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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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日記と言うより妄想記録。時々SS書き散らします(更新記録には載りません)

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[ジョン+スコ]不思議なパズル 1

  • 2018/06/08 22:00
  • カテゴリー:FF
6月8日と言う事で、ジョン+スコール。敢えての“ジョン”で通します。
と言うよりは朗読劇組の四人です。少し朗読劇のネタバレもあり。





隕石の衝突のような現象の後、神々の闘争を代行する戦士達の前に現れた、記憶喪失の青年───ジョン。

記憶喪失であるが為に、自分自身がどう言う人間なのかも判らないまま、訳の判らない世界で過ごす事になった彼は、最初に彼を見付けたと言う縁も重ねてか、クラウド、スコール、ティーダの三人が当面の面倒を任された。
彼にこの世界のあらましを説明する傍ら、記憶喪失と言う本人の言も含めて怪しむスコールと、彼と援けたいと思うティーダの間で少なからず衝突が繰り返されたが、何度かの衝突の後のジョンの行動から、スコールの疑心も解けた。
その後、ジョンを狙うセフィロスの乱入により、一行が危機に陥る場面もあったものの、ジョンが所持していた召喚獣の力を使い、その場もなんとか納められた形となった。
直後にティーダは、ジョンが元の世界に戻る為、何やら急がねばならないと言ったのだが、どうやらそれ程急がなければならない、と言う事もなかったらしい。
本人曰く、ジョンは「死にかけていたが召喚獣のお陰で助かった」状態らしく、ティーダが言う“魔列車”と言うメ冥府行の急行列車に乗る必要はないそうだ。
それを聞いたスコールが、まさか本当に“John Doe”≠身元不明の死体になりかけていたとは、とひっそりと自分がつけた名前が強ち外れていなかった事に複雑な顔をしていた事は、誰も知らない。

ともかく、そのお陰でジョンは魔列車とやらに急ぐ必要もなく、元の世界に戻る為の安定した別の手段が見つかるまで、もう暫し一行の厄介になる事となったのである。

闘争の世界で過ごす内、マーテリアの陣営に与する者の中で、ジョンの事を知らない者はいない。
成行き的に参戦する事になった経緯や、彼が持っていた召喚獣フェニックス等、判明した事が増える度にクラウド達はジョンを連れて本陣へと帰還し、報告を行っている為、その度にマーテリア陣営の戦士と顔を合わせているのだ。
元々マーテリアに召喚された訳ではないジョンは、他の面々よりも一足先に帰る事が半ば確定されているようなもので、それを羨ましがる者の姿もいるのだが、それはそれとして、マーテリア陣営の戦士は概ねジョンに対して好意的だ。
以前のスコール同様、怪しんで警戒する者もいない訳ではなかったが、セフィロスとの衝突の経緯を説明すれば、少なくともジョンがセフィロスと同じ側───スピリタス陣営に与している訳ではない事は確かと言えた。
そんな面々に対しても、ジョンは「事故みたいな形で此処にいるんだから、怪しまれるのは仕方がない」と存外と大人な反応をしている。
元々、スコールが警戒を剥き出しにし、厳しい当たりをしていた時でも、そう言った反応をしていた人物である。
何処か飄々としながら、達観した物言いも垣間見える事、ジタンと並べる程の身軽さや気配を殺す実力等、相当な修羅場を潜ってきたであろう事は確かだ。
何より、先のセフィロスの戦闘の折、この世界に落ちてきた時に失われてしまった記憶も取り戻す事が出来たようで、自分自身の立ち位置やアイデンティティが確りと保てているのが、ジョンに余裕を齎しているのだろう。

記憶喪失の間は、自分がどうすれば良いのかも判らなかった為、基本的には受動であるようにと行動していたジョン。
クラウド達が彼の面倒を任されたのも、そう言った経緯があっての事だ。
ジョンの方も、刷り込みではないが、初めに自分を見付け、他の者よりも早く会話を交えた面々と一緒にいる方が、比較的気が楽と思っていた。
しかし、ジョンは案外と社交的な性格で、自分のテリトリーに踏み込まれる事にもそれ程強い抵抗を感じないようで、今ではクラウド達以外の戦士ともよく会話を交わしている。
が、現在に至るまでの経緯もあってか、散策に出かける時には、大抵クラウド、スコール、ティーダと言ったメンバーと一緒にいる事が多かった。

今日も例に漏れず、ジョンはクラウド、スコール、ティーダの三名と共に散策に出かけた。
神々の闘争の世界は、日に日に世界が拡張されており、その副産物であるのか、地形の変化等も少なからず起きていた。
イミテーションの出現も各地に確認され、陣営同士の戦闘の際に乱入して来ると言った邪魔も起きる為、定期的に掃除が行われている。

出発してから二つ目の歪を開放し、移動ルートの安全を確保して、一行は歪を脱出する。
歪の出入口は、前日に確認した時よりも僅かに位置を変えていたが、ポイントで言えば誤差程度だ。
地形の変化と照らし合わせつつ、今後も使って行ける事を確かめて、次の歪の場所まで移動する。
散策の過程は、大体がこうしたものとなっていた。

次の目的地まで向かう道すがら、ジョンは前を歩くチョコレートと蜂蜜の色をじっと観察していた。
昨日の出来事、その前の出来事、今の目の前にある物の話と、蜂蜜色───ティーダの話は尽きない。
喋っていないと間が持たないと感じる性格の彼は、常に雑談を提供してくれる。
チョコレート色───スコールはそれを面倒臭そうな顔をしながら聞き流しており、時折、「どう思う?」等と食いついてくるティーダに、適当な返事を返していた。
その返事が見るからに適当なものだから、ティーダは剥れて「真面目に聞いてるんだってー!」と抗議するように言った。
それをスコールが、煩い、と言うように片手をひらひらと払って見せたりするから、ティーダは益々ムキになる。
もう何度見たか判らない二人のそんな遣り取りを、ジョンがじっと観察していると、隣を歩く男───クラウドに声をかけられた。


「随分熱心に見ているが、面白い話でもあったか?」
「ん?いやいや、そう言う訳じゃないんだけどな」


進む足を止めず動かしながら、ジョンはバンダナを巻いた頭をぽりぽりと掻いて、


「あれだけ素っ気なくされてるのに、よく話しかけられるもんだと思ってさ」
「ふむ。俺達はもう見慣れてしまったが、言われてみれば、そうかも知れないな」


ジョンの言葉に、クラウドは前を歩く二人を見て、認識を再確認するように呟いた。


「だが、あれでも丸くなった方なんだ。前の闘争の時は、もっとピリピリしていたし」
「そうなのか?……あれで丸くなってるのか……」


ジョンの前には、いよいよ本気でティーダを無視し始めたスコールの姿がある。
すたすたと歩く速度を上げ、ティーダを置いていく気の歩調だ。
ティーダはそんなスコールの背中に突進宜しく抱き着いて、なあなあなあ、とまるで遊んで貰いたがる大型犬のようである。
スコールはそんなティーダに、相手にしたら負けだと言わんばかりに、彼を腰に巻きつかせたまま、ずるずると引き摺って歩いていた。
歩き難くないんだろうか、とジョンは眺めつつ思う。


「なんて言うか、余り人と馴れ合わないって言うか……そう言う感じがするんだ。割と熱くもなるみたいだから、クールなばかりでもないって言う感じもするけど」
「まあ、初めて逢った人間には、あいつはかなり取っ付き難く見えるだろうな。だがそれはスコールから見ても同じなんだ。あんたも見た通り、かなり警戒心が強い性格だから」
「ああ……はは、確かにかなり疑われてたな。無理もないけど」


和解に至るまでの一連の経緯を改めて思い出し、ジョンは苦笑いする。
色々と刺さるような事を言われたが、しかしそれも言われて当然の事であったとは思う。
ティーダが自分を庇い、クラウドが間に立ってくれていなければ、ジョンの心が折れていた事も想像に難くない。
それ程、あの頃のスコールは警戒心を剥き出しにしていたのだ。


「悪いが、あの時点では俺もあんたを全面信用はしていなかった。あんたが“どっち側”なのかも判らなかったからな」
「神様の闘争って奴か。俺はあまりその戦いってのにも参加させて貰ってないからまだよく判らないんだけど、そんなに癖の強い奴がいるのか?こっち側にはそんな感じの奴はいない気がするんだけど」
「ああ。今回こっち側にいるのは、良くも悪くも素直なのが多いな。だからスコールは余計に警戒したんだろう。誰かが疑わなければ、いざと言う時に甚大な被害が出る。それは避けるべき事だったから、スコールがその為に嫌われ役になった。……少し損な役回りをさせたな。あいつもそう言う役割が得意な訳じゃないのに」


悪い事をした、と呟くクラウドに、ジョンはそうだったのか、と一人ごちた。
同時に、セフィロスとの戦闘の際、意識を失っていた自分を背負っていた時に聞いた言葉を思い出す。


「……なあ。お前、“リノア”って知ってるか?」
「いや。初めて聞くが、人名か?」
「多分。スコールが前にその名前を言ってたのを聞いただけなんだけどさ」


それは、セフィロスとの戦闘の直前、ジョンが激しい頭痛を感じて気を失った後の事。
ティーダは何処かへと走り、セフィロスとの戦闘はクラウドに任せ、一先ずスコールがジョンを背負い戦線離脱していた時、スコールはその名を口にした。
あの時、ジョンの意識は現実に帰ってきており、独り言だったのであろうスコールの呟きを聞いてしまった。
抱き締めるように零れた言の葉の詳細を、ジョンは聞いていないが、それでも感じる事はあった。
きっとあの名前は、スコールにとって、酷く大切なものだったのだろう────と。

あの時にジョンがスコールに対して感じたのは、それ以前の頑なさや堅苦しさとは違う、青臭さだ。
目覚めていたのにそれを言わず、きっと誰にも聞かれたくなかったのだろう呟きを聞き留めて笑ったジョンに、スコールは顔を赤くして怒って見せた。
その時のスコールの表情は、それまでの刺々しい言動とは裏腹に、随分と幼く見えたものだ。

それを思い出して、ティーダを引き摺るスコールを眺めるジョンの双眸が細められる。


「なんて言うか……スコールって、見た目の割に少し子供っぽい所があるな」
「見た目の割には、か」


ジョンの呟きに、クラウドがくつくつと喉を震わせながら言った。



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[ジョン+スコ]不思議なパズル 2

  • 2018/06/08 22:00
  • カテゴリー:FF


「俺からすれば、スコールは年相応だ」
「そうなのか?」


目を丸くするジョンに、クラウドは前を歩く二人を見るように促した。

二人────スコールとティーダは、いつの間にかまた二人並んで歩いている。
いつまでもティーダをしがみつかせている事にスコールが疲れたのか、ティーダの方が観念したのか。
スコールが面倒臭そうな顔をしながらティーダの話に相槌を打っている所を見ると、前者だろうか。
あれだけ素っ気なくしていたのに、こうなるとスコールは付き合いが良く、ティーダの振る話題に少ない言で答えている。
そんなスコールに、ティーダがまた楽しそうに話をするので、後ろで見ていると随分と微笑ましい光景だ。

身振り手振りに話すティーダと、体は歩くことに終始しているスコールの背中を眺めながら、クラウドが言う。


「警戒心がやたらと強いのは、本人の性格もあるだろうが、育った過程も大きいだろうな。あいつは子供の頃から傭兵になる事を前提とした教育を受けてきたようだから」
「傭兵、か。あいつの世界も殺伐としてるもんだな」
「さて、其処までは。何れにしろ、曲りなりにも戦闘をする人間として育てられた訳だから、危機意識やそれに対する防御意識は強いだろう。何でも最初に疑うのは、その所為もあると思う。ただ、精神の方は未熟な所が多い。それこそティーダと変わらないさ」


感情のベクトルが違うだけで、とクラウドは付け足す。

ティーダは自分自身を奮い立たせる為に、可能な限り目の前にある物事を前向きに考えている。
それでもどうにもならない事や、自分が納得のいかない事には、落ち込んでしまう事も少なくなかった。
彼の場合は感情が正直に表に出易く、素直な性格なので、感情を発散させる事で落ち着きを図る事が出来る。

スコールの場合は、危険を回避する為に、事前に悪いパターンを幾つも考え、防衛策を考えるタイプだ。
この為、想定の範囲内の事ならば素早く対応できるが、突発的な出来事や、自分が考えていた以上の出来事が起こると、思考停止に陥り易い。
案外と感情的になり易い反面、強い理性と理屈で自縄自縛になり、自分の思考をまとめる所か、発散させる事も苦手な節がある。
本陣である秩序の塔にいる際、自分の部屋に閉じこもって出てこない時があるが、その時のスコールは、その日一日の納得できなかった事など、処理が追い付かなかった事を黙々と考えている事が多く、それが済むまでは人との接触を拒む傾向があった。

────二人を並べて語るクラウドの言葉に、確かに正反対だが似ている、とジョンは思う。
脳裏に、自分を挟んで何度となく口論していたスコールとティーダの姿が浮かんだ。
徹底して疑っていたスコールと、最初から信じる、と言って憚らなかったティーダ。
しかし根底にあるのは、どちらもジョンの事を“敵だと思いたくない”と言う気持ちであったから、ジョンが自ら別行動を進言した事により、スコールはようやく疑心を拭う事が出来、“仲間”としてジョンを迎えに行くに至ったのだろう。


「スコールは、理屈と感情で挟まれ易いんだ。優先すべき事は取捨選択できるのは良いんだが、自分の行動と感情が別々の方向を向いている時に、感情の処理が出来ない。引き摺り続けたまま、無理やり理屈に行動を合わせるから、息苦しくもなる」
「複雑な奴だな」
「仕方がないさ。幾ら普段は大人びて見せた振りをしても、中身は学生だからな」
「学生?」


クラウドから零れた思いもよらなかった単語に、ジョンの琴線が引っ掛かる。
目を丸くしているジョンを見て、クラウドはくつりと笑って続けた。


「あんたの世界ではどうかは判らないが、俺やあいつらの世界では、17歳はまだ学生だ。本来、大人から庇護されて然るべき立場なんだよ」
「あー、それで……へ?17?」


納得したと言う表情で頷いた後、ジョンはもう一度目を丸くした。
隣に立って歩く男を見て、また前を歩く二人を見る。
交互に自分と仲間に視線を移すジョンに、クラウドは予想していた通りと言わんばかりに口角を上げ、


「雰囲気に騙される奴は多いんだ」


暗にスコールの年齢を指しての台詞だろう。
同時に、「そうだと思えば判るだろう?」と言うニュアンスも滲んでいる。


(……なる、ほど。成程)


道理で────とジョンの中で、散らばっていたピースがぱちぱちと嵌っていく。
冷静沈着に、当たり前の事だと言わんばかりに、厳しい物言いでざくざくと切り込んでいくかと思えば、何かを堪えるように黙り込んでしまう事もあるスコール。
言葉数が少ないかと思えば、投げ当てられたボールは全力で打ち返さねば気が済まないと言わんばかりの熱し易さ。

17歳と言えば、ジョンの記憶の中でも、微妙な年齢だ。
既に自立した者もいれば、大人の庇護の中にいる者もいるし、環境や立場と言ったものも影響するが、何れにしろ、“大人”とはっきりと括れない事は確かである。
加えてその年齢は、良くも悪くも不安定になり勝ちで、それを無理やり自制しようとしている人物がいた事も、ジョンの記憶には浮かんでいる。

はは、とジョンの喉から笑いが漏れた。
観察している内に、印象とは違う表情を見る事が多く、不思議に思っていた事が、一気に納得に向かう。
その様子を見たクラウドが、「驚いただろう」と何故か自慢げな顔をしているのが可笑しくて、ジョンは余計に笑いを堪えられなくなった。


「はは。あははは!あー、そっかそっか。成程な!」
「そういう事だ」


笑うジョンに、クラウドは肩を竦めて言った。

そのジョンの笑い声に、前を歩いていた二人が怪訝な顔で振り返る。
そうして、後続二人との距離がいつの間にか随分と離れていた事に気付いた。


「おーい!二人とも何やってるんスかー!?」
「置いていくぞ、あんた達」


手を振って早く早くと急かすティーダと、不機嫌そうに睨むスコール。
それを見ながら、ジョンは声を大きくして返した。


「悪い悪い!ちょっと話が盛り上がってさ!」
「話?」
「えー!?何々、何の話?」


眉根を寄せるスコールを置いて、ティーダが自分も混ぜてとばかりに駆け戻ってくる。
それを待たずに、ジョンは言った。


「スコールが意外と可愛い奴だなって話!」
「………はあ!?」


ジョンの言葉に、スコールが目を丸くして声を大きくする。
数瞬の空白の後、スコールの眉が一気に釣り上がり、ふざけているのか───と口が開きかけるが、


「そう、スコールは可愛い奴なんだ」
「なっ……あんたまで何言い出すんだ!?揶揄ってるのか」
「いや、本気で可愛いと思ってる」
「うんうん」


便乗するように言ったクラウドに、スコールの顔に益々血が上っていく。
揶揄なのかと言う言葉をクラウドは真っ直ぐに否定したが、スコールにしてみれば悪ふざけ以外の何物でもないだろう。
ヒクヒクと顔を引き攣らせるスコールを他所に、クラウドは間に挟まれた形できょろきょろと首を巡らせているティーダに声をかけた。


「ティーダもそう思わないか」
「へっ?俺?」
「ああ。スコールは可愛い奴だって。思った事はないか?」
「一杯あるっス!」
「な……」


話を振られて、悩む間もなく即答したティーダに、スコールはいよいよ言葉を失った。
よろりと足をふらつかせ、今にも倒れそうだが、流石に意識は現実に留まったらしく、よろめいただけで済んだ。
が、可愛い、可愛い、と何度も繰り返す三人の仲間に、スコールは状況への理解が追い付かなくなっていた。


「ば……馬鹿な事を言っていないで、足を動かせ!さっさと次の歪に行くぞ!」
「あー!置いてっちゃ嫌っスよ、スコール!」
「煩い!寄るな!近付くな!」
「顔が赤いな~、ひょっとして照れてるのか?」
「そう言う所も可愛いぞ、スコール」
「………!!!」


黙れ、とすら言うのも恥ずかしくなったのか、スコールは逃げるように走り出した。
直ぐにティーダが追い駆け、スタートダッシュ速度の違いであっという間に追いついて背中に飛び付く。
退け離せと怒るスコールだったが、真っ赤な顔で幾ら言った所で、ティーダに効果はない。

ジョンはクラウドと目を合わせ、可愛いよなあ、と言って笑った。



その日のその後、拗ねたスコールは、ジョンとクラウドとの会話を一切拒否した。
そうしてムキになってしまう所も可愛いよなあ、と彼等が和んでいた事は終ぞ知らない。





一回書きたかった朗読劇組の話。
と言うかジョンとスコールの話(会話してるのはほぼクラウドだけど)。
スコールの年齢ネタは何番煎じでパターンみたいなものと化してますが、やはりこう言う反応があると私が楽しい。
そんで帰る前にほんの少しだけこう言う時間があったらなーと。アケディアも参戦しましたし、後に再会したりとかしたら面白い。私が。

このメンバーで行くと、スコール・ティーダが17歳、クラウドが23歳、ジョンが25歳なんだよなーと思うと色々滾る。
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[バツスコ]熱に溺れる

  • 2018/05/08 21:30
  • カテゴリー:FF
ほんのりとR15の雰囲気。





久しぶりに泊まりに来た少年を、ベッドに引き摺り込んでから、濃厚な夜を過ごした。
もうちょっと、もう一回、を何度繰り返した事だろう。
終わった頃にはスコールはすっかり疲れ果て、まだバッツを中に残した状態のまま、意識を飛ばしてしまった。
それからバッツもしばし寝落ち、目が覚めたのは十分後の事だったが、そのお陰で茹っていた頭は少し落ち着いてくれた。
眠るスコールの中から自身を抜いて、情事の痕をそのまま残すベッドからスコールを運び出し、風呂へ入る事にした。

敏感なスコールの体は、眠っていても触れると反応が返る。
色々と残したままは良くないだろうと掻き出している間も、スコールは吐息混じりに声を漏らしていた。
それがバッツの雄をまたも刺激してくれるのだが、流石に意識のない相手に手を出すのは宜しくないとブレーキが働いてくれた。
汗と蜜でぐっしょりと濡れていた其処を綺麗にするまで暴走しなかった自分を、誰かに褒めて欲しい位だ。

スコールをバスタブの中に入れて、緩めの湯を溜めている間に、バッツは自分の体はシャワーで簡単に洗い流した。
別に洗わなくても気にしないと言えば気にしないのだが、やはり一風呂浴びるとさっぱりとして心地が良い。
それから直ぐにベッドに戻っても良かったのだが、長い情交で疲労しているのはバッツも同じだ。
少しだけ風呂でゆっくりと温まる事にして、スコールを膝に抱きながら、バッツも湯船に入った。


「ん~……気持ち良いなー…」


いつもの熱々の風呂ではないが、汗を掻いた体を休ませるには丁度良い。
スコールもいるし、と眠る恋人を腕に抱き、濡れた項に目を奪われながら、良い景色、と呟いた。

バッツの家は、そこそこの築年数が経ったアパートの一室で、完全に一人暮らしの為の間取りになっている。
風呂とトイレは別に設けられているが、どちらも大した広さはなく、しかしどういう訳かバスタブだけはやや大きなものが設置されていた。
この所為でただでさえ狭い風呂がより狭くなっており、シャワーを使えば飛沫が殆ど湯船に飛び散る事になるのだが、それでもバスタブが広いとゆったりと風呂に入れるので助かっている。
特にスコールが泊まりに来た時、彼と一緒に風呂に入れるのは、バスタブに余裕があるお陰に他ならない。

ちゃぷん、と小さな水音が鳴って、スコールの頭が前に傾く。
ゆっくりと前傾になって行くスコールに気付き、バッツは彼の肩を捕まえて、自分の方へと引き倒した。
スコールはバッツの肩に後頭部を預け、胸に身を預けるように寄り掛かる。
濡れた後ろ髪がバッツの肩口をくすぐった。


(今夜はもう起きないかな?)


寄り掛かるスコールの貌を眺めながら、激しかった情交を思い出す。
もう無理、眠い、やだ、と訴えていたスコールを半ば無視して繰り返し抱いたので、明日の彼はきっと起き上がる事も出来ないだろう。
となると明日には確実にスコールの雷を喰らう訳だが、其処はバッツも慣れたもので、先ずは朝御飯にスコールの好きな目玉焼きを作って、と機嫌を取る算段を考えていた。

と、腕の中でスコールが小さく身動ぎして、んん、と小さく唸る声が漏れる。
バッツが注視していると、スコールの長い睫毛がふるりと震えて、ゆっくりと持ち上がった。


「……ん…ぅ……?」
「お。目が覚めちゃったか?」


ゆらゆらと揺れる瞳が、ぼんやりとした様子で天井の照明を見詰めている。
バッツが声をかけると、瞳はゆっくりと動いて、バッツの顔を映した。


「……ばっつ……?」
「うん」


寝起きで寝惚けているのだろう、スコールは恋人の名を確かめるように呼んだ。
バッツが頷いて、スコールの目許にかかる前髪を指で退けてやると、スコールはゆっくりとした瞬きを一回、二回として、


「……バッツ……」
「お」


夢心地にいるような声で、スコールはバッツを呼び、すり、と頬を寄せて来た。
甘えたがりの猫を思わせる仕草は、スコールが寝起きの時にだけ見せてくれるものだ。

すり、すり、とバッツの首筋に頬を寄せて来るスコールに、くすぐったいな、とバッツは笑う。
くすくすと笑いながら頭を撫でると、スコールはうっとりと目を細めて、はあ、と熱の籠った息を吐く。
濡れた髪が張り付いた頬が、湯の温度でほんのりと赤らんでいる所為で、色っぽさが助長されているような気がする。
まずいなあ、と思いつつ、バッツはスコールの首筋に、つぅ、と指を滑らせた。


「んっ……」


ひくん、とスコールの体が微かに震えて、小さな音が喉奥から零れ出る。

スコールは細めていた目を薄く開き、まだ少し焦点の合わない瞳でバッツを見た。
湯の中で沈んでいた腕が持ち上がり、バッツの頬をそっと撫でる。
指先が皮膚の感触の一つ一つを確かめるように、其処を辿る水滴の筋を追うように滑って行った。
やがてその手指はバッツの口元へと辿り着き、スコールの長い指が、バッツの下唇を摘むように軽く挟む。

かさついた自分の唇を撫でるスコールに誘われるように、バッツもスコールの唇に指を宛がった。
噤んだ唇の割れ目に指を滑らせると、スコールはふるりと肩を震わせて、薄らと口元の力を抜く。
緩く開いた其処に指を押し当ててやれば、微かに覗いた赤い舌が、バッツの指先に触れた。


「……スコール」
「…ん……?」
「なんか、凄くエッチだぞ」
「………」


誘われているみたいだ、とバッツが顔を赤くしながら言うと、スコールはことんと首を傾げる。
無意識なのか、わざとなのか────多分無意識、だとバッツは思う。
であればこそ、尚の事性質が悪いのだが、寝惚けているスコールはそんなバッツに気付く様子はなく、バッツの唇を指先で遊んでいる。


(自覚がないから、こんなにエッチな貌してるんだよな)


バッツの腕の中で、スコールは情事の最中と変わらない貌を見せていた。
触れられる事への恐怖や、自分が乱れる事への羞恥心も忘れて、バッツが与える快感に溺れ切っている時のスコールは、とても淫らで艶やかだ。
それを見る度、バッツは己の欲望がまた膨らんで、もっとこの顔が見たい、とスコールを啼かせたい衝動に駆られる。

しかし、今はスコールは勿論、バッツも先までの情交で疲れている。
明日はスコールの学校は休み、バッツもアルバイトがないので、昼過ぎまで寝倒しても問題はないのだが、これ以上はスコールの体に余計な負担をかけてしまう。
既に明日は立てない事が決定事項のようなものなのに、これ以上はちょっと────とバッツも思うのだが、


「……バッツ」
「ん?」
「……キスしたい」


自分からは到底言い出す事のないおねだりに、バッツはスコールの思考が正常ではない事を察した。
情交の茹った意識と熱が、まだ彼の中に残っているのかも知れない。
そうでなければ、こんな貌で、こんなお願いを、すんなりと口に出す筈がないのだ。


「…スコール、寝惚けてるだろ」
「……だめなのか?」
「駄目じゃないけど。でも、寝惚けてるよな?」
「……わからない。それより、キス」


してくれ、とバッツの耳元でスコールが囁く。
微かにかかる吐息のくすぐったさに、バッツは首の後ろにそわそわとしたものが這うのを感じた。
あー、良くない奴、と思いつつ、バッツはスコールのリクエストに応えて、濡れた頬にキスをする。


「もっと……」
「甘えんぼだなあ、スコールは」
「ん……」


平時なら、言えば絶対に怒る台詞を言ってみる。
思った通り、スコールは怒りだす事もなく、また甘えるように身を擦り寄せた。

頬に、耳元にキスをして、首筋に唇を押し当てると、あ、と小さく声が漏れたのが聞こえた。
スコールは嫌がる様子はなく、首筋を差し出すように天井を仰ぐ。
バッツはスコールの腰を抱いて、首に、肩口にキスをし、また上に戻って頬にキスをする。


「バ、ッツ、……」
「スコール。声がエッチになって来てる」
「…っあ……ん……っ」


声の変化を言い当てながら、バッツはキスの雨を止めなかった。
スコールはその雨を全て、心地良さそうな貌を浮かべて受け止めている。
濡れた唇からは、はあ、はっ…、と熱を孕んだ吐息が漏れて、バッツの欲望を刺激した。

そろそろ止めないと、風呂も出ないと逆上せるかも────とバッツは頭の隅で思ってはいるのだが、頬に触れるスコールの手が、もっと、と強請っている。
此処から先をスコールに強請られたら、本当に止まらなくなりそうで、どうしようかな、と真面目に考えていると、


「……バッツ……」
「ん?」


呼ぶ声に返事をすると、スコールが体を起こして、バッツの胸から背を離す。
ちょっと目が覚めて来たのかな、と思っていると、スコールは振り向いてバッツと正面から向き合った。

柔らかな光と、熱の籠った瞳が、じっとバッツを見詰めている。
形の良い手がバッツの頬を逃がすまいとするように包み込んで、スコールはゆっくりと顔を近付けた。
これは、とバッツが思っている隙に、二人の唇が重なり合い、濡れた舌がバッツの唇をなぞる。
促すように何度も唇を撫でる舌に、バッツがそっと唇を割れば、嬉しそうにスコールはバッツの舌を捕らえに行った。

バッツの腕がスコールの背中に回され、後頭部に手を添えて、口付けが深くなる。
ん、ん、とくぐもった声を漏らしながら、スコールはバッツの舌を舐め、バッツもまたスコールを捉えてたっぷりと舐ってやった。
スコールの主導で始まった筈のそれは、次第にバッツがリードする形へと変化して行き、終わる頃にはスコールはバッツのされるがままとなっていた。

───ちゅぱ、と音を立てて唇を離すと、スコールの体がくたっとバッツに寄り掛かる。


「っは……はぁ……っ、」
「スコール、大丈夫か?」
「…ん……」


バッツが声をかけると、スコールは小さく頷いた。
顔を上げたスコールの瞳には、熱と一緒に雄を宿した男の顔が映っている。


「寝かせなきゃって思ってたんだけどな」
「……あ……」
「スコールの所為だからな」


おれはちゃんと我慢してたんだから、と言って、バッツはスコールの喉に食らい付いた。
甘く歯を立てるバッツに、スコールの肩がビクッと跳ねる。

逆上せないように、それだけは気を付けよう。
そんな事を考えながら、バッツの手は細い背中を滑って行った。





5月8日でバツスコの日!
お風呂でいちゃいちゃしてる二人が書きたくなった。

バッツがスコールの為にと思って色々我慢したのに、全部ぶち壊しにするスコールでした。
翌日、スコールが何処まで何を覚えているのかは微妙な所。部分的に覚えていたら恥ずか死ぬ。覚えてなくてもバッツが全部言うので恥ずか死ぬ。
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[ゴルスコ]扉の向こう

  • 2018/04/08 22:00
  • カテゴリー:FF


哀れと言えば、哀れだ。
そう思った後、口にすればあの不機嫌な顔で睨んで来るのだろうと思った。
此処にいるのが“本来の彼”ならば、であるが。

場所はアルティミシア城内にある、美術館のように広いホールの中。
吹き抜けになった一階にある、一際大きな絵画の下に、質の良いソファが据えられており、其処を己の住処であるかのようにしている少年が一人いる。

ゴルベーザの前には、少年───スコールが虚ろな表情で、ソファに座っている。
常に不機嫌な表情を浮かべていた顔には精気もなく、顔が整っている事もあって、人形めいて見えた。
本来なら、務めた無表情の内側で、雄弁な瞳を閃かせていたと言うのに、それも見付からない。

戦っていたのか、それとも何処かで行き倒れていたのか、そんな彼をアルティミシアが拾って来たのは、十日ほど前の事。
まるで捨てられた仔猫を拾って来るような気安さで、アルティミシアは彼を連れ帰った。
どうやらスコールは記憶喪失に陥っているらしく、自分の名前と、己が“魔女の騎士”と呼ばれる役割を自負していた事以外は、何も覚えていないと言う。
無論、此処が神々の闘争の世界である事も、アルティミシアが仇敵である事も、何一つ覚えておらず、精神的にもやや退行している所があるのか、アルティミシアの言葉を擦り込みのように吸収し、彼女の言葉のみを聞いている。

拾われて以来のスコールは、人気のない、物理法則を無視した造りが続く、歯車の音が鳴る城の中で、主以外の者の誰と逢う事もなく過ごしていた。
ガーランドやエクスデスと言った面々の警戒を何処吹く風と気にもせず、彼女は獅子を愛でている。
彼女はお気に入りの少年を外に出す事を厭い、まるで閉じ込めるように、行動範囲を城の中に限定していた。
魔法まで使ってスコールの外への干渉を遮断し、スコールのいる歪に他者が侵入すれば直ぐに感知できるようにトラップまで張り巡らせており、まるでスコールは深窓の姫のような扱いを受けている。

しかし、アルティミシアの作るトラップの殆どは、魔法を組み立てて作られたものだ。
心得のあるものならある程度は解除する事が出来、ゴルベーザも、酷く手の込んだトラップでなければ簡単に外せる。
その程度の事はアルティミシアも判っているだろうに、用心深いのかそうでないのか、いまいち判らない。
クジャにしてみれば、「あの子が自分で出て行かなければ良いと思ってるんじゃないの」と言う所らしい。
確かに魔法で作られたトラップならば、元々魔法の素養の薄いスコールならば解除する事は出来ないだろうし、彼を城の中に閉じ込めるだけなら、十分な効果を発揮するだろう。

しかし、そんな事までして閉じ込める必要があるのかと言われると、ゴルベーザは首を傾げる。
何せスコールは、目の前にゴルベーザがいるにも関わらず、ただぼんやりとソファに座っているだけなのだ。


(此方を見る事もない、か)


ソファに座るスコールは、意識があるのかも危うい表情で、ぼんやりと床を見詰めている。
いつも着ている黒のジャケットを肩に羽織り、トップスに着ているのは白のシャツのみで、広い襟首から覗く肌には、所々小さな鬱血が浮いていた。
ボトムはいつも通りかと思えば、ベルトは外され、足元も素足が見えており、靴の片方はソファの下に入ってしまっている。
スコールはそんな自分を認識していないのか、気にならないのか、服を整えようともしていない。
それだけ、彼の自意識が弱くなっていると言う事なのだろう。

ゴルベーザがゆっくりと近付いて行くと、ガチャリ、ガチャリ、と金属の音が鳴る。
それすら興味がないもののように、スコールは酷く鈍い動作で顔を上げ、ようやく音の発信源を見た。

亡羊とした蒼の瞳がゴルベーザを見上げ、つい、と外される。
其処にいるのがこの城の主でないのなら、どうでも良い、と言わんばかりだ。
どうやら、番犬として此処に留まっている、と言うつもりもないらしい。


(本当に、ただ飼われているだけのようだな)


何をしろと言われている訳でもなく、本人も何かをしようと言う様子もない。
此処まで無気力だと、この少年は、本当に混沌の戦士達が知る“スコール”なのだろうかと疑問に思えてくる。

じっと見詰めるゴルベーザの前で、スコールがすう、と息を吸う。
それから、細く長く息を吐いた。
溜息と言うよりも、体に溜まった緊張を意識的に抜こうとしているように見える。

ぐら、とスコールの体が傾いて、ソファに横倒しになった。
糸の切れた糸繰人形のような倒れ方に、それまで殆ど微動だにしていなかった事もあり、ゴルベーザは兜の奥で一瞬目を瞠る。


「おい────」
「………」


思わずソファの傍らに立って声をかける。
と、スコールの瞼が微かに持ち上がって、ちらり、と蒼が此方を見た。
煩い、と言わんばかりの表情を浮かべた後、スコールはついと視線を外して、目を閉じる。

スコールは、疲れ切っていた。
体を動かす事は愚か、起き上がる事も面倒であるかのように過ごしている。
うつらうつらとしているようにも見えるので、放って置けばこのまま眠り落ちてしまいそうだった────が、


「………」


ぽそ、と小さな声がスコールの唇から零れる。
誰に聞かせる訳でもない音量に、恐らく独り言だろうとゴルベーザは悟りつつ、


(───『退屈』、か)


彼の呟いた言葉を、ゴルベーザは正確に聞き取っていた。

退屈だ、とスコールは言った。
何をするでもなく、恐らく自ら行動を起こす気力もないのだろうが、それでも心まで全く停滞していると言う訳ではないらしい。
主のいない白の中で、何処に行く事もなく、ただ無為な時間を浪費するだけである状態は、ゆっくりとだが確かに動いている彼の心に、明らかな退屈感を齎している。

じっと見下ろしているゴルベーザを、何度目になるか、蒼い瞳が見上げる。
物言いたげな瞳のそれが、音に発せられるまでには、短くはない時間を要した。


「……アルティミシアは、まだ帰って来ないのか」
「さてな」
「いつ帰って来る?」
「あれの事ならば、お前の方がよく知っているだろう。私は、何も聞いてはいない」


元々が個人行動の連中ばかりの混沌の戦士に、仲間同志で予定を確認し合うような習慣はない。
牙城にいないアルティミシアが、何処にいて何をして、いつ帰って来るかなど、ゴルベーザには知り様もない話であった。

それをきっぱりと告げてやれば、スコールの眉間の皺が深くなる。


「……退屈だ」


呟くスコールの瞳には、判り易く不満の色が滲んでいる。
しかし、それを取り除く為に自らが行動を起こす気はないのか、細い体はソファに横たわったまま、動こうとしない。


「…退屈ならば、外に出てみてはどうだ」
「……アルティミシアが、勝手に外に出るなと言った」
「それを良しとしているならば、退屈も仕様のない事だな」
「………」


アルティミシアの言いつけを守るのであれば、スコールの退屈感はどうしようもない事だ。
ゴルベーザのその言葉に、スコールの唇が心なしか尖り、表情が幼くなる。


(感情が皆無と言う訳ではないか)


眠っているのか起きているのか、判らなかったような先刻と違い、スコールの表情には露骨な感情が滲んでいる。
それは拗ねた子供のようなものだったが、無感動よりは見ていて心地が良いとゴルベーザは思った。

スコールはのそ、と起き上がって、ホールと廊下を繋ぐ扉を見た。
同じような出入口は、一階にも二階にも存在する。
が、スコールはそれをしばらく見詰めた後、興味を失ったようについと視線を逸らし、


「……どうせ出れない」


そう呟いて、またスコールはソファに倒れた。

出れない、と言うスコールに、そうだろうな、とゴルベーザは口に出さずに呟く。
城中に張り巡らされた魔法のトラップは、スコールを閉じ込める為の結界だ。
脱出する方法と言うものは、きっと既に自分で何度も試し、その末に無為な行為であると悟り、諦念で過ごすようになったのだろう。

自分の力で出れないから、アルティミシアが帰って来て、結界を解くのを待つしかない。
スコールはそう言っているようだったが、しかし魔女が帰ってきた所で、この少年が外の世界へ出る事が出来るのかと言われると、否である。
アルティミシアはスコールを外に出す事を厭い、徹底的に避け、この歯車の城の中に閉じ込め続けているのだから。
そして自分が帰って来た時に、スコールを己の思うように可愛がり、逃げる事は愚か、拒否する事すら考える事が出来ない少年を、歪み調律して行くのだ。

ゴルベーザの脳裏に、嘗て獣の如く研ぎ澄まされた蒼の眼光が蘇る。
それは目の前にあるものと全く同じ色をしている筈なのに、灯る光の強さが違うだけで、まるで別人のように見えた。


(哀れだな)


この部屋に来て、初めにスコールを見た時にも思った事が、するりと再度心に落ちた。

誰に従う事を良しとせず、己が貫く孤高の道を歩こうとしていた、一人の傭兵。
頑なに引き結ばれた唇の裏側で、様々な感情を飲み込み、前へ進む一歩を死に物狂いで踏んでいた。
一歩、あと一歩、怯めば遅れるその一歩を誰よりも早く踏み出そうと、握った剣を振り被って先陣を切った風は、今は淀んだ空気の中に落ちて、自らの足で地面を踏んで歩き出す事も忘れている。
忘れるように、魔女が仕込んでいるのだろう。

このまま魔女の造った籠の中にいれば、スコールは遠からず、外への興味も解けて消えて行くのだろう。
「魔女に捕まった子供は、いつか食べられてしまうんだ」と言ったクジャの言葉は、決して比喩には留まるまい。
アルティミシアもそのつもりだからこそ、スコールをこの狭い世界へ閉じ込めているのだから。

────だが、スコールはまだ、外への興味を失くしてはいない。
開かない扉を見詰めた彼の瞳には、その向こうへと繋がる世界への、羨望に似た感情が交じっていた。


「退屈を厭と言うのなら、外へ出ると良い」
「……あんた、話聞いてなかったのか」


ゴルベーザの言葉に、スコールは胡乱な目を寄越して行った。
出られないって言っただろう、とスコールは言ったが、


「確かに、今のお前一人では、外に出る事は出来ないだろう」
「だったら────」
「だが、扉ならば開けてやる」
「……?」


遮って続けられたゴルベーザの言葉に、スコールはことん、と首を傾げた。
どう言う事だ、と見上げる幼い瞳に、ゴルベーザは曲げていた膝をゆっくりと伸ばして、立ち上がる。

重苦しい鎧を身にまとった男に高い位置から見下ろされ、スコールはようやく、見下ろされる威圧感と言うものを感じていた。
のろのろと起き上がって、それだけでも酷く疲れる作業であったが、なんとか背凭れに伸ばした背中を預けるまで体を起こす事が出来た。
ふう、とため息交じりの息を吐いてゴルベーザを見上げると、兜の下から覗く眸のような単眼の光が、微かに笑ったように見え、また首を傾げる。

首を右へ左へと揺らすスコールを気に留めず、ゴルベーザはマントを翻した。
カシャン、カシャン、と具足の足音を立てながら、最寄りの扉へと近付く。

扉には鍵穴はなかったが、魔法で鍵がかけられていた。
腕を伸ばして扉の表面に触れると、ちりちりとした熱が手甲の掌を焼こうとする。
これでは、元より魔法に対して強い抵抗力を持たず、身を護る為のグローブも取り上げられた今のスコールでは、押し開ける為に扉に触れる事すら儘ならない。

扉も壁もまとめて吹き飛ばすのは簡単だった。
が、其処まで大仰な事をする必要もない、とゴルベーザは扉にかかった魔法のみに干渉し、解除する。
パキン、と小さくガラスが割れるような音がしたのが、解除の合図だった。


「これで開く」
「……」


ゴルベーザがそう呟くと、少年が小さく息を飲んだのが聞こえた。

そのまま、五分か、十分か、将又三十秒かと言う時間が流れて行く。
動かない少年をゴルベーザが肩越しに見遣れば、じっとりと汗を滲ませたスコールがいる。
まるで、悪い事をしようとして、親に叱られる事を考えている子供のような表情だった。


「行かないのか」
「……」
「アルティミシアが戻れば、此処はまた閉ざされる」
「……」
「それで良いと言うのであれば、それも良い」


ゴルベーザに、スコールに何かを強制する権利はない。
同時にそんな権利は、アルティミシアも持ち得てはいないのだ。
例え記憶を失ったスコールを、最初に拾い連れ帰ったのが彼女であるとしても。

ソファの上に乗っていた細い足が、ひたり、と冷たい床を踏んだ。
裸足の足音はぺたぺたと頼りなく、まるで小さな子供が歩いているようで、薄暗い荘厳を滲ませる城の景色とは随分と不釣り合いだった。

スコールは、ゴルベーザの傍らまで来ると、扉を前にして立ち止まった。
無気力、無関心ばかりであった蒼の瞳がゆらゆらと揺れ、彷徨い、迷いを露わにしている。
本当に良いのか、と言いたげにスコールの目がゴルベーザを見上げたが、ゴルベーザは何も言わなかった。
背を押すような言葉も、此処に来て押し留めるような事もせず、ただじっと見下ろすのみ。



恐々と伸びた手が、扉を押した。
キイ、と蝶番の音が鳴って、扉に隙間が生まれた瞬間、スコールは零れんばかりに目を見開いた。




城の外へと続く道を、スコールは知っているらしい。
ひたひたと歩く背中を、ゴルベーザは何も言わずに追い歩く。

────魔女が抱く執着と言うものは、得てして恐ろしいものだ。
魔女の気に入った玩具を他人が悪戯をして、どんな怒りに触れるか判ったものではない。
それでも、外へ出た瞬間、蒼の瞳が何を映すのかを見てみたいと思った。






ゴルベーザ×スコールだと言い張る。
このスコールは記憶喪失からの刷り込みですが、ほぼほぼ洗脳みたいなものか。
DFFのゴルベーザは4ED後なので、スコールが秩序側だという事も含めて、このまま放って置く事はしないと良いなあと妄想。

「アルティミシアに拾われて飼い殺しにされている記憶喪失のスコールを他の混沌の戦士が連れ去る」と言う流れが超個人的に楽しい。
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[雲スコ]それは掴み処もなく

  • 2018/03/08 21:23
  • カテゴリー:FF


浮遊大陸と言う場所を模した歪の中で、暗闇の雲と遭遇した。

混沌の戦士の多くは、姦計に飛んでいるか、思考が常人とは大きく離れているかのどちらかである事が多い。
ゴルベーザやジェクトはそれらともまた違うが、ともかく、そう言う者が多いのだ。
暗闇の雲はと言うと、恐らく一計を案じようと思えば出来るのだろうし、気儘に破壊を愉しむ事も出来るのだろう。
過去の戦いではケフカと共に行動し、彼の奔放振りを傍にしながらも、自身は己の目的を遂行するのみに動いていた。
しかしその目的と言うものが、他者には到底予想のつかないものであった事や、その目的すらも時にはついと後回しにしてしまうような自由振りもあり、ケフカとは別の意味で思考の読めない人物として周囲に認識されている。
その事すら本人はどうでも良いようで、その場その場で己の目的を優先し、その為ならば相手が秩序の戦士だろうと、混沌の戦士であろうと、問わずに攻撃する。
かと思えば、一時の共闘のような流れにも彼女自身は厭う理由はないらしい。

そう言う者を相手にする事を、スコールは苦手としている。
バッツのような自由奔放振りですら、スコールにとっては手を焼くのだから、思考の読めない敵の相手など、尚更厄介としか思えない。
ケフカが使う軌道の読めない魔法と同じで、いつ何処から襲い掛かって来るか判らない。
スコールが培った戦場の理論、理屈と言ったものを、根本から無視するような敵は、いつ爆発するか判らない爆弾のようなものだった。

だからスコールは、出来るだけ相手に攻撃の手を与えないよう、接近して戦った。
人間や魔物とは違う、妖魔と呼ばれる性質を持つ暗闇の雲は、強力な破壊魔法を得意とする。
アルティミシアや皇帝とは違い、複雑な構成を持った魔法ではなく、その多くが単純に膨大な量の魔力に圧力をかけて放出、と言う形で言えばシンプルなタイプの攻撃方法なのだが、これが恐ろしく厄介だ。
例えるなら、超大量の水を圧力を与えながら一気にぶつけて来る訳だから、一発でも喰らうと大ダメージを貰う羽目になる。
一応、魔力と言う性質もあってか、シェルやリフレクによる防御は可能だが、それでも相当な圧に襲われるそうだ。
魔法障壁による防御と言う手段を持たないスコールとしては、彼女と戦う際には、この攻撃を喰らわない事が大前提となる。
扱うものが多量の魔力である為、彼女が力を放つには、少なからず準備時間が必要だ。
その間に、スコールは相手を仕留めなければならないのだが────


「────っ!」


背後を取って、その背中に刃を振り下ろそうとした瞬間、スコールの顔面に向かって牙が迫る。
咄嗟に腕を盾に顔を庇うと、がぶりと牙が突き立てられたのが判った。
痛みに眉根を寄せながら、スコールはグリップを握る片手を離す。
残った腕でガンブレードを横に払い、腕に噛み付いているものから伸びている、細い管を切った。

右足で暗闇の雲の背中を蹴って、スコールは一足に距離を取った。
が、飛んだ先にあった岩に着地すると、バウンドするように空中へと飛び出す。
スコールが蹴った岩が闇色の光線に飲み込まれ、闇が消えると後は抉られた大地だけが残った。

土色が剥き出しになった地面に着地し、乱れそうになる息を押し殺して、前へと走る。
距離を取ろうとしている妖魔に肉薄すると、彼女を護衛するかのように、彼女の体から生えた蛇が噛み付いて来た。
肩に食い込む牙に構わず、スコールは暗闇の雲の首を狙ってガンブレードを振り被った。

真っ黒な闇が、スコールの体を飲み込んだ。
しまった、と歯を噛む暇もなく、細身の体は強い衝撃と共に吹き飛ばされ、─────ザブン!!と水飛沫を上げ、川の底へと沈んだ。


(くそ……っ!)


距離を詰める事を意識し過ぎて、相手が溜めた魔力の残滓を読めていなかった。
競り負けた理由をそう判じながら、スコールは水の中で苦い表情を浮かべる。

再接近の前、スコールが避けた波動砲は、暗闇の雲が最大まで貯めた魔力の一部。
あれが最大出力で放たれたのであれば、次の攻撃までに時間があったと見れるが、彼女は力を残していた。
スコールが再接近した時に放たれたものが、残していた魔力のものだろう。
お陰で間近で彼女の強力な魔法を丸ごと食らう事はなかったが、それでも体に残るダメージは軽いものではない。

スコールは水の底に這うように掴って、浮かぶタイミングを伺っていた。
酸素の碌な確保がない状態で沈んだ為、出来れば早く浮上したいが、そんな事をすれば的になるだけだ。


(少し移動しよう。浅い所は見付かるから、深さのある場所に……)


出来るだけ水面に波が浮かばないように、スコールはゆっくりと、川底を這うように進んだ。
波動砲を食らった体の前面と、触手に噛み付かれた肩が痛む。
ちらりと肩を見ると、ジャケットの穴から細く赤い筋が浮き、水の中に溶けて行くのが見えた。
僅かな量ではあったが、匂いでも悟られれば厄介だと、スコールは血を流す肩を片手で押さえる。

切り立った崖の下になる場所で、スコールはじっと時間の経過を待つ。
崖は上に行くに従って外へと飛び出すように伸びているので、崖の上から直接川面を覗き込むと、足元を見る事が出来ない。
此処なら、いきなり頭上から魔法を落とされる事もない───筈だ。


(でも……いつまでこうしてる?ティーダじゃないんだ。そんなに長くは持たない……っ)


水の中で、十分も二十分も息を止めていられるティーダなら、幾らでも待っていられるだろう。
しかしスコールにそんな芸当は出来ないし、酸素の確保も不十分なので、今から一分と保てるかも怪しかった。
出来れば直ぐに顔を出して呼吸がしたい位に、肺は限界を訴えている。

途端にスコールは、ぞくん、としたものを背筋に感じた。
反射反応で水中を蹴って、揚力だけで水の向こうにある壁へと辿り着き、水面に顔を出す。


「───っはぁ!はっ、はっ…!げほっ……!」


最後の行動が、スコールの体の限界だった。
水の中から顔を出したスコールは、目の前の川岸に縋るように掴って、咳込みながら新鮮な空気を取り込もうとする。
その背後に、すぅー……と音もなく近付く影があった。


「なんだ、生きているではないか。殺してしまったかと思ったぞ」
「…っは……く……!」


呼吸の乱れも納まらないまま、スコールが背後を睨めば、暗闇の雲が川面の上に浮いていた。
見下ろす赤い瞳は、きっとスコールが最後の移動をする直前から、追って来ていたに違いない。

直ぐに体勢を整えなければ、とスコールはガンブレードを握るが、川に沈んだ体は岸上まで持ち上がらない。
少しでも力を入れようとすると、喉の奥から要らない空気が押し出されて、噎せ返ってしまう。
水も冷たく、体が冷えて行く一方で、こんな状態で攻撃されたら避ける事も出来ない、と思っていると、しゅるりと何かがスコールの肩に絡み付き、ぐいっと体を持ち上げた。


「なっ……」
「ほれ。これで良いか」
「……!?」


突然の浮遊感に目を瞠っている間に、スコールの体は水から引き揚げられた。

両の足を立てて岸に下ろされたスコールだったが、先の戦闘のダメージも残っている為、碌に力は入らなかった。
ふらりと膝が崩れると、肩に絡み付いたままの触手が体の重みを持ち支えつつ、ゆっくりとその場に座らせる。

けほ、けほ、と咳を零しつつ、これはどう言う事だ、とスコールは頭を混乱させていた。
戦っていた敵に助けられて、その敵が横から此方を見下ろしている。
油断させて攻撃するつもりか───とも思ったが、暗闇の雲は、ただただそこに佇んでいるだけだった。


(なんだよ、これ……)


ジェクトのように、単純に見兼ねて助けた、と言う訳ではないだろう。
ゴルベーザであれば、これもまた身内を持つ敵として、捨て置く事を厭ったとも考えられる。
後は卑怯な戦法を嫌う───と言っても、命を懸けた戦いであればそれも厭わないが───ガーランドも、こうした行動は考えられなくもない。

しかし、暗闇の雲である。
他の混沌の戦士のように、何某かの狙いを持って行動しているとも、いないとも、判断の付かない相手。
呼吸を整える事に集中するスコールを見詰める暗闇の雲は、じいと様子を眺めているだけで、さっきまでスコールに何度も噛み付いて来た触手すら、退屈そうにふわふわと浮かんでいるのみ。
きっとスコールが攻撃の意思を見せれば、直ぐに噛み付いて来るのだろうが、そうでなければ大人しいものであった。

胸の奥の息苦しさがなくなって、スコールはふう、と一つ息を吐く。
それからスコールは、傍らに佇んでいる妖魔を見上げ、


「あんた……戦闘はもう良いのか」


律儀に此方の戦闘態勢を整うのを待つタイプとも思えなかったが、一応、確認の為に訊ねてみる。
すると暗闇の雲は、「ふむ……」と顎に白い指を当てて思案するように沈黙し、


「そうじゃな。もう十分じゃろう」
(……何が十分なんだ?十分遊んだって事か?)


問いに対する答えに、スコールは勘繰るようにそう考えて、眉根を寄せる。
遊びだと思って相手をされていたのなら腹が立つ───が、これ以上戦闘が長引かないのはスコールにとって幸いだった。
波動砲を食らったダメージ然り、水の中で冷えてしまった体然り、これ以上の戦闘はスコールにとって悪手でしかない。

暗闇の雲は好んで姦計を計る事は少ないが、その可能性は皆無ではない。
だからスコールは警戒は解かなかったが、もう戦わないのなら、と気持ちだけは切り替える事にした。

ぐっしょりと濡れたジャケットを脱いで、ぎゅうっと絞る。
ぼたぼたと溢れ出した水が地面を濡らすのを見て、スコールは舌打ちした。
額に張り付く前髪を掻き揚げながら、スコールは立ち上がり、僅かにふらつく足で日当たりの良い場所を探す。
幸い、浮遊大陸は、文字通り雲の上に存在する場所であるらしく、余り天気の移り変わりと言うものはない。
適当に見付けた岩の上にジャケットを放って、スコールは白いシャツを脱いで強く絞る。


「難儀だな」


聞こえた声に振り返ると、ふわふわと浮かびながらついて来ていた暗闇の雲がいる。
こいつは何処までついて来る気なんだろう、と思いつつ、スコールは溜息を吐き、


「誰の所為だと思ってるんだ」
「儂か?」
「他にいないだろう。あんたに吹っ飛ばされたんだ」
「そうだったな」


睨むスコールの言葉に、暗闇の雲はあっさりと頷いた。
それで反省でもあるのかと見れば、彼女の表情はいつものものと全く変わらない。
無駄な期待だった、と何度目になるか判らない溜息を吐いて、スコールは水気を絞ったシャツを着直す。

正直に言うと、ズボンも下着も脱いで干したいが、この状況で流石にそれは出来ない。
戦場で無防備な格好になる事への危惧は勿論、他人がいる状況で、スコールが裸になれる訳がないのだ。
せめて少しでも早く乾いてくれれば、と日当たりの良い位置を確保して、傍らの岩に寄り掛かる。

掻き上げていたスコールの髪が、滑り落ちるように流れて、また額に頬に張り付く。
鬱陶しい、とスコールが何度もそれを手櫛で持ち上げていると、ふっと視界に影が落ちた。
日向を確保していたいのに、と影を作る人物を睨むように見上げると、思っていた以上に近い距離に、妖魔の整った顔があった。


「……!」
「ふむ……」


赤い唇が目の前にあるのを見て、スコールは息を飲んだ。
じい、と見詰める眼は、スコールの顔をじっくりと眺め、観察している。

其処にいるのが“敵”であると、ようやくスコールは思い出す。
離れなければ、と足元に力を入れて飛ぼうとして、細長いものがしゅるりと其処に絡み付いて来た。
しまった、と足元を見ると、暗闇の雲が常にまとわりつかせている触手の一匹が、スコールの太腿に巻き付いている。
切り捨てなければ、と咄嗟に手がガンブレードを求めようとするが、


「待て。見ているだけだ」
「は……!?」
「ふむ……」
「!おい、ちょっと、こいつ……!」


まじまじと顔を覗き込んでくる暗闇の雲。
それに釣られるように、もう一匹の触手がスコールの肩に絡み付き、丸い頭をスコールの顔に寄せて来る。
触手はスコールの喉さえ一噛み出来る距離にいて、スコールは迂闊に攻撃体勢に入れなくなっていた。

身動きできないスコールを、暗闇の雲はじっくりと具に観察している。
触手の頭は、犬のようにふんふんと鼻───あるのか微妙だが───を鳴らし、スコールの肌を嗅ぎ回っていた。


(なんだよ、これ……)


混乱が許容値を越えて、スコールの体はいつの間にかぐったりと力を失っていた。
寄り掛かっていた岩に、乗るように背中を預けて、這い回る触手の好きにさせている。
この状況から波動砲を食らったら、間抜け以外の何物でもない。
かと言って、振り払うには目の前の敵の様子が余りにも奇妙で、スコールは戦う為の気力をごっそりと削がれた気分だった。

暗闇の雲の顔が離れると、触手も満足したように、スコールの体から管を解いて離れた。
やっと終わった、とスコールが体を起こすと、暗闇の雲はふわりと浮いて、


「以前、お前とよく似た顔を見た気がするな」
「……俺と……似た?」
「ふむ……興味深い。また次にじっくり見せて貰うとしよう」
「またって────」


暗闇の雲の言葉に、どういう意味だ、次ってまたこんな事するのか、とスコールが問う前に、彼女の姿は既に消えていた。

一人取り残されたスコールは、白雲に包まれた世界を見詰めた後、ぱたりと岩の上に横たわる。
もう勝手にしてくれ、と体を投げ出したスコールに、燦々と暖かな陽光が降り注いでいた。





3月8日と言う事で、思い付いたので書いてみた暗闇の雲×スコールと言う代物。

DdFFで雲さんはラグナとちょっと絡んでいたので、薄ぼんやりとでも覚えていたら面白いなって。
あと自由に行動する雲さんに振り回されているスコールが見たかった。
暗闇の雲の触手に懐かれているスコールとかも見てみたかった。
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