[カイスコ]答えはきっと最初に出ていた
- 2015/04/08 22:18
- カテゴリー:FF
指先が触れるだけで、白い頬が赤くなる。
そんな顔を見て、これ以上の事をしたら、どんな顔をするのだろうと思いを馳せる。
触れ合う事が苦手なんだと言った少年は、苦手を通り越して、恐怖を抱いているように見えた。
それは強ち間違いではなく、彼はカインが少しでも触れる素振りを見せるだけで、身構えるように表情を硬くした。
そんな反応を見せられて、強引に距離を近づけられる程カインに大胆さはない。
遠慮なく抱き着いて行くジタンやバッツをひっそりと羨みつつ、カインはゆっくりと、じっくりと、彼との距離を縮めて行くように心がけた。
その努力の甲斐あって、カインはようやく、彼と恋人らしい距離まで近付く事が出来た。
しかし、距離を近付けても、まだまだ彼の緊張は解けない。
決して怖がらせたい訳ではないのだと思うと、やはり、カインは可惜に踏み込む事は出来なかった。
───と、思いつつも、既にじれったい程に待っていたカインである。
色々な当番の都合で、運良く二人きりになった見張り番の最中、カインは遂に言った。
「キスをしても良いか、スコール」
カインの言葉に、スコールは一瞬呆けたように口を半開きにし、その後、沸騰したように真っ赤になった。
初心なその反応に、可愛らしいものだ、と兜の下でこっそりと笑う。
其処に至るまでの自分の葛藤や、スコールへの配慮と言うものを、カインはきちんと説明した。
ある意味、それは卑怯な事だと言えるだろう。
これだけ我慢したから、此処から先は此方の我儘を聞いてくれ、と言っているようなものだ。
存外と聡く、人目を気にするスコールであるから、其処まで懇切丁寧に話さなくても、カインの胸中の蟠りは感じ取っているだろうとは思ったが、それでも、カインは一から十までを話して聞かせた。
ずるい大人に翻弄される少年に、申し訳なさを抱きながらも、やはり、カインとて男である。
好いた相手に触れたいと言う欲求は、無視できるものではなかった。
真っ赤になったスコールの顔が、ゆらゆらと揺れる火に照らされている。
深い蒼灰色の瞳の中で、黄色と橙色が閃いた。
色の薄い唇が戦慄き、言葉を探すように、閉じては開いて、また閉じてと繰り返される。
その唇に手を伸ばし、指先を押し当てると、ピクッ、とスコールの肩が小さく震え、唇が引き結ばれた。
(拒否は、しないんだな)
いつであったか、冗談でバッツがスコールの頬にキスをしていた事がある。
愛してる!と言いながら、スコールの髪をくしゃくしゃに撫でて、押し付けられていたバッツの唇を、スコールは容赦なく拳で押し除けた。
その後、気持ち悪い、と言って頬を拭うスコールに、バッツは判り易く傷付いた顔をして見せる。
そんな二人の傍らで、ジタンが腹を抱えて笑うのを、カインは遠巻きに眺めていた。
基本的に声を上げて主張する事が少ないスコールだが、気に入らない事は気に入らないとはっきりと言う。
そんな彼が、唇に触れる指を拒否する事もなく、噛み付くような真似もしないと言う事は、その程度にはカインは受け入れられていると言う事だろう。
が、其処から先については、まだ判らない。
「スコール」
「……っ」
名を呼ぶと、指先で柔らかい唇が微かに震えた。
「あ……う……」
薄く開いた唇から、意味を成さない音が漏れる。
カインは、唇に触れた指を滑らせ、シャープなラインを作る顎を摘んだ。
赤い顔を隠すように俯こうとするスコールを、くん、と上向かせてやる。
「答えないなら、勝手にするぞ」
「待っ……」
問答無用で口付ける強引さの代わりに、見せかけの選択肢を与える。
答えればスコールの心に沿う、と言えば、スコールは慌てて停止させていた思考を回転させ始めた。
目深の兜の隙間から、僅かに覗く男の瞳を、スコールは見る事が出来ない。
平時でさえ、殆ど人と目を合わせようとしないのだ。
こんな状況では尚更で、スコールの視線は目の前の男から逃げ、助けを求めるように静かなテントを見遣る。
三つ並んだテントの内、左側のテントに彼と懇意にしている仲間達が眠っている。
いつも狙ったようなタイミングで、二人の間に割り込んで来て、スコールを浚って行く賑やかな仲間達は、今日ばかりは乱入して来る様子はない。
これ以上のチャンスはない、とカインが思う傍ら、どうしてこんな時だけ、とスコールは思っていた。
お互いの顔を近い距離に留めたまま、時間は流れる。
見張と言う役割を思えば、こんな事をしている場合ではないのは、二人とも判っていた。
片や軍属、片や傭兵、場所は鬱蒼とした森の中、魔物も模造も混沌の戦士も、いつ現れても可笑しくない。
しかし、今でなければ次はいつになるか、と言う事を思えば、やはり今しかチャンスはないのだ。
「う…あ……」
「スコール」
「……待、待て…ちょっと、離れろ…っ!近過ぎる…っ!」
「そうだな。だが、断る」
離れる気はない、と、カインの左手がスコールの腕を掴んだ。
ビクッとスコールの体が震える。
そうして怯えたような反応をするから、カインはずっと配慮を忘れないように努めていたのだが、
(お前は、拒否を示していない)
それなら、答えは一つしかないだろう。
カインはゆっくりと顔を近付けた。
ただでさえ赤いスコールの顔が、益々赤く火照って行く。
「カ、カイン…っ!ま、待て、待てって言ってる…!」
「言っただろう。俺はもう十分待った」
この感情を自覚して、想いを繋げて、怯えるように緊張する彼を少しずつ宥めた日々。
欲しいと思う感情を押し殺し、背伸びをしたがる彼の等身大の歩幅に合せて、ゆっくりと距離を近付けた。
其処までしたなら、後少し待って、とスコールは思っているかも知れない。
だが、その“後少し”が、カインにとってはいつ果てるとも知れない長い時間になり得るのだ。
近付く唇に、スコールがぎゅうっと自身の唇を噛み締めた。
カインの手に捕まれた腕が、ふるふると微かに震え、意を決したように拳が握られて、
「兜…っ!せめて、兜外せ…っ!」
絞り出すように言ったスコールに、カインの動きがぴたりと止まる。
龍を模した兜は、目許を隠す程に目深に被られている。
暗黒騎士の姿のセシル程ではないが、カインの兜も彼の表情をすっかり覆い隠していた。
兜の前先端は、龍の口を模して尖っており、これ以上顔を近付けると、間違いなくスコールの額を小突く羽目になる。
近付いていた顔がすっと離れて、スコールはほっと息を吐いた。
かちゃり、と金属の鳴る音の後、さらりと長い金色の髪が流れ落ちる。
「これで良いな?スコール」
口付けるのに邪魔になるそれを、外せ、と言ったスコール。
それは受け入れた証であると言うカインに、スコールは抗議しようとしたのだろう、引き結んでいた唇を開けた。
が、それ以上の言葉が彼の唇から紡がれる事は、なかった。
4月8日なのでカイン×スコール!
私の中で、カインは一応紳士なイメージ。大人。待てる限りは待って、スコールに合わせてくれる。
でも溜まりに溜まると爆発もするよ。その時は、紳士的に強引に行くと良いな!