[ウォルスコ]これから先へ
- 2020/01/08 21:30
- カテゴリー:FF
ウォーリアとスコールは、家具の大型量販店に来ていた。
直にウォーリアが暮らすマンションへと引っ越してくるスコールの為のあれこれを揃える為だ。
ウォーリアは25歳の社会人で、親はおらず、高校を卒業するまでは養護施設で育てられた。
大学入学を期として施設を出て、一人暮らしを始め、そろそろ7年が経つ。
其処に、17歳の幼馴染兼年下の恋人となったスコールが、引っ越してくるのである。
独り暮らしが二人暮らしになるとなれば、新たに色々と揃えなければならないのは必然のこと。
そうでなくともウォーリアの家と言うのは物が少なく、根本的に生活に際し足りない物と言うのが多量にあった為、同居生活が始まる前に急ぎ揃えなければならない物も少なくなかった。
広い店内には、食器や調理器具、収納用品、掃除用具と言った細々なものが、ずらりと並んだ棚に陳列されている。
それらも必要なものなのだが、先ずは大型家具だとスコールは言った。
スコールが引っ越してくるに当たり、彼の領域となる、勉強机や寝具を揃えなければならない。
量販店とは言え、大型家具はそれなりに値のするものであるから、ベッドはなくてもソファでも良い、机もなくてもなんとかする、とスコールは言ったのだが、ウォーリアが辞さなかった。
ソファではゆっくり休めない、勉強に集中するなら何かと併用したり代用したりするのではなく、その為の物があった方が良い、とウォーリアは言ったのだ。
それでもスコールはしばらく遠慮していたのだが、リビングのソファで寝ていればウォーリアが其処で休息できないし、ダイニングのテーブルは食事に使うし────と思うと、反って気を遣う事が多くなりそうだと気付く。
新たな家具を用意するスペースがないのであれば致し方ないが、独り暮らしには広いと言えるマンションに住んでいるウォーリア宅では、使っていない部屋が複数も余ってしまっている訳だから、ベッドも勉強机も本棚だって、揃えて置ける場所があるのだ。
加えて、スコールは来年には受験生になるのだから、高校二年生の今からきちんと環境は整え準備して行くべきだろう、と言うウォーリアの言葉は最もだった。
こうしてスコールの遠慮の壁も掃われ、二人は店へとやって来たのである。
フロアは一階が日用品、二階が大型家具となっていた。
一番気になるのが勉強の環境だったので、先ずはデスクを探してみる。
子供向けに売り込まれているのであろう学習机は、機能的にも作られているので、上手く使えば大人でも十分使っていけるのだろうが、見た目が子供らしい物が多く、スコールはスルーした。
多機能デスクが並べられたスペースに来て、スコールは眉間に皺を寄せながら、商品を睨む。
「収納ラックは欲しい……でも別売りなのか。セット売りのは、他には…」
ブツブツと呟きながら、スコールは展示品を吟味していく。
ウォーリアはその様子をじっと眺め、急かさず、スコールが満足いく物を見付けられるのを待った。
家具を買うに当たり、金額について、スコールは相当遠慮していた。
某有名企業の社長の一人息子であるスコールだが、生活はどちらかと言えば質素堅実な方だ。
と言うのも、父が社長になったのは、スコールが小学校を卒業した頃の話で、それまではごく普通の会社員であった。
父の出世は思いも寄らぬ大抜擢からの事であり、以前はそんな事は露とも考えた事のない、父子の清貧な暮らしをしていたので、金銭感覚は今でもその頃と変わっていない。
元々豪遊するような生活をしていないので、一挙に使える金額と言うのも限られており、況してや人の金で物を買うとなると、尚更スコールは躊躇してしまう。
今回の家具を揃えるに際しても、スコールは父に出して貰うか、ウォーリアに出して貰うかの二択で、かなり悩んでいた。
学生と言う身分で、父の心配と学校の方針でアルバイトも出来ない為、父か恋人に強請るしかない事が、スコールは随分と申し訳なく思っていたようだ。
スコールが自分用の家具を新たに揃える事について、余り積極的ではなかったのは、こうした理由もある。
父と暮らしていた実家にも、スコールの為の家具はある。
ベッドだったり、勉強机だったり、それこそ、これから揃える物と全く同じ物が整えられていた。
それを丸ごと持ってくると言う手段もあったのだが、父がそれを嫌がったのだ。
息子が幼い頃から、一つ一つ揃えて来たものが、一人立ちの準備をする時期とは言え、一気に消えてしまうのは寂しい。
勉強机や本棚の中身など、それらがなくなってしまうのを見るのも寂しくない訳ではないし、部屋が丸ごと空っぽになるのはもうちょっと待って欲しい、と父は言った。
また、ちょっと家に帰ってきた時、今までと同じように、楽に過ごせる場所があった方が良いだろう、とも。
母の死後、父が可能な限り息子を優先し、目一杯の愛情を注いできた事は、スコールも判っているつもりだ。
少々過保護な所為で、ウォーリアと同居と言う形でなければ、息子が家を出る事も簡単には受け入れられなかったであろう父。
そんな父が、スコールが実家を出ると言う選択を受け入れてくれたのだから、今度はスコールが譲歩する番だった。
───こうして父とウォーリアの財布を充てにする形で、スコールは新生活の準備をスタートする事になる。
金銭的な面について、スコールの父は勿論、ウォーリアも、糸目は付けないつもりだ。
スコールが使うものなのだから、彼自身が気に入り、長く使い続けられる物が良いと思っている。
しかし、下手に高い物なんて渡されても気を遣うから使い難い、とスコールは言った。
長持ちさせると言う点では、やはりそれなりの金額がする物が良いのも確かだが、家具なんて日常使いで擦り減って行くものだし、傷もつくし色落ちだってするのだから、少しの傷がついた位で落ち込んでしまいそうな金額のものは使えない、と。
だから金額の差も儘ありつつ、機能を優先して選べる幅の多い量販店に来たのだ。
スコールはデスクと椅子をたっぷり悩んでから決めた。
次に選んだのは本や趣味の物が置ける収納棚で、此方はそれ程時間を必要とせず決まった。
「後は───クローゼットは……」
「備え付けられているものはあるが、足りないのならば購入しよう」
「…いや、良い。そんなに沢山は持ってないから、大丈夫だ。多分」
「遠慮は要らない」
「そうじゃなくて、別にどうしても必要なものじゃないから良いんだ。……足りなくなったら、またその時に言う」
「そうか」
スコールはファッションに特別敏感な訳ではないが、お気に入りのブランドと言うのは幾つかある。
季節が変われば新作はチェックしたいし、気に入れば購入したい。
しかし、衣装持ちと言われる程に持っている訳でもないし、毎月のように買い足す程でもなかった。
増えれば嵩張って行くものなので、いつかは足りなくなるかも知れないが、今から急ぎ買い足すほどではないだろう。
「じゃあ、次。ベッドか。あの辺にあるのから見てみる」
「ああ」
丁度進む先にあったベッドの展示品へ、スコールは向かう。
ウォーリアもそれについて行く形で続いた。
並ぶベッドを流し見た後、幾つかのベッドに座り、寝転んでみる。
嫌なことがあるとベッドで丸くなる癖があるスコールにとって、ベッド選びは大事だ。
沈み具合に合わせて体勢を変えるスコールを眺めながら、ウォーリアはお気に入りの寝床を探す猫のようだと思っていた。
一通り試し、最後の一つに寝転んだ後、スコールは胡乱な顔で起き上がる。
「……もうちょっと固い方が良い気がする」
「良い物は見付からなかったか」
「そんな所だ。でも、買っておかないと、引っ越しに間に合わないかも」
二人は、スコールが冬休みの間に、彼の引っ越しを済ませる予定だった。
ウォーリアの仕事の都合と、スコールの新学期が始まる事を考慮すると、二人が一緒に買い物に来られるのは、今日しかなかった。
後はまた二人が一緒に出掛けられるタイミングを作るか、スコールがウォーリアから財布を借りて、一人で買いに来るしかない。
恋人とは言え、人の財布を借りる事に多大な抵抗があるスコールにとっては、ウォーリアと一緒に来られる方が気持ちは楽だ。
が、ウォーリアも忙しい身であるから、可惜に手間と迷惑をかけたくない、とも思っている。
だから買い揃えるのなら今日の内に、妥協してでも、とスコールは考えていたのだが、
「では、ベッドはまたの機会にしよう。少し窮屈かも知れないが、それまで君は私のベッドを使うと良い」
「そんなの出来ない。あんたが困るだろ」
「私はソファを使うから構わない」
「それなら俺がそっちで寝る。……あんた、俺がソファで寝るって言ったら駄目って言った癖に、なんで自分は良いんだよ」
ベッドに座ったまま、唇を尖らせるスコールの抗議に、ウォーリアも自身の言葉の矛盾に気付いたようで、ふむ、と首を傾げる。
その間にスコールは、やっぱり妥協して買ってしまうか、と思案していた。
決まってしまえば後は買ったものを使って行くだけなので、悩むのは今限りなのだ。
でもどうせなら落ち着くもので使いたい、とも思う自分に、我儘な、と苦い表情を浮かべていると、
「では、共にベッドを使うしかないな」
「は?」
「いや、それならば、二人で眠れるベッドを探した方が良さそうだ」
「あんたは自分の寝床が今もあるんだから、それで良いだろう。問題なのは俺だけで───」
「私のベッドも少し傷んでいる。買い替えるタイミングとしては丁度良い」
「だからって……二人で使えるベッドなんて、そんなの買ったら」
───其処まで言って、はた、とスコールの口が止まる。
二人で使えるベッドなんて買ったら、寝床は二人で共有になる。
ウォーリアの部屋に置くのか、新しく整えるスコールの部屋に置くのか、将又新たに寝室を作るのか。
どれであるにせよ、部屋は余っている状態なので、問題はないだろうが、それより、『ウォーリアと同じベッドで眠る』とはどういうことなのか。
ウォーリアとスコールは恋人同士だ。
まだスコールが未成年である事を、ウォーリアは強く意識し、それによる自戒を持っているようだが、スコールの方は色々と多感な時期である。
恋人同士になったのだから、あれやこれやと言うものも考えなくもない訳で、細やかな触れ合いであればした事もある。
最後までした事はないが、それは「スコールが成人するまでは」とウォーリアが頑なに譲らないだけで、スコールの方はいつでも“そう”なって良いと思っている。
其処に来て、二人の寝所を一緒にすると言う事は。
一つのベッドを、二人で使うと言う事は。
「────スコール?」
「……!」
名を呼ぶ声に、はっとスコールが顔を上げる。
見下ろすウォーリアのアイスブルーの瞳とぶつかって、瞬間、自分が何を考えていたのかを思い出す。
思い出せば体の熱が一気に吹き上がって、スコールの白い頬が判り易く紅潮した。
「……っ!」
「どうした?顔が赤い。熱でも」
「なんでもない!」
心配するウォーリアの言葉に、半ば叫ぶように返して、スコールは腰かけていたベッドから立った。
「ベ、ベッドはまた後で考える。下に降りて、食器とか、その辺のを見たい。あんたの家、食器とかも少なすぎるから、色々買うぞ」
「ああ」
「ベッドは後でまた見に来るからな。ベッドは買う。ちゃんと」
「大丈夫だ、スコール。焦らなくても良い。近い内にまた時間を取る、だからそれまでは私のベッドを使えば良い」
宥めるように言うウォーリアだったが、それが嫌なんだ、とスコールは思った。
けれど、それを口にして拒否する程に嫌なのかと言えば、そうではない。
そもそも、嫌だと言葉では出るけれど、其処にあるのは嫌悪ではない。
若しかしたら、ウォーリアもそのつもりで言っているのではないか、と言う密かな期待がスコールを支配する。
けれども、見上げた先にあるいつもの顔を見て、この朴念仁、と憎まれ口も零れるのは、彼の胸中を思えば無理からん話なのであった。
1月8日なのでウォルスコの日。
これから始まる同棲生活、な二人。
一人悶々と考えてるスコールは、この後、二人で使う食器を選びながらまた悶々します。
ペアグラスとか買っちゃって、帰って並べて置いたりしてなんか無性に恥ずかしくなったりする。