冷たい金属の重みがグラハムの頭に圧し掛かる。
何度も強く押され、グラハムは小さく呻いた。
「おや?上級大尉殿、これはどういうことですかな?」
ジョシュアの嘲け笑うかのような声が部屋に響いた。
皆の視線が一気に注がれ、羞恥に頬を朱に染める。
「……こ、これは…」
「180どころか、170もギリギリだ。
まさか上級大尉ともあろう御方が、身長を偽っているとは」
ざわ・・・ざわ・・・
周囲の声がやけに大きく聞こえるような気がした。
偽っていた自分が悪いのだ。それは理解しているが——
あまりの恥ずかしさにジョシュアを睨み付け、私は叫んだ。
言うな!言うなと言った!
「…グラハム、目の下に隈が出来ているようだけど」
何かあったのかい、とカタギリが私の顔を伺うように覗き込んできた。
そう、覗き込んで。それは身長差が成し得る技以外の何物でもなく、
私の気分を一層重くさせた。
「今日は身体計測の日だけど、体調が悪いなら…」
「いいや、大丈夫だ」
言ってからハッとする。そうだ、体調が悪いことにしてしまえば良かったのでは。
今までは計測係が大目に見てくれていた節があった。
だが、今日はジョシュアがいる。しかも彼が計測係だと言っていた。
対抗意識の強い彼が私の身長を知れば、どうなることか……。
ぶるりと震えが走り、俯いた。
こんな気分は久し振りだ。
それというのも、MS乗りには身長制限があるからだ。
ジョシュアに本当の身長をバラされたら、私はフラッグを降ろされるのでは——
——否、私の能力は認められているはず。今更身長を理由に降ろされることは。
……それでも、部下に示しがつかなくなることは確かだ。
深い溜息をつくと、カタギリが「グラハム、やっぱり今日は」と声をかけてきた。
それとほぼ同時に、ダリルとハワードがやってくる。
「隊長、そろそろ皆集まってきてますぜ」
「並ぶと面倒ですよ、さっさと終わらせてしまいましょう」
すまない、調子が、と開きかけた口を一旦閉じ、
「ああ、そうだな」
といつものように返してしまった。
激しい後悔の念に襲われながら、部下に急かされるように通路を進んだ。
カタギリの不安そうな視線を感じたが、ここで自分に折れることは自分が許さない。
自分はもう上級大尉なのだから。
身長がバレたからといって、笑われたからといって、部下の前で縮こまるわけにはいかないのだ。
「…194.1。次」
いかにも面倒臭そうな投げやりな態度で、身長を読み上げていくジョシュアがいた。
やがて自分の番になり、ジョシュアと視線が合う。
「よろしく頼む」
毅然とした態度でファイルを渡し、計測台に乗った。
「はいはい…、ひゃく…………。」
——やっぱり体調が悪いことにしておけばよかった!
一瞬物凄い後悔に襲われたが、ここでうろたえては更に馬鹿にされるだけだ。
何事も無いかのような顔でジョシュアの反応を待っていたが、
——意外にもジョシュアは黙ったままだった。
「………?」
「……次」
「え?」
「どうされました、上級大尉殿。もう貴方の順番は終わりましたが」
「……?」
「さっさと退いて下さい、後が閊える」
それからというもの、ジョシュアは自分に何かと気を遣うようになった。
一体何が起こっているのかよくわからなかったが、
私が手が届かない棚の上段に苦戦していると何も言わずに取ってくれたり、
咳をしているだけで医務室に運ぼうとしたりと。
前者は理解できるが、後者が理解できないままに数日が過ぎた。
ある日、フラッグの整備のチェックをしていると、珍しくジョシュアが近付いてきた。
「どうした、こんな夜遅くに。君も機体のチェックか?」
「俺がやっておきますよ、上級大尉殿はご就寝を」
「え、いや、しかし…」
「…体に障りますよ。いいから寝て下さい」
「……?」
舌打ちをしてから、ジョシュアは私を睨み付けた。
「どうして黙っていたんですか、病気なら病気と言えばいいでしょうに」
「…………何?」
「一ヶ月で身長があんなに縮むはずがない。余程重い病なんでしょう」
「…………」
「そんなにフラッグと心中したいんですか、貴方は!」
強引に持っていた整備表を奪われ、呆然と立ち尽くした。
「……周りには黙っていて差し上げます」
「あ、ああ…」
「い、言っておきますけど、貴方が心配だから言っているわけではありませんよ!
作戦行動中に発作起こされたりしたらこっちが迷惑だと言っているんです!」
その後は、逃げるようにフラッグの方へ向かうジョシュアの足音だけが響いていた。
私は呆然と、激しい勘違いをさせてしまった部下を見送るしかなかった。
何度も強く押され、グラハムは小さく呻いた。
「おや?上級大尉殿、これはどういうことですかな?」
ジョシュアの嘲け笑うかのような声が部屋に響いた。
皆の視線が一気に注がれ、羞恥に頬を朱に染める。
「……こ、これは…」
「180どころか、170もギリギリだ。
まさか上級大尉ともあろう御方が、身長を偽っているとは」
ざわ・・・ざわ・・・
周囲の声がやけに大きく聞こえるような気がした。
偽っていた自分が悪いのだ。それは理解しているが——
あまりの恥ずかしさにジョシュアを睨み付け、私は叫んだ。
言うな!言うなと言った!
「…グラハム、目の下に隈が出来ているようだけど」
何かあったのかい、とカタギリが私の顔を伺うように覗き込んできた。
そう、覗き込んで。それは身長差が成し得る技以外の何物でもなく、
私の気分を一層重くさせた。
「今日は身体計測の日だけど、体調が悪いなら…」
「いいや、大丈夫だ」
言ってからハッとする。そうだ、体調が悪いことにしてしまえば良かったのでは。
今までは計測係が大目に見てくれていた節があった。
だが、今日はジョシュアがいる。しかも彼が計測係だと言っていた。
対抗意識の強い彼が私の身長を知れば、どうなることか……。
ぶるりと震えが走り、俯いた。
こんな気分は久し振りだ。
それというのも、MS乗りには身長制限があるからだ。
ジョシュアに本当の身長をバラされたら、私はフラッグを降ろされるのでは——
——否、私の能力は認められているはず。今更身長を理由に降ろされることは。
……それでも、部下に示しがつかなくなることは確かだ。
深い溜息をつくと、カタギリが「グラハム、やっぱり今日は」と声をかけてきた。
それとほぼ同時に、ダリルとハワードがやってくる。
「隊長、そろそろ皆集まってきてますぜ」
「並ぶと面倒ですよ、さっさと終わらせてしまいましょう」
すまない、調子が、と開きかけた口を一旦閉じ、
「ああ、そうだな」
といつものように返してしまった。
激しい後悔の念に襲われながら、部下に急かされるように通路を進んだ。
カタギリの不安そうな視線を感じたが、ここで自分に折れることは自分が許さない。
自分はもう上級大尉なのだから。
身長がバレたからといって、笑われたからといって、部下の前で縮こまるわけにはいかないのだ。
「…194.1。次」
いかにも面倒臭そうな投げやりな態度で、身長を読み上げていくジョシュアがいた。
やがて自分の番になり、ジョシュアと視線が合う。
「よろしく頼む」
毅然とした態度でファイルを渡し、計測台に乗った。
「はいはい…、ひゃく…………。」
——やっぱり体調が悪いことにしておけばよかった!
一瞬物凄い後悔に襲われたが、ここでうろたえては更に馬鹿にされるだけだ。
何事も無いかのような顔でジョシュアの反応を待っていたが、
——意外にもジョシュアは黙ったままだった。
「………?」
「……次」
「え?」
「どうされました、上級大尉殿。もう貴方の順番は終わりましたが」
「……?」
「さっさと退いて下さい、後が閊える」
それからというもの、ジョシュアは自分に何かと気を遣うようになった。
一体何が起こっているのかよくわからなかったが、
私が手が届かない棚の上段に苦戦していると何も言わずに取ってくれたり、
咳をしているだけで医務室に運ぼうとしたりと。
前者は理解できるが、後者が理解できないままに数日が過ぎた。
ある日、フラッグの整備のチェックをしていると、珍しくジョシュアが近付いてきた。
「どうした、こんな夜遅くに。君も機体のチェックか?」
「俺がやっておきますよ、上級大尉殿はご就寝を」
「え、いや、しかし…」
「…体に障りますよ。いいから寝て下さい」
「……?」
舌打ちをしてから、ジョシュアは私を睨み付けた。
「どうして黙っていたんですか、病気なら病気と言えばいいでしょうに」
「…………何?」
「一ヶ月で身長があんなに縮むはずがない。余程重い病なんでしょう」
「…………」
「そんなにフラッグと心中したいんですか、貴方は!」
強引に持っていた整備表を奪われ、呆然と立ち尽くした。
「……周りには黙っていて差し上げます」
「あ、ああ…」
「い、言っておきますけど、貴方が心配だから言っているわけではありませんよ!
作戦行動中に発作起こされたりしたらこっちが迷惑だと言っているんです!」
その後は、逃げるようにフラッグの方へ向かうジョシュアの足音だけが響いていた。
私は呆然と、激しい勘違いをさせてしまった部下を見送るしかなかった。
| ジョシュア::15:ジョピュア4 | 2008,03,02, Sunday 12:20 AM