視姦、強制自慰
「——随分と、頑張りますね。それとも、焦らされる方が興奮する性癖ですか?」ジョシュアの声が聴こえたけれど、それに構っている余裕などもはやグラハムにはなかった。
自分自身の中に荒れ狂う感覚を受け止めきれず、息を荒げ、白い肌に汗の粒を浮かせている。
もはやそんな淫らな醜態を晒すしかないグラハムを、ジョシュアは満足げに見守っていた。
力の入りにくかった体は、いつの間にかまともな感覚を取り戻していた。
だが、そうやって意識がはっきりすればするほど、感じる昂ぶりは
いっそう鮮明になってグラハムをさいなむ。
「……っ、は、」
熱をやり過ごすため、寝返りを打ってシーツを掴むが、そのかすかな衣擦れさえ
濃厚な愛撫のように感じられ、びくんと震える体をどうししょうもない。
肌が疼いて気が狂いそうだ。
それから。それだけではなく。もうひとつの感覚が、しだいに頭を支配していく。
——先刻まで、強引に犯され苦痛を訴えていたはずの箇所が。
今、そのひりつく痛みが、熱っぽい快楽に変わろうとしている。
そこに残るあの感覚が、痺れるように火照りを帯び、下腹部から背中を駆け上がり、全身に満ちていく。
頬が熱い。うなじが熱い。体中が熱い。
「……あ、んっ、……く、」
思わず身をよじった瞬間、既にきつく張り詰め先走りを漏らしていた先端がシーツに触れ、
意図しない声があふれてしまう。それだけの刺激で、ほとんどもう達してしまいかけていた。
きつく目を閉じ、歯を食いしばってそれをやり過ごそうとする。
快楽に酔わされやすい方だという自覚はあった。
ただ、グラハムをグラハムたらしめている矜持が、どうしても、このジョシュアに
これ以上膝を屈することを許さなかった。何を要求されているかはわかっている。
体はそれで楽になれるのかもしれない。それでもできない。
そんなことをすれば自分は死んでしまうだろうと思った。
「——仕方のない人だ。根負けしましたよ。その強靭な意思に免じて、今日はこれで勘弁してあげましょう」
目を上げると、いつの間にかすぐ側にジョシュアが迫っていた。
それでも、逃れようと身を引く気力さえ、今のグラハムには残っていなかった。
優しさを装った言葉に。虚ろになった頭は、つい流されて、安堵しそうになる。
こわばっていた体から、力が抜けそうになる。
「——なんて、言うと思ったんですか。つくづくおめでたい人ですね、エーカー上級大尉殿は。
おまけに往生際も悪いときた。——どれほど俺を苛つかせたら気が済むのか?
従順にしたら可愛がってやろうと思っていたのに、こんなに反抗的なようでは、
きついお仕置きが必要ですね」
突き飛ばすように仰向けに返され、グラハムは頭が真っ白になった。
「自分の漏らしたものくらい、自分でどうにかしたらどうです。だらしない、こんなに涎を垂らして」
ジョシュアがグラハムの手を掴んで、自身の立ち上った陰茎を握らせる。
そのまま上から手を添えて、無造作に何度か上下させる。
「うっ、……は、あ、」
——途中で、ジョシュアは手を離していたのに。
グラハムの手は気がつくと、ひとりで二度、三度と、自分自身を扱いている。
はっと気づいて手を止めたときにはもう遅かった。
胸の奥が、絶望に冷える。
ジョシュアのねっとりとした視線に、ぞくぞくと背筋が震える。
「そう、それでいい。——それとも、手だけでは満足できませんか。
もっと違うものが欲しいなら、頼んでみたらどうです。聞いてあげないこともありませんよ」
びく、と、下肢が引きつった。
内側に与えられた熱の、硬さを、苦しさを、甘さを。
生々しく、思い出す。
ジョシュアを、それでも力の限り睨みつけたつもりだった。
お前には決して屈しない。そう、気力だけで叩きつけた。つもりだった。
けれどそれも通じなかったのか、ジョシュアはなおさら煽られたように目をぎらつかせるだけだった。
「そんなに縋るみたいな顔で見ないで下さいよ。余計にそそられるじゃないですか。
——仕方のない人ですね、これがもう一度欲しいんでしょう」
疼いていた箇所に先端をあてがわれ、これからされる行為を理解して、グラハムは歯を食いしばる。
——また、犯されるのだ。その屈辱を予感して、身構える。
けれど、熱い感覚はすぐには襲ってこずに、かわりにジョシュアは包み込むように
グラハムに覆い被さって、耳許に声を注ぐ。
「本当のことを、教えてあげましょうか。——薬なんか、使ってないんですよ」
——何を、言っているのか。
全く理解できずに、潤んだ目で、グラハムはジョシュアを見つめる。
頭の中で、何か硬質なものが軋むような感覚があった。
「貴方はね、俺に犯されてただ感じてしまっただけなんですよ。
確かに、ここへ連れて来るとき、軽い睡眠薬は使いましたが、催淫作用なんて全くないものです。
そんな便利な薬など、あるわけないでしょう。それなのに貴方は、
自分が感じていたことを認めたくないあまりに、俺の簡単な暗示を真に受けて、
薬のせいで昂ぶらされているのだと勝手に思い込んだ。
——本当は、貴方は見られていることに、その屈辱に、自分で興奮していたんです。
軍服を脱いだ貴方は、そういう人間なんですよ、MSWADのエース様」
そんな、馬鹿な。
この男は嘘をついている。グラハムを辱めたいがために、
わざと動揺を誘うようなことを言っているだけだ。
本当のはずがない。そんなことがあるわけがない。
そう叫びたいのだが、唇から漏れるのは、ただ荒い吐息だけ。
心の内側まで踏み荒らされたくはない。
無理を強いられて、生理的な反応を返してしまっているのは体だけで、誇りは決して砕けはしない。
どれほど貶められようとも、そう頑なに保ってきた矜持が、しだいに曖昧に霞んでいく。
グラハムの澄んだ緑の瞳が、快楽のもやを浮かべて、半ば閉ざされる。
ジョシュアを突き放そうと肩を掴んでいた手から力が抜け、どさりとシーツに投げ出された。
「——辛そうですね。先に、またイかせてあげましょうか。上官のために励むのが、部下の努めですからね」
屈服を見て取ったジョシュアが、追い討ちをかけるように囁いた。耳許へ、ことさらに甘く響く声で。
「もう、触らなくてもこっちだけでイけるでしょう。強姦されても感じてたくらいですからね」
言って、グラハムの膝を掴んで足を開かせ、ジョシュアの細長い指がいきなり中に突っ込まれる。
「んっ、う、ぁ、あぁっ、」
二本の指がぐちゃぐちゃと内側をかき乱し、容赦ない刺激を与える。
一度その味を知ってしまったグラハムの体は、なぶられるがまま、貪欲に快楽を貪ろうとその指を締めつける。
「はぁ、あっ、う、」
限界まで張り詰めていたグラハムの雄茎は、その強烈な感覚に耐えきれず、
何もされないまま呆気なく精液を吐き出していた。
上気したグラハムの肢体が、ぐったりと弛緩する。
均整のとれた筋肉質な体も、今はたくましいというよりただなまめかしく、
湿ったシーツの上に横たわるばかりだった。
「まだ、こんなものでは終わってあげませんよ。
先に音を上げるなんてだらしないことはしないでしょうね、上級大尉殿?」
勃起したままのジョシュアの性器が、太股になすりつけられる。
グラハムは虚ろな目でそんなジョシュアを眺めた。
その唇は、濡れて薄く開き、まだもっと先の愉悦を求めているようにさえ見える。
——それでも。こんなにも屈辱にまみれさせられてさえ、彼の姿は、気高さを失わないままなのだ。
快楽にとろけた淫靡な瞳さえ、まだ奥の方は光を失っていない。
命ある限り、これは決して傷つけることができないのだろう。
「素敵な目だ。やはり貴方はそうでなくては。——せいぜい愉しませて貰いましょう」
そうして、ジョシュアは二度目に、グラハムの中に侵入した。
| ジョシュア::1 | 2008,01,26, Saturday 01:08 AM