、その先にあった崖から落下してしまった。
幸運だったのは、降り積もった雪がクッションになったお陰で、怪我らしい怪我をしなかった事か。
ジープは転がって行く悟空を追い駆けて、崖の下まで降りて来た。
どうせこの積雪ではジープの足を頼りにする事は出来ないから、飼い主の手を離れても問題はない。
寧ろ、逸れた悟空が一人で歩き回って迷子にならないように見張る事こそ、今のジープに課せられた役目であると言える。
そうした経緯で、悟空とジープは、二人────一人と一匹で、崖下で三蔵達の到着を待っている。
ちゃんと迎えに来てくれるかな、と悟空は少しばかり不安だったのだが、ジープが此処にいるのなら、三蔵も悟空との合流を急ぐだろう。
何せジープがいなければ、一行の進みは格段に遅くなるし、何より物臭な彼が自分の足で旅をするなど、先ず有り得ない事だ。
それを考えると、悟空は尚の事、ジープが自分を追い駆けて来てくれた事を感謝せずにはいられない。
……でも、この寒さは、正直、辛い。
「う~っ……マジで凍りそう」
両腕を摩りながら呟いた悟空に、ジープが頷くように小さく鳴いた。
これだけ寒い日なら、いつもは外套を羽織っているのだが、今はそれも手元にない。
戦闘となると飛び跳ね周る悟空にとって、嵩張る防寒具は、邪魔にしかならないのだ。
今日は吹雪いてもいないし、動き回っていれば温まると思って投げていたのだが、こんな所でそれが裏目に出るとは。
適当な木の下に移動して、風よけにし、悟空はその根本に蹲る。
じっとしていると足元から冷えてくるような気がしたが、それは立っていても同じ事だ。
せめて残った熱だけは手放すまいと、自分の身体を抱き込むようにして丸くなった。
そんな悟空の襟元に、温かなものが触れる。
「ジープ?」
キュ、と耳元で聞こえてきた小さな声。
背中の鬣が悟空の耳元に当たって、少しくすぐったかった。
真っ白で、何もかもが埋まってしまったような世界の中で、直ぐ傍に感じられる、温かな熱。
それがどれだけ得難くて、寒い世界でどれだけ心安らぐものなのか、悟空は知っている。
一人と一匹で、真っ白な世界の中で蹲る。
見上げた空は曇天に覆われていて、今にも空から結晶が落ちて来そうだった。
それをぼんやりと見つめながら、そう言えば───と、悟空は今朝の会話を思い出す。
「今日って、クリスマスらしいんだよな」
悟空の呟きに、ジープが小さく首を傾げた。
「八戒が言ってた。ほら、八戒って日記つけてるじゃん。あれで日付、覚えてるんだって」
成程、と言うように、ジープが瞬き一つして頷いた。
今日はクリスマスなんですねえ、と言った八戒に、直ぐに悟浄が反応した。
今年はサンタクロース来るのかね、と悟空に向けて言った彼の目は、明らかに子供扱いして揶揄っているものだった。
悟空は頬を膨らませ、そんなに子供じゃないと言い返したが、その実、17歳頃までサンタクロースの存在を信じていたのも事実で、顔が赤くなるのは誤魔化せなかった。
そもそも、悟空がそんな年齢になるまでサンタクロースを信じていたのには、訳がある。
元々クリスマスと言う行事を知ったのが、悟浄と八戒の二人と知り合ってからだったので、先ずスタートが遅かったのだ。
クリスマスは異国の宗教が祭事の一つとしていたものが、形を変えて一般に広まったものであったから、仏教を信仰する寺院にいた悟空が知らなかったのも無理はない。
八戒は悟空にクリスマスを教えると共に、サンタクロースと言う奇蹟者がいる事も教え、それから三年間、渋る三蔵を説き伏せ、サンタクロースからプレゼントを貰うと言う演出で悟空を楽しませたのである。
そうした過去から、悟空は17歳のクリスマスに、枕元に忍び寄る人の気配に気付いて目を覚ますまで、サンタクロースの正体を知らなかったのだ。
それを今になって揶揄われて、悟空は恥ずかしくて堪らなかった。
仕返しに、悟浄が腹に綿を詰めて赤い服を着て、白髭をつけると言う、ノリノリでサンタクロースに紛争していた事を言ってやれば、悟浄も赤くなって「ありゃジャンケンで負けただけで、ノってた訳じゃねえ!」と言われたが、真実がどちらであるにせよ、悟空にとっては良い攻撃材料である事には変わらない。
二年前にサンタクロースの正体を知ってからも、悟空へのクリスマスプレゼントは続いた。
去年は既に旅に出ていたし、正体も判っていたし、期待はしていなかったのだけれど、宿屋で眠って朝になると、枕元に小さな箱が置いてあった。
添えられたメッセージカードには、英字で『MerryXmas!』の文字があって、毛糸の手袋が入っていた。
もう子供ではないつもりだったけれど、やはり貰うと嬉しいもので、悟空は暫くの間、手袋をずっと嵌めていた。
八戒の手作りであったそれは、程なく戦闘の最中にボロボロになってしまったのだけれど、それでも八戒は嬉しそうにしていた。
────でも、今年のクリスマスは、そんな華やかさや楽しさとは、縁遠いものになりそうだ。
「ぜーんぜん、クリスマスらしくないよなあ。って言うか、寧ろ厄日って感じ」
最早日常と化した襲撃を受けて、坂道で足を滑らせ、崖の下に転落して、三蔵達から逸れた。
待機を余儀なくされた崖下の森の中は、吹きつける風が冷たく、雪に覆われた地面もとても冷たい。
正に踏んだり蹴ったりである。
うんざりとした表情で溜息を吐いた悟空を見兼ねてか、ジープが慰めるように頬を摺り寄せて来た。
悟空はくすぐったさに目を細め、ジープの喉を指先で撫でる。
「へへ、サンキュな、ジープ」
笑う悟空に、ジープも嬉しそうに鳴いて見せる。
そんなジープに、悟空はまた口元を綻ばせ、
「なあ、ジープ。今日はなんか散々でさ、ちっともクリスマスっぽくないけどさ。でもオレ、別につまんないとか、そういう事はないんだ」
悟空の言葉に、ジープが不思議そうに首を傾げる。
────クリスマスらしさなど欠片もないし、命の遣り取りばかりで、ろくに心が休まる事も出来ないのは、いつもと同じ。
旅に出る前のようにサンタクロースが来るとも思えず、去年のように宿で明日の朝を心待ちにする事もなかった。
寧ろ今は、三蔵達に置いて行かれはしないかと、些かの不安もあったりする、のだけれど。
不思議と悟空の心は落ち着いている。
辺り一面の雪景色の中に、一人でも。
「昔は……こういう時に一人でいると、凄く心細くて。三蔵と一緒にいても、やっぱり不安で」
荒涼とした岩肌も、何処までも続く青い空も、そこに輝く太陽も、雪の白が何もかも覆い尽くして行くのを見た。
ただただ見詰める事しか、あの頃の悟空には許されなくて、音すら消えて行く世界で、悟空はじっと蹲っていた。
────今、白い世界の中で、一人蹲っているように。
500年の白は、悟空の心の中に根を張り、ほんの数年前までじっと巣食っていた。
雪を見てはしゃぐ事もなく、遊びたがる事もなく、胸の奥から湧き上がる冷えて行く感覚に、じっと閉じ籠り続けてきた。
外の世界へ連れ出してくれた太陽の声も、その時だけは、雪の中に消えて行くような気がして、効くのも怖くて。
それなのに、今は少しも怖くない。
真っ白な雪の世界に一人取り残されていても。
(……多分、)
今はきっと、雪を怖いと、そう思う暇すらないから。
雪を怖いと思うよりも先に、賑やかで楽しくて、暖かい記憶が思い出されるから。
怖くない。
怖くない。
今が一人ぼっちでも。
「三蔵達、まだかなぁ。腹減ったな、ジープ」
言ってから、ああ、と悟空は思い出す。
今は一人ぼっちなんかじゃないんだと。
触れ合う温もりは、確かに此処に存在する。
遠くから聞こえた呼び声に、悟空は立ち上がる。
走り出す足が止まる事は、もう、ない。
なんか真面目な話になった。
うん、凄くクリスマスらしくない! うちのサイトではいつものこと!