「まずは……お仕置きからだな」
「な、何……」
下履きを足から引き抜き、生肌を晒す。
アルヴィンは微かに怯えた風を見せて逃れようとしたが、外気に晒され一瞬身が竦む。
軽い身体を膝の上へと抱え上げ、掌で尻の丸みを楽しむ。
「っ……や……何を」
「無断で入ってはいけないと言った場所へ立ち入ったのだ。聞き分けのない子にはまず、お仕置きが必要だろう? 少し我慢したまえ」
「ぁ…………っ」
優しく撫で上げられ、背筋が震える。
手を振り上げる気配がした。
「っあ! ああっ!!」
「力を入れては痛いと、前にも言っただろう?」
肌を打つ高い音が響く。尻朶に痺れる様な痛みが走り、厭でも身体が強張った。
白く柔らかい肌が一瞬鮮やかに色付き、しかし直ぐに白さを取り戻す。
「痛みを君が嫌っていないのは、分かることだがね。……君の身体は本当に淫らだ」
「う……ふ……」
身を屈め、柔らかな丘陵へ口付ける。
優しい感触に少し緊張が緩んだのを見ると、再び手が振り下ろされた。
「あ、くっ……ぅ」
繰り返し、乾いた音が立つ。
痛みに痺れ、アルヴィンは目をぎゅっと瞑った。間から涙が零れ落ちる。
痛みと、尻を叩かれる羞恥に目眩がする。
敷布を掴む指が小刻みに震えていた。
リシャールの手がまた止まる。
「二度としないと、誓えるか?」
「……はい……」
「いい子だ。……そうして聞き分けよくしてくれていれば、私だとて君にこんな仕置きをしなくて良いのだよ」
尻に、背に、優しく息が触れる。
「ぁ、っ……は……」
滑らかな肌を舌が這う。アルヴィンは下肢の疼きを感じてもぞりと身を捩った。
足の間では、肉茎が緩やかに昂ぶりを見せ始めている。
優しくリシャールの手がそれを包んだ。
「あ、っや!」
「痛いのがそんなに良かったのか?」
「違う!」
「違わないだろう?」
「く、ぁ……っ!」
叩かれる。手の大きさを尻朶でまざまざと感じる。
痛みに反らせた背が眩しい。
リシャールの手に包まれた茎は先端からじゅくりと僅かに蜜を零した。
指先で救い、アルヴィンの目の前へと見せつける。
「口は、相変わらず素直ではないな。それが愛らしいが……一層憎らしい」
「ぅ、くっ」
繰り返し叩いているうちに、リシャールの手も痛みを覚え始める。
その痛みに、リシャールは酔った。
アルヴィンと共有できるものがある。それだけで悦びが湧き上がった。
掌がじんじんとする。
振り下ろしたついでにそのまま押し当てると、尻の丸みが手に吸い付く様だった。
痛みも、この痺れも、熱も、共有している。
膝に抱えたアルヴィンの脇腹の辺りに、リシャールの興奮が如実に伝わった。
「……っ……や……」
押しつけられる様なそれが不快で、堪らず身体を浮かせる。
リシャールの掌に尻が押しつけられる様になり、ますます身を捩った。
「暴れないで貰いたいな」
「貴方が!」
「君と同じだよ」
「ふぁ、ん……っ!」
少年らしい高く甘い悲鳴が上がる。
リシャールの撓やかな長い指が、煽る様にアルヴィンの茎を擦り上げた。
何処か華奢な身体が跳ねる。
「やっぁ……あ……っ……」
「ここをこんなにしているのに厭とは……よく言えたものだ」
言葉で嬲りながらも、リシャールは含み笑いを抑えられない。
指先はしとどに濡れ、手の動きを助けていた。
振り下ろす動きに合わせて弄ってやると、アルヴィンは益々の昂ぶりを見せた。
「あ、っあ……や……ぁん……」
「お仕置きにならないな、その様子では」
「いや……厭だ、も……っ……」
「泣いてお詫びをしてくれるかい? なら、止めてあげてもいい」
「……何を……っ」
渾身の力で振り向き、リシャールを睨む。
瞳の持つ力の強さに、リシャールはぞくぞくとした震えが背筋に走るのを感じた。
アルヴィンに強く睨まれると、例えようもない征服欲が突き上げてくる。
屈服してしまってはつまらぬ癖に、堪らない。
「悪かったと思ってるって!」
「それが、詫びる側の態度かな」
「っあ!」
一際大きく音が立つ。
じんじんと、リシャールの手も、アルヴィンの尻も、痺れた。
「は……っ……ぁは……」
じわりと目の縁が濡れる。
リシャールの手の中で、まだまだ可愛らしい茎が震えている。
「楽にしてやるのも……少し癪だな」
「な、っ……ぅ……あ!」
「これは、主に女性に使う拷問具なのだがね……君にも似合う」
括れのある梨の様な形をした器具が目の前に置かれる。
そのものを知って、アルヴィンの顔が青褪めた。
「い、厭だっ!」
藻掻いて逃れようとすると、リシャールは茎から手を離し、自重を掛けてアルヴィンの動きを封じてしまった。
体格のいいリシャールに先んじられては、アルヴィンに対抗する術などない。
「大人しくしていないと、本当にそのまま入れてしまうぞ。濡れもしていないのに押し込まれては……痛いだろうな」
「どうして……そんな……っ…………この器具は、こんな場合に使うものではないだろう!?」
「同じ事だ。君は故意にギュスターヴを誘った。シリルとも姦通していると言う。なら……間違ったものではない」
「誘った……? 何を馬鹿な!! シリルのことだって、貴方の方が無理を言っているのは分かる筈だ!」
「口が減らないな、君は……」
「な、に……っ、ぐぅっ」
器具が、口に押し込まれた。
吐き出そうとする前に、押し込まれた部分が開き、舌や歯の動きが阻まれる。
「が、っぁ……んぅ……」
「これは口用ではないのだがね。まあいい。……安心したまえ。幾つか用意がある」
手を伸ばして退けようにも、後ろ手にされその上へ乗り上がられては身動きが取れない。
「ぅ……あ、う……っ……」
「暫くそうしているがいい」
手を押さえつけたまま、リシャールの身体が僅かに離れる。
しかしアルヴィンは身体のあちらこちらに覚える痛みで、身動きが取れなかった。
尻の丸みをまだ楽しまれている感覚がするが、アルヴィンは微かに身を震わせるだけで最早逃れることも出来ない。
時折揶揄う様に花蕾へと指が引っかけられるが、抗う気にもならなかった。
仕置きなのだか拷問なのだか、ただの児戯なのだか分からないが、ただ、この時間を早く終わらせたい。
生理的な涙に潤む瞳でリシャールを見ようと首を動かすが、叶わなかった。
無理に開かされたままの口からだらだらと唾液が滴るのが、堪らなく不快だ。
敷布に頤を擦りつけるが、顎を少しでも動かす度に器具が口蓋に押しつけられこめかみが砕かれそうな酷い痛みに襲われる。
「く、ふ……ん……んっ」
「往生際が悪いな、君は」
「ん、っん……ぐ……」
そっとリシャールの指先が顎を辿って唾液を掬う。
触れられるのも、辛い。
指は再び離れ、掬った唾液を蕾へと擦りつけるのが分かった。
「ぁ……ん、っ……ん……ぅ」
「濡れはしていないが、少し緩んでいるな。待ち遠しいのか?」
囁かれると背が震える。
堪えられない。
双眸から涙が溢れる。
「これでは私が楽しめないな」
「んっ、ぁ」
抑えられている腕に、何かが施される。
皮と鎖で出来た枷だ。
「前のものはお気に召さなかった様なのでね。柔らかい皮なら君にそう傷を付けることもないだろう?」
後ろ手に拘束される。リシャールは、やっとアルヴィンの身体から離れた。
「さて……どうするかな」
息が耳に触れる。ぞくぞくと悪寒に似た震えを覚え、それが腰へと蟠っていく。
「どうして欲しい。……ああ、いや、今君は答えられないのだったな」
笑い声でさえ性感を煽る。
指先が藻掻き、宙を掻いた。
「私以外に色目を使わないと、誓えるか?」
羽根で撫でる様に、腰の窪みを擦られる。アルヴィンは緩く首を振りかけ、すぐに痛みに身を竦ませた。
「……大した効果だな、これは。君がこれ程大人しくなるとは」
「ん……ん……ぅふ……」
「外して欲しいかい?」
必死で頷く。リシャールがくすくすと笑う声が聞こえた。
怒りと羞恥で視界が赤く染まる気がした。
「誓えるなら、外してあげよう。君の声を私も聞きたい。君の甘やかな声音で、私の名を呼んで欲しいからな。……誓えるか? 私以外に微笑まない。私以外に優しい言葉を掛けない。私の言いつけは、全てよく守る。それだけのことだ」
「あ、がっ!」
口に嵌めた器具の螺子を一つ強く巻く。
一層歪められた顔。目からぼろぼろと涙が溢れ零れる。
「……頷くことも出来ないか」
引き伸ばされた頬を指の背で撫でる。
「泣かないでくれ。君に泣かれるのは、厭だ」
泣かせているのが誰なのか、何処か理解していない様子で困惑する。
アルヴィンは必死で痛みに抗いながら、顔をリシャールの方へ向けた。
酷く当惑している表情を見て、一層困る。
視線でリシャールを責めない様に気をつけて、見詰める。
目の動きで頷いてみせる。この場を逃れる為だけではない。リシャールを傷つけたくないと、そう、思ってしまった。
アルヴィンの意志が分かり、リシャールは、微笑む。
「ん……」
器具を窄め、口から引き抜いた。顎関節がぎしぎしと痛んでいる。
「…………馬鹿な人だ……貴方は……。僕はもうあの部屋へは入らない。それで……」
「ギュスターヴやシリル君と親しくして欲しくない」
「子供の独占欲だ、それは」
「何と言われようと……不愉快なのだ」
「……っ…………」
「傷つけたか。……済まない」
顔を近づけ舌を緩く舐め取り、口蓋や頬の内側を撫でる。
拒まず恭順してみせる。リシャールの舌も、唇も、嫌いにはなれない。
痛みは好まないが、それでも、手荒な手段であっても意志を明らかにしてくれることに安堵してさえいた。
それが独占欲だとか嫉妬だとか、自分に好意を寄せているからこそ起こる感情であれば尚のこと、拒めはしない。
「ギュスターヴ君のことは、心配なだけだ。……貴方が考えている様なことは、何もない」
「何を案じている」
「……あの子が危ないのは、貴方だって知らないことではないだろう」
「マリーエに任せてある。問題が起こる様な事例は聞いていない」
「…………人が人であることを捨てるのは、いいことではないよ。現に……あんな温かい場所を苦痛に感じるなら、それはよくないものだ。……僕以外に……苦しんでしまう子がいるなら、助けてあげたいんだよ。それだけだ」
「君やノウラが持っている力を手に入れることが出来るなら……少しのリスクはつきものだ。仕方のないこともあるだろう」
「人に必要な力じゃない」
アルヴィンはリシャールから顔を背けた。顔を敷布に押しつけて口元を拭う。
「貴方も、ああなりたいのか?」
「……そうだな。叶うなら」
「馬鹿だ。貴方は、後一歩飛び込むだけだよ。ギュスターヴ君の様なことは必要ない。同じ事をしたら、貴方は……あの方に守られなくなる」
「あの方というのは」
「礼拝堂の方だ。……お母様なんだろう? 母親の想いを無にすることは、貴方の本意ではないんじゃないのか?」
「何故私に力があると思う」
「ノウラが認めているから。それに……僕も、少しだけど感じる」
背筋で微かに身体を起こすと、頬をリシャールへと擦り寄せる。手が自由にならないのがもどかしい。
「お母様が見守っていて下さるのに、貴方はどうして……分からないんだ」
「母だと確信しているのだな」
「この国の政変は二十五年前だ。その皇后が亡くなったのは翌年。お姉様や妹さんではないだろう。……まあ……貴方の叔母様だとかいう可能性もあるだろうが、他に確信はある」
「君の祖国ではないだろうに、よく知っているものだ。顔と……他には何に基づいた確信かな」
「ここに来る前に貴方が話してくれた、その時の貴方の瞳が確信ではいけないか。貴方は、先帝の子。違う?」
真っ直ぐにリシャールを見上げる。
リシャールは困った様に眉を寄せた。
アルヴィンは一層顔を擦り寄せて、歯で軽くリシャールの着物を噛んで引いた。
媚びる様な仕草と濡れたままの瞳に、リシャールはアルヴィンを抱き起こした。
膝の上へと抱え上げ、自ら頬を寄せる。涙と唾液にべとついた顔を気にも止めない。
抱き締めてくる腕の力が強い。
言いたくない過去だと言っても、未だ引き摺っているのが分かる。
アルヴィンは、無理矢理リシャールと額同士をぶつけた。
「見てしまったんだから、共犯になるか、僕を殺すか、二つに一つだろう」
「…………ああ、そうだな…………」
「そうだよ。だから、話してくれ。僕には、現在のこの国に柵なんてないから。力を貸すことだって出来るかも知れない」
「……やけに協力的だな」
「貴方の心証がよければ、早く帰して貰えるかも知れないだろう?」
「……嘘つきだな、君は」
青い瞳が微笑む。
アルヴィンは小さく肩を竦めた。
「……まだお仕置きをするつもり? しないなら、腕、外して欲しいんだけど」
「……そういう口をきくなら、まだ外してやりたくないな」
「痛くないなら、いいよ。好きにすれば?」
「また口を塞がれたいか? 君には、そういうものの考え方をして欲しくない」
「あの器具はもう厭だな」
目を閉じ、差し出す様に頤を上げる。
リシャールは暫く複雑な表情でそれを眺め、やがて、唇を重ねた。
続
作 水鏡透瀏
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