輪姦、若ハム、過去
——暴力が、苦痛が、怖いわけではなかった。下らない嫌がらせや脅迫など痛痒にも感じない。ただ、今グラハムが奴らのされるがまま従っている理由はひとつ。
——明日は、グラハムにとってはじめての、実機による実戦形式の演習が行われる。
シミュレーターによる長い操縦訓練過程を経て、前線に配備されているのと同一のリアルドに、
ようやく実際に乗ることができる。その日を、同期生の誰もと同じく、否、誰よりも強く、
グラハムは待ち焦がれていた。
上級生たちに囲まれ、数の力で抵抗を封じられ、逆らうなら指をへし折ってやると脅されたとき、
そんな程度のことでは屈しないと思った。
卑怯な連中に決して屈服などするものかと、最後の最後まで死に物狂いで逆らってやると、
グラハムの内側の強烈な誇りが叫んだ。そのとき、ふと。
——大きな怪我をしていると、明日の搭乗を外される、と気づいてしまった。
訓練兵の部隊に回されるリアルドの数は十分ではない。訓練成績の上位者しか、
明日の演習には参加できないのだ。骨折などしていれば、別の者が繰り上がるだろう。
痛みなど恐ろしくない。ただ、リアルドに乗りたかった。どんな代償を払ってでも。
そのためになら何だって耐えられると思った。
※
「——おい、舌がお留守だぞ。もっとちゃんと舐めろ」
言って、グラハムの髪を掴む男の名は何だっただろう。
顔は記憶にあった。三期上の、あまりうだつの上がらない兵のうちのひとりだ。
「んっ……、ぐ、」
喉の奥まで無理矢理雄茎を押し込まれ、嘔吐反射が起こりかける。上目遣いに表情を窺うと、
男は顔を赤らめ、間抜けに唇を弛めていて、下から見上げるとそれはひどく醜悪な姿だった。
「どうした? 気持ち悦すぎてしゃぶってやる余裕ももうないか?」
言いながら、背後からグラハムを貫いている男は、こうした淫行に慣れているのか、
実にいやらしく、その先端で内奥の性感帯を執拗に抉ってくる。
膨らみが前立腺の裏側を引っかけ、奥へずるりと擦りあげるたび、背筋から甘い痺れが上ってくる。
口を塞がれ、その感覚を声として吐き出せないために、快楽はいたずらにグラハムの内側へこもり、
身を火照らせる熱となって、彼を苛む。
「っ、ぅ、……ん、」
はじめは苦痛でしかなかったはずのその行為は、いつしか目眩く愉悦を
グラハムの若い身体にもたらしていて、——そのことがいっそう、彼のプライドをずたずたにしていた。
ただ苦しいだけならば耐える自信はあった。
けれど。自分さえ見失いそうな、この奔流は。
——感じてしまうことが、これほどに惨めだとは知らなかった。
「はっ……、あ、ぅ、」
意図せずに声が漏れる。ゆるみかけた口を、再び前の男が身勝手な手つきで塞ぐ。
後ろの別の男が、ことさらになぶるように言った。
「たいしたざまだな、MSWADからスカウトの声もかかっていると噂の、期待の新人様が?
嬲り者にされて、泣いて許しを乞うかと思ったら、しっかり喘いでるじゃねえか。
ユニオン正規軍の歴史の中でも屈指の逸材だという評判も、案外、体で買ったものなのかもしれんな?
だが実機ではそんなごまかしは通用しない。明日になれば、嫌でも実力を思い知らされるさ。
そのお上品な顔が、挫折に歪むところはさぞかし見物だろうな」
——ああ、そうだとも。
明日になれば。明日になればリアルドに乗れる。その希望に、グラハムは切れかけた心の糸を懸命に繋ぐ。
明日になれば、お前たちにも思い知らせてやる。この自分の力を。誰にも侵させない誇りを。
正々堂々と、リアルドで実力を証明してみせる。貴様たちにもう二度と、手出しなどさせるものか。
熱に呑まれかける意識のなかで、グラハムは縋るように念じる。
「……っ、う、んぐ、……ぁっ、ふ、」
じわりと、熱い精液が口内に広がって、グラハムは前の男が達したことを知った。
堪え難いその味を吐き出そうとしたが、そんな隙は許されず、次の男が入れ替わって口づけを押しつけてくる。
「む……、ん、っ」
舌をねじ込まれる感覚がひどく気持ち悪い。
首を振って逃れようとするグラハムの体を、周囲から伸びた男達の手が次々と押さえつけた。
——廊下で最初に囲まれたときの人数は、11人だったか。うち数人は外で見張り役をしているようで、
今縺れ合うようにグラハムの身体に触れてくる男の数はそれよりは少ない。
誰がどういう順番で何をするかはあらかじめ決めていたようで、入れ替わり立ち替わり、
休む間もなくグラハムの体は汚されていく。
乳首をつまんで捏ね回す指。うなじをねっとりと這う舌。尻を鷲掴みにする手。背中に吐きかけられる荒い息。
「自分の立場をわかってるだろう? 逆らえばどうなるか言ったよな? ——ちゃんと飲めよ、ほら」
そう命じられても、体がどうしても受けつけず、グラハムは吐き気に目を潤ませる。
緑の瞳を縁取るまつ毛はぐっしょりと濡れ、目の周りを紅潮させて、
それでも必死で男どもを睨みつけようとするグラハムの表情は、本人は気づいていないが、
加虐心をなおさらに煽る逆効果にしかなっていなかった。
口づけは息継ぎさえ許さずに、執拗に繰り返される。口腔をかき回す熱っぽい舌。送り込まれる唾液のおぞましさ。
そうして、口の中にいつまでも青臭い味を含み続ける不快感についに耐えかねて、
グラハムはどうしてもそれを飲み込まざるをえなくなった。
「んっ……、く、」
喉から体内へと滑り落ちていく、生々しい感覚。嫌悪のあまり、意識さえ飛びそうになる。
どうして、こんなことをさせるのか。こんなことをして何が楽しい。何故自分が。
「よくできました、お利口さんのグラハム・エーカー。——そろそろ、こっちも涎を垂らしているみたいだな?」
故意にしばらくの間放置されていた陰茎は、身体中に与えられる愛撫と内側への強烈な刺激で、
もはや拒みようもなく怒張してしまっている。反応するまいと最初は懸命に耐えていたが、
意思の力ではどうすることもできなかった。
心よりもずっと先に、いとも簡単に体は屈していたのだ。
「どうだ、触って欲しければ、お願いしてみろよ。イきたいだろう?」
先端を指先ではじかれて、びくんとグラハムの体が跳ねた。
「はっ、あ、」
同時に、挿入されていた後ろの男のものを締めつけてしまい、そのまま唐突に中で射精された。
体内にじわりと滲む熱の感触。余勢を駆って大きく二度三度と体を揺すって、男は
勢いよくグラハムの中から出ていく。
膨らんだ先端が、縁に引っ掛かりながら抜ける感触の強烈さに、
我が耳を疑うようなあられもない喘ぎ声が、グラハムの唇から漏れた。
「はぁ、あ、ぅん、……っ、」
その瞬間、擦られてさえいないのに、グラハムの陰部もまたどくんと痙攣し、絶頂に達していた。
脳裏を埋め尽くす眩暈がするほどの強烈な感覚は、——屈辱か、それとも、愉悦か。
その、両方だということを、グラハムはまだ失えないでいる自我の片隅で、自覚していた。
「なんだ、もうおしまいか。堪え性がないな。そんなに気持ち悦かったか?」
右手の方にいた別の誰かが、そんなグラハムの痴態を見つめながら、感極まった声をあげ、
引き寄せた金髪になすりつけるようにしてたっぷりと射精した。
毛先のゆるく巻いた甘い色の髪に、白濁した液体が絡みつく。
「お前、さっきからやればやるほど感じまくってるだろう? 見ろよ、この顔。どうしようもない雌犬だな」
言葉と同時に、不意にグラハムの腰を掴んでいた手が離れ、支えを失った肢体はぐったりとシーツにくずおれた。
筋肉質に鍛え上げられているが、周囲の上級生たちと比べればまだ未完成の体躯。
その体は汗に濡れ、男達の爪痕や噛み傷をそこかしこに散らせている。
誰かの指がグラハムの尻穴を広げると、注ぎ込まれた精液がどろりと流れ、内股につたった。
唇の端にも飲みきれなかった精液がこぼれ、明るい色の髪もまた、
艶っぽく乱れて、無残にも肉欲に穢されている。
あまりに淫らで陰惨なその姿はしかし、奇妙なまでに美しくさえあった。
絶え間ない淫行の最中だというのに、しばしの間、男達は息を飲んでそれを見つめる。
しかしその感嘆は、すぐに猛烈な反動へと形を変えていく。欲情に曇った男達の目に浮かぶのは、
畏れではなく、下卑た苛立ちだった。こんなにいたぶっても、この若造はまだ堪えないのかと。
まるで、その宝玉の緑の瞳に、自分たちの方が見下されているように感じられて。
その不快感を払拭するには、更なる陵辱しかないと、暗い欲望が煮えたぎる。
「まだまだ、こんなものじゃ終わらねえよな? お楽しみはこれからだ」
この夜まだ射精していない別の男が待ちかねたようにグラハムの身体を仰向けに返し、
脚を大きく広げさせると、ずぶりと情け容赦なく挿入した。
まだ吐精の気怠い余韻の中にあったグラハムは、その感覚に、はっと我に返らされる。
「あ……、っぁ、う、」
それを合図に、他の者も再びグラハムに群がっていく。顔の上に跨がり、
陰部を押しつけてくる男。両手に掴まされる雄茎。足指にまで誰かの舌が這っている。
「はぁ、はっ……、うあ、あ、」
敏感になっていた粘膜を大きなストロークで抉られて、グラハムの体はがくがくと震える。
萎えていたグラハムの性器を誰かが乱暴に扱いた。そんな粗雑な刺激でも、
いったん快楽のスイッチを開かれた体は、再び熱を点しはじめる。
陰茎もすぐに熱を取り戻し、なぶられながらしだいに硬く立ち上っていくのだ。
意思とは裏腹に、すっかり快楽に陥落した体は、新たな刺激を貪欲に受け容れ、すでに昂ぶっている。
紅潮した唇からは、もはやとめどなく嬌声があふれていた。
※
後背を犯されるのはこれで三人目。一人目の時は、浴びせられたローションのぬめりで
強引に挿入されただけで、動かれるたびに身を裂くような苦痛しかなかった。
声だけは上げるまいと、苦鳴を必死に押し殺した。
あと幾人、どれくらいの時間、この痛みに耐えればいいのかと
脂汗を流し歯を食いしばるグラハムにのしかかり、二人目の男はにやりと笑った。
「最初が下手糞で災難だったな。喜べ、次は俺の番だ。せいぜい喘がせてやるよ。
普段お堅い奴ほど、本性は淫乱だって言うしな。そんな目で強がっていられるのも今のうちだ」
卑しい言葉を吐きながらも、自信たっぷりなその態度に嫌な予感がした。
強姦されてそのうえ感じるなど、そんな屈辱は絶え難い。そう身構えていると、
男はグラハムにしゃぶらせていた前の相手をさがらせて、わざとその口を自由にした。
グラハムはきつく唇を噛み、男を睨みつける。
「強情だな。その方が、犯し甲斐があっていい」
つ、と、無理に犯されたせいで少し赤く腫れている肛門を太い指が撫でた。
続いて、指とは違う柔らかくて濡れた感触がそこをかすめ、グラハムはびくりと体を引きつらせる。
男の舌が、尻の割れ目をなぞって這う。ペニスには直接触れず、陰嚢の裏側からアナルの間を、くすぐるように何度も往復する。
そんな淡い刺激を繰り返されているうちに、くすぐったいようなおかしな熱が、じん、と、下半身に点る。
その感覚が快楽の兆しであることを否定したくて、グラハムはこぶしを握る。
「んっ……、ぁ、」
舌はしつこいほどに周囲を舐め続け、それにグラハムの意識が慣らされて、緊張の糸がゆるんでいく。
そんな隙を見透かしたように、不意に、男の舌が蕾の中へと侵入した。
「はっ……、」
驚きで思わず漏れかけた声を噛み殺し、グラハムは反射的に逃れようと身をもがく。
そんなグラハムの片手を、別の男が膝で踏んだ。——いつでもこの骨をへし折れるのだぞ、という合図。
——ああ、そうだ。今は堪えなくてはいけないのだ。明日の演習でリアルドに乗るために。
こんなところで怪我などするわけにはいかない。
それを思い出したグラハムは、深呼吸して体の力を抜こうとする。
ぐるりとふちをなぞり、孔をゆるめ、押し拓こうとする丁寧な舌遣い。
誰かの手にそれぞれ押さえつけられ、大きく開かされた脚が、小刻みに震える。
——感じてなどいない。感じてなど。これはただ、肉体の生理的な反応なだけで。
いつの間にか半開きだった唇から、唾液がこぼれる。身体が熱い。
「おい、さっさとやれよ」
「お前のやり方はねちっこいんだよ。あとがつかえてるんだ」
周囲の男達が口々に苛立ちの声をあげた。目だけを動かして見回せば、男達は覆い被さらんばかりに
グラハムの方へ詰め寄っている。興奮した汗臭い体が密集した、じめついてむさ苦しい空気が周囲を塞ぐ。
「わかったよ、そう急かすな。せっかくお前らも犯りやすい、イイ体に仕立ててやろうとしてんのによ、全く」
苛立ったように言って、男は起き上がり、グラハムの顔を至近から覗き込んだ。
その指が、ずぶりと深く挿入されて、グラハムは息を飲む。内壁を擦り上げる性急な愛撫。
指の腹が、前立腺の裏側を強くなぞる。半ば立ちあがりかけていたグラハムのペニスが、ひく、と反応をみせた。
自分の身体の反応を、理性が受け容れられず、グラハムはただやわらかい金髪をぐちゃぐちゃに乱して首を振る。
駄目だ。こんな連中に従わされるなんて。
「——そろそろ、悦くなってきただろ? 勃起してんじゃねえか、なかなか感度がいいな。
期待の新兵殿は、レイプされて尻を振る淫乱でした、ってか?」
「いっ……、く、はぁ、……っ、」
首筋に寄せられる、むしゃぶりつくようなキス。うなじに噛み痕をつけ、指でグラハムの中を暴きながら、
愛咬の位置はしだいにずり下がってゆき、やがて淡い色の乳首にたどり着く。
舌先でそこを転がされて、あり得ない痺れが全身に走った。尖った先端をさらに甘噛みしながら、
下半身では指が出入りする。無駄だとわかっていて、それでもグラハムは虚しく脚を蹴り動かして、
抗おうとせずにはいられない。それも、しだいに力が入らなくなっていた。
「もういいだろう。這いつくばって、こっちに尻を差し出しな。
その口で、そっちの今にも漏れそうになってる奴のをおいしく舐めてやれ」
言い捨てて、熱に蕩かされかけたグラハムの身体を男は突き放す。
屈辱に、心臓が締めつけられたようになる。踏みにじられた誇りが、物理的な痛みを持って疼く。
だがグラハムは、気力を振り絞って、震える手足で起き上がり、命じられたとおり四つん這いになった。
尻を鷲掴みにして、先端がアナルに押しつけられたのを感じ、グラハムは目を閉じる。
どうしようもない悔しさが、胸にこみ上げる。けれどそんな弱さは決して、こいつらに見せはしない。
——何をされても、耐えてみせる。絶対に。
そうやって張った精神はしかし、後ろの男がひといきに尻を貫いたそのときの衝撃によって、脆くも打ち砕かれる。
「あ、はぁっ……ん、ふ、」
漏れた声のあまりの甘さに、グラハムは自分の身体が信じられなかった。
最初に無理矢理犯されたときと今と。あまりに感覚が違うのだ。
感じる圧迫感が、ひどく熱くて、そこから走る愉悦が体を蜜のようにとろかす。
——何だ、この感覚は。これはいったいどういうことなんだ。
グラハムが混乱している間にも、前に回ってきた別の男が、その頬を掴んで口を開けさせ、陰茎をねじ込んだ。
「さあ。——これからが、楽しい夜の本番だ」
そうして、狂乱の宴が始まった。
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| 名無しの男(達)::2:軍の先輩達 | 2008,02,01, Friday 12:21 AM