迂闊だった。
ガンダムの件で重大な極秘情報の提供者がいると言われ、促されるまま車に同乗した。
仲介者が同盟国AEUの少尉であったため、信頼性は比較的高いと判断したのだが、最初から全てが罠だったのだ。
待ち合わせ場所だという廃屋には、人の気配は全くない。
「情報提供者というのは?」
辺りの様子を伺いながら同行の少尉に尋ねると、僅かな沈黙の後、彼は意味ありげな薄笑いを浮かべた。
「何を言ってるんです?いるじゃないですか。貴方の目の前に。」
本能的に危険を察知し、腰の拳銃に手を伸ばしたが、相手の方が一瞬早かった。
撃ち合いで不利ならば…!
咄嗟に思考回路を肉弾戦に切り替える。
体格差からして正攻法では勝機はない。
相手の懐へ飛び込むと、拳銃を構えかけた手を思い切り蹴り上げた。
撥ねとんだ銃が遠くに落下したのを音で確認し、そのまま喉元を狙って拳を繰り出す。
だが、逆にその手首を捕られて投げ飛ばされた。
体勢を立て直す間もなく組み敷かれ、首筋にナイフを突き付けられる。
「惜っしいねえ、結構いい線いってたぜ、あんた。」
酷薄な笑みを浮かべてこちらを見下ろす表情は、先程までとはまるで別人だ。
「貴様は、一体……」
「そう、あんたに用があるのはこの俺、アリー・アル・サーシェスだ。」
その名は聞いたことがある。凄腕の傭兵で稀代のテロリスト。
「…それが私に何の用だ?」
「青いガンダムを墜としたろ?ありゃあ俺の獲物だったんだよ。」
細められた目が凄味を増した。
「他人の玩具を横取りしたら、…どうなるか解ってるよなあ!?」
ナイフが振り上げられた。流石にこれを回避する術は思いつかない。
だが、喉を切り裂くと思われた刄は、床まで貫通する勢いで左肩に突き立てられた。
「……!!」
痛みを通り越し、鈍い衝撃が全身を貫く。
「が…はぁっ…!」
鉄臭い味が口腔に充ち、顎へ伝い落ちる。
呼吸がままならない。肺を傷つけられたか…。
だが何故すぐ殺さない?
霞む目で見上げると、アリーは愉悦に満ちた表情でこちらを見下ろしていた。
「ああ、いいねえ。アングロサクソンの連中はどうにも人形めいていてイケねえが。」
口元から流れる血を、手の甲で拭うように頬へ塗り伸ばされる。
「特にこれ見よがしな金髪碧眼、真っ白なお肌ときちゃあな。だが血の赤が加わった今のあんたは完璧だぜ。」
首筋から耳元まで舐め上げられ、苦痛を上回る嫌悪感に震えが走った。
「ところで、あんた処女か?」
唐突な問いに、一瞬思考が停止する。
苦痛の表情の中からもその戸惑いを察知したアリーは、この上なく可笑しそうに笑った。
「こりゃ傑作だ!すげえ掘り出しモンだ。」
乱暴に重ねられた唇と絡み付く舌の感触に動転している間にシャツを引き裂かれた。
強引に足を開かされ、ようやく事態を理解する。
抵抗しようにも、蝶の標本のように床に刺し留められた体。冷えていくのは出血のせいか絶望のせいか。
「壊されちまった玩具の分、きっちり愉しませてもらうぜ。」
耳元で囁かれた声が、やけに遠く感じられた。
後孔に指を捻じ込まれ、内側を押し広げるように捏ね回される。
突然の異様な刺激に、薄れかけていた意識を呼び戻された。
「や、やめろ…何を…!」
アリーは面白そうにグラハムの顔をしげしげと眺めた。
「いやあ、恐れ入ったねえ。マジで初めてなのかい。結構結構。」
そう言いながら見せ付けるように既に怒張したペニスを取り出す。
「こっちの準備はもう出来てるんたぜ。折角あんたのために慣らしてやろうってのによ。」
グラハムの血の気の失せた顔が更に蒼ざめた。
あんなものをどうやって…!
「やっぱ面倒くせえ。もういくぜ。」
両足を高く持ち上げられ、一気に最奥まで貫かれた。
「あ、うああぁっ…!!」
強引すぎる挿入で裂けた腸壁から血が滴り落ちる。
「んー、いい声だねえ。さっきは串刺しにしても啼かなかった癖によぉ。」
嘲笑うように吐き捨て、アリーはそのまま激しく腰を打ち付け始めた。
身勝手な動きで幾度も揺さぶられ、肩の傷が更に抉られていく。
ひどく寒いのに、左肩と下腹部だけが灼けつくようだ。
それでも、もう決して声など上げてやるものか…!
しかし相手を煽るには、衝撃の度に一瞬だけ薄紅の差し引きする、色を失った白い肢体で充分だった。
「っ…そろそろか。しっかり受け止めろよ…!」
のしかかるアリーの体が一瞬震え、体内に熱い液体が弾けるように叩きつけられた。
異物感と嫌悪で吐き気を覚える程だ。だが……。
ふう、と満足気な吐息を一つ漏らして、アリーは揶揄うようにグラハムの顔を覗き込んだ。
「いかがでしたか?お姫様。初めての男の味は。」
その視線を真っ直ぐに跳ね返すグラハムの頬を、透明な涙が伝う。
それを屈辱と屈服の証と見てとったアリーは、更に嗜虐的な笑みを浮かべた。
「駄目だぜ。泣くのは相手を誘ってるのと同じだって何で解んねえかなぁ?」
望むところだ。今の一連の行為で理解した。
……一度だけチャンスはある。
それには残された僅かな体力を温存することが最優先だ。決して真意を悟られてはならない。
グラハムはあえて抵抗せずアリーの愛撫を受け入れた。
白い喉に咬み跡を残し、鎖骨をなぞった舌は胸の仄かな色付きへ辿り着く。
散々口に含んで転がしたり歯を立てたりした後、ぷっくりと持ち上がったそれを指で弾くと、華奢な肩が反射的に竦められた。
「よくもまあ、今まで誰も手を出さなかったもんだ。」
アリーは身を起こし、征服した美しい獲物を改めて見下ろした。
「そういや、最初の蹴りは中々鋭かったな。ああやって寄り付く虫を撃退してたのか?」
膝を立てさせ、太腿の内側に口づける。しなやかな筋肉を包む肌は、触れると吸い付くように瑞々しい。
既にアリーの体は充分な熱を取り戻していた。
二度目の侵入は、滞留していた体液の所為か比較的容易だった。
今度はじっくりと味わうように隅々まで蹂躙する。
突然、グラハムの体が大きく震えた。
「何だあ?感じてんのかよ。」
同じ箇所を突く度、声にならない悲鳴をあげるように喉を反らせる。
煽られるようにアリーも再び限界を迎えようとしていた。
後孔にくわえ込まされたペニスが膨らみを増すのを感じた。先程までとは明らかに違う感触。
この瞬間を待っていた。奴に隙が生まれるとすれば今しかない…!
下腹部に注ぎ込まれる熱さを確認すると同時に、渾身の力で左肩に突き立てられたナイフを引き抜く。
返す刄で今しも自分の中で吐精したばかりの男の首を狙った。
……躱されたか!!
捨て身の攻撃は、咄嗟に跳びすさったアリーの左頬を掠めただけだった。
立ち上がろうとしたが、膝立ちが精一杯だ。左腕は…全く動かないか。
壁際まで下がり、左膝を立ててナイフを構えた。
アリーは驚きを通り越し、呆れて目の前の青年を見つめていた。
浅手とはいえ俺の顔に一撃入れやがった。
…しかもとんでもないタイミングで。
無茶な動作のせいで、深手を負った左肩から新たな鮮血が溢れている。
白い内腿をとろとろと伝い落ちるのは、注がれた精液と挿入時に裂けた傷から流れる血。
あまりに凄惨な筈のその姿は、いっそ美しかった。
利き腕を潰され、まともに足腰も立たないくせに、まだ闘る気満々だ。
澄んだ翡翠の瞳に宿る揺るぎない光は、憎悪でも狂信でもなく、かつて自分に向けられてきたどんなものとも違っている。
「面白え。あんた本当にすげえ掘り出しモンだぜ。…だがな」
アリーはグラハムに歩み寄ると、容赦無く左肩を蹴りつけた。
声もなく床に崩れ落ちた青年の手からナイフを取り上げる。
「こいつぁ俺のお気に入りなんで返してもらうぜ。」
柔らかな金髪を掴んで無理矢理顔を上げさせる。
「で?命乞いしたければ一応聞いてやるぜ。」
だが、相手の口から出たのは突拍子もない言葉だった。
「ああ、実は私も疑問があったんだ。…君は一体何をしに来たんだ?さっさと殺せば済むものを。」
アリーは絶句した。さっきまでの屈辱をもう忘れたってのか?
「君が私から奪えるものが、命以外に何かあるのか?」
ああ、服も取られたか。と笑う。
「ちなみに今日、私は君から銃とナイフを奪ったが。」
息も絶え絶えのくせに軽口まで叩きやがる。立場を弁えないにも程がある。
「…今度はそのクソ生意気な口に突っ込んでやろうか?」
「好きにしろ。喰い千切られてもいいならな。」
不敵な笑顔で答えられると、もう返す言葉もない。
「さっきの涙は演技かよ。」
強気だった視線がふっと彷徨い、底知れぬ深みを帯びた。
「いや、…思い出しただけだ。私にも以前は失いたくないものがあったと。」
僅かな沈黙を破るように、かすかに空気が振動するのを感じた。聞き慣れた飛行音…フラッグだ。
アリーもすぐに気付いたらしい。
「どうやらお姫様救出の騎士のお出ましだな。」
舌打ちすると、グラハムの右手を乱暴に掴んで壁に押しつける。
先程のナイフを取出し、無造作に切っ先を打ち付けた。
「今日は結構楽しかったぜ。それは貸しといてやる。失くすなよ。」
覆い被さるようにして、苦痛と途惑いに揺れる深緑の瞳を覗き込む。
「言ったろ?気に入りだって。」
そのまま額に軽く口づけると囁いた。
「…返してもらいにくるからな。」
ガンダムの件で重大な極秘情報の提供者がいると言われ、促されるまま車に同乗した。
仲介者が同盟国AEUの少尉であったため、信頼性は比較的高いと判断したのだが、最初から全てが罠だったのだ。
待ち合わせ場所だという廃屋には、人の気配は全くない。
「情報提供者というのは?」
辺りの様子を伺いながら同行の少尉に尋ねると、僅かな沈黙の後、彼は意味ありげな薄笑いを浮かべた。
「何を言ってるんです?いるじゃないですか。貴方の目の前に。」
本能的に危険を察知し、腰の拳銃に手を伸ばしたが、相手の方が一瞬早かった。
撃ち合いで不利ならば…!
咄嗟に思考回路を肉弾戦に切り替える。
体格差からして正攻法では勝機はない。
相手の懐へ飛び込むと、拳銃を構えかけた手を思い切り蹴り上げた。
撥ねとんだ銃が遠くに落下したのを音で確認し、そのまま喉元を狙って拳を繰り出す。
だが、逆にその手首を捕られて投げ飛ばされた。
体勢を立て直す間もなく組み敷かれ、首筋にナイフを突き付けられる。
「惜っしいねえ、結構いい線いってたぜ、あんた。」
酷薄な笑みを浮かべてこちらを見下ろす表情は、先程までとはまるで別人だ。
「貴様は、一体……」
「そう、あんたに用があるのはこの俺、アリー・アル・サーシェスだ。」
その名は聞いたことがある。凄腕の傭兵で稀代のテロリスト。
「…それが私に何の用だ?」
「青いガンダムを墜としたろ?ありゃあ俺の獲物だったんだよ。」
細められた目が凄味を増した。
「他人の玩具を横取りしたら、…どうなるか解ってるよなあ!?」
ナイフが振り上げられた。流石にこれを回避する術は思いつかない。
だが、喉を切り裂くと思われた刄は、床まで貫通する勢いで左肩に突き立てられた。
「……!!」
痛みを通り越し、鈍い衝撃が全身を貫く。
「が…はぁっ…!」
鉄臭い味が口腔に充ち、顎へ伝い落ちる。
呼吸がままならない。肺を傷つけられたか…。
だが何故すぐ殺さない?
霞む目で見上げると、アリーは愉悦に満ちた表情でこちらを見下ろしていた。
「ああ、いいねえ。アングロサクソンの連中はどうにも人形めいていてイケねえが。」
口元から流れる血を、手の甲で拭うように頬へ塗り伸ばされる。
「特にこれ見よがしな金髪碧眼、真っ白なお肌ときちゃあな。だが血の赤が加わった今のあんたは完璧だぜ。」
首筋から耳元まで舐め上げられ、苦痛を上回る嫌悪感に震えが走った。
「ところで、あんた処女か?」
唐突な問いに、一瞬思考が停止する。
苦痛の表情の中からもその戸惑いを察知したアリーは、この上なく可笑しそうに笑った。
「こりゃ傑作だ!すげえ掘り出しモンだ。」
乱暴に重ねられた唇と絡み付く舌の感触に動転している間にシャツを引き裂かれた。
強引に足を開かされ、ようやく事態を理解する。
抵抗しようにも、蝶の標本のように床に刺し留められた体。冷えていくのは出血のせいか絶望のせいか。
「壊されちまった玩具の分、きっちり愉しませてもらうぜ。」
耳元で囁かれた声が、やけに遠く感じられた。
後孔に指を捻じ込まれ、内側を押し広げるように捏ね回される。
突然の異様な刺激に、薄れかけていた意識を呼び戻された。
「や、やめろ…何を…!」
アリーは面白そうにグラハムの顔をしげしげと眺めた。
「いやあ、恐れ入ったねえ。マジで初めてなのかい。結構結構。」
そう言いながら見せ付けるように既に怒張したペニスを取り出す。
「こっちの準備はもう出来てるんたぜ。折角あんたのために慣らしてやろうってのによ。」
グラハムの血の気の失せた顔が更に蒼ざめた。
あんなものをどうやって…!
「やっぱ面倒くせえ。もういくぜ。」
両足を高く持ち上げられ、一気に最奥まで貫かれた。
「あ、うああぁっ…!!」
強引すぎる挿入で裂けた腸壁から血が滴り落ちる。
「んー、いい声だねえ。さっきは串刺しにしても啼かなかった癖によぉ。」
嘲笑うように吐き捨て、アリーはそのまま激しく腰を打ち付け始めた。
身勝手な動きで幾度も揺さぶられ、肩の傷が更に抉られていく。
ひどく寒いのに、左肩と下腹部だけが灼けつくようだ。
それでも、もう決して声など上げてやるものか…!
しかし相手を煽るには、衝撃の度に一瞬だけ薄紅の差し引きする、色を失った白い肢体で充分だった。
「っ…そろそろか。しっかり受け止めろよ…!」
のしかかるアリーの体が一瞬震え、体内に熱い液体が弾けるように叩きつけられた。
異物感と嫌悪で吐き気を覚える程だ。だが……。
ふう、と満足気な吐息を一つ漏らして、アリーは揶揄うようにグラハムの顔を覗き込んだ。
「いかがでしたか?お姫様。初めての男の味は。」
その視線を真っ直ぐに跳ね返すグラハムの頬を、透明な涙が伝う。
それを屈辱と屈服の証と見てとったアリーは、更に嗜虐的な笑みを浮かべた。
「駄目だぜ。泣くのは相手を誘ってるのと同じだって何で解んねえかなぁ?」
望むところだ。今の一連の行為で理解した。
……一度だけチャンスはある。
それには残された僅かな体力を温存することが最優先だ。決して真意を悟られてはならない。
グラハムはあえて抵抗せずアリーの愛撫を受け入れた。
白い喉に咬み跡を残し、鎖骨をなぞった舌は胸の仄かな色付きへ辿り着く。
散々口に含んで転がしたり歯を立てたりした後、ぷっくりと持ち上がったそれを指で弾くと、華奢な肩が反射的に竦められた。
「よくもまあ、今まで誰も手を出さなかったもんだ。」
アリーは身を起こし、征服した美しい獲物を改めて見下ろした。
「そういや、最初の蹴りは中々鋭かったな。ああやって寄り付く虫を撃退してたのか?」
膝を立てさせ、太腿の内側に口づける。しなやかな筋肉を包む肌は、触れると吸い付くように瑞々しい。
既にアリーの体は充分な熱を取り戻していた。
二度目の侵入は、滞留していた体液の所為か比較的容易だった。
今度はじっくりと味わうように隅々まで蹂躙する。
突然、グラハムの体が大きく震えた。
「何だあ?感じてんのかよ。」
同じ箇所を突く度、声にならない悲鳴をあげるように喉を反らせる。
煽られるようにアリーも再び限界を迎えようとしていた。
後孔にくわえ込まされたペニスが膨らみを増すのを感じた。先程までとは明らかに違う感触。
この瞬間を待っていた。奴に隙が生まれるとすれば今しかない…!
下腹部に注ぎ込まれる熱さを確認すると同時に、渾身の力で左肩に突き立てられたナイフを引き抜く。
返す刄で今しも自分の中で吐精したばかりの男の首を狙った。
……躱されたか!!
捨て身の攻撃は、咄嗟に跳びすさったアリーの左頬を掠めただけだった。
立ち上がろうとしたが、膝立ちが精一杯だ。左腕は…全く動かないか。
壁際まで下がり、左膝を立ててナイフを構えた。
アリーは驚きを通り越し、呆れて目の前の青年を見つめていた。
浅手とはいえ俺の顔に一撃入れやがった。
…しかもとんでもないタイミングで。
無茶な動作のせいで、深手を負った左肩から新たな鮮血が溢れている。
白い内腿をとろとろと伝い落ちるのは、注がれた精液と挿入時に裂けた傷から流れる血。
あまりに凄惨な筈のその姿は、いっそ美しかった。
利き腕を潰され、まともに足腰も立たないくせに、まだ闘る気満々だ。
澄んだ翡翠の瞳に宿る揺るぎない光は、憎悪でも狂信でもなく、かつて自分に向けられてきたどんなものとも違っている。
「面白え。あんた本当にすげえ掘り出しモンだぜ。…だがな」
アリーはグラハムに歩み寄ると、容赦無く左肩を蹴りつけた。
声もなく床に崩れ落ちた青年の手からナイフを取り上げる。
「こいつぁ俺のお気に入りなんで返してもらうぜ。」
柔らかな金髪を掴んで無理矢理顔を上げさせる。
「で?命乞いしたければ一応聞いてやるぜ。」
だが、相手の口から出たのは突拍子もない言葉だった。
「ああ、実は私も疑問があったんだ。…君は一体何をしに来たんだ?さっさと殺せば済むものを。」
アリーは絶句した。さっきまでの屈辱をもう忘れたってのか?
「君が私から奪えるものが、命以外に何かあるのか?」
ああ、服も取られたか。と笑う。
「ちなみに今日、私は君から銃とナイフを奪ったが。」
息も絶え絶えのくせに軽口まで叩きやがる。立場を弁えないにも程がある。
「…今度はそのクソ生意気な口に突っ込んでやろうか?」
「好きにしろ。喰い千切られてもいいならな。」
不敵な笑顔で答えられると、もう返す言葉もない。
「さっきの涙は演技かよ。」
強気だった視線がふっと彷徨い、底知れぬ深みを帯びた。
「いや、…思い出しただけだ。私にも以前は失いたくないものがあったと。」
僅かな沈黙を破るように、かすかに空気が振動するのを感じた。聞き慣れた飛行音…フラッグだ。
アリーもすぐに気付いたらしい。
「どうやらお姫様救出の騎士のお出ましだな。」
舌打ちすると、グラハムの右手を乱暴に掴んで壁に押しつける。
先程のナイフを取出し、無造作に切っ先を打ち付けた。
「今日は結構楽しかったぜ。それは貸しといてやる。失くすなよ。」
覆い被さるようにして、苦痛と途惑いに揺れる深緑の瞳を覗き込む。
「言ったろ?気に入りだって。」
そのまま額に軽く口づけると囁いた。
「…返してもらいにくるからな。」
| その他名ありキャラ::13:アリー5 | 2008,04,15, Tuesday 07:19 AM