Date... - 07.14 10:00−

今日はフランスの誕生日で、国内のあちこちでそれを祝う行事が行われる。
国という存在は国民には公にされていないので、フランス自身が式典やイベントに参加することはない。
そのためいつもより少し遅めの時間にのんびりと起きだして朝食を済ませたあと、窓の外に目線を向けると雲一つない青空が広がっている。
いい天気だ。
天候にまで祝福されているようで気分がいい。
今年の誕生日もゆっくり過ごせそうだ。

今日はイギリスは何時頃に来てくれるのかな、と考えて、ふと昨夜の天使の襲撃を思い出した。
あれは一体なんだったのだろう。
いろんな奴が祝いに来るとかなんとか言っていたが、今のところはなにごともなく至って平穏である。
もしかして夢でも見たのかな……っていうか、どうせ夢ならもうちょっと色気のある夢の方がよかったなぁ、などと考えていたとき、ポーンとチャイムが鳴った。

きっとイギリスだろうと思い、フランスは足早に玄関へ向かう。
ばぁん、と勢いよくドアを開け、 「待ってたぜ、イギリス! 愛してるよ」 と恥ずかしい科白付きで出迎え、玄関に立っていた人物をぎゅうっと抱き締めた。
……が、すぐに違和感に気が付いた。
抱き締めた身体はイギリスにしてはやけにがっしりした体型だし、背もフランスより高い。
確実にイギリスじゃないなこれ、と冷や汗が背に滲んだところで訪問者の冷たい声が聞こえた。

「……なんなんだい、一体。暑苦しいなぁ、早く離れてくれよ!」

ぐいぐいと肩を押し返され、さっきまで抱きついていた相手の顔を見てフランスは「あ」と声を上げる。
朝一番に訪ねてきたのは、意外にもアメリカだった。

「なんだよ、お前がうちに来るなんてめずらしいな」

アメリカから身を引いてそう言うと、彼は手に持っていた紙袋から箱を取り出してフランスに差し出した。

「君、今日誕生日だったよね? この前俺の誕生日に美味しいお菓子をたくさん送ってもらったから、これはお礼なんだぞ」

「えー……ええっ……俺に?」

アメリカから誕生日をプレゼントをもらえるとは夢にも思っていなかった。
いつもフランスの話は聞かないし、誕生日だって今まではせいぜい電報をよこすくらいでわざわざ祝いに来ることなんてなかったので本当に驚いた。
イギリスほどではないが、フランスにとってもアメリカはかわいい弟分である。
誕生日を祝いに来てくれたことが嬉しくないわけがない。
なんとも言えずにじーんと胸が熱くなった。

「なんだい、変な顔して。受け取ってくれないのかい?」

「いや、…嬉しいよ。ありがとな、アメリカ」

素直にお礼を言ってアメリカの手から箱を受け取る。
滅多にないことだから、なんだか妙に照れくさい。
それはアメリカも同じだったようで、いつもよりさらに高いテンションで 「早速開けてみてくれよ!」 と急かされた。
手に持った箱はそれなりに重みがある。
祝ってくれる気持ちは嬉しいが、味覚もセンスもイギリス譲りのアメリカなので、プレゼントの中身にはあまり期待はせず箱を開けた。

「……なにこれ?」

箱を開けるなり、フランスは思い切り顔をしかめる。
中に入っていたのはアメリカ国旗が全面にデコレートされた、毒々しい色のバースデーケーキだった。
上に乗ったチョコレートのプレートには 「7/14 Independence Day」 と書かれていて、よく見ると4の前に無理矢理「1」を書き足しているのがわかる。
明らかにアメリカの誕生日に作った残り物だ。

「おまっ…、これどういう嫌がらせ?! なんなんだよ、この残り物感丸出しのプレゼントは!」

「嫌がらせなんて心外だな! まだ冷蔵庫に残っててもったいないから、わざわざ持ってきたんだぞ」

フランスの反応にアメリカは不満げに頬を膨らませている。

「なに人に残飯処理みたいなことさせようとしてんだよ! 大体お前の誕生日って十日前だろ、賞味期限的なものはとっくに過ぎてるだろうが!」

「心配性だなぁ、問題ないさ! 多分ね!」

まったくもって大丈夫じゃない答えだ。
心なしかケーキから酸っぱい匂いがしているし、星条旗の派手なデコレートでカビが目立っていないだけのような気がする。
さすがにこれを笑顔で受け取れるほど、フランスの心は広くない。
アメリカには悪いがこれは即ごみ箱行きだ。

「ああもう…、喜んだ俺がバカみたい…」

深い溜息を吐いて箱にふたをすると、アメリカはわざとらしい咳払いをして袋の中からもう一つ小さな箱を取り出した。

「…? なんだよ、また腐ったケーキか?」

「違うよ。別にいらないならいいよ、俺が食べるから!」

出した箱をまた袋の中にしまおうとしたアメリカの腕をとっさに掴んで、彼の手にある箱をそっと受け取る。
箱を開けると中には小さいケーキが入っていた。
もちろん変な匂いもしないしカビも生えていない。
ケーキの表面には、洗練されたデッサン力で大胆にデフォルメされたニューヨークじこみの斬新でなおかつキュートなアメリカンポップアートで素敵に表現された、フランスの似顔絵らしきものが描かれていた。
相変わらずセンスのない絵だな、と思ったが、このケーキは本当にアメリカがフランスのために用意してくれたものだ。
嬉しくて目の奥がじんわりと熱くなる。
アメリカも恥ずかしいのかわずかに頬を染めていた。

「お前にこんなふうに祝ってもらえるなんて思わなかったな。嬉しいよ」

「そっ、そうかい? まぁ喜んでもらえたなら良かったよ。じゃあ俺は帰るよ」

「なんだ、上がっていかないのか?」

嬉しいプレゼントのお礼にお茶とお菓子くらいは出してやろうと思ったのだが、アメリカは肩をすくめて言った。

「どうせこのあとイギリスが来るんだろう? 顔を合わせるといろいろとうるさいからね、今日は帰るよ」

「そっか。気をつけて帰れよ」

「うん、……っていうか君、イギリスを出迎えるときいつも抱き締めたりしてるのかい? 気持ち悪いからやめてくれよ」

顔をしかめてそう言って、アメリカは帰って行った。
まだ彼が小さかった頃はイギリスといちゃいちゃしていると嬉しそうににこにこしていたのに、今は思春期の少年のような反応をしてくれるのがなんとも微笑ましく思える。
みっともないからやめてくれよ、と言いながらも、ケンカするよりはいいけどね、と照れたように付け足すのだ。
こういう素直じゃないところは本当にイギリスにそっくりだ。
そんなことを言ったらアメリカは冗談じゃないよと憤慨するだろうが、やっぱり二人は兄弟だなぁと実感する。

それにしてもアメリカが誕生日を祝いに来るなんて、どういう風の吹き回しなのだろう。
そういえば昨夜イギリス……否、ブリタニアエンジェルが、いろいろな奴らが祝いに来ると言っていた。
あれが事実ならアメリカがやってきたのも納得だ。
あれってマジだったんだ……とフランスは脱力し、またも大きな溜息を吐いてアメリカにもらったケーキを手にリビングに戻った。