[レオスコ]ずっとずっと、欲しいもの
- 2015/03/14 21:59
- カテゴリー:FF
バレンタインの定番と言えば、チョコレートと相場が決まっていると言われているが、それではホワイトデーの定番は何だろう。
一応、スーパーやコンビニのホワイトデーコーナー等には、チョコレートやキャンディ、スナック菓子の詰め合わせ等が置かれているが、特にこれが良いと決まっている訳でもなさそうだった。
テレビの特集でインタビューに答える女性はと言うと、そこそこ即物的で、ウケ狙いなのか本気なのか、ブランド物のバッグだとか、アクセサリーだとかを欲しがっている。
別に、店のこれみよがしのポップや、恣意的な編集が其処此処に見られるテレビを真に受ける事はないので、此方については割とどうでも良いと思っている。
が、“これ”と言うものが一つでもあれば、ホワイトデーで頭を悩ませる男の多くは、気が楽になるのではないだろうか。
スコールも、そんな男の一人である。
世の男達とスコールの違う所はと言うと、お返しを贈る相手が女ではなく、男であり、実の兄だと言うこと。
そして、───恐らく───本来ならば、スコールはバレンタインに贈る側であり、ホワイトデーはお返しを貰う側になる筈だったと言う事。
後者については、スコールが行事事に疎いタイプであった為、それを解っている恋人からチョコレートを渡され、「ホワイトデーにはお前から」と約束された。
行事には疎いが、一ヶ月前の恥ずかしさと嬉しさと、申し訳なさは、簡単に忘れられるものではない。
かくてスコールは、近所のコンビニにホワイトデーの看板が見え始めた頃から、お返しって何を渡せば、と考え続けていた。
しかし、ホワイトデー当日となって尚、スコールは贈り物を決める事が出来ない。
スコール自身もそうだが、兄レオンは輪を持って物欲がない。
必要なものは、殆どが仕事に有用であると言う類で、趣味と言えば読書───と言うが、あれは好きでやっていると言うよりも、他に時間を潰す方法が思い付かないと言うものだ。
そんな彼が、仕事と関係なく興味を持っているものと言ったら、シルバーアクセサリーだが、それこそスコールがプレゼント出来るようなものではない。
そもそも、学生であるスコールが、一社会人であり、それなりに稼ぎのある男に贈れるもので、見劣りしないものを選ぶのが無理難題であった。
それでもスコールは、彼に何かを渡したかった。
バレンタインの事もあるが、レオンは兄として、恋人として、スコールに愛を注いで已まない。
そのむず痒い程の愛情の奔流に、スコールも少しでも応えたかった。
普段、専ら受動的であるスコールの、精一杯の“お返し”であった。
だが、悩んでも悩んでも、彼が喜んでくれそうなものは思い付かない。
結局スコールは、サプライズと言う点を割り切って諦める事にし、彼に直接聞いてみる事にした。
「俺が欲しいもの?」
「……何か、ないかと思って。俺が考えても判らなかったから…」
土曜日の昼、昼食を終えて、リビングのソファでのんびりとしている所へ、スコールは問い掛けてみた。
何か欲しいものはないか、と直球に。
レオンはきょとんと首を傾げたが、カレンダーの日付を見て、スコールの問いの理由を察した。
「バレンタインに言った事、本気にしてたのか」
「……冗談だったのか?」
くすくすと笑う兄に、スコールの眉間に深い皺が刻まれる。
あんなに悩んだのに、と湿気のある瞳がレオンを睨むと、レオンは首を横に振り、
「いや、本気だった。本気だったが、そこまで悩んでくれるとは思ってなかった」
レオンとしては、バレンタインに贈った一言は、期待を籠めてはいたものの、忘れていても仕方がないと思っていた。
覚えていてくれたら、コンビニで売っている駄菓子なり何なり、夕飯のメニューを奮発してくれるでも良かった。
それなのに、当人に直接問う程に真剣に考えてくれていたと知って、レオンは頬が緩むのを堪えられない。
嬉しそうに笑うレオンに、スコールは眉間の皺を更に深くするが、その頬は真っ赤に染まっている。
揶揄われたと言う怒りからか、似合わない事をしたと言う恥ずかしさからか。
恐らくはその両方で、更に言えば、兄が随分と嬉しそうな顔をしているから、だ。
恥ずかしさに耐え兼ねて、スコールは素っ気ない口調でレオンを急かした。
「それで、ないのか。本とか、何か、そう言うの」
「そうだな……」
レオンは顎に手を当て、熟考するように視線を上へ向けた。
うーん、と考えるレオンを睨むように見詰めつつ、無いって言われたらどうすれば良いんだ、とスコールは考えていた。
点けっ放しのテレビから流れていたコマーシャルが終わって、番組の続きが始まった頃だった。
レオンは、ソファに並んで座っていたスコールの肩を抱き寄せて、突然の事に目を丸くする弟に顔を近付けて言った。
「お前が欲しいな」
「…………は?」
レオンの言葉に、スコールはぽかんと口を開けた。
いつも気を張って大人びている表情が、年相応の少年の顔になっている。
そんなスコールに、可愛いな、と思いつつ、レオンは続けた。
「俺は、お前以外に欲しいものはない」
「……!」
「だからお前が欲しいな、スコール」
ようやく理解が追い付いて、スコールの顔が茹でたように一気に赤くなる。
その貌をレオンがじっくり見ていると、至極近い距離に気付いたスコールが、今更になってじたばたともがき始めた。
「ちょっ…は、離せ!」
「駄目だ。俺の欲しいものをくれるんだろう?渡して貰うまでは離さない」
「バカ言うな!大体、今更あんたに渡せるようなものなんて……」
其処まで行って、スコールの言葉は途切れた。
おや、とレオンがスコールの顔を見ていると、赤い顔が更に上書きしたように真っ赤になる。
レオンはしばしその顔を見詰め、ああ、と弟が沸騰した理由を悟った。
「もう全部あげてるって?」
「…ち、ぁ……うぅ……」
兄の言葉に違う、と言おうとして、それも違う、と思った。
スコールは口をぱくぱくと開け閉めして、湯気を出して俯いてしまう。
赤らんだ顔を誤魔化すように、レオンの肩に額を押し付けたスコールだが、首まで赤らんでいるのを見られているとは知らない。
レオンは、肩に顔を埋めるスコールの頭を撫で、柔らかな髪の毛を梳きながら囁いた。
「確かに、全部貰ってるんだろうな。でも、俺はもっとお前が欲しい」
耳元で囁かれる低く通りの良い声に、スコールは体の奥がじんわりと熱を帯びるのを感じていた。
抱き締める男の体に腕を回して、ぎゅう、としがみつけば、閉じ込める腕の檻が力を籠める。
「…もっとも何も…あんたの好きにすれば良いじゃないか…」
「俺が勝手に貰うのと、お前からちゃんと貰うのとじゃ、訳が違うだろう」
「違わなくないだろ…」
───と、反論したスコールではあるが、レオンの考えている事が理解できない訳でもなかった。
お気に入りのアクセサリーでも、自分で買ったものと、レオンに貰ったものとでは、思い入れが違う。
自分で買った分は、それまでの労もあって大事にしようと思うが、レオンから貰ったものは、“レオンから貰った”から、もっと大切にしようと思う。
些細なようで大きな違いは、決して同一になる事はない。
スコールは、レオンの肩に埋めていた顔を、そろそろと上げた。
見下ろす柔らかな蒼灰色とぶつかって、反射的にもう一度俯きそうになるが、寸での所で留まった。
スコールの蒼は迷うように、躊躇うように少しの間彷徨った後、
(……これ、…“お返し”になるのか……?)
一抹の疑問を覚えつつ、スコールはそっと、レオンの頬に唇を押し当てた。
柔らかいものが頬に触れるのを感じて、レオンの目許が緩む。
────と、離れようとしたスコールの顎をレオンの指が捉え、唇が重なった。
「んぅ……っ!?」
取り戻せる筈だった呼吸が再び塞がれて、スコールは目を瞠った。
すぐ其処に在るのは睫毛の長い眦で、頬や首下にくすぐったさが当たって、ふるり、とスコールの肩が震えた。
ちゅ、と舌唇を吸われて、ようやく解放される。
茫洋と、熱に酔うようにふわふわとした感覚に支配されて、スコールは兄を見上げた。
「ホワイトデーのお返しと言えば、“三倍返し”だろう?」
楽しそうに、嬉しそうに、少しだけ意地が悪そうにレオンに、スコールの顔がまた紅に染まった。
レオスコでホワイトデー!
いつも通りいちゃいちゃしているだけw
この後のいちゃいちゃは、スコールの方から頑張る方向で。三倍返しですから。