「グラハム、今日が何の日か知っているかい?」
突然のカタギリの問いに、グラハムは小首を傾げた。
日中予定されていた訓練もミーティングも、滞りなく済んだはずだ。
だからこうしてフラッグの今後について語りながら、友人であり優秀な技術者でもある彼の部屋で寛いでいるわけだが。
「君、バレンタインに色々貰ってたろ?
日本ではホワイトデーという日があってね、お返しをすることになってるんだ。
ちゃんと義務は果たしたかい?」
それは初耳だ。
だが……、そんな日を待つまでもなく、皆に色々ねだり取られたような気もする。
手袋を片方だの、髪の毛を一本だの…。
そんなものを一体どうする気だ?
キスしてくれと抱きついてきた奴までいたな…。
反射的に思わず殴り飛ばしてしまい、すぐやりすぎたと思って、慌てて助け起こして詫びたが、何だか嬉しそうに見えたのは気のせいか?
…まあいい、済んだことだ。
「それをいうなら、私だって君に上げたじゃないか。」
まあ、いつものドーナツを差し入れただけだが。
「うん、ちゃんと覚えてるよ。だからお返しをしようと思ってね。実は用意してあるんだ。」
珍しいな。服装にも言動にも無頓着なこの男が。
「なんだ?いいのに、そんなこと。」
君にはいつも世話になっているし、——
続けようとした言葉は、唐突に封じられた。カタギリが唇を重ねてきたのだ。
そんな馬鹿な……!
一瞬の動揺が仇となった。あっという間に組み伏せられ、手際良く両腕を拘束される。
「…どういうつもりだ!?悪ふざけにしては度が過ぎるぞ!!」
のしかかる重みから逃れようともがく体を押さえ付けながら、友人だった筈の男は、いつもと同じ穏やかな笑みを浮かべて言った。
「だってグラハム、君、こうでもしないと逃げるだろう?」
——君が悪いんだよ、みんな。
耳元で囁かれた言葉が信じられない。何が起きているのか解らない。解りたくもない…!
「カタギリ、私は、…君は、どうして……」
後は言葉にならなかった。
首筋を這う舌の感触に、知らず身が震える。耳朶を軽く噛まれ、びくんと肩が竦んだ。
「やっぱりここか。君が弱いのは。丁度良かった。」
彼は白衣のポケットから何か小さな箱を取り出した。
「綺麗だろう?君の髪と瞳の色に一番映えると思ってね。」
紅玉のピアス。
こぼれ落ちる途中で刻を止めた鮮血の雫のような色合いのそれは、確かに妖しいほど深みのある輝きを湛え、美しかった。
だが、まさか…?
「うん、やっぱり左だけの方がいいかな。」
「よ、よせ!私はそんな趣味は…!」
だが容赦ない手で顎を掴んで固定され、冷たい感触が耳に押し当てられる。
「動かないほうがいいよ。危ないからね。」
尖ったその先端が、敏感な柔らかい肉を一気に貫いた。
「……っう!」
電流のような痺れと痛みが走り、きつく目をつぶって耐える。
「ああ、ほんとに綺麗だ。」
嬉しそうなカタギリが、子供の様に無邪気に見えて、なんだか怒る気も失せる。
だが、もう二度と彼にドーナツの差し入れはするまいとグラハムは固く心に誓った。
突然のカタギリの問いに、グラハムは小首を傾げた。
日中予定されていた訓練もミーティングも、滞りなく済んだはずだ。
だからこうしてフラッグの今後について語りながら、友人であり優秀な技術者でもある彼の部屋で寛いでいるわけだが。
「君、バレンタインに色々貰ってたろ?
日本ではホワイトデーという日があってね、お返しをすることになってるんだ。
ちゃんと義務は果たしたかい?」
それは初耳だ。
だが……、そんな日を待つまでもなく、皆に色々ねだり取られたような気もする。
手袋を片方だの、髪の毛を一本だの…。
そんなものを一体どうする気だ?
キスしてくれと抱きついてきた奴までいたな…。
反射的に思わず殴り飛ばしてしまい、すぐやりすぎたと思って、慌てて助け起こして詫びたが、何だか嬉しそうに見えたのは気のせいか?
…まあいい、済んだことだ。
「それをいうなら、私だって君に上げたじゃないか。」
まあ、いつものドーナツを差し入れただけだが。
「うん、ちゃんと覚えてるよ。だからお返しをしようと思ってね。実は用意してあるんだ。」
珍しいな。服装にも言動にも無頓着なこの男が。
「なんだ?いいのに、そんなこと。」
君にはいつも世話になっているし、——
続けようとした言葉は、唐突に封じられた。カタギリが唇を重ねてきたのだ。
そんな馬鹿な……!
一瞬の動揺が仇となった。あっという間に組み伏せられ、手際良く両腕を拘束される。
「…どういうつもりだ!?悪ふざけにしては度が過ぎるぞ!!」
のしかかる重みから逃れようともがく体を押さえ付けながら、友人だった筈の男は、いつもと同じ穏やかな笑みを浮かべて言った。
「だってグラハム、君、こうでもしないと逃げるだろう?」
——君が悪いんだよ、みんな。
耳元で囁かれた言葉が信じられない。何が起きているのか解らない。解りたくもない…!
「カタギリ、私は、…君は、どうして……」
後は言葉にならなかった。
首筋を這う舌の感触に、知らず身が震える。耳朶を軽く噛まれ、びくんと肩が竦んだ。
「やっぱりここか。君が弱いのは。丁度良かった。」
彼は白衣のポケットから何か小さな箱を取り出した。
「綺麗だろう?君の髪と瞳の色に一番映えると思ってね。」
紅玉のピアス。
こぼれ落ちる途中で刻を止めた鮮血の雫のような色合いのそれは、確かに妖しいほど深みのある輝きを湛え、美しかった。
だが、まさか…?
「うん、やっぱり左だけの方がいいかな。」
「よ、よせ!私はそんな趣味は…!」
だが容赦ない手で顎を掴んで固定され、冷たい感触が耳に押し当てられる。
「動かないほうがいいよ。危ないからね。」
尖ったその先端が、敏感な柔らかい肉を一気に貫いた。
「……っう!」
電流のような痺れと痛みが走り、きつく目をつぶって耐える。
「ああ、ほんとに綺麗だ。」
嬉しそうなカタギリが、子供の様に無邪気に見えて、なんだか怒る気も失せる。
だが、もう二度と彼にドーナツの差し入れはするまいとグラハムは固く心に誓った。
| カタギリ::14 | 2008,03,16, Sunday 12:41 AM