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売春リンカーン→分岐1-c-1-2:コーラサワールート(part4 605,749,750)

新橋

「なっ…なんだあッ?!」

いきなり倒れ掛かってきた男をコーラサワーは慌てて抱き起こそうとした。
が、手に持っていた大きな赤い薔薇の花束のせいで一瞬反応が遅れ、そのまま雪道へ一緒に倒れこんでしまった。

「なにすんだ、おい!…あれ?」

意識を手放した男の顔はどこかで会ったことがある気がする。
蒼白な顔色に凍えた体。人通りもまばらな夜道でこのまま放置するには忍びない。耳元で大きな声で呼びかけたがそのまま反応は無かった。

「ったくしょーがねーなー」

コーラサワーは携帯を取り出しデート予定だった相手に電話をかけた。


ホテルの部屋に彼を連れ帰ったコーラサワーは雪で白くなったジャケットを脱がせた。
「…!」息を呑む。なんてことだろう、気を失っただけだと思っていたがシャツは切り裂かれ、
そこから覗く白い肌には明らかな暴力の跡がある。これ以上傷つけることのないようにと、そっとベッドへ寝かせる。
少し躊躇ったがボロボロのシャツを脱がせ、濡れたボトムと下着も剥がすように脱がせた。
傷が痛むのか時々堪えきれぬ息が漏れる。精液で汚れきったその肌をコーラサワーは怒りのような感情を抑えながら
丁寧に熱いタオルできれいにぬぐっていく。ところどころに噛み跡やキスマークが淫らに存在し
対照的な子供のような寝顔に痛々しさが増すばかりだ。

「ひでえな…おい、大丈夫か?」

軽く頬を叩くとグラハムは微かにその長い睫毛を震わせ、うわごとのように何かつぶやいた。

「…わたしは…ない…」
「なに?なんだ?聞こえないぞ」

うっすらと目を開け、グラハムはコーラサワーの顔を幻でも見るかのように定まらない目線で見つめる。
綺麗な深緑の瞳…確かにどこかで。
その目元に大粒の涙が浮かび、頬を伝い落ちた。
肩を震わせわななく唇から搾りだす必死な掠れた声で言う。

「わたしは…守れない…助けてく、れ…ジョシュア…ハワード…」
「あんた…」

そのまましがみつかれて、どうしようもない気分になる。
このまま肩を抱きしめていいものか?
だが傷ついた捨て猫のような青年の姿に同情と困惑と、コーラサワー自身でも分からない感情があった。
どうしても放っておけない。…だが、どうすれば彼を慰めることができるのか。
制御できない感情のまま、その金糸の髪にそっと口付けてみた。

ユニオンの寄宿舎のインターホンが鳴り響きシャワーあがりのグラハムはバスタオルを肩にひっかけ玄関に出た。

すると目の前に赤い薔薇が広がる。

「ん?風呂あがりだったのか?」

薔薇の外からは行き倒れた所を助けてくれた人物が佇む。

「君は…どうして…」

自分の事をたしか知らないといっていたはずだが、AEUのエースは屈託なく笑った。

「夕食でもって思ってな。もう喰ったか?」

「いや…まだだが…そうではなく」

不思議そうな顔をしていると「ああ」と声をあげて自信満々に自分を親指でさしてウインクした。

「俺はスペシャル様だからな!」

そんな相手に思わず笑い声をたててしまう。
売春をして、相手に身包みをはがされ、この男に助けられ。
しかし、その後逃げ帰るようにして男に金をかり出来る礼だけして基地に戻った。

だからこそ、薔薇も食事も受け取れずに花束を収めるように手で促した。
何故だと問い掛ける目に苦笑を浮かべてグラハムは呆れた。

「君は…私が何をしたか知っているだろう。」

「まぁ、見てたしなぁ…」

「簡単に体を売るような男だ。そして君はAEUのエース。私はユニオンのエース」

「そういや、イナクトお披露目でもずいぶんな事を言ってくれたよなぁ。」

続く言葉に覚えていたのかと驚いた目を向ければ思い出したんだよ、と照れくさそうに返された。
思っていたよりきれる男なのだろか。

「世界は大きく変革もしている…明日をも知れない命だ。」

「まー明日をも知れない命は元からだろ」

爽快な笑みに、全てを受け入れてくれそうな男に甘えたくなる。
それを耐えて、男に厳しい目を向けて冷たく言い放つ。
甘やかさないでほしいと願ってもいない望みをかけながら。

「なら、他に考える事もだろだろう。」

そういって扉を閉めようとする瞬間に、閉じるのを手で阻まれた。

「ない!お前以外に考える事なんてまったくないね!」

裏表のない顔で思いをストレートにぶつけてくる男に何も言えずに固まった。

「それに変革とやらでユニオンもAEUもまとまったんだし、これで阻むものは何もないだろ!」

俺とお前が出会ってからこうなるなんて運命だよな、なんて笑う男に不覚にも泣きそうになった。

「私は、誰とでも寝る男だ。」

「じゃー今度から俺だけにしとけよ。な!」

何を言っても、この男には通じない、無駄なのだとわかると諦めより嬉しさがグラハムを襲う。

「なら、私を惚れさせてみせろ。」

そのまま扉を閉めようとすると今度は簡単に扉をしめさせるが、がっかりしたような顔が見えた。
それに溜息をついたのは、お手軽な自分に呆れてか、男に呆れてか。

「…すぐに準備する。外で待つか、中で待つかは好きにするといい。」

幸せいっぱいとでもいうようなコーラサワーの顔にグラハムは頭を抱えた。

惚れさせてみせろ?よく言う。——逃げる事など出来ない。もう、手遅れだ。

| 分岐モノ::1:売春リンカーン | 2008,02,22, Friday 11:15 PM

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