日々ネタ粒

日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

  • Home
  • Login

日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

エントリー

カテゴリー「最遊記」の検索結果は以下のとおりです。

[三蔵&悟空]世界のヒビを直す方法

  • 2012/01/19 18:25
  • カテゴリー:最遊記


雨が降ると、三蔵の機嫌が悪くなる。

────いや、あれは悪くなるのとは少し違う。
周りに在るものの一切を遮断するのだ。


悟空にとって、寺院で自分の味方と言えば三蔵だけだった。
自分を拾い、連れ帰った保護者であるし、他の修行僧のように悟空を“妖怪”であるからと忌避する事もない。

だから三蔵が世界を閉ざしてしまったら、悟空を受け入れてくれる人は、誰もいなくなってしまう。



音一つしない部屋のから、悟空はこっそりと三蔵を見た。
執務用の椅子に腰かけた三蔵は、悟空の視線に気付く事なく、じっと窓の外を眺めている。
一枚ガラスの向こうは天雫で煙り、雲に覆われた空は愚か、いつも窓向こうで揺れている草木の影すら見えない。

太陽の光を思わせる金色の隙間、微かに覗く紫電は、常の冷たい閃きすらない。
多分、外も見ていない────彼の瞳は今、今此処に在る現実さえも拒絶しているのだ。




(三蔵、)




悟空は彼の名を呼ぼうとして、出来なかった。


いつもなら名前を呼べば、彼は不機嫌な顔で振り向いてくれた。
仕事中は無視される事もあるけれど、紫電が一瞬だけ向けられたり、サインの筆が止まったりうするから、聞こえているのは判った。

でも、今は振り向いてくれない気がする。
試した事はなかったけれど、何も見ていない紫電を見ると、悟空は期待する事が出来なかった。
ひょっとしたら、と思う気持ちもあるけれど、それ以上に彼の世界に拒絶された時の事を考えると、怖くて堪らなかった。

─────だから、雨の日、悟空は彼の名前を呼ぶ事が出来ない。




(三蔵)




だから心の中で呼び続ける。
暗く閉ざされた世界で、“誰か”を呼び続けていた時のように。




(遠いよ、三蔵)




同じ場所にいる筈なのに、手が届く場所にいるのに、遠い。
見えない壁があるようで、悟空は彼に近付く事が出来なかった。
その壁を越えて尚、彼に存在を拒否されるのが怖くて。

悟空の世界の多くは三蔵で占められていたから、彼に拒否されると言う事は、自分を否定されるのと同じ事だ。
あの紫電が自分を見てくれるから、悟空は自分が“此処にいる”と知る事が出来る。


三蔵。
三蔵。

心の中で呼び続けて、彼が振り返ってくれる事を願う。
何も映さない、此処にある現実すらも拒絶する彼が、帰って来てくれる事を、ずっと。
膝を抱えて蹲る振りをして、抱えた膝の陰から、動かない金色を見詰めていた。




(三蔵………)




じわりと視界が滲んで揺れて、其処にいる筈の人の姿が歪んでいく。
そのまま金糸も見えなくなってしまう前に、悟空はごしごしと乱暴に目を擦る。

そうして、擦る手を離したら、




「……何泣いてんだ、バカ猿」




聞こえた声に顔を上げると、紫電が此方を見ていて、




「煩ぇんだよ、お前は」




呆れたように溜息を吐く姿に、我慢が出来なくなって、抱き着いた。

お帰りなさい、僕の太陽。
お帰りなさい、僕の世界。





寺院時代の悟空と三蔵の関係は、“二人ぼっち”のつもりで書いてる事が多いです。
でもって自分の所為で悟空に寂しい思いさせてる癖に、第一声が「煩ぇよ」なうちの三蔵。偉そう。それでこそ三蔵か。
  • この記事のURL

[悟空&ジープ]いつも通りの聖なる日

  • 2011/12/25 00:10
  • カテゴリー:最遊記
全くそんな風ではないけど、一応クリスマス話。




吹き付ける風の冷たさに、悟空はぶるっと身を震わせた。
その肩で、ジープが小さなくしゃみを零す。



雪の降り積もった山の中で一人、取り残されている。
原因は他でもない悟空自身で、雪の積もった坂道での戦闘中、足を縺れさせて転んだ事にある。
それなりの急斜角だった為に、悟空は結構なスピードで転がり落ち、その先にあった崖から落下してしまった。
幸運だったのは、降り積もった雪がクッションになったお陰で、怪我らしい怪我をしなかった事か。

ジープは転がって行く悟空を追い駆けて、崖の下まで降りて来た。
どうせこの積雪ではジープの足を頼りにする事は出来ないから、飼い主の手を離れても問題はない。
寧ろ、逸れた悟空が一人で歩き回って迷子にならないように見張る事こそ、今のジープに課せられた役目であると言える。


そうした経緯で、悟空とジープは、二人────一人と一匹で、崖下で三蔵達の到着を待っている。

ちゃんと迎えに来てくれるかな、と悟空は少しばかり不安だったのだが、ジープが此処にいるのなら、三蔵も悟空との合流を急ぐだろう。
何せジープがいなければ、一行の進みは格段に遅くなるし、何より物臭な彼が自分の足で旅をするなど、先ず有り得ない事だ。
それを考えると、悟空は尚の事、ジープが自分を追い駆けて来てくれた事を感謝せずにはいられない。


……でも、この寒さは、正直、辛い。




「う~っ……マジで凍りそう」




両腕を摩りながら呟いた悟空に、ジープが頷くように小さく鳴いた。


これだけ寒い日なら、いつもは外套を羽織っているのだが、今はそれも手元にない。
戦闘となると飛び跳ね周る悟空にとって、嵩張る防寒具は、邪魔にしかならないのだ。
今日は吹雪いてもいないし、動き回っていれば温まると思って投げていたのだが、こんな所でそれが裏目に出るとは。

適当な木の下に移動して、風よけにし、悟空はその根本に蹲る。
じっとしていると足元から冷えてくるような気がしたが、それは立っていても同じ事だ。
せめて残った熱だけは手放すまいと、自分の身体を抱き込むようにして丸くなった。


そんな悟空の襟元に、温かなものが触れる。




「ジープ?」




キュ、と耳元で聞こえてきた小さな声。
背中の鬣が悟空の耳元に当たって、少しくすぐったかった。

真っ白で、何もかもが埋まってしまったような世界の中で、直ぐ傍に感じられる、温かな熱。
それがどれだけ得難くて、寒い世界でどれだけ心安らぐものなのか、悟空は知っている。


一人と一匹で、真っ白な世界の中で蹲る。
見上げた空は曇天に覆われていて、今にも空から結晶が落ちて来そうだった。

それをぼんやりと見つめながら、そう言えば───と、悟空は今朝の会話を思い出す。




「今日って、クリスマスらしいんだよな」




悟空の呟きに、ジープが小さく首を傾げた。




「八戒が言ってた。ほら、八戒って日記つけてるじゃん。あれで日付、覚えてるんだって」




成程、と言うように、ジープが瞬き一つして頷いた。


今日はクリスマスなんですねえ、と言った八戒に、直ぐに悟浄が反応した。
今年はサンタクロース来るのかね、と悟空に向けて言った彼の目は、明らかに子供扱いして揶揄っているものだった。
悟空は頬を膨らませ、そんなに子供じゃないと言い返したが、その実、17歳頃までサンタクロースの存在を信じていたのも事実で、顔が赤くなるのは誤魔化せなかった。

そもそも、悟空がそんな年齢になるまでサンタクロースを信じていたのには、訳がある。
元々クリスマスと言う行事を知ったのが、悟浄と八戒の二人と知り合ってからだったので、先ずスタートが遅かったのだ。
クリスマスは異国の宗教が祭事の一つとしていたものが、形を変えて一般に広まったものであったから、仏教を信仰する寺院にいた悟空が知らなかったのも無理はない。
八戒は悟空にクリスマスを教えると共に、サンタクロースと言う奇蹟者がいる事も教え、それから三年間、渋る三蔵を説き伏せ、サンタクロースからプレゼントを貰うと言う演出で悟空を楽しませたのである。
そうした過去から、悟空は17歳のクリスマスに、枕元に忍び寄る人の気配に気付いて目を覚ますまで、サンタクロースの正体を知らなかったのだ。

それを今になって揶揄われて、悟空は恥ずかしくて堪らなかった。
仕返しに、悟浄が腹に綿を詰めて赤い服を着て、白髭をつけると言う、ノリノリでサンタクロースに紛争していた事を言ってやれば、悟浄も赤くなって「ありゃジャンケンで負けただけで、ノってた訳じゃねえ!」と言われたが、真実がどちらであるにせよ、悟空にとっては良い攻撃材料である事には変わらない。


二年前にサンタクロースの正体を知ってからも、悟空へのクリスマスプレゼントは続いた。
去年は既に旅に出ていたし、正体も判っていたし、期待はしていなかったのだけれど、宿屋で眠って朝になると、枕元に小さな箱が置いてあった。
添えられたメッセージカードには、英字で『MerryXmas!』の文字があって、毛糸の手袋が入っていた。

もう子供ではないつもりだったけれど、やはり貰うと嬉しいもので、悟空は暫くの間、手袋をずっと嵌めていた。
八戒の手作りであったそれは、程なく戦闘の最中にボロボロになってしまったのだけれど、それでも八戒は嬉しそうにしていた。



────でも、今年のクリスマスは、そんな華やかさや楽しさとは、縁遠いものになりそうだ。




「ぜーんぜん、クリスマスらしくないよなあ。って言うか、寧ろ厄日って感じ」




最早日常と化した襲撃を受けて、坂道で足を滑らせ、崖の下に転落して、三蔵達から逸れた。
待機を余儀なくされた崖下の森の中は、吹きつける風が冷たく、雪に覆われた地面もとても冷たい。
正に踏んだり蹴ったりである。

うんざりとした表情で溜息を吐いた悟空を見兼ねてか、ジープが慰めるように頬を摺り寄せて来た。
悟空はくすぐったさに目を細め、ジープの喉を指先で撫でる。




「へへ、サンキュな、ジープ」




笑う悟空に、ジープも嬉しそうに鳴いて見せる。
そんなジープに、悟空はまた口元を綻ばせ、




「なあ、ジープ。今日はなんか散々でさ、ちっともクリスマスっぽくないけどさ。でもオレ、別につまんないとか、そういう事はないんだ」




悟空の言葉に、ジープが不思議そうに首を傾げる。

────クリスマスらしさなど欠片もないし、命の遣り取りばかりで、ろくに心が休まる事も出来ないのは、いつもと同じ。
旅に出る前のようにサンタクロースが来るとも思えず、去年のように宿で明日の朝を心待ちにする事もなかった。
寧ろ今は、三蔵達に置いて行かれはしないかと、些かの不安もあったりする、のだけれど。


不思議と悟空の心は落ち着いている。
辺り一面の雪景色の中に、一人でも。




「昔は……こういう時に一人でいると、凄く心細くて。三蔵と一緒にいても、やっぱり不安で」




荒涼とした岩肌も、何処までも続く青い空も、そこに輝く太陽も、雪の白が何もかも覆い尽くして行くのを見た。
ただただ見詰める事しか、あの頃の悟空には許されなくて、音すら消えて行く世界で、悟空はじっと蹲っていた。
────今、白い世界の中で、一人蹲っているように。

500年の白は、悟空の心の中に根を張り、ほんの数年前までじっと巣食っていた。
雪を見てはしゃぐ事もなく、遊びたがる事もなく、胸の奥から湧き上がる冷えて行く感覚に、じっと閉じ籠り続けてきた。
外の世界へ連れ出してくれた太陽の声も、その時だけは、雪の中に消えて行くような気がして、効くのも怖くて。


それなのに、今は少しも怖くない。
真っ白な雪の世界に一人取り残されていても。




(……多分、)




今はきっと、雪を怖いと、そう思う暇すらないから。
雪を怖いと思うよりも先に、賑やかで楽しくて、暖かい記憶が思い出されるから。


怖くない。
怖くない。

今が一人ぼっちでも。




「三蔵達、まだかなぁ。腹減ったな、ジープ」




言ってから、ああ、と悟空は思い出す。
今は一人ぼっちなんかじゃないんだと。
触れ合う温もりは、確かに此処に存在する。





遠くから聞こえた呼び声に、悟空は立ち上がる。

走り出す足が止まる事は、もう、ない。








なんか真面目な話になった。
うん、凄くクリスマスらしくない! うちのサイトではいつものこと!
  • この記事のURL

[三&空]雪の日の子供

  • 2011/12/19 12:27
  • カテゴリー:最遊記




ちらちらと落ちて行く雪を見上げて、子供は何をするでもなく、立ち尽くしていた。




去年の終わりまで雪に怯えていた子供は、今年はそんな様子はちらとも見せない。
本来の子供の姿とでも言うべきだろうか、雪が降り出した途端にはしゃいで、窓から屋外に飛び出して行った。
まだ雪が降り積もらない内から、霜が降りただけでも夢中になり、「積もる? 積もる?」と期待満面の表情で保護者に詰め寄った。

金山寺の寺院を埋め尽くす程に雪が降ったのは、初雪が観測されてから三週間後の事。
例年に比べれば遅い積雪になったそうだが、そんな事は保護者にも、無論子供にもどうでも良い話だ。


雪掻きと言うのは存外と体力仕事だ。

三蔵にしてみれば面倒臭くて疲れるだけの仕事なのだが、子供にとってはそうではないらしい。
悟空は寺院の屋根の上から、シャベルを使ってどんどんと雪を落としており、その表情は至極楽しそうである。
広い境内の雪を集めるのもやりたがっていたが、其処には既に多くの修行僧が配置されている。
難癖なり何かしらの揉め事になるのは目に見えていたので、大人しく屋根の上の掃除をしていろと三蔵が言い付けたのだった。

境内で雪遊びをしたかった悟空は、三蔵に言いつけられた時は些か不満そうにしていたものの、結果的には、屋根の上の雪を独り占め出来るのが嬉しいらしく、始めて間もなく、楽しそうに遊びながら雪掻きを進めていた。



────そんな悟空が、棒立ちになって空を見上げている。
それを見つけた時は、また去年までの恐怖症が顔を出したのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。



悟空は、去年八戒から貰った手編みのマフラーを首に巻いている。
手元は今年、寒くなる前にと、やはり八戒から貰った、これも手編みの毛糸の手袋を嵌めていた。
普段、薄着で過ごす事が多い悟空だが、今日ばかりはもこもこに着膨れしている。
まだ冬至も過ぎていないのに、大寒を思わせるような寒さであるから、当然だ。

とは言え、子供体温な悟空は寒さに強い───と言うより鈍い所がある為、初雪が観測された日などは、なんの防寒もせずに雪の中に飛び出していた。
その結果、翌日には健康優良児にしては珍しく(当たり前なのだが)風邪をひいてしまい、それを知った八戒と悟浄から三蔵が小言を喰らう羽目になった。
あれらの説教を何度も喰らう気はないので、二度とあのような事はさせるまいと、本日の着膨れ状態に至る。


屋根の上で立ち尽くす悟空は、マフラーに口元を埋めて、じっと空を見ていた。
どうしたのかと三蔵が執務室の窓から眺めていると、ちらり、と何かが空から舞い落ちているのが見える。

……雪が降り出している。
曇天の空から、ちらちらと舞い落ちて来る、冷気の結晶。
悟空は雪を掻き集める手を止め、誰もいない屋根の上で、それに目を奪われていた。




(……変わった所は、ないようだな)




去年までの悟空の様子を思い出しながら、三蔵は胸中で確かめる。




(ただ見てるだけか)




屋根の上の子供は、去年までのように、蹲ったりする様子は見られない。
真っ直ぐ背中を伸ばして、じっと空を見上げているだけ。



思えば、去年までのあの子供は、雪の空を見上げる事すらままならなかったのだ。
暗く冷たい、底冷えのする部屋の片隅で、シーツに包まって蹲っているしか出来なかった。

悟空が「雪が怖い」と言った詳しい理由を、三蔵は知らない。
ただ五百年もの長い歳月を、あの辺境の地で閉じ込められて過ごせば、そんなトラウマも生まれるだろうとは予想できる。


────しかし、ある一線を飛び越えてみると、案外とそれはちっぽけだったものに感じられる。
喉元過ぎればと言う奴なのだろうが、それにしても、大した変わりようだと三蔵は思う。
去年までは蹲って、見向きする事もろくに出来なかったのに、あれから悟空は雪一つではしゃぎ回るようになっていた。




(……まぁ、)




そっちの方があいつらしい。

そんな言葉を、煙草の煙で包んで吐き出す。
音にした所で誰も聞いている者はいなかったが。




屋根の上で、ぽつんと空を見上げる子供。
しばらくそのまま棒立ちになった後、彼は悴んで赤らんだ鼻頭を擦って、雪掻きの手を再開させた。





何書きたかったのか自分でもよく判らない……
もこもこ着膨れで雪掻きする悟空と、当たり前のように観察してる三蔵が書きたかった…と、思う。多分。
  • この記事のURL
  • コメント(1482)

[三空]寒い朝

  • 2011/12/06 00:15
  • カテゴリー:最遊記




「さーむーいー!!」




朝一番に響いた声に、三蔵は叩き起こされた。
折角のたまの休日だと言うのに。


姦しさに辟易しながら起き上って見れば、ベッドの下の床で座り込んでいる養い子がいる。
子供が座っているのは敷布団の上なのだが、底冷えがするのか、子供は鳥肌の立った腕を摩っていた。

――――取り敢えず。
朝っぱら騒ぐな、静かにしろ、まだ寝てろ、等々言いたい事はあるのだが、それよりも。




「…ンな薄着してりゃ、寒いに決まってんだろうが」




布団の上で凍えて縮こまる悟空は、タンクトップに短パンと言う出で立ちだ。
タンクトップは勿論の事、短パンも薄い絹で作られている夏の寝間着用なので、当然、防寒など考えられていない。

既に暦が12月に入ったと言うのに、悟空がこんな格好で寝ていたのは、昨晩までが例年に比べ酷く暖かかったからだ。
加えて夜はいつも熱めの風呂に入るので、熱が引く前に毛布に包まってしまえば、朝起きるまで寒さを感じる事もない。
結果、今しがた布団を出て初めて、悟空は本日未明からの冷え込みにやられた、と言う訳だ。


呆れた眼を向けられた悟空は、がたがた震えながら足元に広がっている毛布を手繰り寄せる。
それを上から被って布団の上で蓑虫になり、頭だけを出して、ベッド上の三蔵を見上げた。




「なんでこんな寒いの!?」
「冬なんだから当たり前だろうが」
「昨日は暖かかったじゃん!」
「知るか」




素っ気ない返答だけを返して、三蔵はもう一度ベッドに横になった。

仕事がないのに早起きする気などない三蔵は、今日は昼まで寝るつもりだった。
それを悟空の大音声に叩き起こされて邪魔された訳だが、寺の僧侶が仕事を持って駆け込んでくるよりは良い。
寒い寒いと喚く養い子は無視する事にして、もう暫く惰眠を貪る事にする。


――――が、もぞもぞと何かが毛布を引っ張るのを感じて、三蔵は閉じかけていた目を開ける。




「……何してやがる、このチビ猿」




肩越しに背中を見遣れば、毛布に侵入してくる不届き者の怖い物知らずが一名。


不自然に膨らんだ毛布は、しばらくうごうごと芋虫宜しく蠢いた後、三蔵の背中にぶつかった。
振り上げた腕をその塊に落としてやれば、いてっと短い悲鳴。
芋虫は団子状に蹲った後で、またうごうごと動き出し、三蔵の後ろでひょこっと顔を出した。

芋虫の正体は、無論、悟空である。

悟空はぴったりと保護者の背中にくっついて、三蔵の夜着に頬を摺り寄せる。
悟空と違い、既に冬用の物を使用していた三蔵だが、夜着である以上、やはり生地は薄めだ。
だからくっついた悟空には、布一枚越しでも三蔵の体温を感じる事が出来て。




「さんぞー、あったかい」
「うぜえ」
「いいじゃん、ちょっとだけ」




まるい頬を三蔵の背中に押しつけている悟空。

癖っ毛の大地色の髪の毛先が、三蔵の首の付け根をくすぐっていた。
それを鬱陶しいと思いつつ、背中に密着した子供の体温は、この冷え込みの朝には良い暖取りになる。




「……煩くしたら蹴り落とすぞ」




それだけ言って、三蔵は悟空を睨むのを止めた。
うん、と言う小さな声が背中から聞こえて、それから間もなく、寝息が聞こえてくるようになる。






―――――窓の向こうで朝を告げる鳥の声は、聞こえない。








……随分久々に最遊記のSS書きました。
なんか色々変わってね…?
  • この記事のURL

ページ移動

  • 前のページ
  • 次のページ
  • ページ
  • 1
  • 2
  • 3

ユーティリティ

2025年07月

日 月 火 水 木 金 土
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
  • 前の月
  • 次の月

カテゴリー

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

新着エントリー

[ヴァンスコ]インモラル・スモールワールド
2020/12/08 22:00
[シャンスコ]振替授業について
2020/11/08 22:00
[ジェクレオ]貴方と過ごす衣衣の
2020/10/09 21:00
[ティスコ]君と過ごす毎朝の
2020/10/08 21:00
[ジタスコ]朝の一時
2020/09/08 22:00

過去ログ

  • 2020年12月(1)
  • 2020年11月(1)
  • 2020年10月(2)
  • 2020年09月(1)
  • 2020年08月(18)
  • 2020年07月(2)
  • 2020年06月(3)
  • 2020年05月(1)
  • 2020年04月(1)
  • 2020年03月(1)
  • 2020年02月(2)
  • 2020年01月(1)
  • 2019年12月(1)
  • 2019年11月(1)
  • 2019年10月(3)
  • 2019年09月(1)
  • 2019年08月(23)
  • 2019年07月(1)
  • 2019年06月(2)
  • 2019年05月(1)
  • 2019年04月(1)
  • 2019年03月(1)
  • 2019年02月(2)
  • 2019年01月(1)
  • 2018年12月(1)
  • 2018年11月(2)
  • 2018年10月(3)
  • 2018年09月(1)
  • 2018年08月(24)
  • 2018年07月(1)
  • 2018年06月(3)
  • 2018年05月(1)
  • 2018年04月(1)
  • 2018年03月(1)
  • 2018年02月(6)
  • 2018年01月(3)
  • 2017年12月(5)
  • 2017年11月(1)
  • 2017年10月(4)
  • 2017年09月(2)
  • 2017年08月(18)
  • 2017年07月(5)
  • 2017年06月(1)
  • 2017年05月(1)
  • 2017年04月(1)
  • 2017年03月(5)
  • 2017年02月(2)
  • 2017年01月(2)
  • 2016年12月(2)
  • 2016年11月(1)
  • 2016年10月(4)
  • 2016年09月(1)
  • 2016年08月(12)
  • 2016年07月(12)
  • 2016年06月(1)
  • 2016年05月(2)
  • 2016年04月(1)
  • 2016年03月(3)
  • 2016年02月(14)
  • 2016年01月(2)
  • 2015年12月(4)
  • 2015年11月(1)
  • 2015年10月(3)
  • 2015年09月(1)
  • 2015年08月(7)
  • 2015年07月(3)
  • 2015年06月(1)
  • 2015年05月(3)
  • 2015年04月(2)
  • 2015年03月(2)
  • 2015年02月(2)
  • 2015年01月(2)
  • 2014年12月(6)
  • 2014年11月(1)
  • 2014年10月(3)
  • 2014年09月(3)
  • 2014年08月(16)
  • 2014年07月(2)
  • 2014年06月(3)
  • 2014年05月(1)
  • 2014年04月(3)
  • 2014年03月(9)
  • 2014年02月(9)
  • 2014年01月(4)
  • 2013年12月(7)
  • 2013年11月(3)
  • 2013年10月(9)
  • 2013年09月(1)
  • 2013年08月(11)
  • 2013年07月(6)
  • 2013年06月(8)
  • 2013年05月(1)
  • 2013年04月(1)
  • 2013年03月(7)
  • 2013年02月(12)
  • 2013年01月(10)
  • 2012年12月(10)
  • 2012年11月(3)
  • 2012年10月(13)
  • 2012年09月(10)
  • 2012年08月(8)
  • 2012年07月(7)
  • 2012年06月(9)
  • 2012年05月(28)
  • 2012年04月(27)
  • 2012年03月(13)
  • 2012年02月(21)
  • 2012年01月(23)
  • 2011年12月(20)

Feed

  • RSS1.0
  • RSS2.0
  • pagetop
  • 日々ネタ粒
  • login
  • Created by freo.
  • Template designed by wmks.