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[狐八剣&狐ちび京一]まがみのお山に雪がふる

  • 2014/02/08 22:18
  • カテゴリー:龍龍


随分寒くなったな、と思っていたら、雪が降っていた。

冬の真っ只中、まがみのお山では例年の事だ。
だから初めは特に気にしていなかった八剣だが、ふと、葉っぱの布団の中でまだ眠っている子狐の事を思い出し、ふむ、と首を捻る。


布団の中で包まっている小さな子狐が何処の山で生まれたのか、八剣は知らない。
だから雪そのものは、子狐にとっても、特に珍しいものではないのかも───だが、まだ身体の小さな子狐には、冷たい外気は大敵である。

八剣は眺めていた窓から視線を外して、布団へ戻ると、子狐の肩を出している布団をかけ直した。
子狐は眠っていても元気が良いから、どんなに丁寧に布団をかけ直した所で、結局は蹴り飛ばしてしまうのだが、やらないよりはマシだろう。
と、布団を丁寧にかけ直した傍から、ころんっ、と子狐が寝返りを打って、布団の端が捲れる。
八剣はくすくすと笑みを浮かべて、捲れた布団の端を戻した。

そんな矢先に、もう一度子狐が寝返りを打ち、



「…んぅ、う…?」



もぞもぞと手足を身動がせたかと思うと、ぱちり、と瞼が持ち上がる。
まだぼんやりとした瞳を彷徨わせ、子狐は覚醒直後の眩しさを嫌うように、こしこしと右手で目を擦る。



「……んぁ……?」
「おはよう、京ちゃん」
「……はぅ……」



朝の挨拶をする八剣に、子狐───京一は欠伸で「おはよう」を返した。
それから少しの間、京一は眠気と覚醒の間で、ふらふらと頭を揺らしていたのだが、



「……ふ……ふぇっくしゅ!」



ぶるっ、と一つ大きく体を震わせて、京一は盛大にくしゃみをした。

八剣は京一と暮らすようになって以来、巣の中は出来るだけ適温を保つように努めている。
しかし、季節による外気温の上下の影響は、巣の中にも少なからず及んでくるものだ。
巣の中はいつもよりも冷えており、八剣には耐えられるものでも、まだまだ小さな京一には堪えるのだろう。


京一は寒さを嫌うようにうーうーと唸り、布団の中に頭まで潜り込む。
ふさふさとした尻尾が、布団の中でごそごそと動いて、やがて動かなくなった。



「京ちゃん、大丈夫かい?」



すっぽりと布団の中に隠れてしまった京一の様子を伺おうと、布団の端を捲って中を覗き込む。
すると、自分の尻尾を抱え込み、達磨宜しく真ん丸に蹲った京一がいた。

京一は、布団の中に滑り込んでくる冷気を感じたか、丸めた膝に埋めていた顔を上げ、



「寒ィ。捲んな、バカ」
「ああ、ごめんごめん」



三角形の耳を寝かせて睨んだ京一に、八剣は苦笑して、布団を元に戻してやる。
こんもりと山になった布団の上から、ぽんぽんと子狐の背中を叩いてあやしてやると、もぞ、と小さな体が身動ぎした。



「あーもー、なんだよ。なんでこんな寒ィんだよ」
「雪が降ってるからねェ」
「雪ィ?……面倒臭ェなあ……」
「確かにね。食糧も限られて来るし」
「っとに、最悪だぜ……」



布団の中で愚痴を零す京一に、八剣は眉尻を下げた。



「京ちゃん、寒いのは嫌い?」
「嫌い。良い事ねェし」
「雪は?」
「……冷てェ。寒い」
「嫌い?」
「……好きじゃねェ」



京一の小さな声に、八剣は漏れそうになる笑みをなんとか殺す。


京一は、嫌いなものは嫌いだとはっきり言う性格だ。
竹を割ったように判り易い正確ではないのだが、そう言った主張だけは明確である。
では好きなものに対しては如何かと言うと、此処だけは何故か天邪鬼が顔を出してしまうらしく、素直に「好き」と言う事が出来ない。
膨れ面で「好きじゃない」と「嫌いじゃない」を行ったり来たりするのが、パターンであった。

長いとも短いとも言えない同居生活であるが、八剣はそんな京一を理解していた。
天邪鬼と言えど、まだまだ子供らしく判り易いのが可愛らしい。


ぽんぽん、と布団の上から京一の頭を撫でると、あやされているのが判ったのか、京一は布団の中でふるふると頭を振った。
子供扱いをされるのが一等嫌いな京一には、今の八剣の手はお気に召さなかったようだ。

────と、ぴくっ、ぴくっ、と布団の山が小さく跳ねたかと思うと、



「へっ……くしっ!」


小山が一つ大きく跳ねて、響くくしゃみ。
その後、小山は不自然にぴたっと動きを止めてしまった。


八剣は、思わず吹き出しそうになるのを、寸での所で堪える。
先程、あれだけ寒がって布団の中に潜り込んだのだから、今更恥ずかしがる事もないだろうに。
それとも、布団の中に潜っているのに、まだ寒いのか、と思われるのが嫌なのだろうか。

冷えた部屋の空気は、布団が遮断している筈だが、冷気に負けてしまっているのかも知れない。
布団の中に入っていても、足元がどうにも冷たく感じると言うのは儘ある話なのだから。


大丈夫、と聞くつもりで頭を撫でようとして、八剣は触れる直前で手を止めた。

京一は、甘えるのも、甘やかされるのも好きではない。
だが、八剣は彼を甘やかすのが好きだった。
だから八剣は、あの手この手で京一を甘やかそうとするのだが、それも一筋縄ではいかない。

しかし、そんな京一が唯一、意固地になって振り払わない甘やかし方がある。



「京ちゃん」
「………」
「俺も布団に入って良い?」
「………」



問い掛けに、京一からの返事はない。
嫌とも、好きにしろとも、彼は言わなかった。

きっと京一は、物足りない温もりが欲しくて、けれどそれを素直に口にする事が出来ないのだろう。


そんな天邪鬼で意地っ張りな子供を知っているから、八剣は小さく笑って、ふさふさとした尻尾を揺らし、布団の隙間に潜らせる。
毛の長い尻尾をもそっ、もそっ、と動かしながら布団の中を進ませて、子狐の小山へと近付かせていく。
毛先が何かに触れた感触があったので、八剣はそれを少しくすぐってやった。

しばらく尻尾を遊ばせていると、ぎゅっ、と小さな力が尻尾を捕まえた。
その力の正体を知っているから、八剣は、ぐいぐいと引っ張る力に逆らわず、好きにさせる。




────程無く、ぎゅう、とが尻尾全体が抱き締められたのが判った。






寒いの嫌い、甘えるのも甘やかされるのも嫌いだけど、ふかふかの尻尾は好き。
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