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[レオスコ]夏味レモネード

  • 2015/08/08 21:40
  • カテゴリー:FF


ぱちぱちと、喉の奥で気泡が弾けている。
ほんのりと甘い炭酸水の冷たさが、気泡のお陰でよりはっきりと伝わる気がした。

ティーダ達に誘われ、半ば強引に連れ出された夏祭りで、これまた強引にやらされた輪投げで手に入れた、独特の形をした昔懐かしのラムネ瓶。
人数分を手に入れた瓶を配った後、手許に残った一本を手に、スコールはベンチに座ってそれを傾けていた。
友人達はと言うと、焼そばやらたこ焼きやら、ラムネのアテになる食べ物を探しに行った。
居並ぶ屋台を右へ左へ誘われ、ターゲットを定めずあれこれもと買って来るのは想像に難くないので、帰ってくるまではまだしばらく時間がかかるだろう。
人込みを歩くのが嫌いなスコールは、のんびりと食事をする為の場所取りと言う体で、休憩タイムを貰っていた。

祭りのクライマックスには花火が挙げられるとあって、夏祭りは盛況であった。
何処に行くにも人人人で、熱気も一入となっており、やっぱり来るんじゃなかった、とスコールは思う。
けれども、友人達を置いて帰ってしまおうと言う気にもならない。
仕様のない、と溜息を吐きながら、スコールはラムネを飲みながら、友人達が戻って来るのを待っていた。


(あいつらが戻って来る前になくなりそうだな…)


手に持った瓶の重さは、傾ける毎に軽くなっている。
此処に至るまでに、気温の高さと熱気の所為で、随分と汗を掻いた所為だろう。
足りなくなった水分を欲する体に従う内、ラムネは半分以下まで減っていた。

ティーダ達にメールして、別の飲み物を注文して置こうか。
そう思っていた所で、すいっ、とスコールの視界に割り込んだものがあった。


「……レオン?」


割り込んだものの正体を見極めようと顔を上げて、正体よりも先に、それを差し出した人物の顔が見えた。

家で弟の帰宅を待っている筈の兄が、どうして此処に。
目を丸くして見上げるスコールに、レオンは笑って、差し出していたラムネ瓶を取るように促す。
取り敢えず、とスコールが瓶を受け取ると、レオンはスコールの隣に腰を下ろした。


「なんであんたが此処に?家にいるって言ってたのに」
「仕事が溜まってたからな。一段落したから、息抜きしようと思ったんだ」


そう言ったレオンの手には、缶ジュースが握られていた。
プルタブを回して、プシュッ、と炭酸ガスが抜ける音がする。

スコールは、レオンの手で傾けられる缶を見て、自分の両手に収まっている二本のラムネ瓶を見た。


「…これ、買ったのか?」


缶ジュースとラムネ瓶をそれぞれ買う、と言うのは、レオンにしては奇妙な行動だ。
ティーダやジタンのように、迷った末に両方を飲む、と言う選択は、彼には余り存在しない。

レオンは一頻り喉を潤すと、ふう、と一つ息を吐いて、


「祭りの出入口にある本部に、クジ引きがあっただろう」
「ああ」
「ジュースを買った時に引換券を貰ったから、ついでに引いてみたんだ。で、それが当たった」


開けていないラムネ瓶を指差して、レオンは言った。

成程、期せずして手に入れたものだったと言う事だ。
帰り際に手に入れたのなら、そのまま持って帰って冷蔵庫に入れる所だが、レオンは来たばかり。
今から帰るのは少し勿体ない、と思い、弟とその友人達なら、誰かが貰ってくれるだろうと、捜し歩いていた───とレオンは言った。

氷水から上げられてから、長い時間は立っていないのだろう、握った瓶から冷気が伝わって来る。
スコールはポケットからハンカチを取り出して、冷気が逃げないように瓶を包んだ。
先ずは今飲んでいるラムネを消費してから、と開いている瓶を口元に運ぶ。


「……ラムネなんて、懐かしいな」


隣から聞こえた独り言に、スコールは瓶を咥えたまま、目だけを其方に向けた。
レオンは缶ジュースを片手に、がやがやと賑やかな祭りの景色を眺めている。


「子供の頃は、夏祭りには毎年行ってたから、ラムネもよく飲んでたけど。飲み切れないってお前の分まで貰って」
「……そんな事あったか?」
「あったんだよ。お前は小さかったから、余り覚えていないかも知れないが」


くすくすと笑う兄に、スコールは口の中で瓶を噛んだ。
記憶にない自分の行動を語られると言うのは、なんともむず痒い気分にさせられる。

そんな弟を余所に、レオンは缶ジュースをゆらゆらと揺らしながら続けた。


「社会人になってから、夏祭りには行かなくなってたな。お前も行きたいって言わなくなったし」
「…人込みが嫌なんだ。ただでさえ暑いのに、こういう所は余計に暑いし」
「人も多いし、電球とか、出店の鉄板とかな。そう言う熱気を楽しむのも祭りの醍醐味ではあるんだが……」
「……暑苦しいのは嫌いだ。それなのに、あいつら……」


まだ戻って来る様子のない友人達に、口の中でぶつぶつと文句を言ってやる。
レオンはそんな弟に苦笑し、濃茶色の髪をくしゃくしゃと撫でた。


「それで、ティーダ達はどうしたんだ?一緒じゃないのか」
「食べ物を買いに行って、まだ戻って来てない」
「色々買って来そうだな」


レオンの言葉に、スコールは、両手一杯に食料を抱えて戻って来る友人達を思い浮かべた。
その想像は、程無く現実のものとして、スコールの前にやって来る事だろう。
少しだけ貰って、後は譲ろう、とスコールは思った。

遠くで祭囃子の音が鳴り、どうやら音頭が始まったようだと知る。
祭りを楽しむ人々の足が、中心地へと向かって行くのを見ても、子供の頃の様にはしゃぐ事はない。
人の流れが再び散らばって混雑する前に帰れるだろうか、と凡そ叶わない事を考えていると、


「スコール。それ、少し貰って良いか?」
「……これか?」


スコールが手に持っていたラムネ瓶を指差すレオン。
スコールは別に良いけど、と言いかけて、レオンから貰った一本がある事を思い出す。


「こっちの方が冷たい────」
「いや、こっちで良い」


未だ開けていない物の方が良いだろうと、スコールが瓶を持ちかえようとした時だった。
レオンは少ない中身の瓶を、スコールの手ごと掴んで、口元に寄せる。
薄い唇が瓶の縁を咥えて、傾いた瓶から透明な液体が滑り落ちて行った。

こく、こく、とレオンの喉が鳴る────スコールの目の前で。
酷く近い距離で見たレオンの喉には、薄らと汗が滲んでいた。
しゅわしゅわと細かい気泡が、レオンの喉で弾ける感触を作り、まだ僅かに残っていた冷気が、甘味と一緒に流れ落ちて行く。

固まって動かないスコールの手から、ラムネを奪う事しばし────中身が空になった所で、ようやくレオンは口を放した。


「久しぶりに飲むと美味いな」
「あ……う、ん」


濡れた口元を指で拭うレオンに、スコールは呆然と返事をするのが精一杯だった。
レオンはそんなスコールに、くすりと笑みを浮かべ、徐に顔を近付ける。
ふ、と柔らかなものがスコールの唇に触れて、直ぐに離れて行った。

今のは、と丸くなったスコールの視界は、兄の顔で埋まっている。
蒼の宝石の中で、祭りの灯がひらひらと閃くのが、まるで星のようだった。
その中に映り込んでいる弟に、レオンはそっと微笑んで、もう一度唇を重ねる。

二度目のキスは、一度目よりも深かった。
直ぐ傍を歩いている人々の気配は何故か遠く、祭囃子も違う世界で鳴っているように聞こえる。
今まで何度も受け入れて来た唇は、常と違って、少しだけ甘くて、ひんやりとしている気がする。
それが、手の中に残っている空っぽの瓶の所為だと言う事は、直ぐに判った。
滑り込んで来た舌の熱に触れて、ゴトッ、と瓶が地面に落ちて転がる。

唇は、離れて行く時、とてもゆっくりとしていた。
ゼロに近い二人の唇の間で、熱の篭った呼吸が一つ零れる。
くしゃりと大きな手に頭を撫でられて、スコールはぼんやりとした瞳で、目の前の男を見詰める。


「……お前も、美味いな」


囁かれた言葉に、スコールの顔が一気に赤くなった。

固まったスコールをそのままに、レオンは席を立つ。
地面に転がったラムネ瓶を拾って、手を振る代わりに瓶を振る。

兄の背中が流れ行く雑踏に紛れるのと入れ違いに、両手一杯に焼きそばやらたこ焼きやらを抱えた友人達が戻って来た。


「おーっす、お待たせー!」
「ホルモン焼きが美味そうでさー、買っちまった」
「トウモロコシって焼くとなんであんな良い匂いするんだろうな。ほら、スコールのも買って来た」


ティーダ、ジタン、ヴァンが次々と両手に抱えた物を広げて見せる。
ついさっきまで鉄板の上で焼かれていたのであろう食べ物が、これ見よがしに良い匂いを漂わせていた。
食べ終わったらまた屋台巡りをするのだろうに、一体幾ら使ったんだ────と思うような余裕は、今のスコールにはなく。


「あれ、スコール。どうかしたんスか?」
「顔赤いぞ。そんなに暑いか?」
「人酔いした?」


赤い顔で固まっているスコールに、友人達は口々に声をかける。
しかしスコールからの反応は捗々しくなく、ようやっとティーダと目を合わせたかと思うと、直ぐに俯いてしまった。
口元を押さえる仕種を見付けて、やっぱり人酔いかな、と言ったヴァンが、スコールの横に置かれている、ハンカチに包まれたラムネ瓶を見付ける。


「スコール、もう一本買ったのか?人酔いしたなら飲んだ方が良いぞ」


俺が開けようか、とヴァンが瓶に手を伸ばす。
その手が瓶に届く前に、スコールは攫うように掴んで、友人達から見えない場所に置く。
ヴァンはそんなスコールに首を傾げたが、今飲む気分じゃないんだろうと、深く気にしなかった。
それより、食べれば気分も変わるだろうと、食べ物を囲む友人達の輪に加わる。

スコールも遅れて仲間達の輪に加わって、赤らんだ顔で唇を引き結ぶ。
手に持ったラムネ瓶は、祭りの間、開けられる事はなかった。





『夏らしい爽やかレオスコ』のリクを頂きました。
夏らしい=夏祭り、爽やか=ソーダ(ラムネ)と言う安易な連想を混ぜたらこうなりました。

このラムネは、飲むに飲めなくて、一週間くらい家の冷蔵庫の中に残ってると思います。
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