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デイビッド、リボンズ1(part5 693-697/part6 467-469,865,866,868,932-936)
—この上なく愚かな男だ。
デイビッドはぐったりと足元に倒れ伏し、浅い呼吸を繰り返す青年を、憐れむように見下ろした。
ユニオン一のエースパイロットと謳われ、精鋭部隊「オーバーフラッグス」を率いた若き英雄。
全裸に引き毫られ、後ろ手に拘束されたその姿には、かつての栄光どころか人間としての尊厳の欠片さえ残されていない。
「起きたまえ。食事の時間だ。」
その言葉にびくりと身を震わせ、なんとか抵抗しようとするが、昼夜を問わず凌辱され続け、睡眠も満足に与えられない彼には、もはや自分の身を支える力さえ残っていなかった。
華奢な首にはめられた首輪の鎖を掴んで容赦なく引き起こす。苦しげに擦れた呻き声が漏れた。
控えていた屈強な男が、青年の緩く波打つ金髪をわしづかむと、すでに怒張した男根をその口に無理矢理捻じ込む。
「んぅっ…ぐっ…!」
「そろそろかな。残さず呑みたまえよ。パイロットたる者、身体が資本だろう?」
揶揄するように声をかけたのとほぼ同時に、彼の咥内には大量の精液が叩きつけられたらしい。
デイビッドに言われずとも、拘束され顔を背けることさえ許されない青年には、むせ返りながらもその汚液を飲み下す以外に選択肢はなかった。

「いい加減強情を張るのは止したまえ。このままでは君はフラッグに再び乗るどころか、永遠にここから出ることすら叶うまいよ。」
我らがプレジデントはそういう方だ。
青年の耳元で囁くと、濡れた翡翠の瞳が弱々しいながらも真直ぐにデイビッドの視線を捉えた。
その色の深さに思わず息を呑む。あらんかぎりの辱めを与え、誇りも信念も粉々に打ち砕いてやったはずなのに。
汚辱に塗れ、地に打ち臥すとも決して魂は屈服しないとその瞳は語っていた。
急にいたたまれない気分になり、荒々しい足取りで部屋を出ようとしたその時、電話が鳴り響いた。

「君に来客だそうだ。そのままではあまりに見苦しいな。来たまえ。」
バスルームへ抱えるようにして連れていくと、立つこともおぼつかない青年に頭からシャワーを浴びせかけた。
柔かい金髪や白い肌にこびりついた精液を、手のひらでマッサージするように洗い流してやる。
久々の清浄な温もりが心地好いのか、彼は小さな吐息を漏らして目を瞑った。
時折撥ねる水飛沫にふるっと首を振る仕草があどけない。
—なんなんだ、その無防備な表情は…!
この後売春まがいの行為を強いられるというのに。
何故この男を見ているとこんなに苛立つのだ…?

シンプルなシャツとスラックスを与えられ、数日ぶりに衣服を身につけた。
首枷も解かれ、拘束具は手錠だけだ。こればかりはさすがに外してくれる気はないらしい。
かなり身分のある相手が来るのだろうか…?
ベッドルームに連れてこられ、しばらく待つようにと言われる。
久しぶりに訪れた倒錯と無縁の穏やかな時間に、限界まで張り詰めていた意識がふっと緩むのを感じた。

部屋に案内されたアレハンドロの眼に映ったのは、華奢な身を横たえて眠る少年の様な姿だった。
「これはこれは…。珍しいペットを飼い始めたと聞いたが、彼のことか。」

…誰かが見ている…?
束の間の微睡みの中でずっと感じていた視線は、いつも無遠慮に浴びせられる欲に塗れたそれとは全く異質で、何故か不快ではなかった。
まだ重い瞼をゆっくり開くと、やはりこちらをじっと見つめている相手がいる。
少年にも少女にも見える美しく繊細なその容貌。
綺麗な鳥のようだ。醒め切らない頭でぼんやりと思った。
無心に見蕩れていたらしい。気付くと相手の顔がすぐ目の前にあった。
「君は、誰?」
唐突な問いに少し途惑いながらも、口を開こうとして、今の自分が答える言葉を持たないことに気付き、愕然とする。

結局何一つ守ることができなかった。
こんな所に繋がれ、弔いに手向けたささやかな誓いさえ未だ果たせない。
—私は一体誰だったろう?
「何故泣いているの?」
「な、泣いてなどいない…!」
だが、一粒、また一粒と水滴が頬を伝う。
両手を後ろで拘束されている所為で、隠すこともできずに、ただ顔を背けた。
覆い被さるようにして両肩を押され、仰向けに倒れこむ。
少年の柔らかい唇が、目元にそっと寄せられた。
丁寧に涙を拭うように繰り返し触れられる感触が、くすぐったい上に面映ゆくもあり、思わず赤面しそうで目をきつく瞑った。

不意に相手が声もなく笑う気配を感じた。
訝しげに見上げると、前触れもなく激しく唇を重ねられる。
「……んっ!」
挿し入れられた舌で唾液とともに何かを含まされ、はずみで飲み下してしまった。
「何を…!」
少年は、謎めいた微笑を湛えて、今度はごく軽く彼の額に口づけた。
視界が再び霞みはじめる。
「今だけはゆっくり眠るといい。」
少年の声が遠くなっていく。
「世界がどんなに姿を変えても貴方が変わっていなければ、」
—迎えに行くよ。
最後に耳元で吐息のように囁かれた言葉は、或いは風の音だったのかも知れない。

「珍しく随分とご執心のようだったが。君には何が見えている?」
ソファの背もたれに無造作に片肘をついて、面白そうに一部始終を眺めていたアレハンドロは、音もなくすっと傍らに戻ってきた従者に揶揄うように声をかける。
少年は、答える代わりに含みのある微笑を返した。
あのエースの一途な誇りが、GN-Xへの搭乗拒否として発現する可能性は、無数に分岐する未来を構成しうる要素として試算済だ。
そしてその先も、また。
傍目には愚か極まりなく見える彼の選択が、プレジデントの逆鱗に触れるであろうことは目に見えている。

こちらの駒にならない場合、直接手を下さずとも彼は表舞台から排除され、いずれにせよ意志を持たない人形に成り下がる他ないのだ。
そう、丁度こんな風に。
総ては計画の範囲内で予想されていたことだ。
——あの瞳以外は。
目覚めた彼と一瞬交わった視線を反芻するように思い出す。
怯えも媚びもなく、ただ真直ぐ自分だけに向けられた翡翠の瞳。
あれは人形の眼ではありえない。
あらん限りの屈辱と苦痛を与えられ続け、弄ばれる先の見えない状況下で、尚も己の魂の形を放棄しないなど。
人間とはそんな強靱な存在ではないはずだ。人間とは…

——「あの人」の望んだ未来はどんな貌をしていたのだろうか。
遠い過去に訣別したはずの苦い記憶が胸を掠めた。
データとして切り取られる際に零れ落ちたささやかな事象。
所詮それは想定されたゆらぎの範疇で、未来を変えるほどの重要な意味は持たないはずだ。
それでも疼き続ける、この微かな不安と高揚感はなんだろう。
——見せてもらうよ。グラハム・エーカー。君の選ぶ世界を。
リボンズはまた密やかに微笑んだ。

満足気な笑みを浮かべて出立する国連大使を、デイビッドは丁重に見送った。
「ああ、そうだ。うちの子が彼にちょっと悪戯をしてしまってね。まあ叱らないでやってくれたまえよ。」
去り際にふと思い出したように言い残された言葉に内心狼狽したが、目の前の賓客に悟られる訳にはいかない。
慇懃な姿勢が崩れた筈はないが、大使に影のように付き従う少年が、表情の読み取れない瞳の奥でこちらを笑っているような気がしてならなかった。
彼らを乗せた黒塗りの車がエントランスを離れ、ようやく見えなくなったのを確認すると、足早に例の部屋へ急ぐ。

彼の身柄の管理は私がプレジデントより直々に任されているのだ。
——何があったというのか…!?
ドアを開けるのももどかしく、飛び込むように室内へ踏み込んだデイビッドが見たのは、拍子抜けするほど穏やかな光景だった。
開け放たれた窓から時折吹き込む風がカーテンをふわりと揺らす。
柔らかな金色の夕日の差し込む中で、件の青年はすやすやと眠っているように見えた。着衣もさほど乱れていない。
そっと首筋に手を当ててみる。脈拍も呼吸も正常で、顔色など先刻より良くなっている位だ。
安堵した途端、今度は逆に怒りが込み上げてきた。

何を能天気な顔をして眠っているんだ…!!
「起きたまえ、エーカー大尉!」
頬を手の甲で叩いて呼び掛けるが、反応がない。
鎮静剤か睡眠薬でも投与されたのだろうか。——「悪戯」とはこのことか。
少しほっとして、そんな自分に驚いた。
プレジデントの所業は薬物投与などといった可愛らしい次元のものではない。
だが、その場には大抵自分も控えていた。
この目に彼の姿が映っている限り、大丈夫なのだと錯覚していたのだ。……?
——「大丈夫」?…何のことだ…!?
自覚すればするほど混乱は深まるばかりで、デイビッドは頭を抱えた。

ともかく彼を連れ帰らねば。
眠り続ける青年の、軍人としては驚くほど華奢な体を抱き上げる。
ふわ、とかすかに甘い香りがした。身を清めてやった時の石鹸の残り香だろうか。
腕の中で息づく彼の体温が、体の奧の熱を呼び覚ますように、やけに粘質に纏わりついて来る。
その感覚が無性に苛立たしくて、思わず舌打ちした。
「ん……」
青年がかすかな声を漏らし身じろぎした。金色の睫毛が震え、ゆっくりと眼が開かれる。
その透明な眼差しは僅かに笑みを含んで、どこかここではない遠くへ、——恐らく空へ、向けられていた。

息を止めて見蕩れていたことに、自分でも気付かなかった。
いつもの色を取り戻した彼の瞳と視線がかち合い、我に返る。
状況がすぐに飲み込めないのか、物問いたげにちらりとこちらを見上げてくる様子がまた腹立たしい。
——眼だけで物を言うな…!
「君は眠っていたんだよ、ずっと。
大使に失礼はなかったろうな?
まったく、自分の立場が分かっているのか?」
——叱られた子供のような顔をするな…!
「…すまない、いつも。私は、その……
下ろしてくれ。自分で歩ける。」
——誰が離すものか…!

| その他名ありキャラ::8:デイビッド1 | 2008,03,03, Monday 02:53 AM

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