トップ絵

コミケット77参加情報

■What’s New■
2009/12/2

コミックマーケット77参加情報・新刊情報Up

2009/11/1

SS書庫にMOON.SS「風と木の高槻」第4話Up

2009/10/24

SS書庫にMOON.SS「風と木の高槻」第3話Up

2009/10/16

SS書庫にMOON.SS「風と木の高槻」第2話Up

2009/10/9

SS書庫にMOON.SS「風と木の高槻」第1話Up

2009/10/2

SS書庫にMOON.SS「高槻くん、ハイ2〜精錬の間の死闘〜」Up

2009/09/25

SS書庫にMOON.SS「少女A〜とべとべおねいさん」Up

2009/09/18

SS書庫にMOON.SS「たのしい、せいかつ」Up

2009/04/03

SS書庫に東方project SS「野良犬とポリバケツ」Up

2009/04/01

SS書庫にAIR・MOONクロスSS「CROSS X FIRE」第18話Up

2009/03/10

SS書庫に東方project SS「肉饅頭」Up

2009/03/06

SS書庫にAIR・MOONクロスSS「CROSS X FIRE」第17話Up

2009/02/27

SS書庫にAIR・MOONクロスSS「CROSS X FIRE」第16話Up

2009/02/20

SS書庫にAIR・MOONクロスSS「CROSS X FIRE」第15話Up

2009/02/14

SS書庫にバレンタイン企画SS「チョコレート☆パニック〜高槻のバレンタイン大作戦〜」Up

2009/02/13

SS書庫にAIR・MOONクロスSS「CROSS X FIRE」第14話Up

2009/02/06

SS書庫にAIR・MOONクロスSS「CROSS X FIRE」第13話Up



■管理者お気に入りの一冊■
「怪奇クラブ」 アーサー=マッケン著
(創元推理文庫)
 19世紀末のロンドン。 親戚筋から分不相応な遺産を相続したおかげで、額に汗して糊口をしのぐこともなく、道楽暮らしに日々を空費する、文士気取りの男・ダイスン。 ある夜彼は路地裏で、必死の形相で逃げる若い男と、それを追うナイフを持った男に出くわす。 若い男は何かを道端に投げ捨てていくが、拾い上げてみるとそれは、非常に希少で考古学的な価値を持つティベリウス金貨だった。 そしてその日からダイスンと、彼の友人であるフィリップスの周囲には、謎めいた男女三人組の影が付きまとい始めるのだった――
 大都会の闇に潜む陥穽を描いた 「ロンドン綺譚」 であると同時に、超自然の怪異を描いた怪奇譚の連作でもあるという、二重の構造を持った 「一粒で二度おいしい」 小説です。
 プロローグから最終章へと繋がる、作品全体を貫く物語では、軽率な好奇心を抱いたがために闇に転落していく男の憐れな運命が、猥雑で活気に満ちた大都会ロンドンの風俗を交えて描かれています。 もちろんそれだけでも十分に魅力的な小説ではあるのですが、その間の各章で語られる様々な怪奇譚においてこそ、 「パンの大神」 の作者であるマッケンの本領は発揮されています。 中でも白眉といえるのは、 「黒い石印」 と 「白い粉薬のはなし」 の二つの挿話でしょう。
 「黒い石印」 に登場する癲癇持ちで白痴の少年クラドックは、“人ならぬもの”に犯された母親から生まれた身の上です。 考古学者グレッグ教授は、発作を起こした少年が口走る意味不明なうわ言と、四千年前の古代遺跡から発掘された石印に刻まれた文字との類似に気づき、少年の 『父親』 の秘密にせまろうとしますが、結局、禁断の知識に近づきすぎたがために命を落とすことになります。 作中の圧巻は何といっても、少年の体からナメクジのような触手が這いずり出てくる凄惨な場面でしょう。
 また 「白い粉薬のはなし」では、「サバトの酒」と呼ばれる薬物に耽溺した青年が辿る無残な末路が描かれています。 「サバトの酒」 とは、服用すると 「生命の巣である人間の体はバラバラになり、五体は溶けて、今まで体内に眠って外形をなし、肉の衣をかぶっていた虫だけが、死なずに残る(原文)」――すなわち、人間を原形質レベルにまで退化させる禁断の薬品です。 青年は夜ごと生命の原初の姿に退化し、原始の堕落がもたらす快楽に耽り続けた挙句、最後には人間の姿に戻れなくなって、おぞましく蠢く腐汁の塊になり果てます。
 いずれの挿話も 「パンの大神」 同様、異次元的な汚穢の恐怖を圧倒的な筆致で描ききっており、 「宇宙的恐怖 (コスミックホラー)」 の提唱者ラヴクラフトも、自著 「恐怖小説史」 のなかで、 「高度の異次元恐怖を最も芸術的に高揚した作家」 としてマッケンを絶賛しています。 (蛇足ですが、 「ダンウィッチの怪」 が 「黒い石印」 の影響のもとに書かれていることは明らかでしょう)。 また、現在でこそ珍しくありませんが、人体がグロテスクに変貌していく 「物体X」 的な描写が、19世紀末に書かれた小説に存在したことは驚異にさえ値します。
 しかし、当時の保守的なイギリス社会ではマッケンの作風はさすがに斬新に過ぎたようで、文壇の若い仲間からは高く評価されたものの、 「パンの大神」 はあまりにもおぞましく汚らわしい小説として新聞の書評で酷評され、本書は出版社から出版を拒否されました。
 マッケンはその後も執筆活動を続けましたが、本書のような 「汚穢の神話」 の系譜に連なる作品が書かれることはありませんでした。 もし当時のイギリスにおいて本書や 「パンの大神」 が広く一般に受け容れられ、マッケンが独自の神話体系を確立していたらと思うと、残念でなりません。
(2009.10.23)


■ご意見・ご感想は下記のアドレスまでお願いいたします■
メールアドレス
カウンタ