Date... - 07.14 18:00−
「…………来ない……」
リビングのソファに横になったまま、フランスは時計を見つめて絶望的な声を出した。
あれから二時間以上も経つのに、イギリスが訪ねてくる気配はまったくない。
すでに陽は落ちて、フランスの誕生日はあと数時間しか残っていなかった。
携帯も沈黙したままで、彼からメールの一つも届かない。
カナダが姿を見たというのだから、イギリスがこっちに来ていることは間違いないはずなのだ。
来ているくせに顔を出さないのはどういうわけなのだろう。
いっそのことこっちから連絡を取ってみようかと、フランスは手中の携帯をいじりながら考える。
しかしこちらから連絡をして呼び出すのは、あまり気が進まない。
自分たちは恋人として付き合っているわけだし、自分から祝って欲しいと言わなければ誕生日にも会いに来てくれないなんて、それはいくらなんでも寂しすぎる。
イギリスが恋人同士の付き合いに、それほど慣れていないことは知っている。
そして大事に想う相手には彼なりに一生懸命、多くのことをしてくれるのだけれど、それが空回りに終わるのもまたお約束だ。
ついでに空回りなのは今回も例外ではないらしい。
フランスはイギリスに多くのものを望んでいない。
望むとしたら、いつも、いつまでも自分の隣にいて欲しいという、至ってシンプルなそれだけのことだ。
誕生日を祝うのに、奇跡の力だなんて大げさなものはいらない。
そんなものを使ってまで祝おうとしてくれる彼の気持ちは本当に嬉しいけれど、それよりも傍にいて手を繋いでキスをしたいのだ。
けれどもイギリスが今回のような変わったお祝いをしようと考えたのは、一緒に過ごすだけでいいというフランスの気持ちがまだきちんと彼に伝わっていないせいもある。
これはフランスが悪い。
自分の愛情表現が足りなくて、傍にいるだけじゃだめだとイギリスに想わせてしまったのなら愛の国失格だ。
もっともっと自分の思いや望んでいることを伝えて、傍にいてくれるだけで十分なのだと教えてやらなくてはならない。
そんなことを考えていると、早くイギリスに会いたくなった。
ブリタニアエンジェルの奇跡で、朝からいろいろな国がお祝いに来てくれているけれど、本当に来て欲しい相手が来ないのでは意味がない。
何度も時計を見て、少しずつ短くなっていく残り時間に溜息を吐いたとき、今日何度目かになるチャイムが鳴った。
今度こそイギリスが来てくれたのだろうか。
期待半分、あきらめ半分の微妙な心境で玄関に向かう。
「ハハハハ、ようフランス! 今日は誕生日なんだってな。俺様が祝いに来てやったぞ、どうだ嬉しいだろ?」
偉そうに腕を組んで玄関に仁王立ちしているのはプロイセンだ。
イギリスじゃなかったことにがっかりして、フランスの反応は紙のように薄い。
「ああ……うん……ありがとな。じゃ…」
最低限のお礼だけ言って扉を閉めようとすると、閉じかけたドアにプロイセンの手がしっかりと挟まれて、無理矢理開こうとする。
「せっかく来たのにそれはねえだろ! 祝いに来たって言ってんだろ?!」
「まぁ…ありがた迷惑だけど、一応礼は言っとくよ。じゃ…」
再び扉を閉じようとするが、プロイセンの手ががっちり挟まれていて閉められない。
「もー、なんなんだよ。祝いに来たとか言うわりに手ぶらじゃねーか」
全力で扉を閉めることを阻止しているプロイセンは明らかに身一つで、手にはなにも持っていない。
プレゼント欲しさに言ったわけではないが、受け取るものがないなら祝いの言葉に礼を言ってやり取りは終わりだ。
イギリスがいつまで経っても訪ねてこないから、今はあまり気持ちにも余裕がないのでいつものようにプロイセンのノリに付き合えない。
しかし彼はニヨニヨと自信満々に笑っている。
「なに言ってんだよ、他の奴らがどんなプレゼントを持ってきたのか知らねーけど、俺のが一番だと思うぜ?」
そうは言うがプロイセンはどこからどう見ても手ぶらだ。
フランスが不可解そうに眉をひそめると、彼は少し乱れた髪をささっと直していい笑顔で言った。
「俺様のかっこいい笑顔がプレゼントだよ! ほら好きなだけ拝んでいいぜ? 今日は特別に写真も撮らせてや」
「帰って下さい」
フランスはプロイセンの話を最後まで聞かず、彼の身体を外に押し出して扉を閉めると鍵もかけた。
表から 「なんだよー、冗談だって! おーい……」 とプロイセンの声が聞こえたが、今日はスルーさせてもらうことにする。
かなり素っ気なく対応してしまったが、彼の相変わらずな言動に少し元気が出た。
今度会ったとき、ちゃんとプロイセンに今日のお礼を言うことにしよう。
フランスは時計を見るのをやめて、キッチンでようやく夕食の支度を始めた。