どうしたらいいんだろう
- 2016/07/02 00:03
- カテゴリー:FF
どうやら、レオンもスコールも、首に何かをつけられる事が、本能的に嫌らしい。
二人の訓練の様子を観察したバッツは、ラグナにそう伝えた。
バッツの仕事のパートナーである“猿”モデルの獣人であるジタンも、彼等と同じような反応を示す箇所があった。
ジタンが苦手としているのは手首で、何かが此処を擽るような感覚がするのが駄目なのだと言う。
リストバンドのように、ぴったりと隙間なく密着しているものなら平気なのだが、例えばポロシャツの長袖と言ったように、微妙に隙間があるものが受け付けられない。
手首を擦られるのが駄目なんだ、とジタンは言っていた。
理屈ではなく、感覚的に襲われる拒絶反応である為、我慢しようとすると反ってストレスとなって跳ね返る事が多いと言う。
首輪じゃなくて、別のものを探した方が良いかも知れない、とバッツは言った。
他のものでも良いのか、とラグナが訊ねると、獣人に詳しくない者が傍目に見た時、判り易く目に付き易いのが首輪である為、推奨されてるだけなのだ、との事。
実際にジタンが首に捲いているのはリボンで、裏地に名前、所属している機関と部署の正式名称が記されている。
獣人である事を隠しているジタンの兄に至っては、ブレスレットやネックレスにタグを付け、カリグラフィ的な刻印を施しており、身分証明書を掲示しなければならない時だけ、それを見せているらしい。
隠していても、身に付けていなければ保護を受けられなくなってしまう為、ジタンの兄曰く、“苦肉の策”だそうだ。
その話を聞いて、ラグナは少し気が楽になった。
どうしてもレオン達が嫌がるのなら、彼等が嫌がる事はしたくないが、ではきちんと彼等を守る為にはどうすれば良いのかと、悩み続けていたからだ。
とにかく“身に付けられるもの”である事が絶対条件であり、その形状が“首輪”に拘る必要がないのなら、色々と探してみれば良い。
「────って訳で、何か良い物知らないかな~と思って、聞きに来たんだけど」
どうかな、とラグナが訊ねているのは、セフィロスだった。
セフィロスは、ラグナと獣人の兄弟が暮らしているマンションの上層フロアに住んでいる。
長めの良い其処で、彼は自身が育てている“犬”モデルの獣人達と暮らしていた。
彼等はセフィロスに引き取られてから長いようで、ヒトとの暮らしにかなり慣れている。
レオンとスコールにとっては、ヒト社会の中で生きていく為の先輩とも言えるので、交流するのは彼等にとっても勉強になるだろうと、ラグナは時間が合えば二人を連れて此処に来ていた。
セフィロスも、訓練仲間とは別の仲間を持つのも悪くない、と言って、ラグナ達の来訪を暖かく迎え入れている。
レオンとスコールの首輪嫌いについては、セフィロスもラグナ本人から聞いていた。
自身が見ている獣人───ザックスとクラウドは、特に抵抗もなく首輪を受け入れたので、そうした話は初めてだった。
だが、クラウドが腹を触られるのを嫌がる癖がある為、あれに近いのだろうな、と想像する。
それなら、訓練スタッフが言った通り、首輪ではない他のものを探した方が良いだろう。
「ほら、ザックス君とクラウド君、格好良いのつけてるからさ。何か知らないかなって」
「ふむ……」
ちらりとセフィロスが視線を遣った先には、じゃれあう四人の獣人がいた。
“ライオン”モデルのレオンとスコール、“犬”モデルのザックスとクラウド。
ザックスは犬種で言えばラブラドールレトリバー、クラウドはシベリアンハスキーに当たる。
大型犬の特徴を生まれ持つ彼等は、成長すれば体格も育ちそうだったが、今はまだレオンやスコールと同じように、子供と変わらない姿をしている。
丸みのある頬をクラウドがスコールに摺り寄せており、スコールが猫手でクラウドの顔を叩いていた。
どうやらクラウドはスコールの事が気に入っているようで、逢うと必ず飛び付いて離れない。
スコールはそんなクラウドが苦手で、いつもレオンの傍に隠れようとしていた。
レオンとザックスはと言うと、激しいスキンシップは少なく、それぞれの弟分の面倒で忙しそうにしている。
団子のようにくっついたり離れたりを繰り返している彼等だが、遊び付かれると一ヵ所に固まって眠っているので、仲良くやっているのだろう。
今日もスコールに構い倒しているクラウドを横目に見ながら、セフィロスは彼等の“首輪”について話す。
「あの二人につけているものは、正式には首輪じゃない。チョーカーだ」
「チョーカー……ってなんだっけ」
「判り易く行ってしまえば、ファッション用の首輪だな」
今はすっきりとして身軽なザックスとクラウドの首には、外出時、黒のチョーカーが嵌められていた。
それは獣人用のものと言う訳ではなく、セフィロスが贔屓にしていたブランドで売られていたものだ。
このチョーカーにシルバーのタグを縫い留めて、首輪の代わりにしているのである。
「ブランド品かぁ……」
「最初は訓練も兼ねて、適当に買ったものにしていたんだが、どうせ義務なら、奴らの気に入りそうなものにしてやろうと思ってな」
「ザックス君とクラウド君、気に入ってる感じ?」
「あれに替えてから、嫌がった事はない。まあ、首輪自体、あいつらが拒否した事もないんだが……そっちの二人のように引っ掻いたり、噛み千切ったりした事もないから、気に入ってるんじゃないか」
「そっかぁ。やっぱり好みってものもあるのかも知れないな。レオンとスコールはどんなのが良いかな……」
首輪に限らなくて良いのなら、選択肢の幅は広がる。
慣れるまでに多少の時間を要しても、物が気に入ってくれれば、スコールが噛み千切ったり、レオンが爪を立てたりする事も減るかも知れない。
色々試してみよう、とラグナが心を躍らせていると、わおぉんっ、と大きな犬の鳴き声が聞こえた。
音の発信源を見ると、金色頭に三角形の耳を持った犬───クラウドが、スコールに抱き付いている。
押し倒されるように抱き付かれたスコールは、じたばたと暴れて、クラウドを振り解こうとしていた。
「ふぎゃーっ!ふぎゃっ、ぎゃーっ!」
「ぎゃうう、ぎゃう、ぐぅーっ」
助けを求めて暴れるスコールを助けようと、レオンがスコールとクラウドの間に割り込もうとする。
と、クラウドは今度はレオンに抱き付いて、ぶんぶんと尻尾を振った。
突然の事に訳が分からず固まるレオンに、クラウドが鼻頭を寄せてくんくんと匂いを嗅いでいる。
兄が襲われているように見えたのだろう、スコールが全身の毛を総毛立たせて「ふぎゃーっ!!」と叫んだ。
「ありゃりゃ。クラウドくーん、もうちょっとお手柔らかに…」
「ザックス、クラウドを止めてやれ」
セフィロスに言われ、三人の遣り取りを眺めていたザックスが割り込む。
ザックスがクラウドの首の後ろを甘噛みすると、クラウドの動きがぴたっと止まった。
そのままレオンに抱き付いていたクラウドが引っ張り剥がされると、ぽかんとしているレオンにスコールが駆け寄る。
スコールがすりすりとレオンに擦り寄り、それを羨ましそうに見つめるクラウドを、ザックスが耳元を舐めて宥めた。
スコールがレオンを庇って、クラウドを睨んでぐるぐると喉を鳴らす。
飛び掛かりはしないものの、完全に警戒体勢になっているのを見て、ラグナは腰を上げた。
「レオン、スコール。こっちおいで」
「ザックス、クラウド。お前達も来い」
それぞれに呼ぶと、レオンは駆け足で、スコールは二人の犬を警戒しながらラグナの下へ。
避難よろしく保護者の下へ駆けて来た二人を、ラグナは両腕に抱き上げた。
ザックスとクラウドもセフィロスの下へ行き、彼が座っているソファに登って落ち着いた。
「ごめんなあ、折角遊んでくれてたのに」
「構わんさ。謝るなら此方だ、こっちの方が興奮してしまったんだろう。うちの訓練所には、他にも獣人はいるが、こうやって遊ぶ相手は初めてだからな。一緒にいて楽しいんだろう」
セフィロスの手がクラウドの頭を軽く押さえる。
クラウドはその手から逃げようと、首を右へ左へ捻った。
ザックスはソファの背凭れに登り、座っているセフィロスの後ろで落ち付きなく遊んでいる。
クラウドはレオンとスコールを痛く気に入っているのだが、二人はそんなクラウドを持て余し気味だった。
自分達以外の獣人と言ったら、訓練で世話になっているジタン以外に見た事がなかったのだろう二人は、初めて出逢った時から、ザックスとクラウドを気にしていた。
だが、興奮したクラウドの激しいスキンシップには戸惑い気味で、スコールは毎回逃げ回っている。
噛み付いたり引っ掻いたりと言う攻撃行動には出ないので、嫌っている訳ではないのだろう───とラグナは思っている。
ラグナはソファへ戻ると、レオンとスコールを膝に下ろした。
スコールはまだぐるぐると喉を鳴らしており、ローテーブルの向こうにいるクラウドを睨んでいる。
クラウドはそんなスコールを見詰め返して、長い毛に覆われた尻尾を振っていた。
「スコール~、そんなに怒るなよ」
「がうぅう……!」
「よーしよーし。落ち付いて落ち着いて。良い子だからなー」
「うぅー……」
「レオンもよしよし。ザックスもクラウドも、意地悪してる訳じゃないから。な?」
「ぐぅ……?」
宥めるラグナの言葉に、レオンがことりと首を傾げる。
その喉を指先で擽ってやると、レオンは眩しそうに目を細め、ごろごろと喉を鳴らした。
それを見ていたセフィロスが、ふむ、と顎に手を当て、
「首に触られるのが全て嫌、と言う訳ではないようだな」
「そうなんだ。だから、あんなに首輪を嫌がるとは思ってなかったんだよ」
「もっと余裕のあるものなら……まあ、首に固執する事もないか。先ずは他に嫌がる場所がないか、紐やベルトのようなもので確かめてみると良い」
「うん、そうするよ」
一通りの相談を終え、案を貰った所で、時刻は夕方になっていた。
そろそろ家に戻って夕飯の支度をしなければ、と腰を上げる。
ラグナがレオンとスコールを腕に抱いて、玄関へと向かうと、その後をついてくる足音があった。
靴を履いてラグナが向き直ると、ザックスとクラウドが立っている。
レオン達が帰るのが判っているのだろう、クラウドの耳と尻尾が垂れており、ザックスも詰まらなそうな顔をしているように見える。
そんな二人を、セフィロスがくしゃくしゃと頭を撫でた。
「今日は此処までだ」
「くぅー」
「……」
「また逢える。楽しみにしていれば良い」
不満そうに見上げる二人をセフィロスが宥めると、ザックスは頷いた。
しかし、クラウドはじぃっとレオンとスコールを見上げている。
ラグナは膝を折って、レオン達とクラウドの距離を縮めてやる。
「クラウド君、今日はごめんな。また今度、一緒に遊んでくれるかな」
「うぅ」
こくり、とクラウドが頷き、ありがとう、とラグナは言った。
その様子を見ていたレオンが、ラグナの腕に抱かれたまま、腕を伸ばす。
猫が手招きをするように手を揺らすレオンに、ラグナが床へと下ろしてやると、スコールも一緒に下りる。
レオンはクラウドに顔を近付け、その後ろにスコールがぴったりとくっついている。
レオンは鼻を鳴らしてクラウドの匂いを嗅いだ後、すり、と頬を寄せた。
クラウドが自分達を好いていてくれる事を、二人もきちんと判っているのだ。
ただ、激しいスキンシップに慣れていないから、どうしても驚いてしまうだけ。
「がぁう」
「……がぅ……」
また明日。
ラグナとセフィロスには、レオンとスコールがそう言ったように聞こえた。
クラウドとザックスも、寝かせていた耳がピンと立ち、きらきらと眸を輝かせる。
尻尾を振って飛び付いて来たクラウドに、二人のライオンが押し倒されるまで、あと二秒。
犬の獣人のザックスとクラウド。
ザックスの方が気持ち落ち着いていて兄貴分。
警察獣人になる為に特訓していて、他の獣人とも交流経験あり。ただし競争相手や仲間としてであり、“友達”はレオンとスコールが初めて。
そんな訳で、クラウドはレオンとスコールが大好きです。