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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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カテゴリー「龍龍」の検索結果は以下のとおりです。

[チビ京+女優]この世界は、あなたへの愛で出来ている

  • 2015/01/24 22:46
  • カテゴリー:龍龍
京一、ハッピーバースディ!!






自分が凡そ可愛げのある子供ではない事を、京一は自覚している。
根本的にヘソ曲がりで、気に入らないと思ったら止められないし、反発せずにはいられない。
好きなものを素直に好きだと言える素直さもないし、姉のように利発で“良い子”になる気もない。
曲がった事は嫌いだが、それは正義感と言うものが強いと言う訳ではなく、前述の通り、気に入らないと思った事を大人しく受け入れる事が出来ないからだ。

そんな子供だから、大人はほとほと手を焼いていた。
父と母は、息子の操縦法をよく心得ているが、他の大人はそうではない。
小学校の担任教師を筆頭に、大人達はケンカやイタズラばかりをする京一に困っていたものだった。
中には、全く言う事を聞かない悪童に、嫌悪か侮蔑に似た目を向ける大人もいた。

京一は、授業の成績こそ芳しくないものばかりだが、頭の回転は早かった。
自分が何をすれば、何を言えば、大人がどんな反応をするのかも、凡そ想像する事が出来た。
だから、その気になりさえすれば、彼は沢山の大人に愛される子供になる事も可能だっただろう。
それをしなかったのは、京一の生来のヘソ曲がりが起因していると言って良い。

京一はそんな自分を自覚していたが、それを直して、人から好かれようとは思わなかった。
“良い子”でいるより、自分の気持ちに正直になる方が、幼い京一にとっては正しい事だったからだ。


────しかし、今この時だけは、そんな自分を少しだけ後悔する。


毎日のように見慣れた『女優』の店内が、今日に限っては少しばかり華やかに見える。
それは京一の見間違いや思い込みではなく、テーブルに敷かれたクロスであったり、窓にかかったカーテンであったり、壁紙だったりと言うものが、いつもと違う色や柄物に替えられていた。
客が座っている筈のテーブルには、花を生けた花瓶が置かれている。
いつもモダンながらシンプルに重きを置いた店内であるだけに、それだけで店内の雰囲気はすっかり様変わりしていた。

そして、稽古を熟して戻って来た京一を迎えた『女優』の従業員たちも、いつもよりもほんの少し着飾っている。
きらきらと光りを反射させるサテンやレースの服や、大きな宝石を抱いたアクセサリー、そして貌の化粧もいつもよりも濃いめ。

なんだこれ、と京一が俄かの違和感に首を傾げていると、



「ハッピーバースディ、京ちゃん!」



眩しい程の笑顔に迎えられて、投げかけられた言葉に、京一は目を丸くする。
何が起きたのかを数秒かけて理解して、ああ、そっか、と思い出した───今日は自分の12歳の誕生日だと。



「え、あ…えと……」
「さあさあ、入って。寒かったでしょう?」
「お、おう……?」



ドアを開けたままの入り口で、固まっている京一。
アンジーはそんな京一の手を引いて、店の中へと招き入れてやった。

京一はいつものように、店の中央にあるソファへと連れて行かれ、すとんと座った。
其処で改めて店の中を、自分を囲む『女優』の面々を見回す。
隣に座ってにっこりと笑い掛けるアンジーと目が合って、京一は頬が微かに熱くなるのを自覚した。


ヒールの足音と拍手の音が聞こえて、京一は音のする方向を見た。
すると其処には、ロウソクを立てたホールケーキを運ぶビッグママと、嬉しそうに拍手でそれを迎えるキャメロンとサユリがいる。



「さあ、特製のバースディケーキだよ」
「特製って……まさかビッグママ、作ったのか?」



パーティプレートの皿に置かれたケーキは、見事なデコレーションで飾られていた。
縁をなぞるように等間隔で苺が並び、その間はツノを立てた生クリーム、所々にパールのアラザンが散らされ、白と赤で彩られたケーキの中で、削りチョコレートがアクセントを生む。
京一は料理の良し悪しは勿論、菓子の繊細さなど到底判らない性質であるが、それでも随分と手の凝った物だと判る。

ビッグママは京一の問いに応えなかったが、否定もしなかった。
ジュースを持って来るよ、と言ってカウンターへと向かうビッグママと入れ替わる形で、キャメロンとサユリが京一を囲む。



「京ちゃんは今年で何歳になったのかしら」
「何歳って……兄さん、知ってるだろ」
「うぅん、知ってるけどォ。京ちゃんの口から聞きたいのよ」



サユリの言葉に、京一はそうする意味が分からない、と眉根を寄せた。
しかし、白粉を塗った顔をほんのりと紅潮させ、にこにこと楽しそうなサユリに根負けし、渋々と答える。



「……12だよ」
「大きくなったのねェ~!」
「うわわっ、抱き付くなよ!白いのつくじゃねェか!」



ぎゅうっと思い切り抱き着いて来たサユリに、京一はじたばたと暴れた。
しかしサユリは「つれないんだからァ」と言って、京一の頬に自分の頬を寄せる。
じょりじょりと髭剃り跡の感触があって、うわああ、と京一は悲鳴を上げた。

そんな二人を、アンジーはくすくすと楽しそうに見て笑い、キャメロンはと言うと、



「サユリばっかりズルイわァ。アタシも京ちゃん抱っこさせてェ!」
「ぎゃあああ!」



野太い腕が京一を攫い、力一杯抱き締められる。
サユリよりも何倍も強い力で、抱き締めると言うよりも締め付けられて、京一は一層強く暴れた。
しかし、『女優』の従業員の中でも特に怪力を誇るキャメロンから、まだまだ幼い京一が逃げられる筈もない。

うーうーと唸りながらもがいていた京一だったが、どんなに暴れた所で、自力でこの腕から逃げられない事はよく知っている。
京一は分厚い胸板に埋められていた顔を上げ、直ぐ隣で経緯を見守るアンジーに向かって言った。



「アンジー兄さん、助けろ!」
「うふふ」
「笑ってんじゃねーよ!」
「はいはい」



救助要請を請けたアンジーは、キャメロンに向かって両手を広げて見せた。
キャメロンはそれを見て、赤い口紅を塗った唇を尖らせ、拗ねた表情を浮かべる。
最後にもう一回、と京一の頬に自分の頬を当て、じょりじょりと青髭を擦りつけた後、渋々顔でアンジーに京一を渡した。

アンジーの下へと逃れた京一は、彼女の肩にしがみ付くように掴まった。
過激なスキンシップで愛情を示すキャメロンやサユリに比べ、アンジーのスキンシップは幾らか大人しい。
だから京一は、キャメロン達のスキンシップの後は、必ずアンジーの下に逃げ込むようになっていた。



「ひでェ目にあったぜ……」
「いやん、京ちゃんたら。つれなァい」
「アタシ達、京ちゃんは京ちゃんの事、とっても大好きなのにィ」
「判ってる判ってる。ンなの言われなくたって知ってるよ…」



くねくねと体をくねらせながら、判り易く傷付いた顔をするキャメロンとサユリに、京一は溜息を吐いて言った。

キャメロンもサユリも、アンジーも、そしてビッグママも、皆が自分の事を好いてくれている事を、京一はよく知っている。
既に二年近くをこの『女優』で過ごした京一は、その間、一度足りとて「出て行け」と言う旨の言葉を向けられた事がなかった。
此処にいる人々は、京一がどうして家に帰ろうとしないのか聞く事もなく、ただただ、無心の愛情を注いでくれる。
その愛情の示し方は、明け透けで真っ直ぐで、全身全霊であった。
それが全く判らない程、また知らない振りが出来る程、京一は鈍くも無神経でもない。


溜息を吐いた京一の頬は、僅かに赤い。
木刀を握る右手が、心なしか落ち着きなく、握っては緩み、緩んでは握りと繰り返している。

アンジーはそれを視界の端に見て、こっそりと小さく笑うと、肩に顔を埋める京一の後頭部をぽんぽんと撫でた。
それを見たキャメロンとサユリが、揃って「ズルイ~!」と声を上げる。



「いつもアンジーばっかり。京ちゃん、私の所にも来てェ。膝枕もしてあげる!」
「サユリ兄さんの膝って固そうだからヤだ」
「アタシの所にいらっしゃい、京ちゃん。そうだ、今夜は一緒に寝てあげるワ!」
「キャメロン兄さんと一緒とか、潰されんのがオチじゃん」
「あぁ~ん、京ちゃんつれなァ~い!」



京一に振られたキャメロンとサユリが、二人揃ってよよよ、と頽れる。
さめざめと泣く背中を見せる二人に、京一は勘弁してくれよ、と二度目の溜息を吐いた。
そんな京一を宥めるように、ぽんぽんとアンジーの手が京一の背を叩く。

それを感じ取って、京一は眉間に皺を寄せ、膝に乗せて貰っているアンジーを睨んだ。



「兄さん、オレぁガキじゃねえぞ」
「うん。もう12歳だもの。立派なお兄さんよねェ」
「じゃあその言い方も止めてくれ」



溜息交じりに言った京一だが、アンジーはにこにこと楽しそうに笑っているだけだ。
京一はそんなアンジーを睨んでいたが、対して効果がないのは判り切っている。
此処の従業員達にとって、京一がどんな顔をしようと、皆「かわいい」ものとして見えているのだから。


京一が拗ねた顔をしている間に、テーブルにはオレンジジュースの入ったグラスが置かれた。
ビッグママがマッチでケーキのロウソクに火をつけて行き、柔らかい光が円を描く。
泣いていた筈のキャメロンがいつの間にか復帰していて、店の伝記を消した。
ゆらゆらと仄かに揺れる灯が、暗くなった店の中を照らし出す。

さあ、とアンジーに促され、京一は床に下ろされた。
京一は肩越しに後ろを振り返り、見守るアンジーの顔を見る。
振り返って見上げる子供の瞳に、ピンク色の口紅を引いた唇を柔らかく緩ませたアンジーの顔が映る。
大きな手がそっと京一の頬を撫でて、柔らかい力で正面へと向き直らせた。


12本の小さな灯が、ゆらり、ゆらりと揺れている。
その光に照らされて、アンジーの、キャメロンの、サユリの、ビッグママの顔が見えた。
京一はそれらをぐるりと見渡して、正面へと向き直り、思い切り息を吸う。

──────ふぅっ、と。

吸った時と同じように、思い切り息を吹き切ってやれば、灯は大きく倒れてそのまま消えた。
燃えた跡の匂いがツンと鼻を刺激する暗闇の中、ぱちぱちぱち、と拍手が響く。



「京ちゃん、誕生日おめでとう!」
「おめでとう、京ちゃん」
「12歳、おめでとう!」
「おめでとう!」



重なる祝福の声に、耳が熱くなるのが判る。


程無く、電気がついて、煌々とした光で店の中が一望できるようになる。

ビッグママがケーキにナイフを入れている間、京一はアンジーの膝の上に乗せられていた。
ガキじゃないんだから勘弁してくれ、と京一は言ったが、アンジーは相変わらず気にせず、キャメロンとサユリが私の所にも来て、とねだる。
ケーキは一際大きくカットされたものが京一には差し出された。
その一口を、アンジーが手にしたフォークで差して、京一の口元に持って行く。
はい、あーん、と言うアンジーに、京一は勘弁してくれ、と言ったが、結局根負けして大人しく口を開けた。




────自分が凡そ可愛げのある子供ではない事を、京一は自覚している。
好きなものを素直に好きだと言える素直さもないし、「おめでとう」と言われて「ありがとう」と返事も出来ない。

それでも、自分を愛してくれる人達の事は好きだから、むず痒い程の愛情の奔流は、零したくないと思った。





全力で京ちゃんに“愛”。と言えばやっぱり『女優』の兄さん方。
京ちゃんも兄さん達には素直(とは言い切れないけど精一杯)に“愛”。

京一、誕生日おめでとう!
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[京士浪+京一]あられ積もれば山となる

  • 2014/03/03 21:03
  • カテゴリー:龍龍


何故か二人きりにされた『女優』の店の中、無言で差し出されたものを見て、どうすれば、と京一は困惑した。

何処かの駄菓子屋で売っていそうな、小さな袋菓子。
ピンク色のデフォルメされた梅の柄がちりばめられ、可愛らしい男女のイラストが描かれた袋には、『ひなあられ』と記されている。
そう言えばそんな時期だった、と京一は思ったが、それからもう一度困惑する。



(……雛祭りって、女子の祭りだよな。オレ、関係ないよな?)



雛祭りは、女児の健やかな成長を祈る節句とされている。
男の京一が特に何かを祝われるような日ではない筈だ。

其処まで考えてから、もう一度差し出された袋菓子を見て、次にそれを差し出している男を見上げた。

差し出しているのは、神夷京士浪───京一の剣の師だ。
妙に古風な雰囲気を醸し出しているこの男は、常に寡黙で、物事への反応も薄く、俗っぽさとは程遠い。
そんな彼が『ひなあられ』と言う、年中行事にあやかった代物に乗っかっている、と言う違和感たるや半端なものではなかった。
これが紅白饅頭や年越し蕎麦なら気にする事もなかったのだろうが、見た目も響きも可愛らしい『ひなあられ』である事が、京一の中で違和感たっぷりに感じられてならない。


何度も菓子と顔を交互に見る京一を、京士浪はじっと見下ろしていた。
眉間ん皺を寄せている京士浪は、一見すれば不機嫌そうに子供を威圧しているように見えそうだが、京一はそれで物怖じする事はないし、師のこの顔は見慣れている。
怯える所か、なんだよこれ、と言わんばかりに睨み返す。



「……要らないか」
「………」
「………」



ようやく口を開いたと思ったら、最低限以下の一言のみ。
京一は、聞きたいのはそういう所じゃなくて、と思うが、聞きたい事を自分から問う気にもなれない。


雛祭りは女児の節句で、男の京一には関係ない。
が、京一がそう考えているのは、雛祭りに限った話ではない。
伝統や年中行事の大半は、自分にはどうでも良いと思っているのだが、関係なくともあやかれるものは遠慮なくあやかるのが京一である。

京一が右手を伸ばして、掌を上向けて広げると、かさり、と其処に袋が置かれた。
可愛らしい、それこそ女児向けと判るパッケージの中、透明に切り取られた覗き窓から中身が見える。
白の中で所々緑や赤と醤油漬けの菓子が混じっているそれは、一粒の直径が精々1センチと言う小さなあられは、どれだけ食べても京一の腹を膨らませるには足りそうにない。



「足りないか」
「……まあ……」



まるで心を読んだようなタイミングで言われて、京一は言葉は濁しつつも、正直に頷いた。
せめてもう少し大きければ、さもなければ数があれば、と思っていると、



「持って行け」
「───うぉっ、お、おっ!」



京士浪は、着物の袖から同じ袋菓子を取り出し、京一の手に重ねて行く。
膨らまされている袋は、上手くバランスを取って抱えなければ、落としてしまう
京一は慌てて両腕で袋の受け皿を作ろうとしたが、間に合わず、ばらばらと足元に散らばってしまった。

あーあー、と嘆く声を漏らしながら、京一はしゃがんで菓子袋を拾う。
京士浪も無言で傍らに膝を折り、袋を一つ一つ拾って京一に渡した。


ようやく全てを拾い終わった時には、京一の腕はひなあられの袋で一杯になっていた。
袋自体は小さいものなのだが、数が重なればそれなりに嵩張る。
こんなに何処に持っていたのだろう、と言うか大きな袋にでもまとめて渡してくれれば一番楽なのに、と両腕を埋める袋を見下ろしていると、ぽん、と何かが京一の頭を撫でた。

くしゃくしゃと、やや不器用に撫でる手は、大きくて温かい。
京一は顔を上げるか否か迷った末、どうにも気恥ずかしさが勝って、俯いたまま動かなかった。



「それで全部だ」
「………」
「まだ欲しければ、兄さん達に頼め」



頭を撫でる手が離れて、京一は妙にむず痒さの残る頭を掻きたかったが、両腕を塞ぐひなあられの所為で敵わない。

なんとも珍妙な気分に取りつかれた京一であったが、師がそんな弟子に気付く事はなかった。
京士浪はゆっくりと踵を返すと、京一をその場に残して、離れて行く。
それと入れ替わるように、何処かに出かけていた『女優』の面々が帰宅して来た。



「あ~ん、もう3月なのに、どうしてこんなに寒いのかしら」
「京ちゃん、お外出る時は厚着しなくちゃダメよォ」
「ビッグママ、このおつまみ何処に置いておいたらいいのォ?」
「カウンターの下に入れて起きな。おや、京ちゃん、随分大量だね」
「……えぁっ?」



外気の冷たい風から解放されたからか、賑やかに帰宅して来た見慣れた面々が、店の真ん中で立ち尽くしている京一に気付いて、声をかける。
頭の上の違和感に意識を囚われて、呆然としていた京一だったが、我に返って自分の状況を思い出した。
両腕に抱えていた袋菓子の置き場を探して、きょろきょろと辺りを見回していると、アンジーが京一の抱えたひなあられに気付き、



「あら、京ちゃん、ひなあられ貰ったのォ。良かったわね」
「…いや、別に……」



貰ったと言うか、押し付けられたと言うか。
貰いたくて貰った訳では───と思いつつ、それを正直に口にするのは流石に憚られ、口籠ってしまう。

反論の途中で黙った京一の様子が、アンジーには意地っ張りな子供が恥ずかしがっているように見えた。



「うふふ。でも、こんなに一度に食べたら虫歯になっちゃうから、ちょっとずつ食べましょうね」
「………おう」



京一の両手を埋めていた菓子を、アンジーが受け取る。
両手がようやく自由になって、京一はむずむずとしていた頭をがしがしと掻く。
それでも中々消えない違和感に、京一は唇を尖らせる。

子供の顔が終始赤らんでいる事は、誰も指摘しなかった。





不器用師弟の精一杯のスキンシップ的な。

京士浪なりに弟子を可愛がってるつもりですが、判り難い伝わらない。
この後、頭のむずむずが消えない京一が雛あられをヤケ食いしたそうです。
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[狐八剣&狐ちび京一]まがみのお山に雪がふる

  • 2014/02/08 22:18
  • カテゴリー:龍龍


随分寒くなったな、と思っていたら、雪が降っていた。

冬の真っ只中、まがみのお山では例年の事だ。
だから初めは特に気にしていなかった八剣だが、ふと、葉っぱの布団の中でまだ眠っている子狐の事を思い出し、ふむ、と首を捻る。


布団の中で包まっている小さな子狐が何処の山で生まれたのか、八剣は知らない。
だから雪そのものは、子狐にとっても、特に珍しいものではないのかも───だが、まだ身体の小さな子狐には、冷たい外気は大敵である。

八剣は眺めていた窓から視線を外して、布団へ戻ると、子狐の肩を出している布団をかけ直した。
子狐は眠っていても元気が良いから、どんなに丁寧に布団をかけ直した所で、結局は蹴り飛ばしてしまうのだが、やらないよりはマシだろう。
と、布団を丁寧にかけ直した傍から、ころんっ、と子狐が寝返りを打って、布団の端が捲れる。
八剣はくすくすと笑みを浮かべて、捲れた布団の端を戻した。

そんな矢先に、もう一度子狐が寝返りを打ち、



「…んぅ、う…?」



もぞもぞと手足を身動がせたかと思うと、ぱちり、と瞼が持ち上がる。
まだぼんやりとした瞳を彷徨わせ、子狐は覚醒直後の眩しさを嫌うように、こしこしと右手で目を擦る。



「……んぁ……?」
「おはよう、京ちゃん」
「……はぅ……」



朝の挨拶をする八剣に、子狐───京一は欠伸で「おはよう」を返した。
それから少しの間、京一は眠気と覚醒の間で、ふらふらと頭を揺らしていたのだが、



「……ふ……ふぇっくしゅ!」



ぶるっ、と一つ大きく体を震わせて、京一は盛大にくしゃみをした。

八剣は京一と暮らすようになって以来、巣の中は出来るだけ適温を保つように努めている。
しかし、季節による外気温の上下の影響は、巣の中にも少なからず及んでくるものだ。
巣の中はいつもよりも冷えており、八剣には耐えられるものでも、まだまだ小さな京一には堪えるのだろう。


京一は寒さを嫌うようにうーうーと唸り、布団の中に頭まで潜り込む。
ふさふさとした尻尾が、布団の中でごそごそと動いて、やがて動かなくなった。



「京ちゃん、大丈夫かい?」



すっぽりと布団の中に隠れてしまった京一の様子を伺おうと、布団の端を捲って中を覗き込む。
すると、自分の尻尾を抱え込み、達磨宜しく真ん丸に蹲った京一がいた。

京一は、布団の中に滑り込んでくる冷気を感じたか、丸めた膝に埋めていた顔を上げ、



「寒ィ。捲んな、バカ」
「ああ、ごめんごめん」



三角形の耳を寝かせて睨んだ京一に、八剣は苦笑して、布団を元に戻してやる。
こんもりと山になった布団の上から、ぽんぽんと子狐の背中を叩いてあやしてやると、もぞ、と小さな体が身動ぎした。



「あーもー、なんだよ。なんでこんな寒ィんだよ」
「雪が降ってるからねェ」
「雪ィ?……面倒臭ェなあ……」
「確かにね。食糧も限られて来るし」
「っとに、最悪だぜ……」



布団の中で愚痴を零す京一に、八剣は眉尻を下げた。



「京ちゃん、寒いのは嫌い?」
「嫌い。良い事ねェし」
「雪は?」
「……冷てェ。寒い」
「嫌い?」
「……好きじゃねェ」



京一の小さな声に、八剣は漏れそうになる笑みをなんとか殺す。


京一は、嫌いなものは嫌いだとはっきり言う性格だ。
竹を割ったように判り易い正確ではないのだが、そう言った主張だけは明確である。
では好きなものに対しては如何かと言うと、此処だけは何故か天邪鬼が顔を出してしまうらしく、素直に「好き」と言う事が出来ない。
膨れ面で「好きじゃない」と「嫌いじゃない」を行ったり来たりするのが、パターンであった。

長いとも短いとも言えない同居生活であるが、八剣はそんな京一を理解していた。
天邪鬼と言えど、まだまだ子供らしく判り易いのが可愛らしい。


ぽんぽん、と布団の上から京一の頭を撫でると、あやされているのが判ったのか、京一は布団の中でふるふると頭を振った。
子供扱いをされるのが一等嫌いな京一には、今の八剣の手はお気に召さなかったようだ。

────と、ぴくっ、ぴくっ、と布団の山が小さく跳ねたかと思うと、



「へっ……くしっ!」


小山が一つ大きく跳ねて、響くくしゃみ。
その後、小山は不自然にぴたっと動きを止めてしまった。


八剣は、思わず吹き出しそうになるのを、寸での所で堪える。
先程、あれだけ寒がって布団の中に潜り込んだのだから、今更恥ずかしがる事もないだろうに。
それとも、布団の中に潜っているのに、まだ寒いのか、と思われるのが嫌なのだろうか。

冷えた部屋の空気は、布団が遮断している筈だが、冷気に負けてしまっているのかも知れない。
布団の中に入っていても、足元がどうにも冷たく感じると言うのは儘ある話なのだから。


大丈夫、と聞くつもりで頭を撫でようとして、八剣は触れる直前で手を止めた。

京一は、甘えるのも、甘やかされるのも好きではない。
だが、八剣は彼を甘やかすのが好きだった。
だから八剣は、あの手この手で京一を甘やかそうとするのだが、それも一筋縄ではいかない。

しかし、そんな京一が唯一、意固地になって振り払わない甘やかし方がある。



「京ちゃん」
「………」
「俺も布団に入って良い?」
「………」



問い掛けに、京一からの返事はない。
嫌とも、好きにしろとも、彼は言わなかった。

きっと京一は、物足りない温もりが欲しくて、けれどそれを素直に口にする事が出来ないのだろう。


そんな天邪鬼で意地っ張りな子供を知っているから、八剣は小さく笑って、ふさふさとした尻尾を揺らし、布団の隙間に潜らせる。
毛の長い尻尾をもそっ、もそっ、と動かしながら布団の中を進ませて、子狐の小山へと近付かせていく。
毛先が何かに触れた感触があったので、八剣はそれを少しくすぐってやった。

しばらく尻尾を遊ばせていると、ぎゅっ、と小さな力が尻尾を捕まえた。
その力の正体を知っているから、八剣は、ぐいぐいと引っ張る力に逆らわず、好きにさせる。




────程無く、ぎゅう、とが尻尾全体が抱き締められたのが判った。






寒いの嫌い、甘えるのも甘やかされるのも嫌いだけど、ふかふかの尻尾は好き。
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[八京]思い起こして過去一年

  • 2014/01/01 22:22
  • カテゴリー:龍龍


「鐘を突いた程度で、人間の煩悩が消えるかよ」


炬燵に入って蜜柑の皮を剥きながら言った京一に、それは言わない約束だろう、と思いつつ、八剣は苦笑した。

ごぉーん、と言う音が遠くで鳴っている。
都心の真ん中でもあちこちに神社仏閣はあるから、何処かしらから鐘の音は届いて来る。
その音を耳にしながらの、先の京一の言葉であった。

八剣は淹れたばかりの茶と茶菓子を炬燵テーブルに置くと、京一の隣に腰を下ろした。
炬燵は二、三人が入れる程度の大きさはあるが、それも四方向から入っての事で、一辺に二人が並ぶと少し窮屈だ。
その上、京一は堂々と辺の真ん中を陣取っているので、その隣に八剣が入るとなると、中々に狭い。


「お前、邪魔」
「うん、ごめんね」


悪びれる様子もなく邪険に扱う京一に対し、八剣は詫びたがその場からは退かなかった。
京一はしばらく顔をしかめた後、真横からの存在感を嫌って、渋々と言う表情で少し体をずらす。

因に、此処は八剣が住んでいる拳武館の寮である。
だから部屋の主は八剣なのだが、来訪者と言う立場である京一はそんな事は何処吹く風で、まるでこの空間の王様のように振る舞っている。
それは昨日今日に限った話ではなく、八剣もそんな彼を許しているので、こうしたやり取りも京一の態度も、日常茶飯事であった。

京一は、大きめの蜜柑を半分に割ると、五つほど連なっている房を小分けにせず、丸ごとぽいっと口の中に放り込んだ。
膨らんだ頬袋をもごもごと動かしながら蜜柑を粗食する京一を、八剣はじっと眺める。


「大体よ。鐘鳴らすだけで煩悩が消えるんなら、今頃世の中に事件だなんだって起きてねえだろ」
「そうだねえ」
「俺らが鬼だなんだってのに巻き込まれて、死にかける事もなかった訳だし」
「まあ、それはそうかもね」


蜜柑のもう半分を、もう一度京一は口の中に放り込む。
噛んだ瞬間、薄皮の破れた隙間から蜜柑の果汁が溢れだして、京一の唇を濡らす。

八剣が湯飲みに注いだ茶を京一の前に差し出すと、彼は湯飲みを目視しないまま、手探りでそれを取って口に運んだ。
口の中にあった蜜柑を飲み込んで空にすると、京一はやはり隣の男を見ることなく、湯飲みに口をつける。
蜜柑を食べた味が消えない内に飲んだ所為か、「…苦ェ」と小さな呟きが溢れた。

八剣が茶菓子の入った皿を差し出すと、また見ないまま京一は茶菓子に手を伸ばす。
醤油煎餅をぱりぱりと噛み砕きながら、京一は眺めていたテレビのチャンネルをいじり、面白そうな番組を探す。
その傍ら、愚痴かぼやきにも似た呟き────独り言は続く。


「首絞められたり、バカみてぇな高い所から落とされたり。串刺しにされたりとかな。なんか碌でもねえ一年だったぜ」


最早、煩悩云々と言う話からは遠くかけ離れているが、八剣は何も言わない。
いつものように口許に薄く笑みを透いたまま、煎餅を食べながらテレビを眺める京一の横顔を眺めている。


「厄年だったのかもな」
「でも、そう悪い事ばかりでもないだろう?」


溜め息でも吐きそうな京一に、八剣は言った。
すると、じろり、と苛立ち混じりの瞳が八剣を睨む。

八剣が黙って茶請けの饅頭を差し出すと、京一はそれを奪うように取って自分の口へと持っていった。
甘いものは余り得意ではない京一だが、和菓子の類は案外と舌が肥えているらしく、八剣が用意する和菓子は無条件に旨いものとして認識しているようで、それを食べる事は嫌いではないらしい。

こし餡入りの饅頭をもぐもぐと粗食しつつ、「どうだかな」と京一は言った。


「ションベンくせぇガキどもとつるまなきゃならなかったってのは、面倒だったな」


京一が言っているのは、真神学園で共に過ごしている仲間達の事だ。

くすり、と八剣は小さく笑う。
そんな事を言いながら、京一が彼らの事を憎からず思っているのは、誰の目にも明らかだ。
この冬休み中でも彼らは折りさえ合えば、逢って何処かに遊びに行ったり、冬休み中の課題に奮闘したりと、仲睦まじく過ごしている。
特に親友であり相棒である緋勇龍麻とは、恋人である八剣よりも共に過ごしている時間が多いのではないだろうか。

だが、根本的に素直になれない京一は、何があろうと、意地でも他人を誉める事はしない。
彼の場合は逆に、好きなように言っても良い、と認識している相手程、好意と信頼のある人間と思っていると言って良いだろう。


「……おいコラ。何笑ってんだ、気持ち悪ィ」


テレビを眺めていた京一が、いつの間にか此方を向いていた。
細められた眼が八剣をじっと睨んでいる。


「なんでもないよ。ただの思い出し笑いだから」
「……やっぱ気持ち悪い」
「酷いねェ」


傷付いたように眉尻を下げる八剣だが、京一は鼻で笑っただけで、またテレビに視線を戻した。
八剣は、饅頭の最後の一口を頬張る京一の横顔を見つめながら、ぽつりと呟く。


「俺は、結構良い一年だったと思うよ」
「拳武館があんな事になっててもか?」
「それを言われると厳しいけど。終わり良ければ、と言う意味では、そう悪い事ばかりでもなかったね」
「ふーん」


京一の反応は、如何にも興味がないと言った風だ。
実際に彼は、八剣がこの一年間をどう感じているか等、興味どころかどうでも良いと言い切れる事なのだろう。

八剣の手が、京一の後ろ髪に触れる。
指先に絡む京一の髪は、相変わらず傷んでいて、毛先には枝毛もあった。
勿体無いね、と八剣が呟くと、無言で京一の手が八剣を振り払う。


「……京ちゃん」
「なんだよ」


名前を呼ぶと、京一は振り返らずに返事だけを寄越した。
テレビには毎年恒例のバラエティ番組が流れており、今は丁度盛り上がりに差し掛かっているらしく、彼の意識は全てそちらに向けられている。

八剣の手が京一の髪をもう一度撫でると、後ろ髪の隙間に覗く項に指が滑る。
ぴくっ、と京一の肩が微かに跳ねて、紅の混じった瞳が八剣を睨む─────瞬間、その眼が大きく見開かれ、彼の視界が金色に染まる。


「…んっ、ぐ……っ!?」


くぐもった音が漏れて、京一の腕が暴れようと振り上げられる。
それを捕まえてやると、八剣は京一の腕を自分の首へと回し、京一の背中を抱き寄せた。
そうして密着する事が嫌いな彼は、益々暴れようとしたが、八剣は構わず彼を押し倒して、床へと彼の体を縫い止めた。

覆い被さる男から逃げようと暴れる京一だったが、口付けが深くなり、長い時間が経つにつれて、その勢いは段々と衰えて行く。
やがて、八剣の首に回された京一の腕から力が抜け、指先が何かを迷うように八剣の上掛の襟を引っ掛ける中、八剣はそっと重ねた唇を放した。


「っは……、…っの、軟派野郎っ……」
「酷いねェ」


憎まれ口を叩きながら、京一は肩で呼吸し、服の袖で口許を拭おうとする。
その手を捕まえてやんわりと阻むと、この野郎、と射殺さんばかりの眼光で八剣を睨んだ。

その眼差しを見つめ返しながら、八剣は柔らかな笑みを浮かべ、


「概ね良い一年だったよ。何せ、京ちゃんと逢えたんだから」


八剣の言葉に、京一はぱちり、と瞬きを一つ。
それから、頬から耳から一気に赤くして、じろりと八剣を睨み付ける。


「俺は最悪だった」
「そう。良かったね」
「…人の話聞け」


忌々しげに睨む京一の言葉に、聞いてるよ、と八剣は言って、もう一度唇を重ねた。



「お前、今直ぐ寺行って煩悩根こそぎ祓って来い」
「それ位で祓えたら、人間は苦労しないんだろう?」





家でだらだら年越しな八京でした。

パワーバランスは一見八剣<京一ですが、こうなると八剣>京一。
素直になれない(ならない)京一と、そんな京一を寛容してる八剣が好きだ。
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[ちび京一]ヒー・イズ・アワーズ・リトルサンタ

  • 2012/12/26 22:52
  • カテゴリー:龍龍

一日遅れたけど、メリークリスマス!





手渡されたのは、パーティグッズとしてよく使用される、子供用のサンタ服だった。


京一は自分が、可愛い性格をしていない事を自覚している。
斜に構えていて、なんでも疑ってかかるし、生意気な性質だ。
だから、幾ら相手が世話になっている『女優』の面々とは言え、渡されたサンタ服を見て「サンタクロースになれる!」などと喜んで見せる事は、土台無理な話であった。
大体、5歳6歳のまだ夢見がちな子供であるならともかく、それなりに自我も育ってプライドも持ち始める10歳を越えた少年に対して、サンタ服を渡すのもどうかと思う。

とは言え、それを渡して来たのは、『女優』のメンバーである。
にこにこと笑顔を浮かべたアンジーの向こうで、目をきらきらと輝かせているサユリとキャメロンがいる。
明らかに“何か”を期待しているその眼差しを邪険に出来る程、京一は空気が読めなくはなかった。

此処は、アレだ。
日頃世話になっている恩返しだと思って、腹を括ろう。

程なく、そんな結論に行き付いて、京一は渋々顔でサンタ服を包んでいるビニールを破り捨てた。


もこもことした赤い腹には、ふわふわとした白が縫い付けてある。
シャツの上に着れる上着と、ズボンと、天辺にポンポンのついた三角帽子。
それから大き目の麻布袋があって、「プレゼントを入れてね!」と言う用途説明の紙があった。

赤い服に白い大きな袋と来て、最後にもう一つ────サンタクロースの白ヒゲがあるのかと思ったら、見当たらない。
子供用のパーティグッズだから入っていないのだろうか。
京一としては、口周りがもさもさと鬱陶しい事になりそうなので、なくて幸いだったが。

赤白の衣装で、一ヵ所だけ黒いベルトは、布生地で最初から上着に縫い付けられていた。
開けられてある穴の位置を直しながら、バックルを通して固定する。
帽子は縁のふわふわの中にゴムが仕込んであるようで、深く被れば頭を振ってもずり落ちない。
最後に空っぽの袋を肩に担いで、準備完了。



「……これでいいのか?」



頭の帽子の位置を直しながら問うた京一。

ふわふわもこもこの赤い衣装を着た子供に、『女優』の面々は常以上にきらきらと目を輝かせ、



「いやぁああん!京ちゃんカワイイ~!」
「ぐぇっ!」
「京ちゃんカワイイ!世界一カワイイわァ!」
「こんなサンタさんがうちに来てくれたら、もう絶対返さないわよォ!」
「いででで!いで!マジ痛ェ!」



アンジー、サユリ、キャメロンからぎゅうぎゅうと抱き締められて、京一は悲鳴を上げた。
興奮している所為か、彼女達の腕の力には容赦がない。
やばい潰れる、死ぬ、と京一は本気で思った。

暴れる事すらままならない京一が、ぐったりし始めた所で、アンジー達はようやく我に返った。
酸欠で蒼い顔をした京一に、あらあら、と眉尻を下げて詫びる。



「ごめんねェ、京ちゃん。すンごく可愛かったから、つい興奮しちゃって」
「うえっぷ……」
「大丈夫?ハイ、お水」



香水と(彼女達には申し訳ないが)汗臭さと、ちょっとした(これもまた申し訳ないが)男性特有の濃い匂いに揉まれ、吐きそうな仕草をした京一に、サユリがグラスを差し出した。
京一はソファに座って、受け取った水をこくこくと飲み干す。

グラスが空になって、京一はほっと息を吐いた。



「うえ~、死ぬかと思った」
「ごめんね」
「んー……」
「あんた達はもうちょっと落ち着きな。京ちゃん、こっちにおいで」



何度も謝るアンジー達に、もういいよ、と頷いた京一を、カウンター向こうからビッグママが呼んだ。

京一はグラスをサユリに返して、ソファを降りる。
ととっと駆け足でカウンターに向かうと、背の高い椅子に登った。



「なんだ?」
「ほら」
「ん?」



ことん、とカウンターに置かれたもの。
それは緑色の包装紙に、赤いリボンでラッピングされた、正方形の箱。
この時期、誰が見ても判る、クリスマスの為のプレゼント。

おお、と京一の目が輝いた。
自分が捻くれた性格をしているとか、素直ではないと言う自覚がある京一だが、こういう行事の時のプレゼントと言うものは、やはり子供心を喜ばせるものである。
特にビッグママやアンジーは、京一の好みを熟知してくれているので、必ず京一が喜ぶものを用意してくれる。
京一は先のアンジー達に負けず劣らず、きらきらとした目でプレゼントを手に取った。



「これ、オレの?」
「ああ」
「開けて良いか?」
「どうぞ」



頷いたビッグママに、京一はよーし、と意気込んで、ラッピングの端に手をかけた。
テープで密封された端の隙間に指を入れて、力任せに破って切る。
ビリビリと勢いよく包装紙を破いて行く京一を、ビッグママは煙管を吹かしながら、柔らかい面持ちで眺めていた。

包装紙の一角がなくなると、中に入っていた箱に描かれた文字が見えた。
それを見た京一の目が見開かれ、破る手が興奮するように早くなり、



「おー!!」



喜びと感歎の入り交じった少年の声が響く。
京一の手には、先日発売されたばかりの新しいポータブルゲームの本体と三本のソフトがあった。



「マジで?マジでこれいいのか?」
「ああ。その代わり、勉強もきちんとやるんだよ」
「やるやる!へへー、やっりー!」



元気の良い返事が、いつまで守られるのやら。
ビッグママは思ったが、無邪気に喜ぶ子供を前に、いつまでも堅苦しい事は言うものではない。

どれからやろうかな、とソフトを選んでいる京一に、アンジー達が声をかけた。



「京ちゃん、アタシ達からもクリスマスプレゼント、あるわよォ」
「マジ?何何?」
「うふふ。内緒」
「ンだよー、勿体ぶるなよ」
「まぁまぁ。ほら、アタシ達のはサンタさんの袋に入れておいたから。後でゆっくり開けてね」
「おう」
「京サマからの分も入ってるのよ」
「……それ考えたらなんか怖ェな、その袋……」



アンジー、サユリ、キャメロンからのクリスマスプレゼントは純粋に嬉しいが、師の名を聞いた瞬間、京一の顔が引き攣った。
何せ師は酷く古風な人間であったから、こんな浮かれた行事とは縁もゆかりもなさそうだった。
そんな師からクリスマスプレゼントとは、到底想像がつかない。

何が入っているのか、師からの分だけでも確かめたかったが、きっとアンジー達は教えてくれないだろう。
─────師の事だ、何も悪いものが入っている訳ではあるまい。
京一は理解が出来ない、奇妙な物は入っているかも知れないが(奇妙な紋様が書かれた札とか、棒切れとか、あまり見ない色をした石だとか)。



「それからね、お店のお客さんからも色々預かってたのよ」
「ふーん」
「ほォら、京ちゃん、これ全部京ちゃんのよォ」



カウンターの裏に入っていたキャメロンが、両手一杯のプレゼントを抱えて出てきた。
どさ、とテーブルに置かれたその山を見て、京一はあんぐりと口を開ける。



「すげー……」
「人気者ねェ、京ちゃん」
「皆、京ちゃんの事が大好きなのよォ」
「当然よ。京ちゃんはこんなに可愛いんだもの」
「別に可愛かねえけど…」



べたべたに褒めるアンジー達に、京一はぼそぼそと反論するが、その顔はすっかり赤くなっている。
その表情がまた、アンジー達には可愛くて堪らない。

サユリがソファに置いたままにしていた、サンタの袋を持って来た。
がさがさと中から音がするのは、彼女達が入れてくれたプレゼントだろう。



「お客さんからのプレゼントも、この中に入れちゃいましょう」
「入りきるかしらねェ」
「それより、あんまり入れたら重たくなっちゃうんじゃない?重いと京ちゃんが大変よォ」
「別にいいよ、それぐれェ。バラバラになってるより、持ち易い方がいい」
「じゃ、特に重い物は別にして、軽いもの一通り詰めちゃいましょ」



客からのプレゼントだと言う山が、どんどん削れて、袋の中へ。
入るだけ入れ終わった頃には、袋はすっかり大きく膨らんで、正にサンタクロースの袋のようになっていた。



「ちょっと重いかしら…」
「ヘーキだよ。ちょっと貸してくれよ」



京一はカウンター椅子から飛び降りると、アンジーが持っていた袋に手を伸ばした。

譲られた袋の口を引き絞ってしっかりと閉じ、よっ、と軽く勢いをつけて持ち上げる。
大きくなった袋を体の前で抱えるのは邪魔だったので、くるっと方向転換して、肩に担ぐ。
軽く肩に後ろへ引っ張る重みが乗ったが、持っていられない程ではない。

よし、へーきへーき、と京一が確かめていると、



「いや~ん、京ちゃん、ホントにサンタさんみたい!」



サンタクロース象徴である赤い服、ポンポンつきの三角帽子、そしてプレゼントを詰めた大きな袋。
白いヒゲこそないものの、その姿は、正しく小さなサンタクロース。




都会の片隅に現れた、小さな小さなサンタクロース。

大きな袋の中身は、サンタクロースへのプレゼントで一杯になっていた。






うちのちび京は行事の度に何かコスプレしてる気がする。
だって着せたいんだ!絶対可愛いから!!

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