アルヴィンを仰向けに寝かせ直し、膝を押し開いて身体を滑り込ませる。
 白濁に穢れる茎をリシャールは躊躇いなく口に含む。
「ひっ、ぁ…………」
 達したばかりのそこは酷く過敏で、しかし、アルヴィンはまだその感覚へついていくだけの体力が戻っていない。
 逃れようとする仕草も緩慢で、リシャールは意にも介さなかった。
 初めて口にするその味わいに眉を顰めたのも束の間だ。
 アルヴィンの一部だと感じれば感じる程に、ただいとおしく、舐め取り飲み込む事にも抵抗を感じない。
「や、ん、あは……ぁ……」
 内腿が擦り寄せられ、リシャールの顔をそれとなく挟む。
 匂いやかな大腿が頬に寄り、その感触に酔う。
 アルヴィンは何処も彼処も可愛らしいと思うが、眩しい程に皓い尻と太腿が殊にリシャールの気に入った。
 茎から口を離し、捧げる様に大腿に手を添えて内側の柔らかなところを強く吸い上げる。
「んぁ、っ、あ……」
 付け根に近い辺りから、辿る様に赤く跡を付けていく。
 皓い肌に花弁が散った様だった。
 女のそれとは全く違う、それでも同じ程の滑らかさは唇にも心地いい。
 アルヴィンは手の甲を額に宛て、目を閉じた。
 リシャールの唇は優しい。その事が、心地よくないではなかった。
 足を擦り寄せ、よりリシャールを抱き込む様にする。
 優しすぎる愛撫など、いらない。

「も……ゃあ…………」
 くぱりくぱりと口を開閉する様に蕾が呼吸を繰り返している。
 唾液を送り込まれ、失禁したかの様な濡れた感覚に泣きたくなる。
 するなら早くしろと言わんばかりに、アルヴィンはリシャールを挟みながら腕を伸ばした。
「堪え性のない事だ」
 悪戯な笑みを浮かべてリシャールはアルヴィンが求める様に抱き締められてやる。
「どうして欲しい? 言ってごらん」
 汗ばんだ頬に触れる。アルヴィンは長めの睫に涙を溜ながらリシャールと目を合わせる。
 促される様な視線に会い、アルヴィンは再び強い光を瞳に浮かべた。

「私は君の望む様にしたいのだよ。言ってごらん」
 卑猥な言葉を、そのまだ無垢な唇に言わせたいのだ。
 先程からの様子で初めてではない事は分かっている。
 しかし、それでも、アルヴィンが見せる色は純白だった。
 白く美しいものを愛でる心と共に、それを赤や黒で塗り潰してしまいたい。

 アルヴィンは暫くリシャールを睨んでいたが、そのうちに目を閉じた。
 睫と唇を震わせる。
 身体が求める事を口にするのは、心にとってあまりにも重い。
「口にしなくては分からない。このままになるぞ」
 もぞり、とリシャールの身体が動き、顔を合わせる。
 膝は簡単に男の肩へと抱え上げられた。アルヴィン柔軟性に富み、女の様ではないにせよその体勢にも苦痛を示す事はなかった。
 晒された後庭へと、リシャールの股間が押し当てられる。
 そこはまだ幾重もの布に阻まれて直接にではなかったか、その熱さと硬度……リシャールの昂ぶっている様は如実に伝えられる。
 アルヴィンの身体が、はっきりと震えた。
 ずくり、と何かが身体の奥底で蠢く。
「強情も過ぎれば可愛げがないぞ」
 熱に潤んだ瞳がリシャールを睨む。しかし、瞳の力は半減していた。
 最早何処か諦めている。
「…………貴方の勝手で……」
「君だって満更でもなさそうだぞ。男なのだから、本当に厭ならもっと拒む手はあるだろうに」
「…………貴方という……方は…………」
 アルヴィンは目を細め、侮蔑する様に一瞥すると、リシャールに腕を伸ばした。
 肩に腕を乗せる様にし、そのままリシャールを抱き込む。中途半端に背が浮き上がった。半ば、ぶら下がる様な格好になる。

「…………一晩、幾らで買います」
「……………………ほぅ。そう来るか」
「この貴方の行為は……ノウラなんて関係ない。なら…………そうでなくては、許されない」
 去らない熱と快楽に震えながらも微笑みさえ浮かべた唇に対し、瞳の色は何処までも冷たい。
 その凍てつく視線にリシャールは身震いを覚えた。
 冷たい冷たい……しかし、その冷気がリシャールを燃やす。
「いいだろう。五万エキュ、君に支払おう」
 挑まれては、リシャールには対するしかない。
 アルヴィンは顔を歪めた。
「五万………………嬉しいですね。僕にそれだけの価値があるなんて」
 リシャールを睨む瞳に、益々苦みが走る。言葉に喜びはなく、嫌悪感を隠そうともしない。
 示された金額は、庶民なら一生遊んで暮らせる額だ。
 農民であれば、そんなものを見る事もなく一生を終えるだろう。
「……抱いてくれと言えば……気が済むんでしょう?」
「本当に可愛げがないな」
 益々剣呑になるアルヴィンに、リシャールは苦笑して見せた。
「…………そうでなければ、君がこの素直な身体に従えないと言うなら仕方があるまい」
 目的の言葉は、雰囲気や口調はともあれ果たされた。
 リシャールは軽く肩を竦め、アルヴィンに深く口付ける。
「んっ……ぅ……ふ……」
 アルヴィンは拒まない。
 割り切らねばならぬ程の行為なのに、拒まない。
 リシャールは苛立ちを抑えられなかった。
「覚悟はいいだろうな。支払う金額の分は楽しませてもらう」
「……好きに…………」
 唇を離し、アルヴィンは顔を背けた。
 射抜く様な視線を、瞼を閉ざす事で遮蔽する。
 リシャールは晒された首筋へと軽く歯を立てた。
「ん、くっ……」
 身体が一際強く折り曲げられ、アルヴィンは眉を顰める。
 片手で手早くリシャールは下履きの前を寛げた。
 アルヴィンの痴態と嬌声に因ってか、はたまた自身の逞しい想像力故か、十分に臨戦態勢である。
「力を抜いていたまえよ」
 顔を背けたまま、アルヴィンは微かに頷く。
 リシャールに絡めた腕へと、更に力を込めた。
 その力に促され、リシャールはゆっくりと腰を進めた。

「ぅ……っ……く……ふ……」
 圧倒的な質量が身体を引き裂いていく。
 アルヴィンはその幼い顔容を苦痛に歪めた。
 息を詰め、歯を食い縛る。
 それが更に痛みを齎すと知っていながらも、力を抜けないでいた。
「処女よりいい」
 リシャールもその狭さに僅かに眉を顰めながら、にやりと笑う。
 ちろりと唇を舐め、一息に貫いた。
「ふ、くっ……っ……」
 アルヴィンの手の爪がリシャールの背を傷つける。
 痛みに瞬時反応した身体が、より、アルヴィンを深く抉った。
「ぁ、ゃ、あっ」
「熱いな」
 確かめる様に、限界まで引き延ばされた蕾を指で辿る。
「ひ、っ!……く……」
 喘ぎと言うには喉にかかり、引き攣った声が洩れる。
「触ら……なっ……」
「いい反応だ」
 それ以上は動かず、馴染むのを待つ。
 アルヴィンの目の縁が濡れる。
「……っ…………」
 熱く、固い。
 杭に貫かれ、引き裂かれる、その印象がアルヴィンに霞を掛ける。
 茫洋とし始めた表情に、リシャールは口付けた。
「ぁ、ん……っ……」
 舌を差し入れると素直に応える。
 慣れているらしい蕾は、その舌の動きに呼応する様に蠢いている。
 もう馴染んでいるのだろう。奥へと引き込む様だ。
「動いていいな?」
 いやいやと顔を横に振られる。
 しかし、リシャールが構う事はなかった。
 身体が受け入れているのは分かる事だ。

「や、ぁ……ぃや……ぁっ……」
 リシャールが腰を引く。
 また突き入れる。
 初めのうちはまだ、アルヴィンの身体を気遣ってか緩慢だったが、そのうちに溺れ始める。
 絡みつく襞が、快楽と苦痛に歪む顔が、上がる嬌声が、リシャールを狂わせていく。
 いや、それがリシャールの本来なのかも知れない。
「あ、ひぃ……っ」
 体格差の大きいリシャールが相手では、アルヴィンも限界だった。
 簡単に奥まで貫かれてしまう。
 雁首が、中のアルヴィンを忘我に追い遣る場所を深く抉った。
「ぅひ! く、ん……ん……」
 息を継ぐ事も出来ない。ただ翻弄される。
 リシャールの背へ、肩へ、縦横に爪痕が走る。
 悪循環だ。
 リシャールは益々煽られ、腰の動きを様々に変える。
「あ、っああ、っぁ……」
 切れ切れに声が上がる。
 意味を成さない。アルヴィンは目を開いてはいるものの、ただ虚空を見ている様だった。
 押し潰される哀れな生き物だ。
 深く苦しい程に折り曲げられた身体が軋んでいた。
 リシャールの身体に押しつけられ、腹で茎が擦れている。
 もう、何処から催される感覚なのか分からなかった。

「あ、あは……っ……」
 アルヴィンの顔の両側へ手をつき、唇を求めながら抽送を繰り返す。
 襞が慣れ、リシャールが滴らせる粘液で次第に滑らかに腰が動き始める。
 腹で擦れるアルヴィンの茎も二人の腹をしとどに濡らしている。
「やぁ、も……も……ぉ……」
「何度でも……好きにしたまえよ」
 柔らかい額や頬を伝う汗を舌先で舐め取る。
 塩辛い筈が、何処か甘い。
 リシャールは益々酔いしれ、アルヴィンがより強く反応を示すところを重点的に責め立てた。
 アルヴィンの華奢な身体はがくがくと震え、限界が近い事を必死で訴えている。
「あ……はんっ……」
 赤味の差した頬が愛くるしい。
 リシャールは目を細め、アルヴィンの腰を掴んで強く引き寄せた。
「ぁふ、ぁあっ!」
 深い。
 アルヴィンはがくりと頭を仰け反らせた。
 晒された首筋にリシャールは歯を立てる。
 全てを食らいつくしてしまいたい。その衝動が抑えられない。
「……シャ……ル……様…………ぁ、あ、っや……」
 走る痛みすら快感にすり替わる様で、アルヴィンは甲高い声で囀り続ける。
 何を口走っているのかも、認識していない。
「あ、ぁぁああっ、ん、っぁあ」
 震える身体が硬直する。
 一度達したというのに、まだ勢いは失わなかった。
 迸る音が聞こえる程に解き放たれる。
「っあ、ん……ぁ……はっ……ふぁ……」
 切れ切れの声は絶叫ではなく、半ば意識を放棄した様でもある。
 硬直から弛緩へ、移り変わる身体はリシャールの腕の中で重みを増した。
「あ…………アルヴィン?」
 ぐったりとした様子を感じ、リシャールは我に返る。
 そして、目を閉ざして力ないアルヴィンを見て息を呑んだ。

 死んでいるかの様だ。
 それがノウラの死に顔と重なり、思わず身を引く。
「アルヴィン?」
 自身はまだ達していない。アルヴィンの蕾はまだ緩まずにリシャールを離しもしない。
 死に顔を見ても、リシャールは萎えるどころかますますに勢いを増していた。
 死んだ身体まで奪い尽くしてしまえば、これは自分のものになる。
 ただ、自分一人だけのものになる。
 そして、自分も全てになるのだ。

 リシャールは意識を失ったアルヴィンを抱え直し、再び行為を始めた。
 アルヴィンの意識など、関係がなかった。
 ただ、欲するのは自分がただ一人になれるものだった。


作 水鏡透瀏

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