「折角用意したのだからね」
「っ……く…………」
先端から蜜を滴らせていたのも、先の痛みや苦しみに萎えてしまっている。
自身の指を軽く舐め、リシャールはアルヴィンの花蕾をそっと弄った。
「口は厭がっていたが、尻を叩かれるのは嫌いではないのだろう?」
「……厭だよ。あんなの……。僕は、見た目だってそこまで子供じゃないと思うんだけど」
「だが、叩かれて感じていたよ、君は」
掌が尻朶を優しく撫でる。思わず腰を揺らした。
濡らした指を蕾へ含ませ、緩やかに煽る。
「ぁ……は……」
恭順を見せるアルヴィンを俯せに横たえ、腰だけを引き上げる。
羞恥に染まる顔は見えないが、浅く色付く可憐な蕾だけが晒された。
俯せの為に、頬と肩だけで上体を支えることになるのが苦しい。
舌先に唾液を溜め、滴らせる。潤いを与えた孔へと舌を潜り込ませた。
「ん、んぁ、っ」
くちくちと淫らに濡れた音が立つ。窄めた舌はそれなりの硬度でアルヴィンの蕾を花開かせていく。
尻朶を掴んで左右へ広げる。濡れた粘膜が外気に触れ、ひやりとした。
「ぁ……厭……だ……っ……」
「ここでも息をしている様だな。愛らしく口を開閉させている」
「言うな!」
「力を抜いていないと、辛いぞ。これは拷問に使う器具だからな」
「っえ、っ……く……ぅ」
先まで口に銜えさせられていたものが蕾へと押し込まれる。
窄んでいる状態なら、問題なく受け入れられた。アルヴィンの襞は大きさに慣れている。
「く……ぅ……」
螺子を少しずつ巻き取る。その度に、器具はその口を開いた。
「あ、っぅ……く……」
「内側がよく見える。艶めかしいものだな」
「っは……あ……ぁあ、ぃ……や、だ……っ……」
圧迫感にアルヴィンは喘いだ。押し開かれる感覚は雄の比ではない。
「君の内側は熟れた果実の様だよ。美味しそうな色をしている」
「……い、っう……ぅ……」
押し広げられる。器具が前立腺に触れ、アルヴィンは腰を引き攣らせて喘いだ。
「あ、っく……ぅ……や……」
「傷つけるのが本意ではないからね」
「はっ……ぁは……」
螺子を止め、脇腹を大きな手がざらりと撫で擦る。
「ん……ふ……ぅ……」
「気分を出してくれるな、君は」
「ひっ、ぃあ!」
いっぱいに銜え込んだ尻を強く叩く。
白い背が撓う。
思わず込められた力で、器具に押し開かれている自身の淫らさを見せつけられ、必死で閉じた瞳の間から涙が零れ落ちた。
「ああ……やはり、叩かれると感じるのだね」
「あ、っぁああ!」
前へと回された手が茎を掴み、いかにも煽る様に指が先端を弄った。
透明な蜜が瞬く間に溢れ、零れ落ちる。
「んぁ、っう……あ! っあ……」
声を抑えられない。
「……さて、どうしようか」
「ど……ぅって……?」
「お仕置きは済んだからね。君の望む様にしてあげよう」
「なら、全部のけろ! 今すぐ!!」
「何を、かな」
目の前がカッと赤く染まる。
全てを言わせるつもりなのだと、そのたった一言でも十分に分かった。
「手を……解放してくれ。枷をのけて」
それで全てだ。
しかしリシャールは微笑みを深くしただけだった。
「物事に順序がある。それは、最後だろう?」
「僕の望む様にしてくれるんじゃないのか!?」
「ああ、して上げようとも」
「なら、っ! あ、っくぅ……!」
掴み取られた自身を強く擦り上げられる。
一息に昂ぶりの階段を駆け上がろうとしたが、それは直ぐに留められる。
根本を強く抑え込まれてしまう。
「ぁく、っ……ぅ……う……」
「言ってごらん」
「……結局……っ……貴方の望む様にしたいだけなんだろう? 痛くしないなら何をしたっていいって……言った筈だ」
「君にはその様なものの考え方をして欲しくないと、私は言ったな」
「…………何がしたいんだ、貴方」
「私を拒んでくれ」
「…………はぁ? さっきから、厭だって言い続けてるだろ?」
「そうではないよ、アルヴィン。身体で私を拒め。口ではなく」
そう言われても困る。
アルヴィンは困惑を隠せなかった。
「したいんじゃ……ないのか?」
「したいよ。君と。だがそれ以上に……」
「っ、ぅんんっ」
口付けを受けるのが厭で、近付く顔に対して唇を引き結び顔を背ける。
「君が欲しい。心の奥底まで」
「ならっ!」
「美しい君が欲しい。聖母の様な君が」
「それは、僕じゃない!」
アルヴィンは必死に身体を捩った。弾みでリシャールに体当たりをする。
後庭に酷い痛みが走ったが、気にかけている余裕もなかった。
足は、自由だ。
後孔が不快で膝を摺り合わせながらも寝台から降りる。
だが直ぐに堪えきれなくなって床へと膝を付いた。
動く度に蕾が疼く。抉られ、痛みを齎しながらも、その中に快楽の糸口を見つけ出してしまう。
「……お母様とノウラを重ねるならともかく……僕まで一緒にするな」
「何故だ。君は……本当にノウラに近しい感じがする。そして、あの人にも……」
凛とした力強さと繊細さ。包み込む様な暖かさ。
リシャールは手を伸ばし触れようとしたが、その前にアルヴィンは逃げた。
ただ、尻を掲げる様にして蹲ってしまう。
感覚が堪え難い。
「貴方が求めるものになんて……僕は、なれない。だけど……貴方の欲望を晴らす為の道具にならなれる。…………僕に出来るのは、それだけのことだ。……だから……もう……」
呼吸は乱れている。
涙に濡れた眦に、髪が張り付いていた。
「…………するなら、しろよ。今更何言ってるんだ、貴方は。何度僕を犯した。貴方が聖母なんて求められる立場か。今更幻想を上塗りされても、困る。僕は、僕以外の何にもなれない」
潤みきった瞳がリシャールを睨む。
誘う様に、媚びる様に、しかし、何処までも冷たく。
リシャールは、背筋が冷たく凍り付くのを感じた。
「…………何故、そんなことを言う。私はただ、君の優しさに、」
「うるさい! 厭なんだよ、貴方に……誰かに重ねられるのなんて……もう……」
「……もう?」
「っ……」
アルヴィンの顔が、酷く歪められた。
自身で何を口走ったのか……理解し切れていない。
ただ、ぐらりと身体が傾いだ。
「アルヴィン!」
抱き止める。
これ程の目に遭いながら未だ汗も滲まない身体は、やけに冷たかった。
「あぁ……ぁふ……ぁ…………」
リシャールは咄嗟に銜え込ませた器具を緩めた。
弱々しく身体が震える。それでも微かに力を込めたのが分かった。
「ふ、あ、っぁ……」
ずるり、と腸を擦られる感覚と共に器具が抜け落ち床へと落ちる。
アルヴィンはぐったりとリシャールに身体を預けたが、顔は伏せたままだった。
「アルヴィン……」
「も…………厭…………」
「君は……何を」
「犯れよ……早くっ!」
「っ、ア……ぅ」
まだ名前を紡ごうとした唇を強引に塞ぐ。
難なくリシャールを絡め取る。厚みのある舌が唾液を掬い、ゆるゆるとリシャールの口腔を嬲った。
足を開き、腰をリシャールへと擦り寄せる。
驚き、リシャールはアルヴィンを突き放す。
慣れた風な口付けなど要らない。淫らだと詰りながらも、アルヴィンに恭順して欲しくなどなかった。
実際に拒まれれば腹立たしい癖に、どうしようもない性分だと自分でも思う。
ただ、男との情事に溺れるアルヴィンであって欲しくない。
アルヴィンの何を知っているわけでもない。だが、奇妙な幻想が、アルヴィンに対する夢を描いている。
こうあって欲しいと、明確な形が描かれている。
思わず叫ぶ。
「やめたまえ! 君は……君の信じるものに反するつもりか!」
「……っ……ふ……馬鹿か、貴方は……」
昏い目でリシャールを睨む。
リシャールも、睨み返した。
互いの手で、甘くなる筈だった時間が崩壊していく。
「馬鹿で結構だ。君は主を信じていると言う。男に抱かれることを知っていても、それは本意ではないと言う。ひどく強い目で私を睨む。なのに……何故自ら誘う様な真似をするのだ。何故自身の心に背こうとする」
「貴方がそう望むからだ」
「望んでなどいない!」
「なら……僕に、何を言って欲しかったんだ……貴方は……っ……」
ばらばらだ。心も、言葉も。アルヴィンも、リシャールも。
堪えられない。アルヴィンは顔を伏せた。
その頬を掴み、リシャールはアルヴィンの顔を無理に上向かせる。
逸らすことも許さず、はっきりと目を合わせた。アルヴィンの視線が泳ぐが、それすらも許さない。
そのうちに諦めて、アルヴィンは酷く強張った表情でリシャールを見た。
「ん……ぅ……」
唇を合わせられる。
千々に散らばり消えて行きそうな関係を繋ぎ止めようとでもするかの様だ。
余計に堪え難いと思う。
荒々しくとも、何処か優しさや脆さを持ち合わせた触れ方は、狡い。
「っは……ぁ……っ……」
顔を背けようとしても、やはり許されなかった。
「君の心を知りたい。何故言いつけを破ってあの部屋へ入ったのか。何故私に力を貸してくれる気になったのか。何故ギュスターヴを気にかけるのか。何故……本気で私を拒まないのか。何故主に背くつもりになったのか。手を外してやれば君はこの道具を除けはしただろうが……逃げるつもりはなかっただろう? 厭だと言いながら、君は私を拒まない」
「……そんなに拒まれたいのか? 貴方が。……貴方、そんなに臆病な癖に」
「臆病……だと? この私が」
「失うのが怖いんだろう? お母様も、ノウラも、僕も」
瞳が潤むのを抑えられない。
恐れているのは、アルヴィンの方だった。
リシャールの疑問には答えられない。自身の中にも、答えがない。
言葉と心が完全に乖離している。
バラバラなのだ。何もかもが。
「触れるなら触れる、触れないなら僕を帰す。そう……貴方が決断しろ。臆病ではないと言うなら」
狡いのは、自分だ。
答えの全てをリシャールに委ねている。
「貴方がそう望むなら僕は手を貸してもいいと言った。貴方がそう望むなら抱いて構わないとも言った。僕がそう言ったのは貴方が求めているからだ。他に理由なんてない」
理由などどうでもいいのだろう。ただ、自我の為に縋るものが欲しい。
「言ってみろよ。今、僕を、貴方はどうしたい」
何処までも尊大に、挑発的に、はっきりと発音をする癖に瞳の揺らぎだけは抑えきれない。
目の奥を覗き込まれるのが厭で、目を閉ざした。
瞳の強さが失せると、形ばかりは幼げな顔立ちが浮き彫りになる。
リシャールはアルヴィンを抱いた。
腕で包み込み、髪を撫でる。
「…………君が欲しい。それは……もう幾度も言っている筈だ。君を抱きたい。君に側に居て欲しい。君を誰かと重ねているつもりはない。だが……君には、それに屈して欲しくない。私に恭順して欲しくない。君が君自身の心に背くことが、何より堪えられないのだ」
「何故……背いていると思う」
「主を信じるという君が受け入れられる方がおかしいだろう? 背信の行為であることは、承知している」
「…………ああ」
信じたいのだ。信じるものは、欲しい。
アルヴィンは顔を俯かせる。リシャールに答えられる言葉が見つからない。
リシャールに何も伝えていない。
否。アルヴィンの秘め事の全ては、誰にも伝えていない。
それとなくを、シリルやギュスターヴが知っているに過ぎないのだ。
「……全ては主の審判に委ねている。本当は……分かって居るんだよ。信じていても……それに逆らうことしかできないんだって」
「君は……何なのだ」
答えられず、ただ薄い肩を震わせる。
「アルヴィン。……君が何であっても、私は君が欲しい。私の秘密と引き替えにしようではないか。これは、君に命を預けるのに等しいことだ」
「…………貴方の、本当の名前を教えてくれる?」
促す様に頬を撫でられ、アルヴィンは恐る恐る顔を上げた。潤んだ瞳でリシャールを見る。
リシャールは、にっこりと微笑んでみせた。
「ああ。私は……セレスタン・ド・ダゲール。この国の、先帝の子だ。像の女性はアデレイド・ド・ダゲール。君が言った通り、私の母だ。妹が一人いるが、今は生きているのかどうかも……分からない。父の無念を晴らす為、現皇帝ディートリッシュ一世とその一家を討つ為に動いている。……それが、全てだ」
小さな溜息と共に口を噤む。
口に出してしまうには、些か重い。
アルヴィンは申し訳なさそうに目を伏せると、リシャールの手を取り甲に口付けた。
ラテン語で神聖なものを表すその名は、アルヴィンが求めて止まないものにある意味相応しい様にも思える。
「セレスタン…………いい名前だね。綺麗で……清らかな名前だ」
「君は教養が深くていい」
「……教えてくれたんだから……僕も話さないと駄目かな」
アルヴィンはまだ微かに震えながらリシャールの腕から抜け出た。
部屋に飾られていた切り花を手に取る。
アルヴィンが触れた花は、瞬く間に枯れてしまった。
「ごめんね……」
床に屈み、朽ちた花びらをそっと掬う。
それは、それ以上形を留めることすらなく、灰の様に崩れ、消え去った。
続
作 水鏡透瀏
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