※赤い文字色のページには性描写があります
今、自分は昼下がりの学生食堂の隅の席に座っている。その日も彼は自分の昼食代わりの差し入れと引き換えに分けてくれる弁当を裏返した蓋の上に乗せていた。手際良く箸を動かす彼の姿を眺めつつ、自分は周りに人がいない事を確認し、恐る恐る小声で問う。
「暮羽さん、あの時の事……その、監禁されてた時の事、覚えてますか?」
自分の一言に彼は一瞬苦い顔をし、その苦味を残した笑顔でこちらを見た。
「お前、嫌な事思い出させンのな。忘れてェけど、忘れられねェよ。で、それがどうかしたのか?」
「思い出させてすみません」
まずは謝罪。そして、本題へ。
「でも、どうしても聞きたい事があって。後悔してません? あの時、絡まれてた俺を助けようとしたから、暮羽さんまで拉致されてあんな目に遭って」
彼はフッと軽く笑い、弁当箱の中のコロッケに箸を入れた。
「お前を助けなければ良かったと思った事なンざ一度もねェよ。今でも、無視して立ち去らずにお前を助けようとした俺の選択は正しかったッて思ってンだぜ?」
「な、何で、そんな……その後も、俺を庇って酷い事されたのに……」
自然と声を震わせる自分を彼は上目で一瞥し、小さく肩をすくめる。
「ホント、何でだろうな」
理由を知られたくないのか曖昧な言葉で茶を濁そうとする彼だったが、無言でじっと見詰めて返事を待つ自分に改めて微苦笑し、半分に割れたコロッケを蓋に乗せながら観念したようにポツポツと続けた。
「あの時な、お前の笑った顔が頭をよぎったンだ」
「?」
「お前は、他の奴と違って俺に普通に声をかけてくれる。打算とかナシで純粋に俺に笑いかけてくれる」
「……」
それは、貴方が好きだから。言いたい言葉をまたしても飲み込んでしまった臆病な自分に気付いていない様子で彼は少し照れ臭そうに言った。
「何か、その笑顔を思い出した瞬間に俺が身代わりにならねェとって自然に思った。お前のその顔を失いたくなかったンだろうな」
「え?」
捉えようによっては愛の言葉に聞こえなくもない彼の台詞につい顔を熱くする自分に弁当の半分が乗った蓋を差し出して、彼はへらっと笑った。あぁ、久し振りに見るその笑顔。顔の熱が胸に移るのを感じる中、彼は笑顔のまま言う。
「お前は気付いてねェンだろうが、俺はお前のその笑顔に結構救われてン
……………………
「……!」
はっと眼を開けると、舞台は燦々とした食堂から陰湿な地下牢に戻っていた。何があったのかと身を起こすと、毛羽立った古毛布がずり落ちた。……全て、優しくも残酷な夢だったのだ。風薙は長嘆し、俯く顔を両手で覆った。
夢の中の暮羽の温かな言葉だけが頭にこびりついて離れない。あの言葉は自分の願望なのか、それとも、未だ別の獄にいる彼からテレパシーでも発信されたのだろうか。
今や完全に理性を失ってしまい、まともな会話すら余り出来なくなってしまった彼からの。
邪欲に煽られるままに暮羽を辱めたあの日。
自分を翻弄していた興奮や劣情を精と共に吐き尽くし、空っぽになった頭に長い間追放していた理性を漸く帰還させた風薙は、暮羽に対して行った残酷で低俗極まりない行為を思い返した瞬間に、彼への強い罪悪感と己への憤怒と憎悪に声高く絶叫し、仰臥したままの暮羽の胸に取り付いて啜り泣いた。
その時、彼は何も言わず、微動だにせず、ただボンヤリと虚ろな泣き笑いを浮かべていた。今までの彼なら、優しい一言をかけてくれ、頭や身体を撫で擦って慰めてくれていたのに。
余りにも異常な彼の様子に風薙は背筋を凍らせ、懸念した。彼は、壊れてしまったのではないだろうか。
風薙の嫌な予感は的中したらしく、その日を境に彼は坂を転がり落ちるように変貌していき、あの非道な者達にとって理想的な“雌”に成り果てていった。
そして、今も。
「んっ、あ、あんっ
んうぅうう
」
格子越しに見える暮羽の背中や腰が艶かしく揺れる。彼は自分に背中を向けていたが、その手の動きと淫猥な水音から、彼が自分自身の穴を玩弄している事が容易に分かった。風薙の困惑の視線も感じぬ様子で左手を勢い良く揺すり、腰も自然と激しく跳ねる。
「ひ、ひうぅっ! き、気持ちいいッ、アナニー、やめらンねェ!! あ、穴だけでッ、ケツ穴ほじってるだけで、イクいくイクッ
あ、あんんんッ!!」
叫ぶ暮羽の顎が上向き、大きく開いた両足の指がギュッと丸まったかと思うと、雄種の匂いが風薙の鼻腔にまで漂ってきた。
「はぁーはぁー……
あ、あぅん、んちゅっ
ちゅっ
んぅー……
」
かと思うと、その手の人差し指から薬指へと一本ずつ口に含んでチュウチュウと音を立てて吸い舐る。そんな彼にどうする事も出来ず、だがその目を離す事も出来ずに、辛そうに悲しげに眉を顰めて暮羽を見詰める風薙だったが、何かに気付いて目を剥いた。暮羽のぽかんとした眼がしゃぶってピンク色になった左手の指を暫し凝視した後、涎まみれの口をあんぐりと開けて、その空洞におずおずと左手を入れていく。
「く、暮羽さん! 駄目!!」
声高く叫ぶ風薙だったが、間に合わずに床に弾けた音に反射的に顔を逸らした。
「ぐ、ごほっ、うぇ! げ、げぇッ! うえぇええええ……ッ!! は、はぁぁああ……
はぁ
はぁ
」
胃液に塗れた唇を笑顔の形に歪めつつ、自ら派手に吐き散らした吐瀉物を見るその目は恍惚の一言で、一部始終をすがめた眼で見た風薙は唇が痺れるのを感じた。彼は嘔吐する事にさえ捩じれた性的快感を覚えるようになってしまったらしく、時折、こうやって自ら喉奥に手を突っ込んでわざと吐き戻すようになっていた。彼の左の拳の突起にクッキリ刻まれた吐きだこを見た風薙の視界がじわっと滲む。
あの左手は、かつて、自慢の制球力で並み居る強打者を軽々と討ち取ってきた自慢の左手だったのに。彼に呆気なく三振を奪われ、俯き加減でベンチに戻りながら悔しそうに睨み付けて来る相手を自信たっぷりの笑顔でねめ返す彼は誰よりも輝いていたのに。
正確な時間は分からないが、多分夜だと風薙は思う。とにかく、今宵も外道な奸賊達は気に入りの玩具で遊ぶ為に地下牢へと集まった。鉄格子の隙間からの見物を強いられる風薙の目の前で、暮羽が男達に囲まれるが、彼の瞳は脅えや怒りを浮かべていた以前とは打って変わって、期待と欲望に爛々と輝いていた。その妖光に触発されたかのように男達も興奮し、襲いかかり、品性の欠片も無い言葉を叫ぶ。
「おら、淫乱雌豚! 腹にどれだけガキ仕込んでんだよ!!」
「あ、あぁあ
み、皆さんの逞しい雄精子を全部受胎して、最低でも五匹は身篭ってます
つ、つわりが酷くてゲロ吐き捲ってるけど、頑張って生みます……
」
とんでもない質問に対するとんでもない回答に我知らず呻く風薙には目もくれず、四つん這いになって獲物を求める獣のように男肉を探して首を動かす暮羽のすぐ横に坊主の男が立って冷笑した。
「ケッ、わざと指突っ込んでゲェゲェ吐いてるくせによく言うぜ、このド変態が!」
「ぐッ!!! う、げぼぅえぇえ゛えええぇええ!!」
腹を思い切り蹴り上げられた暮羽の口から嘔液が噴き出した。それでも彼は一頻り、ごぼげぼと胃液を戻した後に自分を蹴った坊主男を見上げて万謝の笑みを捧げる。
「げ、げほ、うえッ……あ、あぁ、有難う、ございます……気持ち良く、してくれて、有難うございますゥ
」
「はははっ、淫乱でドMの雌豚とか最強じゃね?」
坊主の男の言葉に仲間達も嘲笑する中、暮羽の醜態に興奮を覚えたらしい別の男が既に破裂寸前の肉根を擦りながら暮羽の眼前に近付き、その照準を相手の顔に定めた。
「ほら、エサだ豚! お前の大好物のザーメンだぞ!」
「あっ
お、お願いします! 顔に、いっぱい、濃い奴かけてください……! は、は、早くうぅ!」
舌を目一杯伸ばして餌を待つ暮羽の顔に大量の精汁がぶつけられ、その衝撃と熱さに暮羽は陶酔しきった顔でプルプルと身を震わせる。
「あんっ! ひ、ひぃぃいいぃいん
せ、精子
せーしっ
」
舌の上に乗った子種をまずは飲み込んだ後、顔にかかった汁を指で掻き集めてぺろぺろと舐め啜っていた暮羽は、不意にあっと声を上げて床にひれ伏した。
「はぁっ……! はぁっ……! 床に、落ちた、ザーメン、もったいねェ
」
這い蹲って、コンクリートの上に散る白濁を躊躇無く舐め取る雌の痴態を男達はせせら笑い、それはそのまま大笑へと変わる。笑いの渦の中で、誰かが風薙に向かって大声で言った。
「ほら、よく見とけ後輩ちゃん! これがお前の憧れの先輩の本性だよ! ぎゃははははは!!」
「ち、違う!! 勝手な事を言うな!!」
精一杯の声で怒鳴り返す風薙は頭の中で続けた。こんなの彼の本性の筈がない。彼は、この長い地獄に耐え切れなくなって、一時的に自分を捨てたのだ。そうする以外にこの苦しみから逃れる方法がなかったのだ。
だが。
床を這っていた暮羽がふいと顔を上げ、その濁った双眸が獄の中の風薙の視線と重なり合った瞬間に彼は嬉しそうにニヤッと笑った。それは、自分の大好きなあの笑顔ではなく、獣の淫情に塗れた笑顔だった。彼は、強張った顔の風薙の目の前までズルズルと横這って、鉄格子に身体を猫のように擦り付けながら風薙の耳元で猫なで声で囁いた。
「か、風薙……
心配しなくても、風薙の、赤ちゃんも、ちゃんと孕ンでるから……
俺の、腹の中に、いるからな
」
そう言って、子を宿した母の如くへその辺りを愛しげに優しく撫でる暮羽の動きに風薙は息を呑み、瞠目した。この人、完全に、狂ってる? 風薙の大きな瞳に新たな涙が盛り上がったが、暮羽はニタニタと不気味と無邪気が入りまじった笑顔でそれを眺めるのみ。普段の彼ならば、少し前の彼ならば、心配そうに眉を顰め、案ずる言葉をかけてくれただろうに。
今の彼から出てくる言葉はと言うと。
「風薙
風薙も交尾しようぜ
ほら、もうこンなガバガバだから濡らさなくても余裕だぜ? 俺、風薙のちんぽならいつでも大歓迎だかンな
」
淫猥な台詞を吐く彼は自分に躊躇無く尻を向け、男達に強要され続けている内に慣れてしまったのか、器用に二本の指だけで後穴を拡げて見せる。其処は度重なる狼藉と普段から自分で乱暴に慰めている所為ですっかり赤く腫れ爛れているも、中は鮮やかな桜色だった。だが、その内部の肉襞に男の白い穢れがこびり付いている所まで(それは風薙の錯覚だったかも知れないが)見えてしまった気がした風薙は、深い悲しみと言い知れぬ吐き気を覚えて、無言で顔を横に向けてしまった。
その後も暮羽は淫辞を繰り返し紡いで風薙を誘い続けたが、彼が反応を示さないと知るや露骨に不機嫌そうな顔と声で言った。
「風薙ィ……しねェのォ? つまンね……じゃあ、他ン奴とするわ」
視野の端で彼は踵を返し、下卑た笑顔で待つ獣の群れへと飛び込んで行くのが見える。風薙は手を握り締めた。震える拳の内側で爪が刺さって血が滲む。
「はぁ、はぁ
あ、穴が、ケツ穴が、ウズウズして、もう、我慢、出来ねッ……あ、あぁあ!! ちんぽ! ちんぽ欲しい!! 誰でもいいから、ちんぽぶち込ンでくれェええええ!!」
「…………」
俺の尊敬する暮羽さん。貴方は何処へ行ったのですか。
「あ、あ、あ、あひいィいいいいぃいぃ!! に、二本ッ! いきなり二本挿し来たあぁああッ!! あん! あ! あん! あ!! す、す凄ェすげェしゅげェ!! ダブルアナルファック、マジすッげェえええぇええ!! も、もっと! もっともっともっと!! もっと、俺の、ゆるゆるケツマンぶっ壊れる位に乱暴に、掘ッ……あうひぃいいィぃいいい!! 本当に、壊れちまうゥうううぁうう
」
「は、はは……」
俺の憧れの暮羽さん。貴方はもう帰って来ないのですか。
「な、中ッ
中に出せよ
い、いえ、中に、く、くださいッ! ちんぽ狂いのさもしい淫乱雌豚マンコにお慈悲をくださいぃい!! お、おっ、おおおぉお! き、ききき来たッ
精子来た!! んあぁ゛ああ゛ァああぁあ゛あ!!! 同時中出し射精されてる!! ミックス精液ぶち込まれてッ、また新しい赤ちゃん孕ンじまううぅうう!! あぁあ゛あ
デキてる! デキてる! 身篭ってる!!」
「はははは……」
俺の大好きな暮羽さん。貴方はもう死んだのですね。
「あひっ
あっ
あおぁっ
ど、どうしよっ、種付けされながら種汁いっぱい出ちまってるぅううう!! ひやぁあぁあああん!! 止まンねェ止まンないッ気持ちよしゅぎて射精が止まンにゃいいいィぃぃいいィいい
」
俺の愛する暮羽さん。貴方を死なせたのは俺なのですね。
それなら、俺も、貴方と、一緒に―――
「あっはははははは!! あーっはっはっはっはっは!!!」
不意に風薙豹は高笑いを始めた。光を失った双眸から流れ続ける滂沱の涙も拭わずに、喉が割れんばかりの大声で、全身を激しく引き攣らせながら。
その悲痛な慟哭まじりの哄笑はいつまでもいつまでも狭い地下牢に轟いたが、別の男に四肢を絡ませて快楽を貪る事に没頭していた暮羽は一瞬たりとも彼に目を向けなかった。