Date... - 07.14 23:00−
フランスは日本からもらったCDを眺め、表面に「R-18」と記載があるのはどういうわけなのだろうと眉をひそめる。
イギリスがいないときにプレイした方がいいと言われたので、今のうちに少し遊んでみようかとリビングにノートパソコンを持ち込み、早速ゲームを始めてみることにした。
ゲームを起動してスタートボタンをクリックすると、見慣れたパリの街の風景画像とそれに合わせて文章が表示される。
「おー、すごい。本格的だなぁ」
まだゲームを始めたばかりだが、出てきたグラフィックだけでかなり完成度が高いとわかる。
さすがは日本だ、と感心しながら話を進めていった。
ゲームはフランスの視点で物語が進行していき、先へ進めるとようやくイギリスが出てきた。
キャラクターの絵はアニメっぽい感じにデフォルメされていて、多分日本が描いたのだと思うがイギリスのグラフィックはとてもかわいい。
そして特徴のある太い眉毛もきちんと再現されているのでよく似ている。
『べ、別にお前の誕生日を祝いに来たんじゃないんだからな! 勘違いすんなよっ』
ゲームの中のイギリスは本物とまったく同じ言動をする。
今日は本物のイギリスに会えなくて寂しい思いをしたせいか、フランスはすっかりゲームの中のイギリスに夢中になった。
途中、何度かゲームオーバーになりながらも、なんとか二人きりでいい雰囲気になることが出来た。
『…なぁ、プレゼント、受け取ってくれるか?』
画面の中のイギリスが緑色の瞳をきらきらと潤ませてこちらを見上げている。
ありえないほどのかわいらしさだ。
出てきた選択肢の「喜んで受け取る」を迷わず選ぶと、ゲームの中のイギリスは嬉しそうに頬を染め、同じくゲームの中のフランスに縋り付いてキスをする。
『俺がプレゼントだって言ったら、……受け取ってくれるか…?』
「えっ」
現実には絶対にありえないイギリスの発言に、素でおかしな声が出てしまった。
一気に心音が速まり、ドキドキと脈打つ。
そこで「受け取る」と「受け取らない」と選択肢が二つ出てきたが、これは選択肢は不要だ。
この展開で受け取らないなんてありえない。
当たり前のように「受け取る」を選ぶと、そのあとはR-18の表記にふさわしい展開が待っていて、ドイツとイタリアが妙な反応をしていたのはこのせいか、と理解した。
一通りゲームをプレイして、時計を見るとあと一時間ほどで誕生日が終わる時間になっていた。
結局イギリスは来なかった。
フランスはこのゲームみたいに彼と二人きりで一緒に過ごしたかっただけなのに、どうしてこうなってしまったのかと項垂れる。
もう意地を張るのはやめて、素直にこちらから連絡をしてみようかと携帯に手を伸ばしたとき、チャイムが鳴った。
「………!」
今日はもう鳴らないと思っていたチャイムの音を聞いて、心臓が大きく震える。
時間的にも最後の訪問者になるだろう。
これがイギリスじゃなかったら、ショックで明日は仕事なんか手に付かない。
よってストライキだ。
玄関に向かったフランスは、半ば祈るような気持ちでゆっくりドアを開けた。
「……よお」
そこに立っていたのは、今日一日来るのをひたすら待ち続けていたイギリスだった。
ブリタニアエンジェルじゃなく、普通のイギリスなことにほっとする。
「……やっと来た。どこフラフラしてたんだよ。俺ずっと待ってたのに」
思い切り拗ねた口調で言うと、イギリスはほんの少し目元を赤く染めて言った。
「な、なんだよっ、今さっきこっちについたんだよ! 俺はお前と違って仕事が忙しいんだからなっ!」
もっと早くから来ていたくせに、彼はすぐにばれる嘘を吐く。
なんですぐに来てくれなかったのか、聞きたいことや言いたいことはいろいろあるけれど、ようやく顔を見せてくれたのだ。
今は余計なことは言わずに、来てくれたことを素直に喜べばいい。
「…お前が来るの、待ってた。待ちくたびれて泣きそうだった」
そっとイギリスの身体を抱き締めると彼はほんの少し身を固くしたが、いつもみたいに殴りつけたりはしなかった。
「きょ、今日はいろんな奴が祝いに来たじゃねえか……泣きそうってなんだよ、ガキかお前…」
「うん。みんな来てくれて、すごく賑やかだった。でもイギリスがいなくて寂しい誕生日はもういらないよ。俺を祝ってくれるお前の気持ちは本当に嬉しいと思うけど、……来年はもっと一緒にいて欲しい」
ぎゅ、と抱き締める腕に力を込めると、イギリスも遠慮がちにフランスの背に腕を回してぽつりと呟く。
「……今年だって、まだ終わってねえだろ」
消え入るような声音の言葉に、フランスはたまらず破顔をした。
彼の手を引いて家の中に通し手を繋いだままリビングへ向かう。
「今お茶淹れる。ちょっと待ってて」
「じゃあ、……これやる。すげえいい紅茶なんだから、大事に飲めよ」
お茶の用意をしようとフランスがキッチンに足を向けると、イギリスは慌てて鞄から紅茶の缶を取り出した。
これもプレゼントの一つなのだろうか。
さっきのゲームのように「プレゼントは俺」なんてあるわけないか、と思いつつ、彼がちゃんと誕生日の当日に来てくれたことと、祝ってくれる気持ちだけで十分嬉しい。
「そうだ、アメリカがケーキ置いてったんだよ。これで紅茶淹れて、一緒に食べようぜ」
「し、仕方ねえな……もう夜も遅いし、今晩俺を泊めるなら……紅茶くらい淹れてやらないこともないぞ…」
願ってもないイギリスの科白に、彼が訪ねてきてからフランスの心臓はドキドキしっぱなしだ。
断る理由などあろうはずがない。
「いいよ、好きなだけ泊まってけば…!」
ちょっと興奮してつい上擦った声が出てしまうが、イギリスは目線を下げて頷く。
「…ん、……じゃ、じゃあ…紅茶淹れてきてやる」
顔を赤くして席を立ち、キッチンに向かったイギリスはテーブルの前で足を止めた。
「あれ…? なんだこれ」
「なに?」
立ち止まって彼が凝視しているのは、出しっぱなしにしていたノートパソコンだ。
その画面を見て、イギリスの顔が怒りに引き攣る。
さっきまで頬を染めていたのと同一人物とは思えない、恐ろしくドスのきいた声が発せられた。
「おい……なんだ、これは?」
「え…? げっ!」
彼が見ているノートパソコンの画面を覗き込むと、そこには消し忘れたゲーム画面がそのまま表示されている。
あろうことかゲームの中のイギリスは、両足を大きく開いて俺にしがみついて受け入れていた。
『あっ、…ぁん、フランスっ……好き、…』
『俺も愛してるよ、イギリス……最高のプレゼントだ…』
『ばかぁ…』
エロシーンのグラフィックがどーんと思い切り開きっぱなしになっていて、そんな恥ずかしいテキストまでもが表示されていた。
それを見たイギリスの顔がみるみるうちに羞恥と怒りで歪んでいく。
……完全に死亡フラグだ。
「いや、それ違うから! 日本が誕生日プレゼントにくれたやつ!」
「うるせえこの変態野郎! てめえみたいな変態はゲームで抜いてろばかぁ!!!」
イギリスはノートパソコンを力任せに引っ張り、それをフランスめがけて投げつけた。
コードがぶちぶちとすごい音を立てて引き抜かれていたが、今はそれを心配する余裕などない。
「ちょっ、…物投げるなって! しょうがないだろ、お前が来なくてお兄さん寂しかったんだもん!」
「知るか変態!!!!!!!!!!!!!!!!!」
投げつけられたノートパソコンは壁に激突して大破した。
最後までついてないフランスの今年の誕生日は、もう間もなく、無情にも過ぎ去ろうとしていた。