「…お前は……」
誰かの名前を呼んでいたが、それが誰かまではわからない。
ただ、意識を失うさいに縋るように凭れた体を支えきる事が出来ずに刹那は雪の中倒れこんだ。
弱っている人間——しかも少なからず、嫌いではない、興味をひかれている人間を支える事も出来ずに
グラハムの背に腕を回し抱えながらも拳を握り締める。
バイクに乗りながらも彼を見つけられたのは僥倖だった。
アイリス社付近で落とされた紛い物の腕を拾いに向かう間だったのだから会っても不思議ではなかったのかもしれない。
しかし、彼の変わり果てた姿と彼との行為で覚えのある寒い中でも鼻につく匂いは悔しさしか沸き立たない。
「…おい、起きろ…」
揺さぶっても目を開く事はなく、体は火のように熱をもっている。
ユニオンのエースである彼が素面で無理に強姦されるとは考え辛い。
ならば……
刹那は舌打ちして携帯を取り出し、面倒見のいい、ロックオンに電話をかける。
こういう事は彼と彼によくついてくるアレルヤに頼るのが最適だ。人も良いし見捨てる事もしないだろう。
一人でグラハムを支える事も運ぶ事もいまだ出来ない成長の遅い自分が疎ましい。
「…ああ、俺だ。…力がいる。貸してくれ。」
いつもどこか大人ぶっている、大きいと思っていた男が、酷くはかなく頼りなげて小さく見えた。
電話口で場所をロックオンに告げながらコートとマフラーをグラハムにかけて抱きしめて温める。
コートも腕も、温めるには小さすぎる事実に苛立ちと焦りだけが募っていく。
自分と彼の立場では常に側にいる事も、辛い時に支える事も出来ない。
自分は、彼から奪う側の人間だ。
グラハムの唇が微かに動いて、また新たに涙が零れる。
刹那はそれに口付けて涙を啜った。
誰かの名前を呼んでいたが、それが誰かまではわからない。
ただ、意識を失うさいに縋るように凭れた体を支えきる事が出来ずに刹那は雪の中倒れこんだ。
弱っている人間——しかも少なからず、嫌いではない、興味をひかれている人間を支える事も出来ずに
グラハムの背に腕を回し抱えながらも拳を握り締める。
バイクに乗りながらも彼を見つけられたのは僥倖だった。
アイリス社付近で落とされた紛い物の腕を拾いに向かう間だったのだから会っても不思議ではなかったのかもしれない。
しかし、彼の変わり果てた姿と彼との行為で覚えのある寒い中でも鼻につく匂いは悔しさしか沸き立たない。
「…おい、起きろ…」
揺さぶっても目を開く事はなく、体は火のように熱をもっている。
ユニオンのエースである彼が素面で無理に強姦されるとは考え辛い。
ならば……
刹那は舌打ちして携帯を取り出し、面倒見のいい、ロックオンに電話をかける。
こういう事は彼と彼によくついてくるアレルヤに頼るのが最適だ。人も良いし見捨てる事もしないだろう。
一人でグラハムを支える事も運ぶ事もいまだ出来ない成長の遅い自分が疎ましい。
「…ああ、俺だ。…力がいる。貸してくれ。」
いつもどこか大人ぶっている、大きいと思っていた男が、酷くはかなく頼りなげて小さく見えた。
電話口で場所をロックオンに告げながらコートとマフラーをグラハムにかけて抱きしめて温める。
コートも腕も、温めるには小さすぎる事実に苛立ちと焦りだけが募っていく。
自分と彼の立場では常に側にいる事も、辛い時に支える事も出来ない。
自分は、彼から奪う側の人間だ。
グラハムの唇が微かに動いて、また新たに涙が零れる。
刹那はそれに口付けて涙を啜った。
ビリーは焦っていた。
クジョウと話す間、携帯をマナーにして鞄につっこんでいたのがよくなかった。
回収したガンダムの武器の解析について、何かしら感づいている所のある彼女から情報を引き出したかったのだ。
自分には教授のような頭脳はまだない。ならば、情報と駆け引きから得られる物を得る必要がある。
グラハムに譲れないものがあるのと同じで自分も教授の感づいた物を追いかけたかった。
それに技術革新はただでさえ負荷の高いフラッグで無茶をするグラハムの助けになる。
そう思っての事だったが…。
何度も延々と呼び出したとわかる履歴にはグラハムの名が羅列されていた。
「…ッどこにいるんだ、グラハム…ッ!」
彼は本来ならまだ入院していた筈だ。
だが病院の彼の部屋に戻れば姿はなく、勝手に退院したと聞く。
「まったく君は、心配ばかりかけて…!」
その後、携帯のGPSをたどると、とあるモーテルの一室に行き着いた。
モーテルの管理人に散々厭味をいわれたが、そんな言葉は耳に入ってはこない。
部屋に燻る青臭い匂いとどう見ても一人や二人分ではない量の汚れ。
その部屋の片隅に転がっていたグラハムの携帯。
適当に管理人に詫びをいれながらも上の空で外に出る。
尋常とは言い難い部屋の惨状と放置された携帯、滅多に頼る事をしないグラハムが。
あまりかけない彼が何度も助けを求めてであろう鳴らしつづけた電話。
外は嘲け痕跡を消し去るように雪がふぶいていた。
「……んッ…」
熱で目尻と頬が赤い。
むずがるように吐息をはくと寝返りで額に押し付けた濡れタオルが落ちた。
刹那はそれを取り、新しく冷えた水に浸した後、髪を撫でてやりながら額の上に乗せた。
グラハムが微笑み、刹那も安心して息を吐く…と——
「…ハワー…ド…」
幸せそうに笑って掠れた声で愛しそうに零れた声は知らない男の名前を呼ぶ。
その前はジョシュアだったか、ランディだったかスチュワートだったか。
手を握り締めて悔しさを噛み締めて、何気ない風を装い後を向いた。
「おい、刹那、薬買ってきたぞ、そいつの調子どうよ?」
「良くはない…助かった、ロックオン。」
僅かに微笑む刹那にロックオンは深く溜息をつく。
薬を受け取ると刹那は献身的に魘されている少年の看病を続けはじめる。
ティエリアにバレたらどんなお咎めが来るか…
そもそも、この少年と刹那の関係がつかめない。そう年は離れていないようだが…。
刹那より上か、同い年か。
いや、東洋人は幼く見え体格も西洋人に比べれば小さい事を考えると、刹那より年下の可能性もある。
確かに刹那は無愛想だと誤解されやすくはあるが基本的に面倒見は良い。
柔軟性もあるし、地上での偽りの生活ではご近所さん付き合いまでやっているらしい。
ならばその延長のお友達なのか、にしてはこっちの大陸で行き会うのも変な話だ。
刹那の生活拠点は東京なのだから。
雪の中で倒れていた理由が分からない。
刹那がやったのか、本人がやったのか簡単に汚れを拭われてはいたが精液の匂いが鼻につき、暴行された痕も目についた。
「おーおー、そんな顔しちゃって、妬けるねぇ〜」
「…ロックオン」
揶揄うと少年に向けられていた目とは違う胡乱な目を向けられてロックオンはへいへいと肩を竦めた。
同時に…んッ…という鼻にかかった声が聞こえロックオンと刹那は少年へと目を向ける。
その瞬間、ロックオンは少年に少し見入った。
睫毛が震え、ゆっくりと目が見開く——その目は潤んではいるが茫洋と光はなく哀しみだけが支配してるようにも見えた。
——あ〜なんだっけ、こういうの見た事あるわ。
刹那がそれに気付いて少年の傍らで手を握り声をかけるのを傍目に、少年が何に似ているのかを懸命に考えながら
場違いな気がしてアレルヤのいる部屋へと戻っていった。
「あの子の調子はどうだった?」
心配で気がかりだったのだろう、ソファに座っていたアレルヤが顔を上げてロックオンに尋ねる。
「意識は戻ったみたいだけどな…あぁ!」
「どうしたんだい?」
似ていたものが何だかわかって声をあげるロックオンにアレルヤが目を向けるとロックオンは笑った。
「いや、なーんか悲しげで頼りないっつーか、何かに似てるなとは思ってたんだけどよ」
子供や夫を亡くしたばかりの女に見えたのだ。年端もいかない子供に当てはめるのもおかしいが。
自分の両親と妹が死んだ現場にいたテロの被害者の。
あの人も綺麗な人ではあったが、…あの少年は大丈夫なんだろうか。
少年と、それを必死に支えようとする刹那がいる部屋の扉をロックオンは目だけを動かして見つめた。
「ハワードという名の男を殺したガンダムとこの間戦った。俺達はあいつらを紛争幇助する対象として認定した。」
男の名前とガンダムという言葉にグラハム少しだけ肩を揺らしてそうか、とだけ答える。
「ジョシュアとランディ、スチュワートもあのガンダムが原因か。」
それに力なくグラハムはいや、と否定する。
「共同戦線の時に撃ち死にした、後一歩で銃のガンダムを捕らえられると思ったが…こればかりはお互い様か?」
ロックオンか…あの時の事なら何かをする事も出来ずに、そうか、とだけ刹那は呟く。
「お前は…」
「何でお前が…」
同時に発せられた言葉に張り詰めた空気が少し和んだ、グラハムの笑った息遣いに刹那も微笑んで先をゆずった。
「何で、お前がこっちにいたんだ?すごい偶然だな…」
「こっちには調査で来た。何のまでかは言えない。すまない。…お前は…何で」
掠れた痛ましい声に悲しい顔をしそうになるのを耐えて刹那は少し笑って淡々と答えて行く。
そして気になって問わずにはいられない言葉を言うとグラハムの顔がひそむ。
咄嗟に刹那は質問を変えた。
「…何故、俺では…駄目だった…?」
心からの問いにグラハムはくしゃりと顔を歪ませて手で顔を覆った。
「すまない、直ぐに出て行く…少しだけ、一人にしてくれないか?」
「…いや、不躾な事を言った。」
自分と彼は敵同士で、敵の自分に頼れというのも酷な話だ。
それにさっきの会話では他3人を倒したのはトリニティメンバーではなく多分ロックオンだろう。
何も言わずに席をたって部屋を出る。
ホテルの部屋から出ようとするとさすがに気づいたのかアレルヤが声をかけてきた。
「刹那、どこに……」
「…少し、外を見てくる。あいつを…その間頼む。」
グラハムの立場が悪くはならないだろう言葉を選んで凍て付く外にでかけた。
あんな姿のグラハムを見て動揺が冷め遣らない、少しでも頭を冷したかった。
クジョウと話す間、携帯をマナーにして鞄につっこんでいたのがよくなかった。
回収したガンダムの武器の解析について、何かしら感づいている所のある彼女から情報を引き出したかったのだ。
自分には教授のような頭脳はまだない。ならば、情報と駆け引きから得られる物を得る必要がある。
グラハムに譲れないものがあるのと同じで自分も教授の感づいた物を追いかけたかった。
それに技術革新はただでさえ負荷の高いフラッグで無茶をするグラハムの助けになる。
そう思っての事だったが…。
何度も延々と呼び出したとわかる履歴にはグラハムの名が羅列されていた。
「…ッどこにいるんだ、グラハム…ッ!」
彼は本来ならまだ入院していた筈だ。
だが病院の彼の部屋に戻れば姿はなく、勝手に退院したと聞く。
「まったく君は、心配ばかりかけて…!」
その後、携帯のGPSをたどると、とあるモーテルの一室に行き着いた。
モーテルの管理人に散々厭味をいわれたが、そんな言葉は耳に入ってはこない。
部屋に燻る青臭い匂いとどう見ても一人や二人分ではない量の汚れ。
その部屋の片隅に転がっていたグラハムの携帯。
適当に管理人に詫びをいれながらも上の空で外に出る。
尋常とは言い難い部屋の惨状と放置された携帯、滅多に頼る事をしないグラハムが。
あまりかけない彼が何度も助けを求めてであろう鳴らしつづけた電話。
外は嘲け痕跡を消し去るように雪がふぶいていた。
「……んッ…」
熱で目尻と頬が赤い。
むずがるように吐息をはくと寝返りで額に押し付けた濡れタオルが落ちた。
刹那はそれを取り、新しく冷えた水に浸した後、髪を撫でてやりながら額の上に乗せた。
グラハムが微笑み、刹那も安心して息を吐く…と——
「…ハワー…ド…」
幸せそうに笑って掠れた声で愛しそうに零れた声は知らない男の名前を呼ぶ。
その前はジョシュアだったか、ランディだったかスチュワートだったか。
手を握り締めて悔しさを噛み締めて、何気ない風を装い後を向いた。
「おい、刹那、薬買ってきたぞ、そいつの調子どうよ?」
「良くはない…助かった、ロックオン。」
僅かに微笑む刹那にロックオンは深く溜息をつく。
薬を受け取ると刹那は献身的に魘されている少年の看病を続けはじめる。
ティエリアにバレたらどんなお咎めが来るか…
そもそも、この少年と刹那の関係がつかめない。そう年は離れていないようだが…。
刹那より上か、同い年か。
いや、東洋人は幼く見え体格も西洋人に比べれば小さい事を考えると、刹那より年下の可能性もある。
確かに刹那は無愛想だと誤解されやすくはあるが基本的に面倒見は良い。
柔軟性もあるし、地上での偽りの生活ではご近所さん付き合いまでやっているらしい。
ならばその延長のお友達なのか、にしてはこっちの大陸で行き会うのも変な話だ。
刹那の生活拠点は東京なのだから。
雪の中で倒れていた理由が分からない。
刹那がやったのか、本人がやったのか簡単に汚れを拭われてはいたが精液の匂いが鼻につき、暴行された痕も目についた。
「おーおー、そんな顔しちゃって、妬けるねぇ〜」
「…ロックオン」
揶揄うと少年に向けられていた目とは違う胡乱な目を向けられてロックオンはへいへいと肩を竦めた。
同時に…んッ…という鼻にかかった声が聞こえロックオンと刹那は少年へと目を向ける。
その瞬間、ロックオンは少年に少し見入った。
睫毛が震え、ゆっくりと目が見開く——その目は潤んではいるが茫洋と光はなく哀しみだけが支配してるようにも見えた。
——あ〜なんだっけ、こういうの見た事あるわ。
刹那がそれに気付いて少年の傍らで手を握り声をかけるのを傍目に、少年が何に似ているのかを懸命に考えながら
場違いな気がしてアレルヤのいる部屋へと戻っていった。
「あの子の調子はどうだった?」
心配で気がかりだったのだろう、ソファに座っていたアレルヤが顔を上げてロックオンに尋ねる。
「意識は戻ったみたいだけどな…あぁ!」
「どうしたんだい?」
似ていたものが何だかわかって声をあげるロックオンにアレルヤが目を向けるとロックオンは笑った。
「いや、なーんか悲しげで頼りないっつーか、何かに似てるなとは思ってたんだけどよ」
子供や夫を亡くしたばかりの女に見えたのだ。年端もいかない子供に当てはめるのもおかしいが。
自分の両親と妹が死んだ現場にいたテロの被害者の。
あの人も綺麗な人ではあったが、…あの少年は大丈夫なんだろうか。
少年と、それを必死に支えようとする刹那がいる部屋の扉をロックオンは目だけを動かして見つめた。
「ハワードという名の男を殺したガンダムとこの間戦った。俺達はあいつらを紛争幇助する対象として認定した。」
男の名前とガンダムという言葉にグラハム少しだけ肩を揺らしてそうか、とだけ答える。
「ジョシュアとランディ、スチュワートもあのガンダムが原因か。」
それに力なくグラハムはいや、と否定する。
「共同戦線の時に撃ち死にした、後一歩で銃のガンダムを捕らえられると思ったが…こればかりはお互い様か?」
ロックオンか…あの時の事なら何かをする事も出来ずに、そうか、とだけ刹那は呟く。
「お前は…」
「何でお前が…」
同時に発せられた言葉に張り詰めた空気が少し和んだ、グラハムの笑った息遣いに刹那も微笑んで先をゆずった。
「何で、お前がこっちにいたんだ?すごい偶然だな…」
「こっちには調査で来た。何のまでかは言えない。すまない。…お前は…何で」
掠れた痛ましい声に悲しい顔をしそうになるのを耐えて刹那は少し笑って淡々と答えて行く。
そして気になって問わずにはいられない言葉を言うとグラハムの顔がひそむ。
咄嗟に刹那は質問を変えた。
「…何故、俺では…駄目だった…?」
心からの問いにグラハムはくしゃりと顔を歪ませて手で顔を覆った。
「すまない、直ぐに出て行く…少しだけ、一人にしてくれないか?」
「…いや、不躾な事を言った。」
自分と彼は敵同士で、敵の自分に頼れというのも酷な話だ。
それにさっきの会話では他3人を倒したのはトリニティメンバーではなく多分ロックオンだろう。
何も言わずに席をたって部屋を出る。
ホテルの部屋から出ようとするとさすがに気づいたのかアレルヤが声をかけてきた。
「刹那、どこに……」
「…少し、外を見てくる。あいつを…その間頼む。」
グラハムの立場が悪くはならないだろう言葉を選んで凍て付く外にでかけた。
あんな姿のグラハムを見て動揺が冷め遣らない、少しでも頭を冷したかった。
| 分岐モノ::1:売春リンカーン | 2008,02,22, Friday 03:28 AM