最早、アルヴィンは動くことができなかった。
僅かにでも身動ぐ度に全身へ疼痛が走る。四肢にも力が入らない。
リシャールは、多少の疲れはあるものの至って元気で、更には頗る機嫌がいい。
この部屋へは誰も近づかないように言い渡して、楽しげに、甲斐甲斐しくアルヴィンの世話を焼いている。
動けないのでは仕方なく、アルヴィンはリシャールに一切を任せた。
時刻はとっくに昼を回り、日が傾きかけている。
朝の一番からあんな事になって……幾時間過ぎたのか、アルヴィンにもリシャールにも既に感覚がない。
行為自体を止めてくれたのはありがたいものだが、その処理と称して未だに嬲る手は止まらない。
人の尻を拭いて何が楽しいのか、正直なところアルヴィンには良く分からない。
それでも、花蕾の中からリシャールの雫を掻き出されると、厭でも再び肉茎が頭を擡げて来る。
中にどれ程放たれていたのだろう。
溢れ零れる蜜液に下肢がしとどに濡れ、アルヴィンは背筋を震わせる。
もう、厭だ。そんな体力など残っていない。
しかし生理的な現象はどうしようもなかった。
奥まで探る指が男の性を掠める度に、下腹がじんと響く。
唇を噛み声を耐える。
達したいが、身体がひどく重い。自身が到達したい地点まで辿り着けそうにもなく、眦から涙が流れ落ちた。
どうしようもなく弱くなっている。
勃ったところで、もう何も出ない。その苦痛を知っていた。
厭だ。
だが、リシャールの手から逃れようという気は起こらない。
触れていて欲しい。大きな、暖かい手で。
「も……っ……自分で……」
「駄目だよ。動けもしないくせに。……いい子だから、大人しくしていたまえ」
手付きはどうしようもなくなる程優しい。
この男は何もかもが反則だと思う。
こうまで優しくされては受け入れるしかなかった。
アルヴィンは人の優しさに弱い。その弱みを知っているわけではない筈なのに、リシャールはアルヴィンを脆くする様に動く。
ノウラは何故この男の暴挙を止めてくれないのだろう。
視界の端で揺らめく彼女は、楽しげに微笑んでいるだけの様だ。
見て欲しくなどないのに、ずっと、ずっと……。
ノウラが止めないという事は、自分が本当にリシャールを望んでいるという事なのだろうか。
彼女が引いたカードは、本当にリシャールを指し、自分の求め求められる相手だというのだろうか。
自分の事だと言うのに、何も分からない。
「ぅ、……く……ぁ……あ……も……ぉ……触わらな、っ……」
堪えられない。
涙がぼろぼろと止め処なく溢れていた。
常ならば取り澄まして涼しげな顔の筈が、完全に仮面が剥がれ落ちている。
「ゃ……や……ぁ……っ…………」
全身が痙攣する。
達したい。だが、ただ身体が強張って震えるばかりで、茎を突き抜ける快感がない。
「あ、っぁ……ぁあああ……っ……」
がくがくと震え、節の高い男の指を思う様締め付けながらただイマージュだけの開放を迎える。
「ぁ……っひ…………」
リシャールはそれでも手を止めない。
「あ……っぁ…………あ……」
ふわりと身体を投げ出される感覚は確かにしたのに、何もかもが足りない。
「ぅ……う……ぁ……っ……」
「もう終わるよ」
そういう問題でさえない。
アルヴィンはリシャールに視線を向ける事すら出来なかった。
達したい。
ただ考えられるのはそればかりだ。
「あ、ぁ……様……シャ…………様……っ…………」
「辛いのか? 可哀想な事だが」
声は哀れんでいない。むしろ、熱を帯びた興奮に掠れていた。
「い、いかせ……っ……いかせて……いきたい……いきっ……っ」
この身体の感覚をどうにかして欲しい。
「そういうつもりで触っているのではないよ。…………よし、これで大体良いな」
「っあ、ぁ、ぃや、だ、駄目っ…………」
引き抜かれた手を思わず掴む。短い爪が浅くリシャールの手を掻いた。
「聞き分けのない子だ。……どのみち、もう無理だろう?」
「……あ……ゃ、ぃ……いゃ……ぁ……あ……っ……」
リシャールの手を再び自身の蕾まで導く。
指が触れると、雷に打たれたかの様にびくびくと全身を震わせた。
「駄目だよ、アルヴィン君。私もそろそろ君を満たしてはあげられないし、どれだけ触れても君は辛いだけだろう」
軽い仕草で手を払い、片隅に丸められていた掛布の端で手を拭う。
ひくひくと引き攣りながら倒れ伏すアルヴィンの横に転がり、そのひやりとした華奢な身体を腕に抱き込む。
「ぁ、はっ……あ……ぁん……」
アルヴィンはリシャールを抱き返し、その首筋に顔を埋める。
唇が、太い男の首筋に触れた。
「っ…………まだ欲しいとはな。……君がそれ程までに淫乱だとは思わなかった」
揶揄いなど聞こえていない。
リシャールの首筋に、軽い痛みが走った。
「ぅ……アルヴィン君……やるな」
歯を立てているのだろう。ちりちりと走る痛みがリシャールを煽る。しかし身体の反応は酷く鈍かった。
リシャールは本当に無理だった。
アルヴィンとて無理なのだ。ただ、身体の疲弊と感覚の均衡が取れていない。
アルヴィンの唇がより強く逞しいリシャールの首筋に吸い付こうとしたその時。
突然、二人の耳の奥に、音が響いた。
強い音だ。
優しい、温かい、それだけではなくとても強い音だった。
弾かれた様にアルヴィンは顔を上げた。
虚ろだった瞳に、微かな光が戻っている。
「ぁ…………っあ…………」
「何だ、ノウラ……私達の邪魔を……っ」
リシャールは軽くこめかみを押さえ、剣呑な視線で部屋を見回す。
アルヴィンはリシャールを突き放し、慌てて離れた。
腰から突き抜ける痛みに直ぐに頽れる。
「……どうした」
変わり身が分からない。
「…………ぁ…………す…………すみません……っ……」
痛みに悶えながらも寝台の端まで逃げ、アルヴィンは膝を抱えて顔を埋める。
これが癖だとそろそろリシャールも理解しつつあったが、アルヴィンが何に対して詫びているのか分からない。
「何の事だ」
「……首……痛くないですか……?」
「ん? いや、君が積極的なのは楽しかったが」
「そう……ですか」
「少し落ち着いた様だな。さすがノウラだ」
音が小さくなり、消える。
アルヴィンは音が去ってもまだかたかたと震えていた。
「…………アルヴィン君?」
躙り寄り、ぽん、と綿毛の様な頭に軽く手を乗せる。
顔を上げ、アルヴィンは驚いた猫の様な表情をしてリシャールを見詰める。
「大丈夫か?」
頭を撫でられ、アルヴィンは泣き出しそうに顔を歪めた。唇が震えている。青褪めた顔の中、そこだけがやけに赤く見えた。
「君が無理をするから、ノウラも諫めたのだろう」
「…………はい…………多分」
一度大きく胸を喘がせて呼吸すると、表情を改める。血の気は戻らなかったが、表情の強張りは僅かながら解ける。
「辛いだろうが、少しの我慢だよ」
「……え…………ええ……はい…………っ、ふ……」
リシャールの手が頭が頬に移り、指先が頬を擽る。感覚の去らない身体はいとも容易く震えた。
「……触らないで下さい…………」
「喉が渇いているな。君の愛らしい声が掠れているのは痛々しい。水差しを持ってきてあげよう。今の君には、口付けさえも辛そうだしな」
優しい人なのだ。基本的には。ただ、いろいろと分かっていないだけで。
リシャールの温もりが僅かに離れる。それが何処か不安で、アルヴィンは身体を浮かせた。
直ぐに痛みが走り、力なく蹲る。
その間にリシャールは寝台を降り、廊下に至る扉を僅かに空かせて姿を消す。
「リシャール様…………」
無理に身体を開かれ、犯されたのだ。何故あんな男の温もりを求めなくてはならないのか。
自分自身に苛々する。
認めてはならないものだ。決して。
ふわり、と何かが肩に触れる。空気が動いた、ただそれだけの様だが、とても温かい。
それは視認できるものではなかったが、ノウラの手である事は間違いなかった。
気が触れる程の昂ぶりが、その手に吸われる様に空気の中へ解けていく。
ほっと息を吐いて、ノウラの気配を向く。
何故ノウラはリシャールを止めなかったのか。アルヴィンには分からない。
守ってくれるといったのに、ノウラはただ見ていただけだ。
それを責めるわけではないが、何故ノウラがリシャールを認めるのか分からない。
「ノウラ……君は、どうして…………」
──貴方が厭がっていたら、止めたわ──
天から振る様に声が聞こえる。リシャールには聞こえない、アルヴィンにだけ届く声が。
「……厭だ、って……何度も言ってただろう?」
──でも、厭がっていなかったわ。本当に厭なら、殺して逃げる事だって出来るのに。貴方はそうしなかった──
「……君だって、今止めたじゃないか。もう少しで彼を殺して逃げる事だって出来た……」
──だって、貴方が苦しむのは厭だもの。リシャール様は、貴方に殺されたって納得するでしょうけれど……あたしは厭だわ──
「納得……なんて出来るのかな…………」
──するわ。分かるの──
程なくリシャールは戻ってくる。
手には美しい色硝子に金を流して装飾した水差しを持ち、腕に布を引っかけていた。
「待たせたな。この辺りは水がよいのだ。これだけでも、それなりに美味なのだよ」
布を手近な椅子に置き、水差しから水を注いでアルヴィンに渡す。
「山だろう、この辺りは。山の湧き水で大変清らかな所が近くにあってね、そこから城内に水を引き入れているのだよ。美味しく冷たい水でも飲めば、少し気分も落ち着くだろう」
ひやりとした硝子を受け取る。
一瞬触れ合った指先はそれより冷たかった。リシャールはその感触にどきりとしてアルヴィンを窺う。
抱いていた時よりは、顔に仄かな血の気が戻っている様に見える。だが、末端は何処までも凍てつく様だ。
「君はどうも血の巡りが悪い様だな」
「………………ええ…………」
水を幾口か飲み込む。嗄れた喉に染みる。甘みすら感じる柔らかな水だった。これを渡してくれたリシャールそのものの様に感じて、アルヴィンは俯いた。
微笑む、喜ぶ……それより先に、じわりと涙が浮かぶ。
「君は飲み物しか口にしたくない様だから…………どうした?」
「……い、いいえ……」
涙を誤魔化す様にくっと水を呷る。
と、そのまま俯く事は許されずリシャールの手が頤を捉えた。
「……まだ、辛いか?」
「いいえ……もう……………………大分、落ち着きましたから……っ……」
難なくグラスを取り上げ、唇を重ねる。
アルヴィンは拒めなかった。
視界の端で、未だノウラがちらちらとしている。
これ程近いなら、思い切り舌でも噛めば逃れられるだろうし、本気になれば食い千切って殺す事だって出来るだろう。
そう思い至る程に落ち着きと思考を取り戻していたが、それでもアルヴィンはリシャールの唇を受け入れた。
「ふ……ぅ…………っ……」
今朝から、息をしている時間とリシャールと重ねている時間、どちらが長いのか分からない。
それでも、拒めない。
アルヴィンは涙に煙る視線を彷徨わせる。
ノウラは少し高いところからそれを眺め、微笑んでいる。
リシャールはただアルヴィンを堪能している。
この状況は異常だ。アルヴィンの理性はそう感じる程には冷静だった。
だが、どのみち壊れていると思う。
自分も。
リシャールも。
ノウラも。
ならば…………。
どちらからともなく僅かに唇が離れる。アルヴィンはほっと息を吐いた。
「……もう一度頼む。私の側にいて欲しい。ノウラも、そう言っている筈だ」
聞こえもしないくせに。
「ここにいてくれると……言ってくれ」
「……何度も言わせないで下さい。僕は、言わない」
「言ってくれるまで、君をここから出さない」
「それでも、僕は言いません」
壊れている。何もかもが。
歯車が噛み合わず音を立てて軋んでいる。
「…………強情だな」
「貴方こそ」
頭は悪くない筈だが、何処かお人好しなのだろう。
互いの言っている事が、意味は違えど中身は同じだと言う事に気が付いていない。
リシャールが望もうと、ノウラが勧めようと、ここにいる事を明言出来ない。
認めてはならない。受け入れてはならない。
そんな優しい関係で居られるなら、こんな辛い想いはなくて済んだ。
傷つけるのも、傷つけられるのも、憎むのも、憎まれるのも、もう御免だ。
もう…………?
強い目眩がする。
身体が傾ぐ。
リシャールに縋ろうとしたが、指先に力は入らなかった。
「アルヴィン君……?」
抱き止める。
急に弱々しくなった様に思えて、不安げに様子を伺った。アルヴィンは俯いて顔を上げない。
「……少し…………休ませて下さい……」
「ああ……そうだな。朝から無理をさせた。君の服が一着上がったので合わせようと思ったが後にしよう。朝も昼も口にしていないが、大丈夫か? 身体も冷えたままだし……この季節だが、暖炉に火を入れた方がよければ直ぐに用意させる」
「いいえ。どれも……結構です」
「そうか……だが、休むのは少し待ちたまえ。この有様では落ち着けないだろう。私の寝台で休むといい。ここは夜までに片付けさせる。沼へ行くのは明日でいいな。それから……君の家を教えてくれ。君を待っているものが居ると言っていただろう? 知らせと迎えをやろう」
最後の一言に、アルヴィンははっとして身体を竦ませた。
リシャールはそれに気が付かず、椅子のものを机へ移し、アルヴィンを抱き上げてその空いた所へ座らせる。
辛うじて、まだ汚れの少なかった掛布でアルヴィンの身体を包む。
その間にも、アルヴィンの脳裏には家で待つ人物の姿が浮かんでいた。
「ぁ……あの……やっぱり、僕……一回帰ります。それで……またここに戻ってくる、っていうんじゃ駄目ですか?」
「駄目だな。ここへ来るまでは無事だったかも知れないが、今は世情が不安定だ。君に何かあってはノウラに申し訳が立たない」
「僕が顔を見せないと、納得しないと思うんです」
「人見知りの激しい子が待っているのだな。首根を押さえてでも連れて来させるから、君はここで待ちたまえ。いいね」
猫か何かでも飼っているのだろう。そう思い込んでリシャールは慰める様にアルヴィンの頬を擽る。
身を捩り、アルヴィンは揺れる視線でリシャールを見上げた。
「僕は大丈夫です」
「私が心配なのだよ。戦はそう遠くない」
「ひと月もあれば行って帰って来られます」
「ひと月も、私に一人で待てと言うのか? 君が居なくてはノウラを感じる事も出来ないのだぞ、私は」
顔が迫る。睫が触れる程近く。
「心配しなくていい。君が望むなら私が直々に出向いてやってもいい」
「それじゃあ、僕はここでどうすればいいんです。貴方が居なければ、僕がここにいる意味も、ノウラがここにいる意味も、何もなくなってしまう」
そして、ノウラと同じ理由で殺されかねない。
アルヴィンの瞳に険が宿る。
「だから、使いを遣ると言っている」
「でも……」
「君の家族なのだから、丁寧に扱う。当然だろう」
話を終わりにしたいのが透けて見える態度で、リシャールはアルヴィンの額に口付けた。
アルヴィンは眉間の皺を深くする。
「君を、ここから出さないと言ったろう。それでも君は、私の側にいてくれるとは言わなかった。なら……」
「……それは、今でも……言うつもりはありません」
「なら、君をここから逃がせば、戻ってくる保証もないわけだ。封じられる事が分かっていて、それでも君は言ってくれないのだろう?」
「それは…………そう、ですけど……」
「なら、諦めたまえ。私はこれでも譲歩してやっている筈だ」
この場合、リシャールの言い分の方が正しい。
口先だけでも側にいると告げて、僅かでも自由を得れば幾らでも方法はあるというのに、何故かアルヴィンはそれを選択しなかった。
渋面を露骨にしながらも、俯いて押し黙る。
「城の中なら好きに歩き回ってくれても構わない。だが、門から外へは、私を伴わなくては出てはならない。側にいてくれると、君が誓うまでは」
自らもここへ駆け込んできた時に纏っていたローブを身につけ直し、布で包んだアルヴィンの身体を抱き上げる。
「君が眠っている間に寝台の檻は取り外してあげよう。だから、後は大人しく私に任せなさい。急ぐなら、直ぐにも君の家を聞いて使いを出そう」
「…………僕の家は、東へ二つも国を超えた向こうです。それでも……?」
「ぎりぎりに我々の文化圏の範囲だろう? なら問題はないよ。これから起こる戦は、西の国とだ。君を帰らせるのに不安がある程には国内事情が危険になるが、東とは連携を取ろうとしている。挟み撃ちは上手くないからね。慣れた者ならそれ程の心配は要らない」
戦が起こる、などと、まだ政治家達しか知らない情報を簡単に口にする。アルヴィンは眉を顰めた。
「僕も、貴方よりは世慣れていますけど」
「私だって、並の貴族だとは思って貰いたくないな。君の様に愛らしい子では、命の危険より一層危ない事もある。私程の紳士ばかりではないよ、世の中は」
「……貴方が、紳士?」
冗談にしても悪質が過ぎる。
「私は紳士だろう? 少なくとも、君の意思を聞く様にしている。貴族の中には、自分より身分の低い者を人とも思わぬ輩だって居る。貴族でなくとも、一度都市を離れれば野盗だって出る。私はあれ程無粋ではないよ」
確かに、貴族には珍しい程に身分を気にしていない様には思えるが、だからといって紳士と言ってしまうには何かがかなり釈然としない。
しかし、もうこれ以上は藪を突いて蛇を出す事にもなるだろう。アルヴィンは突っ込む事を諦めた。
「もういいです。……紙と洋筆と洋墨をお借りできますか? 手紙を持って行って下さい」
「いいとも。読める人間は居るのか?」
「居なければお願いしません」
「……そうだな」
アルヴィンの周りには知識人が集まっているらしい。
「用意させるよ。休んでからでいいかい?」
「直ぐに使いを出して下さるんでしょう? なら、今がいいんですけど」
「……分かった。先に私の書斎へ行こう」
「お願いします」
そして二人は、やっと移動する事にした。
書斎でさらさらと手紙をしたためて、最後に名と指先から滴らせた血で証を示し、丸めて飾り紐を掛けると蝋で封をする。
固まった所を浅く爪で傷つけて模様を記した。リシャールの印を借りるわけにも行かない。
「これで、お願いします」
「確かに届けさせよう。それで、君の家は?」
「ニーサ川の上流域、ディソン山脈の南の麓にある白の森の中です。東西へ走る街道から山中の教会へ向かう道の途中に入り口があって……そこへ、呼び鈴が付けてあります。紐を引けば、家まで届く。それ以外では、家まで辿り着く事は出来ないと思います」
「まるで隠者だな。まあ……それだけ分かれば、何とか探し出す事も出来るだろう。私の部下は優秀な者が多いからね」
「まるで、ではなくて、その通りだと思います。人と会うのとか……好きじゃないし。だから、ちゃんとした住所もなくて……申し訳ないですけど」
「心配しなくていいよ。私と、私の部下を信じてくれたまえ」
「ええ…………仕方、ないんです、よね……」
窺うと、にっこりと輝く笑みで応えられる。
アルヴィンは諦めて、大きく溜息を吐くだけに止めた。
続
作 水鏡透瀏
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