[龍京]白い日の気紛れ
- 2012/03/14 20:44
- カテゴリー:龍龍
放課後の帰り道、立ち寄ったコンビニの中。
龍麻は今日の夕飯にする予定の惣菜を選び、京一もパンコーナーで適当に物色をした後。
支払いをしようとして向かったレジの横に、綺麗にラッピングされたカップケーキが籠の中に積まれていた。
ポップには「ホワイトデー特別割引!」の文字。
龍麻は、カップケーキの中に自分の好きなもの───要するに苺味───がないかと探してみたが、残念ながら、あるのはプレーンやチョコレートと言うレギュラーなものばかりで、淡いピンク色は置いていないらしい。
残念に思いつつ、龍麻はレジ棚に並べてあったハイチュウの苺味を取って、一緒に会計を済ませた。
龍麻が一通り買い終えた後も、京一はパンコーナーの前から動かない。
龍麻以上に手持ちが少ない彼は、此処でパン二つを買うか、パン一つにして飲み物を買うか、真剣に迷っているようだ。
そんな親友をしばし見詰めた後、龍麻は提案した。
「京一、僕の家、来る?」
ぴくり。
龍麻の言葉に、京一の耳が動く。
しばしの沈黙の後、京一は徐に棚に手を伸ばし、焼き蕎麦パンと蒸しパンを取る。
「お前ん家、コーラあったよな」
「この間買った奴?うん、まだ残ってるよ」
そのコーラは、先週、京一が龍麻の家に泊まりに来た時に買って来たものだ。
200ミリリットルの小さなペットボトルだったが、京一はその日中に飲み切らず、冷蔵庫に置いて行った。
龍麻は炭酸を余り飲まないので、消費される事もなく、買い主が戻ってくるのを待っている。
「僕、外で待ってるね」
「ああ」
レジには、買い物籠一杯に菓子やらアルコールやらを詰めた客が会計待ちをしていた。
時間がかかりそうだと見て、断りに短い返事を確認し、龍麻は一足先にコンビニを出る。
夕暮れの町を何とはなしに眺めながら、龍麻はコンビニ袋の中を漁った。
買ったばかりの苺ミルク飴の袋を取り出すと、封を切り、セロハンを剥がして一つ、口の中に放り込む。
家に帰るまでの空腹を誤魔化す為だ。
出入口の前に立っていると邪魔になるので、龍麻は店の角壁に移動した。
レンガ風の壁に寄り掛かって、ころころと口の中の飴を転がす。
五分ほど待った所で、レジで会計待ちをしていた客が出て来た。
そのすぐ後に小さなコンビニ袋を腕に引っ掛けた京一も出て来る。
「あのおっさん、小銭出すのにモタついてやがって。無駄に暇かかっちまった」
「京一も自販機でジュース買う時、モタついてるよ」
「後ろに待ってる奴がいるのが判ってりゃ、ちったぁ急ぐぜ」
「僕、急いで貰った事ないけど」
「お前は別」
なんで、と言った所で、まともな返答がない事は龍麻も判っている。
そして龍麻も、京一に対してだけ、他の仲間達には言わないような事を言う時もあるので、要するにこれはお相子なのだ。
さて、それでは帰ろうか、と。
歩き出そうとした龍麻の背中に、かかる声。
「龍麻」
親友の声に、何、と振り返ると同時に、何かが放り投げられた。
片手でそれをキャッチすると、くしゃ、と柔らかくて薄い抵抗が指先に当たる。
頭上で受け止めたそれを、目の高さまで下げてみると、ラッピングされたカップケーキで。
「泊まり賃」
─────正しく言うなら、宿泊費。
それだけ言って、京一はすたすたと歩き出し、龍麻を追い抜いて行った。
いつもそんな事は露にも気にしていないのに、一体何の気紛れなのか。
不思議ではあったが、龍麻は何も言わずに、カップケーキを自分のコンビニ袋へ入れる。
前を行く親友を、数歩後ろで追いながら、龍麻は小さく笑った。
(耳、真っ赤だよ)
本当は正面に回って、京一の顔を見たかったけれど、きっと耳よりもっと赤くなっているのが判ったから。
そんな顔を見たらきっと怒るから、龍麻はずっと、彼の後ろをついて歩いた。
いつも人から貰ってばっかりの京一ですが、たまには誰かに何か渡す事もある訳で。
なんで買ったのって聞いたら、「割引で安かったから」って言う。でもいつもは、安いからって甘いもの買う事はない。その辺まで突っ込まれたら、顔真っ赤にして木刀振います。