Date... - 07.14 15:00−
…まだイギリスは来ない。
もう誕生日の半分が終わってしまったというのに、一体何をしているのだろう。
仕事が入ったなら連絡の一本もよこすだろうし、なんの音沙汰もないのが気になった。
「早く来いよ……誕生日終わっちゃうじゃん…」
傾き始めた太陽を見てぼやくように呟いたとき、またもチャイムが鳴る。
ぱっと素早く身を起こし、今度こそイギリスだろうとばたばたと慌ただしい足音を立てて、フランスは玄関まで走った。
訪問者を確認する暇も惜しんで勢いよく扉を開け、 「愛してるよイギリス!」 という今日二度目の盛大な愛の告白とともにドアの前に立っている人物を抱き締めようとしたところで、むぎゅ、と柔らかい感触の何かが間に割り込む。
なんだこの邪魔者は、と一度身を引くと、目の前にいるのは実にかわいらしい顔をした白いクマのぬいぐるみだった。
「え? あれ…? クマ…?」
フランスにクマの知り合いなどいない。
思わず眼前のクマを凝視していると、クマの後ろから聞き覚えのある声がした。
「フランスさん、こんにちは。僕ですよ。…イギリスさんじゃなくてすみません」
困ったように眉尻を下げ、ぺこりと申し訳なさそうに頭を下げたのはカナダだった。
アメリカに続いて、カナダにまで格好悪いところを見せてしまって、フランスはかーっと頬を染めた。
慌てて背を伸ばして真っ直ぐに立ち、わずかに乱れた髪を直して小さく咳払いをする。
「あー、悪いカナダ。イギリスの奴まだ来てなくてさ、イギリスかと思って…」
照れ笑いを浮かべてそう言うと、カナダは苦笑いで答えた。
「相変わらずなんですね。ちょっと安心しました」
言いながら、カナダは両腕に抱いていたクマを抱え直し、手に持っていた袋を差し出す。
「今日、誕生日ですよね? これ、プレゼントです」
「おー、ありがとう。開けていい?」
「どうぞ」
袋の封を丁寧に開けて中に入っているものを取り出すと、出てきたのは赤い葉っぱのマークがついた、お馴染みのあれだ。
「メープルシロップかぁ。カナダんとこのは美味いんだよな。ありがたく使わせてもらうよ」
「はい。ところで、……イギリスさん、まだ来ていないんですか?」
辺りを見回し首を傾げて問うカナダに、フランスは溜息を吐いて肩をすくめた。
「ん? ああ……まだなんだよ。俺の誕生日を無視して、まったくなにやってんだろうな、あいつは」
「あの…、実はさっきここに来る途中でイギリスさんを見かけたんです。だから僕より先に来たんじゃないかと思ったんですけど」
「えっ」
予想外のカナダの言葉に驚いて、危うくプレゼントのメープルシロップを取り落としそうになった。
「なに、あいつこっち来てるのか?」
「ええ、…駅で見ました。フランスさんの家の方に走って行ったので、もう来てると思ってました」
パリの街にもフランスの自宅にも、もう何度となく来ているのだから迷子になることはありえないし、こっちに来ているのなら急な仕事が入ったということもないだろう。
さっさと訪ねてくればいいものを、どこで油を売っているのかと嘆息する。
「しょうがねえなぁ…。もし帰りにあいつに会ったら、早く来いって伝えといてくれる?」
「わかりました。それじゃ僕はこれで」
礼儀正しく頭を下げ、クマを両腕に抱えたままカナダは帰っていった。
クマがなにやら言葉を話していたような気がするのは、多分気のせいだろう。
カナダを見送ったあと、リビングに戻ったフランスはソファに腰掛けてそのまま横になった。
こっちはいつ来るのかとずっと待ち侘びているというのに、どうして早く来ないのか、今年はなんともやきもきさせられる。
去年の今頃は昼間からベッドでいちゃいちゃして、毎日誕生日だったらいいのに、というくらい幸せな時間を過ごしただけに、このギャップについていけない。
…というかひたすらむなしい。
なんの焦らしプレイなんだよ、とイギリスの代わりにクッションを抱いて、寂しい気持ちを紛らわせた。